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【第3章開始!】公爵夫人は命がけ!  作者: 保谷なのめ
【第2章】迷宮と少女編
100/156

43話(100話) 持ち帰ってきた真実

「キース!」

 

 エドが執務室の扉をバタン! と思いきり開くと、そこに探していた人物の姿はなかった。近くにいた従者を一人捕まえ、「キースはどこに行った」と普段の笑顔も忘れて尋ねると、怯えた表情の従者は「げ、玄関に……」と正面玄関の咆哮を指さした。裏口から侵入したのが失敗だったらしい。エドは従者を離し、玄関の方へと走り出した。


「——については——してくれ。——の日程は変更した」

「承知しました。では——」


 玄関ホールへと通じる扉の少し前にくると、数人の話し声がする。エドはその扉を開け放ち、まっすぐ目的の人物——キースの方へと歩み寄った。


「キース」

「エド。戻ったのか」

「団長」

「ああ。お前に話さないといけないことが——」


 近くには留守を任せていた副団長のジークもいて、エドに気付いてペコリと頭を下げた。エドが口を開こうとしたのを、キースが手で制する。「少し待て」と言った彼は、ジークと、それに執事長のウィリアム、メイド長のイザベラに次々指示を出していった。一刻も早く伝えようと思って、わざわざ危ないところを戻ってきたというのに。エドのイライラは募る。


——それにしても、なんで玄関ホールだ?


 よく見れば、キースはいつもの堅苦しく格式ばった格好ではなく、まるでアンドレアとの冒険に着いていくときのような身軽な服装を身に着けていた。そのことにエドが気付くと同時に、キースが周りの従者たちを全員下がらせ、エドに向き直った。


「エド。次はお前の番だ。どうした?」


 手短に頼む、とキースは手に持った荷物や武器のチェックをしながら言った。やっぱりか。キースはどこかへ行くようだ。どこへ行くかほとんど察しはついているが、念のため「どこか行くのか」と尋ねると、キースは「ああ」と頷いた。


「少し前に、リディアが俺の渡した指輪を使った。何があったか確かめに行く」

「じゃあ、行くのは魔物の棲み処だな」

「そうなるな」


 はあ、とエドはため息を吐いた。どうしたものか。早く話せと急かしてくるキースに、今度はエドが少し待てと言葉を挟む番だった。


「……順番に説明する」


 エドのいつにもなく真剣な雰囲気に、キースはただ事ではないと気が付いたようで、ようやく手を止め、まっすぐエドに向き直った。エドは懐からメモを取り出す。そんな彼に、エドはこれまでにあったことを順に話し始めた。


「まず……お嬢さんを狙ってたのは、恐らくとある宗教団体だ」

「……やはりか」


 攻撃が組織的だったこと、そして呪物が使われていたことから、そういう団体が関わっているであろうということはキースも予想していた。今回のエドの調査の目的はそれを確定させることと、それがどこまで広まっているかを調べることだ。


「俺が調査した街と、周辺いくつかに関しては……もうほとんどが取り込まれているようだった。市民のほとんどは単に〝助けてくれる団体〟くらいの認識だが、それぞれの街に既に支部があり、根強い信者のコミュニティがある」


 以前、エドがルーカス神父に連れられて参加したのはそのうちの一つだった。黙って聞いているキースに、エドはさらに続ける。


「教会も……一部は取り込まれているだろう。どこまで腐敗が進んでいるかは不明だ」

「そうか。それ以外にわかったことは?」


 エドは小さく深呼吸をし、「落ち着いて聞けよ」とキースの肩を掴む。


「——アイツらも、魔物の棲み処を狙ってる」


 ***


「アダム! アダム、どこだ!」


 そんな大きな声で呼ぶなよ、と呆れながら、エドは〝アダム〟としての笑顔を作り、ルーカス神父の前へとまるで今到着したかのように出て行った。


「すみません。少し辺りを見て回っていました」

「いいから早く来い」


 なんとも横暴な態度だ。こんな奴に頭を下げるなんて反吐が出そうだが、目的のためには仕方ない。


 ルーカス神父と出会い、集会に参加してからというもの。エドはあっという間に彼の信用を得て、右腕のようなポジションに収まっていた。そのせいで召使のように遣われることもあるのが腹の立つところだが、代わりに彼は自分の野心を満たすためにこれからどうすれば良いのかをエドに考えさせるべく、ペラペラと様々な情報を喋ってくれるのだ。


「今度はどうされました?」

「ああ……実は近々、上層部の人間と、この辺り一帯の支部長クラスを集めた集会があるんだ」

「ほう……」


 なんとも耳寄りな情報だ。そんなことを軽率にもこんな怪しい外部の人間に話してしまうコイツは愚かだが、野心で曇った目には正しいことなんて何も映らない。


「そこへ来いと?」

「は? 何を言ってるんだ。連れて行くわけがないだろう」


——なんだコイツ、マジで!


 本気で頭に来る。今すぐにでも刺し殺してやりたい気分だが、ここですべてを台無しにするわけにもいかないのでエドはギリギリと歯を食いしばりながら必死に笑顔を保つ。


「……では、僕は何を?」

 

 ニッコリと、あくまで穏やかにそう尋ねると、神父は偉そうに足を机の上にあげた。とても聖職者とは思えない態度だ。


「お前には、どうやったら私がそこで他を出し抜いて認められるかを見てほしいんだ」

「認められる、ですか……」


 この男の考えていることは、とにもかくにも地位のことばかりだ。最初こそ教団の信義に共感していた部分もあるのだろうが、今はただ〝上にあがりたい〟というそれだけ。手段は選ばず、なんでもいいから権力を握りたいのだ。


「お前なら〝正解〟がわかるだろう?」

「……」


 何を選べば、少しでも早く。最短ルートを辿ってこの教団のトップへと上り詰められるのか。こういう欲の塊みたいな人間だからこそ取り入れているのだから感謝しないといけない。エドはふたたび笑顔を作り直した。


「——手っ取り早く認められる方法には、いくつかあります。が、今回は……その方が〝求めているもの〟を差し出すのがよろしいのではないかと」


 種は蒔いた。こうしてぼかして言うだけで、この愚かな男は勝手に喋ってくれる。ニコニコと笑顔を保ちながらそれを待っていると、予想通り、ルーカス神父は「そうか!」と嬉しそうに言った。


「そういえば、ずっと探していると言っていたものがあるな……確か……〝神の器〟

と言ったか……」


 来た。〝神の器〟だ。エドは笑顔を崩さないよう努めながら、内心は重要な情報に辿りつけそうな気配に興奮していた。


いよいよ100話です! ここまで読んでくださってありがとうございます! 

物語は折り返し、ここから二章のラスト、そして三章まで駆け抜けて行きます! 朝にもう1話更新しますので、どうぞよろしくお願いします!

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