飢えた、アヴェンジャー
バルターは倒した。
後はスティーブの元に向かうだけだ。
キングバック24話「飢えた、アヴェンジャー」
今まで自分のしたいようにしてきた、それが間違いであるかなど、微塵も考えたことはなかった。
今回も全て上手くいく、そう考えていた。ついさっきまでは……
一瞬、何かが前を通った気がした。
そして気が付いたときには俺の右手は当たり前の場所になく、僅か先の地面にあった。
大量の血が流れ始め、血に濡れた腕は生暖かったが、流れた血はすぐに冷え、身体を冷まし、寒気を起こす。
しかし、この寒気は血が流れることで起こったものだけではなく、あり得ない出来事が瞬く間に我の身に起きたことによるものかもしれない。
時間にして数秒私は唖然とする。
しかし、流れる血が止まらないことが我を現実に引き戻す。
「な、なんだこれは! 我の腕がぁ」
我は咄嗟に右手の断面を押さえる。流れる血は未だ止まらない。
我が腕に気をとられ下を向いていると、我に影が被り、顔を上げる。
そこには死んでいると思っていたスティーブが氷のように冷たい目で我を見つめていた。
「な、スティーブ、き、貴様まだ、生きていたのか!」
「……」
スティーブは一切喋らず我の身体を貫くような視線を向ける。
なぜか、身体が小刻みに震える。後退り、すぐにこの場から逃げたいという衝動に駆られる。
「(こ、この我が怯えているだと! この目の前にいるこの男に恐怖を抱いているだと! 否、断じてない、この我が小型使いなんぞに負けるわけがない。油断しただけだ) スティーブよ、さっさと死んでセイリスに会ってくるがいい!」
私が合図をすると部屋の壁や床が粘土のように変形し、鋭い刺になりスティーブを襲う。
しかし、スティーブはすぐに我から離れ、刺たちを躱しながら、再び我に近づいてくる。
「(この身のこなし、我のトラップを無傷で突破したのも頷ける) だか、これならどうだ!」
今度はスティーブのすぐ足元の床が変形し、大きくスティーブを包む。
しかし、一瞬で切り刻んで脱出する。
ゆっくりとスティーブは無表情でこちらに向かってくる。その姿はまるで殺戮の兵器のように感じるさせる。
「(ダメだ、今の奴にまともに戦って勝てん!この閉鎖空間では私のキングバックは不利だ、外だ外に出なくては!)」
我は自分の床に穴を開け、下の階に降りる。そして、その穴だけでなく、さっきまでいた部屋の出入口も全て閉鎖した。
「とにかく外だ、ここで奴と戦うのは不味い」
外に出ようと歩くと、軽くめまいを起こしその場に倒れる。
「う、ぐぅ、血を流し過ぎたか、こんなはずでは、こんな……」
「もう少し、あともう少しで外だ、外にさえ出れば、我の手下がいる!外に出さえすればこんな城、スティーブごと潰してくれる!」
テューラーは血を滴しながら、ゆっくりとピラミッドの端を目指す。
すると、突然ピラミッドに何かが崩れる音と共に大きな振動がおこる。
「な、なんだ! 私はまだ、指示を出しておらんぞ!」
次々と破壊音と衝撃が立て続けにおきる。
「くそ、いったい何がおこって……?!」
そのとき、背後に気配を感じ、テューラーが振り向くと後ろには再びスティーブが死神の如く迫っていた。
「あああぁぁもう、なん、で、あの状況からここまで来るんだぁ、くそ、くそ、くそがぁぁぁあ!」
「……」
スティーブは何も話さずテューラーに詰め寄る。
「や、やめ」
サーセイバーを出現させ、斬りかかろうとした瞬間、近くの壁が巨大な拳によって破壊された。
さらに、もう片方の巨大な手が侵入してきて、手のひらには岩谷が乗っており、ピラミッドに入ってくる。
岩谷は攻撃を一時中断して岩谷をみるスティーブと腰を抜かしているテューラーの間に割って入って来て、スティーブの方を見る。
「……なんのつもりだ、治」
スティーブは閉じられた口を開き、冷酷な目で岩谷を見る。
「スティーブ、お前に復讐は果たさせねえぜ」
岩谷は強い意思が籠った目でスティーブを見つめる。
「……復讐はいけないなんて、寝ぼけたことを言うつもりか? 治」
「……復讐は飢えだ」
岩谷は自分の腹を右手で押える。
「飢え、だと?」
スティーブは顔をしかめる。
「そうだ、復讐は自身の怒りを抑えるための飢えや渇きだ。だか、この飢えを抑えるには……」
岩谷の話の途中でテューラーが的外れな話で割って入ってくる。
「アハハ、この状況で仲間割れか? バルターの奴が上手く懐柔したのか? まあいいとにかく我を助けろ!」
すると、クリサリスストーンズがピラミッドの壁を殴り、爆音が響く。
「?! な、なんだ!」
驚くテューラー、岩谷は憤怒の顔でテューラーを睨む。
「おい! 今! お、れ、が、喋ってただろうが! 今のお前に喋る権利なんざ、ねぇんだよ! 黙ってろよ、殺すぞ!」
岩谷の覇気が凄かったのかテューラーは黙ってしまう。
「……すまん、スティーブ、話が脱線した。少し戻そう……復讐とは行き場のない怒りを他者にぶつける行為だ。俺は、その行為全てを否定するつもりはない。果たすべき相手にやって、その飢えが収まるのなら、やればいい。だか、俺はスティーブ、お前がそれで収まるとは到底思えない、あんたはそっちに行ったら戻って来れないタイプだ」
「……何が言いたい?」
スティーブは未だ貫くような冷たい視線を岩谷に向ける。
「スティーブは本当に大切な物を失なった、それにより生まれた復讐の飢えはきっと、テューラーを殺しても収まらない、消えない、むしろ助長させる。テューラーを殺した瞬間、今のスティーブは死ぬだろう、そして消えない飢えに苦しむ復讐者になる。今のスティーブにはその可能性がある、俺はここでお前を死なせたくない!」
岩谷はスティーブの肩を掴み強く訴えかける。
すると、スティーブの冷酷な目に涙が浮かぶ、次第に目に生気が戻り、いつものスティーブに戻りつつあった。
「だったら俺にこの怒りを飲み込めと言うのか! 目の前にセイリスの仇がいると言うのに!」
サーセイバーは近くの壁を切り壊す。
「……そうだ、これは俺の我が儘でもある、だが、お前はこの国を導く存在だ、お前でないとダメだ。だからここで死なれては困る。お前がなお、リーダーであると言うのなら、セイリスが望み、託されたリーダーであると言うのなら、ここで、怒りを飲んでくれ!」
岩谷は深く頭を下げる。
「……ここでその名を出されたら、聞くしかないじゃないか」
スティーブはその場に膝をつき俯く。
岩谷は姿勢を低くし、スティーブの肩をそっと触れる。そして、スティーブの耳元で小さく呟く。
「卑怯な俺を赦してくれ、奴には罪は償わせる」
呟き終えると、岩谷はテューラーの向けてゆっくりと歩き始める。
「ひぃぃ、こ、こっちにくるなぁ!」
テューラーは酷く怯えた様子で、後ろに下がる。
「おいおい、これだけ色々とやっておいてそれないだろ、テューラーさんよ、そろそろ罪の清算と行こうぜ」
このたびはキングバックを読んでいただきありがとうございます。
もう砂と月の国編の終わりが見えて来ました。
楽しんで読んでいただけているのなら幸いです。
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