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音は聞こえて話が聞き取れない 〜ややこしい障害 聴覚情報処理障害の事〜

作者: エクリーシュ

1.始めに

あなたの周囲にこんな方いませんか?


「何て言ったの?」などの聞き返しが多い

口頭で伝えた事をすぐ忘れる

会話が噛み合わない、自分の発言に合っていない返事が返ってくる

小さな音でもびっくりするのに自分の話は聞いていないのか「なんて言ったの?」と返してくる。


 その人はもしかしたら「聴覚情報処理障害」という障害で悩んでいるのかもしれません。

「声は聞こえているのに会話が聞き取れない」

という日本ではまだ認知度が低いこの障害の事を書いていきます。





2.音は聞こえるのに話は聞き取れない

半世紀にもわたって研究されているのに

子供の2~3%がこの障害を持っているとされているのに

聴覚情報処理障害は認知度が低いです。


聴覚情報処理障害(APD)とは、声は聞こえるものの言葉として理解できない症状を指します。


APDマーク公式サイトより引用

 分からない言葉の曲を聞いたとき、歌手の方が何かの言語で歌っているのはわかるけど、歌詞は分からない。という例え方をすると分かりやすい・・・のかもしれません。

「相手が何か自分に伝えようとしてるのは声や口の動きから分かるのに、何て言ってるのかは聞き取れない」というのが聴覚情報処理障害です。


原因は

・発達障害

・認知的な偏り(不注意や記憶力の弱さ)

・心理的な問題

・脳の外傷や病気

などで、脳に何らかの問題があるとされています。


普通の難聴は「音が耳に入ってから脳に伝わるまでのどこかで障害が起こっていて聞こえないまたは聞こえづらい」なのですが、聴覚情報処理障害は「音が耳に入ってから脳に伝わるまでは正常なのに、脳に伝わった情報の処理ができない」のです。





3.困る事

1.専門医が少ない

 耳鼻科医の間でもこの障害の認知度は低いです。また、診断可能な医師や病院が日本ではまだごく少数しか存在しません。医師に違和感を訴えても「気にしすぎ」などと言われ、病院を転々とすることもめずらしくありません。


2.認知度が低いため、誤解される

 耳鼻科医の間ですら認知度が低いので、世間での認知度も勿論低いです(私も医師に教えられるまではこの障害の存在を知りませんでした)。なので会話が聞き取れないとなると「話を聞いていない」「集中力がない」「怠けている」と決めつけられて責められることになります。

 また、聴覚情報処理障害は発達障害が背景にあることが多くみられます。そして、発達障害には聴覚過敏が併発することがあります。すると聴覚情報処理障害と聴覚過敏の両方を抱えることになります。こうなると「小さな音でも過剰に反応してしまうが、会話は聞き取れない」という状況が発生することになります。この結果「小さな音でも反応するくらい耳がいいのに何で人の話は聞こえないの?」という疑問を抱かれることになり、「人の話を聞く気がない」と思われることになります。


3.生きづらい

学生までの間は下記の点で影響が出ます。

・周囲の人との関係

話が聞き取れないので良好な関係が築けず孤立したり、責められたりします。

・学力

先生の話がうまく聞き取れないため、学力の低下を招くことになります(但し、授業中の教室のような静かな環境なら聞こえたり、板書や教科書などの視覚情報で補ったりして学力に影響が出ない場合もあります)。


社会人になると以下の点で影響が出ます。

・周囲の人との関係

話が聞き取れないので良好な関係が築けず孤立したり、責められたりします。

学生の頃と違い、相手(特に目上の人)に「何て言ったの?」と聞き返しづらくなるため、問題が深刻になります。

・仕事の成果

仕事であるので学生と違い内容をより正確に把握する必要があるのに、学生の頃以上に環境が悪いことが多いです(指示が口頭、職場が静かでない環境等)。更に基本的に指示は上司(目上の人)から来るので、聞き取れなくても「なんとおっしゃいましたか?」と聞き返しづらく、より指示の把握ミスが起こりやすいです。

電話応対をする仕事に従事している場合、相手に何回も聞き直したり、取次時に誰からの電話なのか伝えられなかったり(聞いてすぐに忘れる場合もあるため)ということがしばしば起こります。

・緊急時の対応

災害発生時に放送や店員の指示が聞き取れず適切な行動がとれない危険性があります。また、病人や怪我人を見て救急車を呼ぶため110に電話をかけたとしても、オペレーターや救急隊員とうまくやり取りができないという事も起こりうります。


4.発見しづらい

認知度が低かったり、専門医が少なかったりというのも発見されづらい原因ではありますが、何より通常の聴力検査(学校でよく行われる「ピーピー」「ボッボッ」という音を聞く検査)では異常がないため、いくら違和感を訴えても「気のせい」で済まされることが多いです。更に、人によっては学生の間視覚情報(板書や教科書)で情報を補完して学力に問題がないようにしているため、余計に周囲が分からず、そのまま一生を終えるまたは大人になってようやく発見されるということが多々あります。






