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【第3章開始!】公爵夫人は命がけ!  作者: 保谷なのめ
【第1章】婚約・結婚式編
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20話(改) 魔術書を求めて

「忙しいところ、ごめんなさいね」

「いえ、ちょうどご報告にあがろうと思っていたところでしたので」


 リディアに呼ばれ、書斎を訪れていたのはローゼンブルク家の騎士団を実質的に束ねている副団長、ジークだった。小柄な彼は、背の高いリディアとさほど身長も変わらない。


「報告って?」


 リディアがジークに座るよう促し、先に報告を求めると、彼は懐からいつも持ち歩いているノートを取り出し、それを開いて机上に置いた。そしてそこにペンで、屋敷の図面を書き込む。


「以前教えていただいた店を訪ねたところ、監視用の道具については式までに一定数手に入る算段がつきました」

 

 リディアの身につけている防御用のペンダントやブレスレットを作ったあの職人は、監視用の道具の話を聞き、新しいことへの挑戦に目を輝かせていたらしい。その試作品がついこの間届いたようで、そのテストで飛ばせる範囲が定まったとジークは報告した。


「ここと、ここ、反対側にも同じように設置して、あとはこちらに設置すれば死角なく配置できるかと」


 ジークが屋敷の図式の周りに小さな丸と、それを囲む少し大きな丸を描いた。侵入に使えそうな扉や窓を中心に、外壁の近くにも設置し、遠隔の攻撃にも備えるようだった。


「魔力の感知装置もつけますが、そちらの範囲はこのように……」


 ジークは二重になった円の外側に、さらにもうひとつの円をいくつか描いた。魔力感知装置。リディアには思いつかなかったが、魔法のある世界ならそれがあってもおかしくはない。リディアはなるほど、と感心しつつジークの説明を聞く。この魔力感知装置は監視よりも広い範囲をカバーできるので、すべての監視装置には搭載せず、数を絞って反応があった際に場所を特定しやすくするらしい。


「——ということでよろしいでしょうか?」


 ジークは図を描き終えてノートから顔を上げると、リディアは迷いなく頷いた。完璧だ。彼女が当初考えていた以上のものが揃えられている。わかってはいたが、予想以上にジークは仕事ができる人物であることが窺えた。


「本当に優秀ね。団長に昇進するべきよ」


 団長の役割はまた別であるということがわかっていても、彼にふさわしい報酬を与えるべきだとリディアは思った。前世で勤めていた会社にもしこんな部下がいたらどんなによかっただろうか。リディアの半分冗談、半分本気の言葉にジークは苦笑した。


「団長は……私には荷が重いですよ」


 あれはああいうひとがいいんです、とジークは続けた。フォローに追われてうんざりしているように見えて、彼は彼なりにエドを尊敬しているらしかった。


「ご報告は以上になるのですが……」


 ジークはまだノートの方を感心した様子で眺めているリディアの言葉を待つ。3秒程度の沈黙のあと、ハッとしたリディアが顔を上げた。


「あ、そうそう。そうよね」


 大したことじゃないんだけれど、と前置きをしてリディアが続ける。


「本をいくつか借りたいのよ」

「本ですか? それなら書庫に……」

「違うのよ、そうじゃなくて……」


 リディアが借りたかったのは、より詳細な魔術書だった。前回彼女が書庫から見つけたものは、古くて実用的なものではないうえ、もうほとんど読んでしまった。もっと今使われているようなものが欲しい。騎士団やその育成機関で使われているものを借りられないだろうかと考えたのだ。


「魔術書ですか……」

「そう。心当たりないかしら」

「……いくつかあたってみます。理由をお伺いしても?」


 リディアが魔法を使えるということは、既にジークも知るところである。しかし、それであればなおさら、今リディアが新たに魔術書を読む理由はなかった。この世界での魔法はあくまで実戦用であり、既にある程度実戦ができるリディアが、戦いに出る予定も無いのにこれ以上魔法を学ぶということはなかなか考え難いことだからだ。


「ちょっと色々と、試してみたいことがあって……」


 リディアの目的は、魔術の強化だった。「強くなる」そう決意した彼女の第一歩。今、リディアが使えるのは基本的な防御と軽い攻撃の魔法のみ。彼女が読んだ魔術書に書いているのがそれだけだったからだ。その基礎的な術式を、どうにか強化できないものかと考えたのだ。この世界の魔法はプログラミングに似ている。それを踏まえると、術式に使える言語、文字のバリエーションを増やし、他の目的で使われている術式を学ぶことはきっと役に立つ。国で研究された魔法についてはあまり外部には流通しないが、独自の体系の教本であってもたくさん読んでおいて損はない。


「もし危ないことをなさるおつもりでしたら……」

「危ないことはしないわ! 大丈夫」


 いささかリディアのその言葉を信用しきれないジークは渋い顔をしつつ、「本当に危ないことはおやめくださいね」と釘を刺し、部屋をあとにした。


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