祝祭のお弁当(欧州編)
とあるヨーロッパの国の、ある街の話である。ここには古くからの祭りがあり、それを特徴づけるのが祝祭のためのお弁当なのだが、これが「第6回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」のお題にピッタリなので、ご紹介する次第である。
まずは祭りの謂れから。その昔、この地方一帯を飢饉が襲った。病虫害による農作物の不作が原因だ。飢えに苦しんだ人々は神に救いを求めた。すると荒野から一人の聖者が現れ、人々に昆虫食を勧めたのだ。
「旨いぞ、食え」
勧められたものの、人々は困惑した。虫なんか、誰も食べたくないのである。
しかし飢え死にするのも御免被るわけで、街の住人たちは大いに悩んだ。
それを見て聖者は言った。
「お前ら虫を嫌うが、お前らが飢えているのは、こいつらがお前らの食べる分の作物を食べたからだぞ。腹が立つだろう。食べ物の恨みを晴らす時が来たのだ、たんと食え」
それもそうである。空腹と怒りに理性を失った人々は虫を捕らえてガツガツ食べた。すると、どうであろう。皆、驚きに目を見張った。虫は美味かった。虫は、実に美味なる食い物だったのだ。
その様子を見て聖者は微笑んだ。
「美味しい穀物や野菜をたらふく食べた虫だ。だから、甘美なる味なのは、当然だ」
人々は争うようにして虫を捕まえては食べた。幸いなことに、虫は大発生していて食べても食べても無くならない。すっかり満腹となり栄養状態も改善した人々は聖者に感謝した。聖者は謙遜して言った。
「感謝の祈りを捧げる相手は私ではなく神様だ。荒野に忘れられた神の祠がある。そこを皆で拝んでやってくれ」
そして聖者は、荒野の彼方へ去ったという。
人々は街の郊外にある荒地の真ん中で朽ち果てかけた神の祠を修復し、以来そこを詣でるようになった。その最大の祝祭が、収穫祭のカーニバルである。人々はお弁当を持って神の祠へ向かう。お弁当の中身は虫だ。持参した虫のお弁当を皆で食べるのが習わしとなっているのである。街を救ってくれた神と聖者に感謝して、人々は虫を美味しくいただく。それは二十一世紀になっても変わらない。