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あの世と通信

作者: 雉白書屋

 とある洋館。その日の天気と相まってなんとも怪しげな雰囲気であるが、そこは実際そうであった。

 博士と助手。二人は今まさに、ある実験を行おうとしていたのだ。


「……で、博士。言われたとおりにこの台の上に横になり

頭に、ああ、これなんか嫌だなぁ、まあ装置を着けたわけですが」


「ああ、準備完了だ。あとはこの注射を打つだけだ」


「いやいやいやいや、博士。いつもそうやって一人で進めて

僕、助手なのに今から何をするのか全然わからないんですよ!

この頭のは何なんですか! 説明してくださいよ!」


「まったく、うるさいな……。それはな、通信装置だ」


「通信装置?」


「そうだ、脳波を読み取り、思っていることがそこのスピーカーから出るわけだ、さ、注射するぞ」


「いや、もう少し待ってくださいよ! それで、なんです?

次世代の電話ですか? テレパシーか何かの研究ですか?

装置を着けた者同士が通信できるような」


「いや、あの世で通信するためだ。っとそうだベルトをしてと」


「あの世と……え? あの世?」


「そうだ。この薬で今から君を仮死状態にする。

ああ、臨死体験というやつだな。聞いたことがあるだろう?

それに察しもついたはずだ。ああ、こら暴れるな」


「マッド! マッドサイエンティストォォォォォ!」


「大丈夫だ。こっちの注射でちゃんと目を覚まさせてやる。君にはただ調査をお願いしたいだけだ」


「拘束を、ああ、放せ! この! アホ! バカ!」


「私がアホでもバカでもないことは君も知っているだろうに。

まあ、そんなに嫌なら仕方がない。

なんだそうか、他に志願者が山ほどいたのだが

特別に君にお願いしようと思ったのにそうかそうか残念だ」


「え……志願者? 特別?」


「そうだろう。宗教家でさえあの世の存在には懐疑的なのだ。口にはしなくともな。

世の中のほとんどの人間も言わずもがな。

だが、あの世があることの証明、そしてその様子を

公表できれば歴史に名を残すことは間違いない。

感謝もされるだろう。死に、無になることを怯える必要がなくなるのだから。

ん? なんだ? やるのか? よしよし、じゃあ、頼んだぞ」


 他に志願者などいないのだが嘘も方便。実験もその重大さも事実だ……博士個人の価値観ではあるが。

 博士が助手の腕に注射し、数分後。博士が眠る助手に呼びかけ続けると、やがて、スピーカーからノイズ混じりではあるが助手の声がし始めた。


『ザァー……博士……ザァー……聞こえますか?』


「ああ、聞こえるとも。それでそこはどんな様子だ? 他に誰かいないか? 天使は? 悪魔は?」


『……薄暗いです……ザアアァァァァ……霧のような』


「そうか、続けてくれ」


『……ザアァァァ……はい……人が大勢います……ザァー

それに……ザァァァァ……そう、列ですこれ……

その周りに……見張り……ザァァァ……黒い靄みたいのが……』


「天国か地獄かの審査に向かう列だろうか……あ、そうだ。

周りの者に話しかけてみてくれ。名前だ、名前を聞くんだ。

調べてそれが死者だと分かればそこは間違いなく、死後の世界だ」


『……ザァァァァ……はい……わか……ザァァァァ……した……

みんな……ボッーとしるので……

応えてくれるか……わか……ザァァァ……せんが』


「ああ、やってみてくれ」


『ザァァァ……はい……わ……ザァァ……名前を……ザァ……そっちのあなたも教えて……ザァァァ……』


 博士は助手から告げられた名前をメモし、パソコンで調べた。すると、そのうちの何人かが検索にヒットし、博士は拳をグッと握った。


「おーし、おしおし。いいぞ。確かに今、君が言った名前は死者のものだ。

はっはぁ! しかもそのうちの一人は捜索願が出ている行方不明者だぞ!

どこで死んだのか、あるいは誰に殺されたのか聞きだせれば遺族は喜ぶだろう。

これは我ながらいい発明をしたものだ」


『……はい……ザァァァ……ですね……あの……そろそろ……ザァァァ……』


「まあ、待て。もう少し他の者の名前を控えておきたい。

特に今言ったような行方不明者が良いな。ああ、あと周りの様子を知りたいな。

神とかはいないか? 建造物とかなんでもいい。答えてくれ」


『……ザァァァァ……はい……ザァァ……でも……ザァ……なんだかザァァァァァ……わ、わ、わ、わ……』


「ん、おい、どうしたんだ?」


『やめ……ザァ……ああ……ザァァァ……まずい……ザァァァァ……ああ、ひど……ザァァ……』


「おい、なにかあったのか!」


『みんな……ザァァァ……たようで……ザァァァ……

どんどん……ザァァァ……あ、あ、あ……パニックが……

……ザァァァ……死んだこ……ザァァァ……気づいて……

暴動が……ザァァァ……博士……ザァァァ……

戻してください……ザァァァ……博士? はか――』


 

 博士は通信装置のスイッチを切るとため息をつき、額に手をやった。

 

 どうも不味い事が起きたようだ、いや起こしてしまったようだ。だが、これでこの先この世界で何が起きようとも私のせいだと気づかれることはない。

 ……いや、それも杞憂か。死後の世界で起きた事だ。大したことは、そう、すぐ鎮圧されるだろう。きっとそうだ。あの世にも治安維持部隊くらいあるだろう。

 しかし、彼には悪い事をした。だがまあ、尊い犠牲というやつで……。


 ――博士


 そう思案した博士。部屋でひとり。そのはずなのだが声がした。それはスピーカーから聞こえたあの声のようだがノイズはなく、もっと恨めしげで……。

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