夢を見たその先で
岩谷が戦いやすくするため、砂嵐を起こしている現況を倒すと言って大部隊を離れたルインだったが、そこにいたのはかつての同僚であり、戦士長のザックだった。
キングバック21話「夢を見たその先で」
大部隊から抜け出したルインは戦場を駆け、砂の国の隊長を発見し相対していた。
「ザック、久しぶりだな」
「ルイン! 無事だったか? 良かった、お前はもう死んだものとばかり……ルイン?」
ルインは静かで少し冷たい目で男を見る。
「ザック……お前はこんなところで何をしている?」
「何って、決まっているでしょう? 敵である奴らを殺すんですよ」
「ザック……お前は本当にこの作戦に肯定的なのか?」
ザックは少し固まっていたがすぐに答える。
「何を言っているんです? 我が王がお考えたこと、私には文句などありません」
「……そうか、なら一生盲信したままでいるんだな」
ルインは敵意を剥き出しにし、構える。
「ル、ルイン、ま、まさか、君が……こ、この、裏切り者がぁ!」
ザックは怒りの籠った声で怒鳴る。
「裏切り……か、確かに、テューラー、奴の考えや命令は裏切った。しかし、俺は奴の人間としての道を裏切ったわけではない!」
「こうして国に楯突いている時点で裏切りなんですよ!」
「俺はこの国ではなく、奴一人のために戦う、これ以上、奴の蛮行は俺が許さん」
「……どうやら、分かり合えないようですね、だったら、キングバックを出しなさい」
「ああ」
ルインは自身のキングバック、バッシュを出した。
「ルイン、そのキングバック、そうか、自分のを手にしましたか。あなたが次の……いやそんなはずはない、あなたはここで、死んでもらいます!」
ザックはテューラーのキングバック、フラットのコピーを出した。
彼に与えられた、コピーは一般兵よりもあらゆる面で強化されているものだった。
コピーは2本の槍を構えバッシュに襲い掛かる。
ルインは咄嗟にバッシュの両腕を硬化し、これを受け止める。
しかし、硬化したバッシュの腕に少し亀裂が入り、一部破片が飛び散る。
「硬いですね、能力は硬化ですか、しかしまだまだ熟練度が足りませんねぇ、強度がイマイチ足りてませんよぉ!」
「(く、今回がまだ実戦2回目だ。硬化の精度が悪い。長期戦は、不利だ)」
バッシュは一時的に距離を取る。
「(……ルインも今ので短期決戦に持ち込みたいと思うでしょう。確かに私は自分のキングバックは持っていない。しかし、フラットコピーを使った戦いなら、まだ、私の方が上だ!)」
フラットコピーは持っている槍を構え、そしてバッシュに向けて投げてくる。
バッシュは咄嗟にこれを回避するが、新たに槍を空中から出現させ、次々と槍を投げてくる。
「(一体何本あるんだ!)」
投げてきた槍を掴んで投げ返そうと試みてもバッシュが掴んだ瞬間槍は消えてしまう。
そして消えた槍は再びフラットコピーの手元に戻って行く。
「(消えた瞬間、持ち主に戻って行くみたいだ。向こうもこちらの魂胆は見えている!)」
ザックは容赦なく、次々と槍を投げてくる。
幾度かの槍の投擲をバッシュは躱すが全て無傷で躱すことは難しい。
躱せなかった槍を何度か硬化した身体で受け止める。
しかし、防げるのは数回のみで、次々と身体から、硬化の破片が飛び散る。
「(まずい、次は防げるかわからない、さらに硬化をしなくては!)」
バッシュは腕に力を込めさらに硬化しようとする、しかし次の瞬間、腕が歪に膨れ上がり、腕の一点からドクドクと、泥と石が混ざったようなものが溢れ出たのちに、それが固まってしまう。
「ぐ、がぁ! 何ぃ!」
「はっはっは、無理に能力を行使しようとするから、そうなるんですよ」
ザックはフラットコピーに槍を投げさせる。
飛んでくる槍をバッシュは重い腕を上げて、なんとかそれを受け止め、その衝撃で、腕に纏わりつく固まった泥が砕けて、剥がれ落ちる。
「はあ、はあ、取れたか?」
「……妙だな、いやそんなことは今どうでもいい。守る盾がない今、次は防げまい!」
フラットコピーはこちらに向けて槍を構える。
「いや、さっきのは失敗ではない! 漠然としたイメージしかなかったからだ。次は上手くいく!」
また、バッシュは腕に力を込める。しかし、それをさせないかのように、フラットコピーは槍をなげた。
「(イメージ、イメージだ、槍から守る、最強の盾)これが今、俺が持つ最強の盾だぁ!」
バッシュは拳を合わせ槍を受け止める姿勢をとる。すると、腕からさっきと同じように、泥と石のような物がドクドクと出てきてしまう。
しかし、さっき大きく違う点は腕の周りを覆うように、まるで盾のように形成したことだ。
その盾は槍を弾いた。弾かれた槍は空中で回転し、そして地面に突き刺さった。
「よし、まだ少し歪だが、盾が出来た」
バッシュは腕に生えた盾を剥がすと、地面に突き刺し、壁にした。
