誇れる自分
逃げたバルターを追う、岩谷とルインたち。
バルターはその逃げた人生にどう向き合うのか? 死かそれともおのが罪を受け入れるか?
キングバック26話「誇れる自分」
俺たちは逃げたバルターを追って、ルインの故郷の村までやってきた。
「ほんとにここにいるだろうか?」
ルインは岩谷に疑問を投げ掛ける。
「いるさ、奴1人なら、俺たちから逃げきれる。しかし、奴の民たちは無理だ。さすがに仲間を見捨てて逃げるような奴じゃない」
そして村の前までやってくるとルインが突然頭を抱え、苦しみ始めた。
「ぐ、がぁああ」
「ルイン! 大丈夫か?!」
「クソ、幻覚だ。近くにバルターがいるぞ!」
そう言い残すとルインはその場に蹲ってしまう。
「出てこいバルター! いるのは分かってる」
俺が大声を上げるとバルターが木の影から現れる。
「……岩谷、君にも幻覚を見せたつもりだったんだけど、このレベルだと、効き目が薄いみたいだね」
「あ? なんのことだ?!」
「いや、こちらの話だ。それよりここに何しに来た」
「おいおい、まずそれを先に聞けよ、いきなり攻撃してきやがって、でもテューラーに色々と入れ知恵したのはお前だろう? そのせいで、セイリスさんは死んだした。お前1人がぬくぬくと居られるわけねえだろ、それなりのケジメがいるってもんだ」
「やはり、そうかこの俺を追って、そして、俺たちの仲間を殺すつもりだな?!」
バルターは敵意を剥き出しで睨み付けてくる。
「はぁ?! 何もそこまで言ってねぇだろ! 」
「お前の話なぞ、信じられるか! お前たちのせいで、数少ない同胞ガルドが死んだ、もう、何も信じられん!」
バルターは焦ったような様子で、とてもこちらの話を聞くような状態には見えない。
「チッ この様子じゃあ話は通じなさそうだ。一旦、渇を入れて大人しくさせるしかねえな!」
俺はクリサリスストーンズを出現させる。
すると今度はバルターがインフィニティムーンを10体以上同時に出現させる。
「ふふふ、これが俺の最大戦力だ!」
「な、なに?! バルター、てめぇ、こんなにいっぱい出せるのかよ!」
俺はその異常な光景に驚き思わず後退る。
「ははは、今度は仲間がいるからな、出力が違うんだよ」
ーーなんてな、俺の仲間にそんな力を持つ奴なんていないよ。
幻惑術で作った偽物のインフィニティムーンに意味もなく攻撃をしているんだな、だが鋭い岩谷のことだ、時間をかけるとバレる。しかしインフィニティムーンは今、幻惑術を岩谷に向け使っているから、使えない
するとバルターは岩谷に近寄り、ナイフを向ける。
「悪いな、お前にはここで死んでもらう」
ナイフを向けられていても岩谷にはそれが見えていない。
「数が多くても俺が全部倒す!」
岩谷はインフィニティムーン全部を倒す意気込みだ
「勝手に言ってろ、じゃあな」
そして、岩谷の喉元にナイフが触れようとすると同時に、クリサリスストーンズは1体のインフィニティムーンをぶん殴る。
偽物のインフィニティムーンは倒れ、消滅した。
幻である偽物がどうにかなろうとも、本来なんの影響もないはずである。
しかし、偽物のインフィニティムーンを1体倒した瞬間、インフィニティムーンの本体たる赤い宝石に亀裂が入る。
そして、バルターの手に激痛が走り、ナイフを落とす。
「は?! 一体今何が起きた?!」
バルターは一気に動揺する、それもそのはず、クリサリスストーンズからかなり離れた場所に置いてあるインフィニティムーンの本体に攻撃が入ったからだ。
「コイツ今何をした? クリサリスストーンズはここだ、攻撃範囲外のはず、そもそも、今、奴は幻の中だ! なら、他に仲間がいるのか?」
バルターは警戒してインフィニティムーンの本体の元まで戻る。
「……他には誰もいない。やはり、ここにいる敵は岩谷に奴1人だ。どんなトリックを使った?」
バルターが今の状況に混乱し始めた。
「まずは一体、なんか手応えないけど、とにかく次だ!」
すると、さらに岩谷は別のインフィニティムーンを殴り飛ばす。
その後その偽物も、さっきと同じように消滅する。
そして同様にインフィニティムーンの本体の赤い宝石に新しい亀裂が入る。
バルターは今度は膝を着く
「ぐ、脚が、やっぱり岩谷の奴め、何かしているな、原因はわからんが、奴の攻撃がトリガーか」
