2 実態は不明ではあるが
蒸気を吹きかけ、大地を覆う白い汚染を取り除く。
平地なら蒸気自動車に乗りながら吹きかけることが出来る。
何せ、エンジンが蒸気を発生させてるのだ。
排気口を下に向ければ、走りながら蒸気を吹き付けることが出来る。
ただ、これが出来るのは平坦な道だけ。
そうでない場所は、足を使うしかない。
背負い式の蒸気機関を担いで。
手間もかかるが、それ以上に重い。
バネと歯車を組み合わせた身体補正器具がなければどうなっていた事か。
「文明様々だよ」
毎度の事ながら、様々な機器のおかげを感じる。
自動車が無ければ、これほど迅速に移動する事は出来なかった。
補正機具がなければ、重い蒸気機関を担ぐ事など出来なかった。
それでも仕事の手間が完全に消えはしないのだが。
「産業革命のありがたさ、と」
言いながら仕事をこなしていく。
なんだかんだで、仕事が楽なのは変わらないのだから。
産業革命。
あるいは、蒸気革命。
人力が基本だった世界に機械の動力が導入された。
これにより、産業は大きく飛躍する事になる。
今をさかのぼる事、数百年も前の事だ。
開発された蒸気機関によって作業効率は大幅に変わった。
人がするべき作業の多くが機械に変わっていった。
作業効率は飛躍的に上昇していった。
一人で出来る作業が大幅に増大した。
この恩恵は世界に普及していき、人類は新たな時代に突入した。
おかげで、その後に発生した汚染をどうにかしのぐ事が出来た。
大地を白く染める汚染。
これが何時頃発生したのかははっきりとしない。
当時の記録が混乱しているためだ。
それ程に白い汚染は人々に恐怖を与えた。
この白い汚染が何であるのか?
これはいまだに完全に解明されていない。
科学的な調査は進められている。
だが、危険が伴うため失敗が多発してる。
なにせ、気を抜けば即座に汚染される。
一日で研究室全体が白く染まっていたという事もある。
白い汚染物質の扱いは難しい。
それでもわずかながら分かった事。
そして、様々な仮説の中で最も有力とされるもの。
数百年にわたる地道な研究は、一つの可能性を示した。
汚染物質は『カビ』ではないのかと。
カビ。
湿気の中で繁殖するあれである。
調べた結果、もっとも似てるのはこれだと言われている。
だが、本当にカビなのかどうかは分かってない。
なにせ、もたらす効果があまりにもカビとかけ離れている。
このカビは生きてる生物にも付着する。
植物、動物、人間。
それこそ土などの無機物にも。
そして、これらを異質な存在に変える。
怪物。
今は一括りにこう呼ばれている。
人間であれば、異形の存在に変質させる。
伝承にある狼人間や獣憑きのように。
運動能力は人間を凌駕して。
その精神は凶暴かつ凶悪に。
これらは人を好んで襲うようになる。
植物や動物も同じだ。
植物であれば、カビと融合した存在に。
これらの森は、生物を白く汚染する。
そして、同族を作っていく。
動物であれば人と同じような結果になる。
身体能力や感覚をより鋭く、強力に。
そして凶悪さも人と同じように備えて。
こんな存在が世界を闊歩している。
白く塗られた空間をひろげながら。
まだ白くなってない場所へと向かっていく。
そこにいる生物を惨殺しながら。
今の世界にはこうした危険が蔓延っている。
これを少しでも食い止めるべく、人々は動いている。
もっとも、成果らしい成果は全くない。
浸食を遅らせるのが精一杯。
それでも白い汚染に飲み込まれて。
その中にほんのわずかな生存場所を確保している。
それが連結都市。
建物を通路で繋いで、外と隔離した場所。
建物の中で白い汚染をしのぎながら生きている。
そんな都市から汚染を少しでも遠ざけるために。
外に出て仕事をする者達がいる。
シナンもそんな作業者の一人だった。
とりあえずここまで。
続きは気が向いたら書く。
他の話も書いてるので。