4.診断がつくまでの筆者の体験談

1.幼少期~大学生

大学を卒業する頃までは実はそこまで困っていませんでした。

聞き取りづらいという症状の自覚はあったのですが、この障害の事を知らなかったし、一応普通に生活できていたので「気のせいかな?」程度で終わっていました(ただし、電話は苦手でした)。聞き取りづらくなるのはその日の体調やストレスとかに左右されるのかなと思っていました。

人と関わるのが苦手で、休み時間はいつも教室や図書館で一人で本を読んでいるような子でした。故に人と会話するという事がほとんどなく、余計に障害の事に気付かない環境になっていたのかもしれません。


2.社会人~夫との交際前

社会人になってから「明らかにおかしい」「これは困る」と感じるようになりました。

・上の人の指示が聞き取れない、だけど聞き直すのは気が引けるのでうやむやなまま仕事が進むこともあった。

・指示をいちいちメモするのを「それ必要ある?」と言われた。また、接客業の場合そもそもお客さんの目の前でメモができないのでかなりストレスになった。

・自分の職場がやかましくて聞き取りづらいのに、電話の場合相手の声や相手の会社のBGMで聞き取れないという事も多発するようになった。

・プライベートなら聞き取りの違いでミスが発生しても謝罪すれば許してもらえるが、職場だとそうはいかず、トラブルになることもあった。

・人によっては「やる気がない」と思われた。


3.夫との交際~専門医の紹介を受けるまで

夫とはゲームセンターで行われた交流会で出会いました。ゲームセンターという場所がやかましくて誰でも「何て言ったの?」となりがちな事、夫とは交流会で会う以外は遠距離恋愛でツイッター(現在のX)のDMで連絡を取っていたので視覚情報でどうにかなっていた事があり、交際期間は問題なく過ごせました。ところが結婚して一緒に住むようになると「何て?」の聞き返しが目立ってきました。夫も途中から「聞き返しが多すぎる」と感じ始めたそうです。

結婚前から私は別の障害で精神科に通っていたのですが、ある日のカウンセリングでカウンセラーと医師に「何か困っていることはありますか?」と聞かれ、夫が「妻の聞き返しが多すぎる」と訴えました。私自身も困っていたので「聴力に問題がないのに聞こえない」と訴えました。すると医師から「聴覚情報処理障害ではないか?」と言われました。

後日の診察でカウンセラーが「アドバイスをもらえる市内の病院」と「専門医がいて検査も診断も可能な隣県の病院」を紹介してくれました。アドバイスだけだと不安だったので隣県へ行くことにしました(片道1時間半)。


4.診察~検査~診断

紹介状を書いてもらったので問診もそこそこに検査が始まりました。

以下検査の内容です。

・通常の聴力検査

小学校などでよく行われる「ピーピー」「ボッボッ」などの音を聞く検査。

おそらく「本当に聴力に問題がないのか」という事を調べるのだと思います。

・単語の聞き取り

「青」「海」のような簡単な単語が聞こえてくるので、聞こえてきた単語が分かったら言う検査です。

・簡単な文章の聞き取り

短い文章が流れてくるので分かったら言う検査…なのですが、その文章がとんでもない…。「男の子が山を投げた」「お母さんがフライパンを食べた」のような文章が流れ、大笑いが止まらなくなる検査…。推測で正しい答えを出さないようにという目的があると思っているのですが、病院の検査で大笑いしたのはこれが初めてでした。

・簡単な文章の聞き取り(2つ同時)

左右から別の簡単な文章(例:右耳「今日はいい天気です」左耳「散歩に行きましょう」)が聞こえてくるので、それぞれの文章を答える検査です。

・砂嵐音から文章を聞き取る

砂嵐音の中から簡単な文章が聞こえてくるので、文章が聞き取れたら答える検査です(確か砂嵐の音は複数種類あったような気がします)。

・3つの文章から1つを聞き取る

3方向から別々の文章が聞こえてくるので、そのうちの指定された方向の文章を答える検査です。私はほぼできなくて、固まってました。


長い検査の結果、聴覚情報処理障害と診断されました。

特に正答率が悪かったのは最後の検査で、普通の人なら50%か70%か(正確な数字忘れました、すみません)そのくらいの正答率はあるのですが、私の正答率は約8%。簡単な文章の聞き取り(2つ同時)辺りから正答率は悪かったそうですが、最後が群を抜いて悪かったとの事です。

しかし、診断はされたものの「治す手段は無い」と言われました。「聞くトレーニング」をするしかないと言われました(トレーニングをするための本はAmazonなどで簡単に手に入るそう)。まあ、冷静に考えたら「障害」なのだから何らかの手段で軽くすることはできても完治は難しいのかなあと思いました。






5.対策

治らないとは言え、本当に何もしないでこのまま過ごすのは良くないなと思い、できるかぎりの対策を立てることにしました。聴覚情報処理障害の人は聴覚情報を覚えることが難しくても、視覚情報を覚えることに長けているという人も多いそうです。私も視覚情報を覚える事に長けていたので、とにかく「聴覚情報を視覚情報に変える」という事を中心に対策を立てました。


