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【第2章開始!】公爵夫人は命がけ!  作者: 保谷なのめ
【第1章】婚約・結婚式編
23/125

23話(改) 手紙と違和感

「うわっ、大量ね……」

「まだ半分ですよ」

「さすがジークだわ……」


 アンドレアがローゼンブルク家にしばらく滞在することに決まった数日後、リディアのもとには、ジークから頼んでいた魔術書が大量に届いていた。私室の机の上を完全に埋め尽くそうかという数の本を前に、リディアは呆然とする。


「魔法の研究も良いですが、結婚式の準備もお忘れなく」

「わかってるわよ」


 リディアの仕事である屋敷の管理は基本的に月末以外は決まった事務処理のみで、ほとんど魔法で自動化済み。あとは使用人たちから上がってくる予算の承認。本当は結婚式に向け、交友が途切れている家との関係を修復するための夜会やお茶会への出席をしなければいけなかったが、命が狙われているという状況下で慎重にならざるを得ない。そもそも公爵夫人の主な役割は他の家との交流や社交そのものであるのにその仕事を果たせないということにリディアは焦ったが、キース直々の命令により、きちんと信用調査が終わるまではそういった会への参加は控えることになった。


「今日のやることは?」

「色々とありますが……まずは返送されてきた招待状へのお返事ですね」


 書斎の方に運んであります、とミラは続けた。結婚式の招待状に対する返事に対する更なる返信なんて別にしなくてもいいのだが、お茶会や夜会などの社交の場に参加できない以上、手紙のやり取りというのが重要になってくるのだ。積み重ねられた魔導書の数々を前に名残惜しい気持ちを抱えながら、リディアは私室を後にした。


 ***


「……これ、全部?」

「ええ、そうでございます」


 そもそも出した数が大量だったので当然のことではあるのだが、返ってきた招待状の数もやはりかなりのものだった。社交界や国での立場を築かなければいけない以上、関係が微妙な相手でも招かなければいけない。だからこそ結婚式の警備の計画はいつにも増して厳重なわけだ。


「一体何日かかるのよ、これ……」


 返ってきた手紙を開け、リストアップし、招待客リストを作成する。既にメイド長のイザベラが一度目を通しており、出席と欠席に仕分けけてくれているので、出席者リストを作ること自体は自動筆記の魔法に新たな指示を与えれば良さそうだ。

 問題は手紙の返事の方。前世のメール返信であれば、ある程度の定型文を作っておいて、それをコピペするなりなんなりができたのに、と考えたところで気が付いた。自動筆記の術式にいくつか手を加えれば、似たようなことができるんじゃないだろうか? とりあえずいくつか試してみるか、とリディアはペンをとった。


「……リディア様」


 リディアが何をするかを察したミラが、呆れたような冷たい視線を向けてくる。


「お手紙はご自分で書かれた方が良いのでは」

「あー、うん、ちょっとだけだからさ……」


 もう動機はほとんど好奇心だった。おそらく自分で書いた方が早いということもわかっているけれど、試してみたかったのだ。術式の一部を書き換える。まずは宛名や、相手の名前の部分を書き分けられるよう、分析や解析に使うような文字列を入れてみた。なかなか作動しなかったが、いくつか順番や使う文字を入れ替えて試していると、やっとペンが動き出す。


「おっ! やった!」

「リディア様ったら……」


 ため息を吐くミラのことなんて視界に入っていないリディアは、夢中になってインクのついていないペン先が、机の上に並べられている手紙の文面の上を滑るのを眺めた。一枚終わって次の一枚、その次。本当はこれにさらに別の術式を加えて、その読み取った宛名を入れた定型文を書くようにしないといけないので、これは単なるテストに過ぎないのだが、こうして理論が成立したという成果が出ればついつい眺めたくなるものだ。

 そうしてリディアが上機嫌で見ていると、ある一つの手紙に差し掛かったところでふとペンが止まった。


「あら……?」


 術式が上手くいかなかったかと思ったが、そういう類の止まり方ではない。それであればペンは自立する力を失い、ただのペンに戻るはずなのだ。そうではなく、なんだか壁にぶつかったような、何かに邪魔されているような止まり方をしている。


「どうしたのかしら……」


 ペンを手に取ってみるが、特に変わったところはない。それじゃあ、と試しに今止まっている手紙を取り除いて、次の手紙の上に置いてみると、ペンは問題なく作用した。


——手紙が原因ってこと……?


 宛名を見ると、交流の途切れていた家のうち一つから送られてきた物だった。手紙自体には特に何の変哲もない、出席の返事だ。しかし、よくよく神経を研ぎ澄ましてみると、ほんのわずかに魔力の痕跡があるようだった。そんなに適性の高くないリディアも、最近よく魔法を使うようになってきたので、そういったことが少しであればわかるようになったのだ。ただし、それが一体どんな魔法なのかだとか、そういうことは術式無しではわからない。試しに基礎的な解析の魔法を使ってみたが、リディアのレベルでは何の情報も得られなさそうだった。頭を悩ませるリディアに、その様子をずっと見ていたミラが声をかける。


「公爵様にご相談なさっては?」

「……やっぱりそうよね……」


 ただでさえ忙しいキースに、ただ「手紙から魔法の気配がする」なんて理由で相談するのは、と気が引けたが、自分だけでどうしようもないならそうするしかない。スルーするのは簡単だけれど、今の状況を考えれば、後から大変なことになるよりはそうした方がいいだろう。

 リディアはため息を吐き、キースの書斎を訪ねるため、椅子から腰を上げた。


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