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正式にオーシアナ王国王弟レオン・オーシアナとフォートリア王国王女セリア・フォートリアの婚約が発表されたのは、一月後だった。
未だ書面でしか会話をしたことがない男と、今日は初めて顔を合わせる日である。
レオンはこの国を知るため、この後しばらく滞在予定となっている。
セリアはすみれ色のふんだんにチュールが使われたふわりとしドレスを見に纏い、あまりの窮屈さにすでに脱ぎたい気持ちとなっている。
(彼がいる間、ずっとこのようなドレスを着なくちゃいけないの…?無理…)
何かを決意したセリアに、宰相のリドが王弟が来たことを伝える。
どんな悪魔が…とドキドキする胸を抑え、応接室の扉を開くと、そこには恐ろしく顔が整った男がいた。
この世のものとは思えない造形に、思わず息を呑む。が、セリアはすぐに正気に戻り作り笑いを浮かべる。
(いけない、この男はこの国を乗っ取ろうとしてるのよ。顔の良さに騙されちゃダメよ!)
自分が思いの外メンクイだったことに驚きつつ、カーテシーをする。
「初めてお目にかかれます。フォートリア王国王女セリアと申します。」
「あぁ…レオンだ。そこに座れ。」
ぶっきらぼうに言い放つ男に、セリアはイラッとしつつ、レオンが座る正面の椅子に腰をかける。
メイドが紅茶を入れて下がっていき、ようやくレオンは口を開く。
「この度は、婚約に同意していただき感謝する。」
「こちらこそありがとうございます。」
二言で会話が終わってしまう。
ど、どうしようと紅茶を含むと、爽やかなレモンの香りが口いっぱいに広がった。