1.仕事方面での対策

・接客業やコールセンターの仕事は避ける

・見学が可能なところは事前に見学させてもらう。

まず就職する職業を絞るようにしました。接客業、コールセンターなど口頭や電話のやり取りが中心の仕事は避けました。事務に絞って仕事を探したときは、電話の多さを聞いたり、面接のときに職場を見せてもらって静かな環境の職場を選ぶようにしました。


・文書での指示に変えてもらうか、メモをいつでも取れる環境を用意する

前者は私が文書での指示をお願いしたことはないので分からないのですが、仕事という事を考えるとメリットをアピールすると受け入れてもらいやすいかもしれません。紙に書いてもらうに限らず、メールやLINEで指示してもらうという形で十分だと思います。

個人的にはメモ用紙は付箋など書いた後にどこかに貼り付けられるものがおすすめです。指示を書いたメモをよく見るところに貼っておくとより忘れないでよいと思っています(私はペットの写真を写真立てに入れて職場にもっていき、写真立ての縁に付箋を貼り付けています。)


・話せるなら職場の人に話す

私の職場で一緒に働いている方は幸いな事に障害に理解のある方だったので、働き始めて早々に話しました。職場が障害に寛容なところであれば話してしまうというのは大事だと思います。ただ、何度も書いていますが認知度が低い障害なので、話して大丈夫かというのはよく考えたほうが良いと思います(聴覚情報処理障害では障害者手帳は取れないので余計に理解を得づらいかもしれません)。


2.私生活での対策

・距離がある場合はLINEで会話する

我が家は毎晩夫婦共通の友人達とボイスチャットするので、その時間帯は夫婦間の意思疎通が(家の中であっても)LINEに限定されるというのもあるはあるのですが、隣同士でない場合(主に私と夫で別々の部屋にいるとき)はLINEで会話というのもしばしばあります。直線距離では2m離れているかいないかのなのですが、LINEだと「何て?」と何回も聞き直す必要がないので夫婦間の会話は近距離LINE会話を多用しています。

・筆談をお願いする

身内のように簡単にLINE交換ができない人が相手の場合は筆談をお願いすることもあります。最近は紙やホワイトボードを持ち歩かなくてもスマホのメモ帳などで会話可能な時代になったので、今の時代に生まれてよかったなと思っています。

・ヘルプマークをつける

つけれる方は極力つけたほうがいいと思います。何故かというと筆談に応じてもらえるか否かが結構変わってくるからです。聴覚情報処理障害の認知度がないので猶更「この人の障害は分からないけど、ヘルプマークがついているってことは何らかの障害があって筆談が要るのね」と思ってもらうのは大事だと私は思っています。

・緊急通報システムのアプリを入れる(要事前申請)

聴力や話す能力に障害のある方のためのサービスです。119番の通報を文章でやり取りできます。申請時に申請の理由は聞かれるものの、素直に「聴覚情報処理障害で電話の音が聞こえづらい」と理由に書いたら許可が下りたので許可の下りづらさ云々は心配しなくていいと思います。

・防災無線を文章化してくれるサービスがあれば利用

大雨、台風、地震などの際、市区町村から放送で避難情報等が流れる場合があると思いますが、この放送を文章として改めて配信してくれるサービスです(これはどこの市町村にもあるのかは分からないのですが、私が住んでいる市にはあるので紹介しておきます)。






6.終わりに

聴覚情報処理障害とうまく付き合っていこうと頑張っている私ではありますが、いつまで経っても慣れないことがあります。

それは「相手がせっかく話してくれているのに頑張っても聞き取れない、でも何回も聞き直すのも申し訳ない、最終的にうやむやな返事になってします」ということです。

そうなると変な相槌や返事になってしまい、相手に不快感を与えているのだろうなと思うと本当に申し訳なくなります。


あなたの周囲にそんな方がいたらこの記事なり聴覚情報処理障害のサイトを見せるなりしてその人の聞き取りのお手伝いをしていただけますと幸いです。

もっとも、一番いいのはこの障害の認知度がもっと高まって、ご本人が「聴覚情報処理障害かもしれない」と気付いてくださることなのでしょうが。



長文にお付き合いいただきありがとうございました。



参考サイト

○あだち耳鼻咽喉科

○ファストドクター

○APDマーク公式サイト


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― 新着の感想 ―
[一言]  はじめまして、エッセイ読ませていただきました。  私も少し似た体質かな、と思いました。  昔からリスニングが苦手で、たまに人の声が音の塊のように聞こえる時があります。聴力検査では異常が出…
[一言] 少し似た体質があるので参考になり、同じ検査を受けてみたいと思いました。 (騒がしめの居酒屋では会話が半分も聞き取れない、他の人々は普通に会話している、可聴音域はむしろ人より広い) 自分では今…
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