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【第3章開始!】公爵夫人は命がけ!  作者: 保谷なのめ
【第1章】婚約・結婚式編
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43話 やっと見つけた

 馬車が暴走してから数日。幸い敷地に入ったところで止まったのと、市街地を抜けてからのことだったのでそこまで被害は大きくなかったものの、家長であるキースの不在も相まって、事故の処理のために屋敷の中はバタバタとしていた。

 リディアは危険だからと調査が終了するまでは家にいるように言われ、暇を持て余していた。どうにか説得して、書斎や私室なら、と極力出ずにできる事務仕事だけをこなすことになり、道の修繕のために人を雇う予算を承認し、道路工事の計画に目を通す。道にはかなり酷い傷がついていたようで、そのことが、あの馬車がどれだけのスピードを出していたかを物語っていた。どうやらこれを機に、もっと平らで歩きやすく、馬車も走りやすいような作りにし、一定以上の速度が出たら作動するような減速の魔法も設置することになったらしい。


「手間をかけさせてごめんなさいね」


 と謝るリディアに、ジークはリディアのせいではないし、こうするのは領民を含む皆のためになるのだと語った。事故の原因についてはまだ調査中だが、馬が暴走したというだけでは説明のつかない速度が出ていた、ということだけは教えてくれた。馬が暴走する原因となりうる健康上の問題は見つからなかったらしいのが幸いだ。

 そんな騒ぎも終息を見せ始め、ようやく屋敷の中が落ち着いてきたのが今日のこと。リディアは屋敷内であればと外出の許可を得て、改めてアンドレアにお礼をしに行くことにした。


「アンドレア~?」


 リディアにはちょうど、アンドレアに渡したいものもある。これまで機会を逃して渡しそびれていた、防御魔法のかかったチャームだ。アンドレアはリディアと同じく、物語開始である二年後までには死ぬ運命にあり、彼をそういう運命にしたのは、紛れもなく作者であるリディアだ。キースにとって大切な人であり、リディアにとってもまた友人と呼べる存在になりつつあるアンドレアを、彼女は出来る限り救いたかった。今はこうして引き留めているが、彼は元々旅人。結婚式が終わったらまた旅に出るつもりだと言っている。このチャームはそうなったとき、彼に持っていてほしくて作ったものだった。あのアンドレアが、となると一体何が起こるのかはリディアにはわからない。もし大きな事故や事件が起きるとすれば、そこにリディアの力が及ぶかは怪しいが、少しでもできることがあるのなら。リディアはチャームを握り締めてアンドレアを探す。


「アンドレアがどこにいるか、知ってる?」


 訓練場にいた騎士に声をかけてみたが、首を横に振られた。事務所にもいない。団員たちが使っている部屋の一室である彼の部屋にもいないらしい。困ったリディアはふと、キースが、アンドレアが昔使っていた部屋があると言っていたことを思い出し、その場所を聞いて向かってみることにした。


 ***


 コンコン、と扉をノックする。屋敷の居住区の一角。空いている客室だ。


「誰だ?」

「リディアです」


 リディアが声をかけると、中から扉が開いて、「おお、嬢ちゃんか!」とアンドレアが顔を出した。


「どうした? とりあえず入んな」

「ありがとう」


 アンドレアは〝落ちつかないから〟という理由で、今は団員達と同じところで寝泊りしているらしい。かつて使っていたというこの部屋は、現在は荷物置き場として使っているようで、色々な形の剣や防具、何に使うのかよくわからない道具などが並べられていた。


「お、剣に興味あるか?」

「ええ、少し……」

「なら今度教えてやるよ。……で、今日はどうしたんだ?」


 キョロキョロと辺りを見回すリディアに、アンドレアが尋ねる。リディアはそうだ、と目的を思い出した。まずは、言わなきゃいけないことがある。


「この間……馬車が暴走したとき、助けてくれてありがとう」


 リディアはそう言って、深々と頭を下げた。あの日、アンドレアは馬と車体の連結部分を大剣で叩き切り、さらにその体で車体を受け止めて勢いを殺してくれたのだ。彼があの時偶然そこに居合わせてくれたおかげで、屋敷やリディアが無事で済んでいる。そんな心からの感謝を示すリディアの頭に、アンドレアはぽんと手を置いた。


