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逆さてるてる坊主

作者: 扇鈴千鶴

 ……今にも降りそうな天気だな……。


 俺は苦いブラックコーヒーを飲みながら、空を見上げた。今朝見た天気予報通りならそろそろ。


『雨の日はとても物悲しい気持ちになるの……』


 そう言って微笑む桂木真由美から連絡がくるはず……。





「来てくれてありがとう。いつも雨の日にごめんね」


 さ、座って と、桂木真由美はソファーに座るように促したが、俺は彼女をそのまま押し倒した。


「ま、待って。ここじゃだめっ……」


 彼女の両手を片手で押さえ深く口づけた。


 唇を離して見れば、頬をほんのり染め潤んだ瞳でこちらを見返す彼女。


「おねがいっ……ベッドで……」


 彼女の要求を受け入れてベッドに場所を移し、俺は本格的な愛撫を始めた。




 いつ来てもこの家は幸せの空気に包まれている。掃除の行き届いた清潔感溢れる部屋。白のレースのテーブルクロス。綺麗に飾り付けられた花。棚の上に置かれた幾つもの写真立て。


 まるで絵に描いたような家。ただその中で彼女だけが、忘れ去られた人形のように、物悲しさを纏っている。


 行為が終わり俺は彼女に口づけて、自分の胸に抱こうとする。けれど……


「もう……いいから」


 行為が終われば彼女は手早く服を身に付け始める。そして財布から取り出し

 手渡される金。帰っての合図。


「今日はありがとう」


 たったそれだけ。たったそれだけの関係。俺は胸の内に湧く衝動を押さえ、その金を受け取り身支度を始めた。


 彼女の家を出て携帯を開けばメール。次の相手。携帯をポケットに入れて、その足で相手の元へ向かう。


 そして女の喘ぎ声を聞きながら俺は考える。


 もう随分と前から他の客としても、彼女桂木真由美の事ばかり考えてしまう。


 あの幸せな家庭の見本のような家で彼女はきっと、あの写真立ての中の2人のように笑っているんだろう。


 1度だけ、街で彼女と旦那が仲良さそうに歩いているのを見掛けた。旦那と手を繋ぎ、幸せそうに笑う彼女。とても仲睦まじい夫婦に見えた。


 なのに……なぜ俺と寝るんだろうか……。


 気になっていてはいても所詮、客とジゴロ。余計な詮索をしないのがルールだ。


 女とした後、そのまま寝たせいで家に帰る頃にはすっかり日が暮れていた。


 ベランダに吊された逆さのてるてる坊主は、ぐっしょり濡れていた。それを捨てまた新たにてるてる坊主を作り、逆さに吊しておく。


 こうしておくと、雨が降る。そう昔に友達から聞いたから。すぐにまた彼女と会えるよう祈り、俺は空を見上げる。




 完


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