太陽のような男Part2
これは分割編集版です。
多少表現が変化していますが内容に差はありません。
「太陽のような男」Part2
俺は牢から解放された後、スティーブに連れられ、活気のある町までやって来た。
「栄えている」
町に活気があるということに俺は疑問を持った。
「意外だったか? 現在負けている国とは到底思えないだろ」
「ああ、もっと酷い状況なのかと思っていた」
「うん、そうだな、だがこれはいわゆる見栄だ。実際はここまで情勢はよくない。しかし町が栄えず、民の心が死んでしまうと、最終的に国そのものが死んでしまう、国には何一つ欠けてはいけないのだ。と言っても国を守りきれていない私が言ったところでなんの説得力はないがな」
スティーブは苦笑いをする。
スティーブは自虐をしたが俺が見た限りではこの町は笑っている。
そして皆がスティーブに向ける眼差しは憧れや感謝そのものだ。
むしろこの男がいなければこの国はとっくに滅んでいる。そんな気がした。
「いや、この町を見て分かる。あんたは間違っていない。これならあんたを信頼できる」
「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。よし、とりあえず、君が住む場所がいるな、案内しよう、こっちだ」
そして石でできた家に連れられた。
「ここだ。しばらくはここに住むといい」
「ありがとう、スティーブ……ぶっちゃけたことを聞くがこの国は実際どのくらいまずい状況なんだ?」
俺が国の状況を聞いたときスティーブは少し顔を曇らせた。
「ここで話す内容ではないな。詳しい話はこっちで話そう」
今度は周りの建物と比べてもひときわ立派な建物に案内され、三階にあるスティーブの執務室に入った。そこで二人ともソファに腰かけるとスティーブが本題を切り出した。
「実を言うとこの国は他国と比べて圧倒的にキングバック所持者が少ない。そのせいでいつまで経っても攻撃に転じることが出来ない。それどころか防戦も満足にできていないのが現状だ」
スティーブが深刻そうな顔をしていたが俺はキングバックという存在が分からず、正直に聞く。
「すまん、キングバックってなんだ?」
俺がそういうとスティーブは驚き目を丸くしていた後、目をつむり小声で呟く。
「……キングバックを知らないだと? ……いやそういう人もいるだろう、今時珍しいが……」
スティーブは目を開けると自分の後ろを指さす。
「じゃあ岩谷これが見えるか?」
するとスティーブの背後から2mほどの別の人影が現れる。
その存在は青く和風を思わせる西洋兜と胴の鎧を身に着け、腕には着物のような袖があり、下半身は袴を身に着けていた。
「これはキングバック、主の後ろを守る存在だ」
「……主か、主が王でその後ろを守る。だからキングバックか」
「そうだ、その様子だとまだ岩谷、君は使えないようだね」
「ああ」
「まあ、存在を認識したばかりだ。今は使えなくとも覚醒することはあるかもしれない。だから焦らなくてもいい」
スティーブが気を使った様子でこちらを見てきており、俺は少し違和感を覚える。
「そ、そうだな、も、もしかするとその力がないと戦えないなんてことはないよな?」
今度はスティーブが少し困った表情をする。
「そうだね、戦えないことはないが、基本的に生身の人間はキングバックには勝てない、キングバックを倒すにはキングバックしかない」
「そ、そうか……」
ーーキングバック、そんなのがあるなんて聞いてないぞ! これが使えるか否かで勝敗が決まってしまうのか。まずいな、早く使えなくてはいけないな。
「話しを戻そう。我が国はこのキングバック所持者が極端に少ない。警備についてもかなり緩くなってしまっている」
「なるほど、戦える者が少ないということか」
「そうだ、事実かなり敵に潜入されている可能性がある……岩谷少し右にどいてくれないか?」
「あ、ああ」
俺は言われた通り右に少しどいた。
「そこにいるのはわかっている。やれサーセイバー」
