34
貴族の国ではないため、フォートリアの女たちの愛情表現は割とストレートである。それはセリアも例外ではなかった。
レース前、船の点検をしていたレオンはニヤニヤが隠せなかった。
「浮かれてんなぁ兄ちゃん」
「顔引き締めとけヨォみっともねーぞ」
周りの参加者にガラガラと笑われてしまう始末だ。
ゴンドラレースでは4チームに分かれて予選を行い、それぞれ一位だった4人が決勝をはしる。
まずは予選を勝たなければ。
レオンはふーとため息をつき、顔と気持ちを引き締める。
始まりを告げる、トランペットの音が高らかに響き渡る。
波飛沫が舞い、男たちは切磋琢磨し合い勝者が決まる。レオンが出るのは3レースめ。2レース目の船が進み、準備を始める。道を確認するため正面を向くと群衆から少し離れた王族席で、セリアが手を振っていた。軽く手をふり返すと、セリアががんばれと口をパクパクさせていた。
やる気に満ち溢れたレオンは、予選をぶっちぎりで通過した。たとえ小舟でも、船の扱いで右に出るものいなかった。彼は海や船のことに関しては天才である。そのため、海軍大将まで上り詰めたのだ。海神はそんな彼への尊敬からついた名である。
船を手足のように操り、レースで活躍する美形は、街の女たちの注目の的だった。
決勝戦、レオンが入場すると、一際大きな歓声が上がる。セリアは、それに少し面白くなさそうな顔をしてしまい、マリノに注意されてしまった。
レースが始まると、レオンは徹底マークされていた。1人抜け出されては止められない、そう考えた他の参加者は、3人がかりでレオンを止めに来た。直接相手の船を攻撃などをしなければ、多少船同士のぶつかり合いなどは許容されている。
しかし、レオンはそれすらも意に介さずに進んでいく。結局、レオンは最初から最後までトップを譲らないままゴールテープを切った。
大きな歓声と、花吹雪が舞う。新たな勝者の誕生に、豊漁祭に参加する国中の人が沸いていた。
「いやだ、完敗だよ。」
「その船燃料でも積んでんのか?」
「来年は出てくんなよ!」
負けてしまった参加者たちも、軽口を叩きつつもレオンを讃える。
「ありがとう、3人できた時は正直焦った。」
嫌味かよ〜!!と肩をばんばんと叩かれ、4人で笑いながら握手を交わした。
そして、表彰式。
今年は国王が見に来ているため、国王から勝者のリングが渡される。フォートリアの伝統的な意匠に、真ん中に一つ、大ぶりな真珠が嵌め込まれている。
皆、リングの行方を固唾を飲んで見守る。
何人かは予想ができていたが、予想通りであれば彼は自分たちとは違う立場の人間であるため、今後は気軽に接することは難しいかもしれないと、寂しくなる。
「セリア」
王族席にいたセリアに声をかける。ニコリと笑ったセリアはレオンの目の前に移動する。
「この勝利を貴方に。」
跪いてリングを差し出し、愛を乞う姿はまるで絵画のワンシーンのようであった。
「セリア、俺と結婚してください。」
「はい、喜んで」
レオンの手を取り、額にキスをする。
その瞬間、今日1番の歓声が国中に響いた