「……失敗から学んでいますね、問題はその速度、速い、これ以上成長させません!」
コピーはさっき以上に槍を投げつけてくる。
そしてバッシュは壁にもたれ掛かる。槍が壁に激突する衝撃を壁越しに感じる。
だんだんと伝わってくる衝撃が強くなっている。壁が崩れ始めているのだろう。
「さすがに体力的に盾なんかを、作れるのは次で最後だ。守ってばかりでは勝てない次は攻めだ」
どうする? 何か武器を作るか? いや、真っ正面から行くと、いい的だ。
今、奴は壁で俺の姿が見えていない。これを利用しなくい手はない。
槍でも投げるか? いや、避けられるのがオチだ。
奴の死角を利用なくては……
その時ルインは地面を見た。
今ここは砂漠、硬い岩盤や、粘土もない、砂だ。
「……これしかないな。問題は奴との距離だ」
壁が邪魔で今、奴がどこにいるか、わからない。その時強い衝撃が壁に走る。
その衝撃で壁に小さな穴が開いた。
「ちょうどいい、ここから確認しよう」
ザックは初め槍を投げ始めた位置からほとんど移動していなかった。
「ザック、よほど警戒して、近づいて来てないな。むしろ好都合だ」
バッシュは右手を地面の砂の中に潜り混ませた。
「この壁、もう少しもってくれよ」
1度穴が開いた壁が壊れるのは存外速く
瞬く間に壁は破壊され、屈んでいたバッシュの頭が晒された。
「あなたの負けだ。ルイン!」
フラットコピーはバッシュの頭を狙い打ちするため槍を構える。
「いいや、まだだ」
「……いい加減諦め……!」
次の瞬間フラットコピーの足元から、少し歪だが、岩でできた太いトゲが砂を分けてコピーの腹を狙う。
フラットコピーは咄嗟に避けようと左に動くが、避けきれず、太いトゲはフラットコピーの右胸に突き刺さり、背中を貫通した。
フラットコピーは膝をつき、ぐったりとしてし、ザックも少し苦しそうに右胸を押さえる。
こうしてルインとザックの仲間同士の戦いは幕を閉じた。
膝を着くザックの元にルインがやってくる。
「ル、ルイン、私を殺すのか?」
ルインは首を横に振る。
「俺はお前を殺したくてここにきたんじゃない。この戦いを止めるためだ。それに見ろ、もう、勝負は見えている」
ルインは大部隊の方を見る。すると、鋼の国はほとんど砂の国のキングバック、フラットコピーを撃破し、遠くからはその鋼の国の援軍が見える。
「もう……終わりか……」
「……そうだな、俺たちの夢はここで終わりだ」
ルインは少し悲しそうにピラミットを見つめる。
「……あなたも気づいていたのか?」
ルインの顔から何かを感じとったザック。
「ああ、もう、皆テューラーに心から忠誠を誓っている者はザック、お前くらいだ」
「……ルイン……あなたは?」
ザックは悲しい顔でルインを見る。
「俺は始めから奴に忠誠なんて誓っていない。だか、この国を豊かにしたのは事実だ。そもそも国として成立していなかったここを国にしたのは奴だ。その全てを否定は出来ない。しかし、だからといって奴のこれまでの蛮行は放置していいものではない。だから、俺は主に牙を向くのだ」
ルインは強い覚悟を持った目でザックを見る。
「……そうか、私は結局、彼を人としてではなく、王としか見れなかったよ。それが出来たのはルイン、君だけだったんだね。彼を一人の人間として、心配したのは……」
「……俺は俺が正しいと思うことをしただけだ」
「そうか……うん……君はそういう人だったね。分かった、この砂嵐を止めるよ」
死にかけのフラットコピーは左手が何かの指示を行うと、砂嵐は瞬く間に消え、青い空が砂漠の大地を覆う。
「ルイン、初めはただ、この国を豊かにしたかっただけだったのに、一体、私たちはどこで道をまちがえたのかな……」
ザックは目から塩分混じりの水を流し、砂を濡らす。
「さあな、初めから間違ってたのかもしれないし、どこからなんて、そんなもの、今になっては分からん、だが、これだけは言える、ただ俺たちは夢を見た、それが正しいと信じ、進んだ、それがこの結果だ、だから、それでいいじゃねえか」
そう言い残し、ルインは走りその場を去る。
「ルイン、それでも私は、う、うぅ」
ザックはうずくまり、砂を強く握る。
このたびはキングバックを読んでいただきありがとうございます。
今回は主人公の岩谷ではなく、サブキャラクターのルイン中心の話でした。
ちなみに、彼は岩谷たちに捕まるまでは一般兵士でしたが、昔はもっと位が上でした。
しかし、近年、何度もテューラーの政策に反対意見を出していたため、一般兵まで落とされています。
これからもどんどん投稿していきますので、今後ともキングバックを良ければよろしくお願いいたします。
また、私のモチベーションにつながるので、ブックマーク、評価、感想など良ければよろしくお願いいたします。




