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ドボンと、海に落ちた音が聞こえた。
レオンは咄嗟に上着を脱ぎ、飛び込もうとするもニールが必死に止める。
「ここの海流は普通と違うのです!あなた様でも戻れるか…!御身に何かあったらどうするのですか!!」
「しかしそれでは…」
2人が言い争っていると、横を藍色の風が通りすぎる。セリアが美しいフォームで子供の横に飛び込んだのだ。
「なっ…!!」
レオンはいよいよニールを振り払い、水に飛び込もうとするが、眼前に広がる光景に本日2度目のフリーズをした。
子供を抱えたセリアは渦潮のような海流の中をスイスイと泳ぎ、港の梯子部分まで子供を連れて行く。上から大人達が引き上げるのを手伝い、子供は無事に親元に戻った。そしてセリアも港に上がり周りの人たちからタオルを借りていた。
「ありがとうございます、セリア様、本当にありがとうございます!!」
「ご無事で何よりです。ここは港のため、どうしても柵などがつけられない箇所があります。気をつけてくださいね。あなたも、お母さんから離れないの。」
子供の頭を優しく撫でるセリアから、レオンは目が離せなかった。
「セリア様は、今代の海の巫女でございます。」
「海の…巫女?」
「フォートリアにある代々受け継がれてきた風習でございます。先代の海の巫女がなくなった次の年、1番海に愛された子が海の巫女となるのです。」
レオンはなんとも漠然とした決め方だな…と思ったが話を止めるほどではないので心の中にとどめた。
「海の巫女は、その生涯を海と共にします。そのため誰よりもフォートリアの海に詳しくなるのです。島の人々もある程度海流の流れを読むことはできますが、海の巫女には海が従うのです。」
そんな非現実的なことが…と思いたいが、先ほど見た光景はとても現実の何かで説明できるものとは思えなかった。