そのときスティーブの背後にいたキングバックは空中に出現した剣を掴み、さっきまで俺が座っていたすぐ後ろにめがけて剣を振った。
そして振るった剣は何かにぶつかりギンと鈍い音がする。
その場所には二足歩行のエビのような見た目で硬そうな殻を持つ新たなキングバックが現れた。
実際には現れたというより、透明だったのが見えるようになったというのが正確である。
いきなり攻撃を受けた硬い殻を持つキングバックは驚いた様子で口を開き、少しノイズが入ったような声で言う。
「な、なぜ俺に気がついた? 完全な透明化だったはず」
「そうだな、見ただけでは全く分からない。しかし、わかるんだよ。匂いが、一度嗅いだ匂いは覚えている。しかし、嗅いだことのない匂いが部屋に充満しているのを感じる。たとえ透明だったとしてもこの私には全く意味をなさない」
「クソ、腐っても国のリーダーかよ、暗殺が出来ると思ったのによぉ」
すると、硬い殻を持つ敵は近くの窓を割って外から逃げた。
「逃がすか!」
スティーブもそのすぐ後を追い窓から飛び降りた。
「えええぇ、ここ三階だぞ」
心配して、窓から下を覗くとサーセイバーがスティーブを抱えて上手く着地しており、硬い殻を持つキングバックを追い詰めていた。
「そう簡単に逃がすと思うか?」
「く、クソ簡単に殺れると思ったのによぉ」
そのまま硬い殻を持つキングバックはスティーブに鋭い爪を向け襲って来た。
しかしスティーブのキングバック、サーセイバーは目にも止まらない剣撃で敵の右腕を木っ端微塵にしてしまった。
「遅いな、透明化にエネルギー割き過ぎているせいだ。俺のサーセイバーのような近接に特化した奴に真っ向から勝負挑むべきではなかったな」
「くぅっ」
「透明化が俺に効かないとわかった時点でお前は完全に逃げに徹するべきだった。まあ例え逃げようとしたとしても俺は決して逃がさないがな」
「だったらお前の言うように逃げてやるよぉ」
硬い殻を持つ敵は再び透明になり逃げ出した。
俺はすぐにスティーブと合流するべく急いで自分も飛び降りようとした時。
「何やってるんですか!」
するとクリーム色でロングヘアの二十代前後の女性が俺の腕をつかんできた。
「キングバック使えないんでしたら、素直に階段を降りて下さい!」
「やっぱり君もそう思う?」
「当たり前です!」
結局俺はその女性と一緒に階段を降り外に出た。
その時スティーブは目をつむって立っていた。
「もう近くにはいないな。逃がしてしまったか……透明化して、人混みに紛れて逃げたようだ。うーん、匂いが混ざって追うことが難しいな。これはちょっとまずい」
「どうするんだ?」
「ああ、恐らく奴はキングバックを操っている本体の下にもどるつもりだろう。だったらまだなんとかなる。幸いやつは腕の残骸を置いて行ったからな。ユーネリアは頼めるか?」
スティーブはさっき俺と一緒に降りて来た女性に声を掛ける。
「ええ、逃げた敵の本体の追跡ですね」
「ああ、頼む」
「いえ、キングバック所持者なのにこれくらいしか出来なくてすみません」
「いや、適材適所だ。俺には出来ないことをお前がする。この国にはお前が必要だ。そんな風に自分を思うな」
「はい……シャイニー出番です」
するとさっき一緒に階段を降りたユーネリアと呼ばれる女性は可愛らしい妖精のような見た目のキングバックを出現させた。
そのキングバックは敵の腕の残骸に触れた。
敵のキングバックは硬い殻を持っていたがサーセイバーは器用に殻同士の結合部分の隙間を切断しているようだった。
少し時間が経つとユーネリアはこちらに顔を向ける。
「見つけました。ここから北へおよそ20キロ先の市街地に奴は潜んでいます。ですがこちらからの逆探知に向こうは恐らく気付いているでしょう。早く行動したほうがいいかと」
「わかった。じゃあいくぞ岩谷」
「お、おう」
マジでヤバイ状況だな。置いて行かれそうだ。
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