「なぁに、当然のことをしたまでよ。嬢ちゃんたちが無事で何よりだ」


 アンドレアはそう言ってニカっと笑う。


「嬢ちゃんはキースの大事な嫁さんだからな。ちゃんと守らなきゃ俺がアイツに殺される」


 冗談めかしてそう言うアンドレアに、リディアはもう一つ、伝えないといけないことを口に出す。


「あの……渡したいものがあるの」

「お? なんだ? 礼ならいいぜ」

「そうじゃないの。そうじゃなくて——これ」


 リディアは、取り出したチャームをアンドレアの大きな手のひらにのせた。彼は不思議そうな顔でそれを受け取り、しげしげと眺めている。


「なんだ? これ。キレーだけどよ」

「それは……お守り? って言うのがいいのかしら……」


 リディアはアンドレアに、その魔法石には陣が書かれていて、一定以上のダメージを受けると発動し、防御魔法が起動すると同時にリディアの方に位置情報が送られてくるということを説明した。アンドレアはそれを驚きと感心に満ちた顔で聞き、もう一度チャームをよく眺める。


「おっ、ほんとだ。陣が彫ってある。にしてもすげえなあ。なんだかすげえ嬢ちゃんだってキースとかエドから聞いちゃいたが……」


 アンドレアの褒め言葉に、リディアは赤くなって首を横に振った。すごいのは、あんな大きな、四人も乗った馬車を身一つで止めてしまうアンドレアの方だ。


「とにかく……肌身離さず、持っていてほしいの」


 リディアの切実なお願いに、アンドレアはただ事ではない気配を感じたようで、真剣な顔で「わかった」と頷いた。

 一瞬、沈黙が部屋を満たす。言うべきことは言ったし、気まずくなる前に帰ろうとしたリディアはふと、一緒に渡そうと思っていたものを渡しそびれていることに気が付いた。


「——そうだ!」


 これ、とリディアが差し出した紙袋を、アンドレアが「今度はなんだ?」と覗き込む。


「クロワッサンか?」

「そう。……ここ数日、私、あんまりどこにも行くなって言われていて……暇で、手伝ってもらって作ってみたの」


 仕事の許可が下りても、外部との接触が禁止されているとできないことも多い。執事やメイドたちもバタバタとしている中で暇を持て余したリディアは、他と比べて比較的忙しさに変化がなさそうだった食事担当の従者たちに声をかけ、数日前にもらったあのクロワッサンを再現しようと試みたのだ。


「なかなか上手くできてんじゃねえか」

「へへ……」


 結果的に、当然ながらパンのプロが作ったものには遠く及ばなかったが、数回目にしてようやく、それっぽい形のものができるようになってきた。今持ってきたのは、中でも形のいいものだ。


「懐かしいなあ。この街、美味いクロワッサン作るパン屋があってよ。まだガキのキースとエド連れてよく行ったんだ」

「え、もしかして——」


 聞くと、やはりあのパン屋らしい。どうやらキースにその店を教えたのはアンドレアだったようだ。偶然の出来事に感動を覚えながらリディアがクロワッサンを手渡そうとすると、ふとアンドレアの動きが止まる。


「嬢ちゃん、受け取りてえとこなんだが——」


 アンドレアの視線は、リディアを飛び越えてその背後へ向き、ニヤリとその顔に笑みが浮かぶ。


「もっと渡すべき相手が、ご帰還みたいだぜ」


 振り返った先、黒髪に金色の光を浴びるキースは肩で息をして、リディアの方をまっすぐ見つめていた。


明日からはまた1日1話更新です。結婚式編完結までもう少し。しばしお付き合いくださいませ。

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