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出発の1週間前、セリアは出来上がったドレスを見て絶句していた。
それはとても可愛らしい黄色のマーメイドドレスであった。全体的にレースをあしらい、膝あたりからたくさんのフリルで広がっている。全体的に小ぶりなパールが縫い付けられていて、裾にかけて少し大きめになっている。
合わせるアクセサリーはシルバーの台座にダイヤモンドとトパーズを使ったシンプルなデザインだが華やかなものになっている。
「ちょっといいですか。」
「なんだ?」
「私、これを着てパーティー出るのですか?」
「そうだ。」
セリアは上を向いて目を覆った。とても可愛い。正直好みだ。マーメイドラインはフォートリアではよく着られるデザインであり、セクシーになりすぎない配慮もしてある。
だが、この色と宝石は…どう考えてもレオンの色だ。頭の先からつま先まで銀と黄色しかないではないか。
「まさかとは思いますが、あなたの衣装は紺色ですか?」
「もちろん」
全身お互いの色を身につけあってのお披露目パーティーなど、どこぞのバカップルだ…遠い目をしていたら、気づいたレオンが説明をしてくれる。
「フォートリアではドレスの文化自体があまりないからピンとこないと思うが、オーシアナでは男がドレスを贈るときは大抵自分の髪か瞳の色だ。まぁ、髪の色はそんなに種類があるわけじゃないから大抵は瞳の色だな。そして男側は女性の色を身につける。パートナーがお互いの色を身につけるのは割とよくあることだ。」
「そ、そうなんですか…?」
こんな独占欲丸出しドレスが普通…?とセリアは少し疑ったが、自分はそちらの文化はあまりわからないので受け入れることとした。贈り物自体はとてもとても気に入っているのだ。
「ありがとうございます、レオン様。とても可愛らしいドレスで、着こなせるか心配です。」
「俺がセリアに似合うと思って作ったんだ。似合わないわけがない。」
自信満々に言い放つレオンがおかしくて、セリアは声を出して笑った。
「向こうでは毎日ドレスになる。普段使いができるものを7着用意した。合わせた靴やアクセサリーも用意してあるから、遠慮せずに使ってくれ。」
「毎日ドレス……えっ?7着?」
まさか毎日違うドレスを着ろというのか?顔に出ていたのだろう、レオンは苦笑していた。
「俺の立場上、セリアがずっと同じドレスを着てたら何を言われるかわかったものじゃない。悪いが慣れてくれ。こちらの国にいるときは一切口出しはしないから…」
「わ、わかりました…がんばります。」
「あぁ、料理や掃除なんかも侍女と一緒やってはだめだぞ。」
「うっ…わ、わかっています。」
セリアは初めての王国での暮らしに、不安しかなかった。