「よし、二体目、なんかすごい弱いな、まあいい、まとめてかかってこいや」
「ちょっ?! 待て、待て、まてー!」
インフィニティムーンの幻たちは自動でクリサリスストーンズに襲い掛かる。
そして、クリサリスストーンズは次々と殴り倒していき、インフィニティムーンは数を減らしていく。
赤い宝石に無数の亀裂が入り、最終的に砕け散ってしまう。
「が、あばば」
バルターは泡を吹いて、バタンと倒れる。
「よし、全部倒してやったぜ、ん? なんかバルター倒れてらぁ、なんか勝ったな、まあいいか」
岩谷は自分がそもそも幻を見ていたことにすら気が付いていない様子だ。
そしてしばらく後
「う、うーん」
バルターが目を覚ます。
「お、やっと起きたかバルター」
岩谷が倒れたバルターを覗き込む
「な、岩谷! …… そうか俺はまた、負けたのか……」
「ちぃったぁ、人の話を聞く気になったか?」
「……なんだよ」
「今後のお前のことだよ」
「……」
「殺すだなんだとか言ってたが、今お前は生きているだろ、あと、お前の仲間にも手は出してねえ」
辺りを見渡すと、岩谷の言う通り、岩谷の他にも俺の仲間や、子供たちが心配そうにこちらを見ていた。
「た、確かに、お前の言う通り、殺すのが目的じゃないことは分かった。だったら何が目的だ!」
バルターは起き上がり岩谷に詰め寄る。
「実際問題、お前によってこっちはかなりの被害を被った」
「……」
「だったら、それ以上の利益で返せ、それでチャラだ」
岩谷の安易な発言に俺は怒りをあらわにする。
「そ、それで、上手くいくわけがない、俺に復讐したい奴はきっといる、スティーブなんかは確実にそうだ。それで、納得するはずがない。赦させるはずがない。そうだろ!」
バルターは大声で岩谷に訴えかける。
「当たり前だ、お前のせいでセイリスは死んだ、この事実は覆らない。赦されない、特にスティーブにとってはな」
「……だったら、なぜ俺たちを生かす?」
バルターは目線を外して小さい声で言う。
「お前を殺せば、解決するのか?」
「……それは……」
「しないだろ、死んだ人間は生き返らない、それはお前が一番分かっていることだ! だから、自分が死ねば解決するとか言うな、逃げるな!お前が仲間を殺した奴を憎むように、お前も憎まれて、生きろ!」
その言葉を受け、自分がいつまでも被害者の気持ちでいたことに気が付いた。
「……そうか、俺は他の国を憎み、自分たちを守ろうとするあまり、自分もその憎まれる存在なっていたということか」
「ああ、だから、お前も俺たちを憎んでいい」
「そ?! それは」
「ガルドのことだろ?」
「あ、あぁ」
「こんな世界だ、ただの被害者なんていやしねぇよ、だけどな、それでも俺は自分を誇れない生き方はしたくないんだよ」
その時の岩谷の目はとても自分より年下とは思えないほど力強かった。
「俺は、今の自分のことを誇れないな……」
俺は岩谷の生き様を見てそう感じた。
「仲間を守ろうとするお前は誇ってもいいと俺は思うがな」
「そうか……」
岩谷にそう言われようと、何もかも信じられなくなった、そんな自分自身を誇れない。
だから、つい岩谷から顔を反らしてしまう。
「……それでもまだ無理なら、今からでも誇れる自分になればいい」
「なれるか? 俺は?」
俺は自分よりも年下の青年にまるで、教会の神父に懺悔し、ありがたい言葉を貰うような気持ちで、聞いてしまう。
「そんなのわかんねえよ。でも、誇れる自分になろうと努力する姿は、今よりちょっとはいい姿になってんじゃねえの?」
年下の子供に説教されたが、不思議と俺の心はスッキリとした気分になっていった。
「そう、だな、俺ももう少し頑張ってみるよ、俺を待ってくれる仲間のために、仲間たちが胸を張って誇れるようなリーダーになれるように」
そう言って俺は少し微笑んだ。
岩谷はバルターに今度はスティーブを含め、再び会うことを約束し、別れた。
ルインと共に砂の国の中心地まで戻り、その後ルインとザックに一旦砂の国を預け、太陽の国まで戻る。
このたびはキングバックを読んでいただきありがとうございます。
今回で砂と月の国編が終了となります。まだまだこの先のストーリーは続きますので、今後ともよろしくお願いいたします。
また、私の今後モチベーションにつながるのでブックマーク、評価、感想など良ければよろしくお願いいたします。




