13
次の日、レオンとセリアは中庭でお茶をしていた。
今日の紅茶もレオンが選んできたもので、セリアの好みにピッタリだった。
「昨日のお話の続きがしたいのですが。」
紅茶を飲んでいたレオンは、思わずむせてしまった。
メイドからハンカチを受け取り、新しい紅茶に変えてもらう。
ようやく落ち着いたレオンがメイド達を下がらせる。
「話とは…」
「とぼけても無駄ですよ。政略結婚は建前というお話です。」
「やはりか…」
あれから一晩たち、セリアはこの結婚に意味はなく、王配となり国を掌握するための手段なのだと結論づけた。
一方レオンはソワソワと落ち着かない様子だった。
セリアが観念しなさいと思い口を開きかけた時、眼前を大量の花が埋め尽くす。それはセリアが大好きなマリンスノーの花束だった。
「ど、どうしたんですか、これ。」
「君が好きだと聞いたから。」
この花は海風がなければ育たない花で、この城の中には生えていない。とゆうことはわざわざ、手配してくれたのか?私のために?
花束に顔を埋めていると、レオンが真剣な表情で片手をとった。
「もうバレていると思うが…俺は君が好きだ。」
「え?」
思っていた言葉と違う言葉が聞こえてきて、素っ頓狂な声をあげレオンを見れば、耳まで赤面していた。
しかし目は逸らさず、まっすぐと見つめている。
「一目惚れだったのだ、あなたの民を思う笑顔に、優しい瞳に、一瞬で恋に落ちたのだ!」
恥ずかしさを誤魔化すためか、だんだんと声が大きくなる。
「なんとかしてあなたの隣に立ちたいと思い、立場を使って無理やり婚約させてしまったことは、申し訳ないと思っているが、私はあなたが欲しい。」
この結婚に愛などなく、油断してはいけない相手。
そう思っていた男からの突然の愛の告白に、セリアの頭は思考を停止した。
「あなたが、わたしを、すき?」
「そうだ。俺は君が好きだ。」
「私の国じゃなくて?わたし?」
「君の国も好きだ。君が国を愛しているからな。」
「私の国を、乗っ取るつもりじゃ」
「?君が悲しむことはしない。乗っ取って欲しいのか?執務に疲れてしまったのなら変わってもいいが…」
「いえ、そういうわけでは…」
「そうだろう、君はこの国のために働くのが幸せという顔をしていたからな。」
一体いつそんな顔を見せたかしら。セリアは疑問に思いつつ、レオンを見つめる。
その顔面一つで国一つ落とせそうな美貌の男が、かたわ赤くし、肩を震わし、私に愛を告げるのだ。
「返事は、今はしないで欲しい。」
震える声でレオンは懇願する。今の自分の印象はセリアにはよろしくないだろう。
「今の言葉に、嘘偽りはありますか?」
「まさか!」
「では、海の女神に誓えますか?」
海の女神への誓い。それは海の軍人にとって何より重い誓いの言葉。レオンはセリアの真横に立ち、45度程度腰を折る。脱帽時の最敬礼だ。そして再びセリアを見て、
「海の女神に誓って、私は貴方を愛している。」
すれ違いそうですれ違わないのが好きです。