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【第3章開始!】公爵夫人は命がけ!  作者: 保谷なのめ
【第1章】婚約・結婚式編
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25話 ミラの隠された力

 コンコン、というノック音と同時に扉が開き、そこからエドが顔を覗かせた。


「キース、どうした——って、お邪魔だったか?」


 リディアの顔を見て、冗談めかして揶揄ってくるエドにキースは嫌な顔をし、「いいから来い」と呼びつける。「冗談通じねーやつ」とエドはいつもの軽い調子だ。


「で、どうしたのよ」

「この手紙なんだが」


 キースが取り出した手紙を受け取ったエドはすぐ魔力の気配に気がついたらしく、いつも術式を取り出すときと同じように指を滑らせる——が。


「ありゃ?」

「どうだ?」

「……ダメだわ、反応しない」


 エドの言葉に、キースは顔を強張らせる。どうやらそうそう無いことらしい。「おかしいな……」と呟きながらあれこれ試しているようだが上手くいかず、エドはため息をついた。


「しかたねーな……」


 その言葉と共にスッと目を細めると、瞳が紫色に変わる。そしてその瞳越しに手紙を見た彼は、奇妙な顔をした。


「んん……?」

「どうした」

「いや、これ……」


 エドはその表情のまま黙り込む。しばらく「うーん」とか「あー……」とか言いながら考え込んでいた彼は、ふとリディアの顔を見た。


「なあ、お嬢さん」

「ッ、どうしたの?」


 リディアは思わずビクリと体を揺らした。あの紫の目に見られるのは苦手だ。すべてを見透かされるような気がするから。それに気が付いたエドは慌てて「ごめんごめん」と瞳の色を元に戻す。


「お嬢さんといっつも一緒にいるあのメイドさん、呼べる?」

「……ミラを?」


 一体どうしてだろうか。リディアは不思議に思いつつも、深く問い詰めるわけにもいかず、ミラは書斎で待機しているということを伝えた。


 ***


「お呼びでしょうか」

 相変わらずの無表情で執務室を訪れたミラを、エドが呼び寄せる。彼女は一瞬「げ」というような表情をした。ミラはエドの軽薄な態度を苦手だと思っているらしい。


「ねえ、メイドさんさあ、どこまで使える?」

「……はぁ? 使える、とは?」


 さっぱりわからない、という風にミラは冷たい視線を向ける。こわいこわい、と冗談めかしてハンズアップの姿勢を取るエドは、ニコニコといつものような笑みをはりつけて、ミラの方を見た。


「俺にはわかってるんだって。お嬢さんには言わないからさ。どのレベルなのか教えてよ」


 常々ミラにはわからないところが多いと思っていたが、どうやら彼女にはリディアに対する隠し事があるらしい。チラリと振り向いて不安そうな視線を向けるミラに、リディアは「大丈夫」と目線を送る。ミラのことは信用しているから、無理に聞くつもりはない。すっかり取り残されたキースが、リディアの隣にやってきた。


「……彼女、何かあるのか?」

「ええ、まあ……私もよく知らないんですが……信用できる侍女であることは間違いないです」

「そうか……」


 訳が分からないまま眺めることしかできないキースとリディアを前に、ミラが「仕方ないですね……」とエドに耳打ちをする。それを聞いたエドが「そしたら……」と今度はミラの方に何かを言った。ミラは盛大にため息を吐き、その乗り気でない表情に、エドは「これもお嬢さんのためだよ」だなんて言っている。


「……わかりました」


 しぶしぶ、という感じでミラは手紙のうち一つを受け取り、それを机に置く。そして胸の前で手を組むと、何か小さな声で、歌のようなものを唱え始めた。手紙とミラの手、そして白っぽい髪が強い光を発して、小さな風が吹く。リディアが思わず隣にいたキースの服の端を掴むと、キースは半歩前に出て彼女の身体を隠し、その手をとって安心させるようにギュッと握った。


「すげっ」


 エドだけが嬉しそうにニコニコとその様子を見ている。手紙が浮き上がり、見たことのない文字が燃えるように浮かび上がった。じゅう、と焼け落ちるように剥がれたそれらの灰が机の上に落ちる。そのすべての文字が剥がれ落ちたところで、手紙はただの紙切れに戻ったようにひらひらと床に落ちて、ミラの詠唱が止まった。


「……どうでしょうか」

「おおっ、ちゃんと剥がれてるな」


 落ちた手紙をエドが拾う。もうそこからは魔力の残滓は消えているようだった。「ん」と手渡されたキースが動いて、やっと今の状況に気が付いたリディアは、ハッとしてキースの手を離す。


「これは、一体……」

「予想的中。そこにかかってたの、呪術の類だわ」

「呪術……」


 呪術。リディアの設定した覚えのない概念だ。魔導書の中で何度か見かけたことがあるが、魔法とは作用する機序の違う、超常的な力。でも、どうしてそれをミラが? リディアの視線に、ミラは気まずそうに目を逸らす。


「だから俺らには解析できなかったってわけ。ああいうのには魔法が干渉できなくなってっからね」

「……! ペンが止まったのも……」


 あんな奇妙な止まり方をしたのはそのせいだったのか。ようやくわかった。


「……かかっていた呪い自体は、ごく弱いものでした。呪いにもならない程度の……」


 ミラがそう言いながら、なんだか気になることがあるようで、ふたたびエドに何かを耳打ちした。目を見開いたエドが「本当に?」と聞き返すのに、ミラは頷く。


「……君は一体、何を……」


 キースがミラに聞いた。リディアも聞きたいことだ。あれは一体何だったのか? 使い手の少ない治癒系統の魔法を使うというだけでも謎だらけなのに、ミラは一体何者なのだろうか。


「……解呪です」


 ミラはそう答え、エドが「それ以上はいいよ」と止める。キースはわけがわからないままでもどかしそうだったが、エドの「信用して大丈夫」という言葉に、それ以上追及することはしなかった。


「とりあえず、この手紙送ってきた奴らに調査入れて、あとはいくつか心当たり当たってみるわ」

「……私も、いくつか心当たりに連絡を取ってみます」


 終わったら報告するから、と、エドとミラが出て行ってしまったので、リディアとキースは呆然としたままその場に残されることとなったのだった。


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