王の器
セイリスを人質に取られたスティーブ、彼は冷静にかつセイリスを救い出すことが出来るのだろうか?
キングバック16話「王の器」
セイリスを助けたいあまり、スティーブはテューラーの罠に気付かず、ピラミットの方に向かって行ってしまう。
「まずい、あんな奴の招きなんか乗ってはダメだ! スティーブ!」
「焦りが冷静さを消し飛ばしているわ」
「スティーブを、止めなくては! 俺が止めないと!」
岩谷は無意識的にスティーブの元に向かおうとする。
「ダメよ!」
「何故だ!」
岩谷はカレンを睨みつける。
するとカレンを庇うように同行していたフィッシュマンが答える。
「ここで見つかったらより戦況が不利になる」
そしてさらにローマンが口を開く。
「今のスティーブは目立ってるからいい囮になっているし、ほっとけばいいんじゃない?」
ローマンの空気の読めない発言に岩谷は眉間にしわを寄せ、ぶち切れそうになったが、その時、ローマンはカレンとフィッシュマンの二人から同時に腹パンを喰らった。
「っぶへら!」
ローマンはその場に倒れる。
「ローお前は黙ってろ。ロクなことを言わん」
「辛いとは思うけど、スティーブさんが冷静を取り戻し、上手く切り抜けることを祈りましょう」
カレンがなだめるように岩谷の肩を優しく触れる。
「クソ、お前ら、いざとなったら俺を押さえつけて止めてくれよ」
「ええ、分かったわ、私に任せなさい」
カレンはドンと胸を張る。
「(……出来るかな?)」
しかし、反対にフィッシュマンは不安に思った。
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そしてスティーブが潜んでいる敵に徐々に近づいてきた時、捕まっていたセイリスが大きく叫んだ。
「来るな、スティーブ! 罠だ、敵がすぐそこにいるぞ!」
「⁉ そうか、奴がそう簡単に渡すわけはない、これまでの俺はどうかしていた」
セイリスの叫びで我に返ったスティーブはサーセイバーを出し、剣を使い、辺りの砂を振り払った。
すると隠れていた敵が次々と現れる。
だが、セイリスのおかげで冷静さを取り戻したスティーブは襲ってくる敵のキングバックを次々と倒して行った。
「よし、やった! スティーブが元に戻った!」
岩谷は遠くからスティーブの様子を見てガッツポーズをする。
しかし、喜びは束の間、テューラーはセイリスの服の襟を掴み手前に勢いよく引き寄せた。
「この病弱野郎が、あと少しだって所にばらしやがって!」
「残念だな、テューラー。俺はお前の言う通り病弱だ。もう長くない。この短い命欲しさに仲間を、家族を見捨てはしない。お前と違ってな」
セイリスはテューラーじっと睨む。
病弱で、あと余命が少ないとしても、このときのセイリスは圧倒的な貫禄があり、テューラーは本能的に王としての格の違いを感じ、一瞬怯む。
「き、貴様、……だがその命ここで使わせてもらう。今ここで貴様が死ぬことで、最も動揺するのは、誰かな?」
「お前という奴は……その決断後悔することになるぞ」
セイリスはそれでもなお、堂々としている。
「ふん、はったりはよせ、じゃあなセイリス、あの世で仲間と再会することを待っているんだなあ!」
テューラーは強くセイリスを突き飛ばし、バランスを崩したセイリスの腹に一撃、蹴りを入れた。
そしてセイリスはピラミットから勢いよく頭から落下して行く。
これを見たスティーブは今までしたこのないような、衝撃の表情をすると、落下するセイリスを受け止めようと向かう。
しかし、まだ潜んでいた敵がスティーブの行く手を阻む。
「どけ、どけぇ、そこを、そこを、そこをどけえええぇえぇぇえ、貴ぃ様らあぁあぁ」
スティーブは鬼神のように敵のキングバックを薙ぎ払って行く。
防御を捨て、スティーブとサーセイバー両方、傷を負いながら前に、前に突き進む。
岩谷は我慢ならず、助けに向かおうするが、フィッシュマンとローマンに両脇を抑えられる。
そしてカレンには右手で口を塞がれ、身体を密着し、左腕を岩谷の背中に回し必死に抱き着いて抑え込んだ。
「んー、んんんー(放せ、放せ、はなせぇ!)」
「ごめんね、ごめんね……今見つかるのはダメなの」
暴れる岩谷を三人は必死に抑え込む。
スティーブは待ち受けた敵のキングバックをあっという間に全て倒し、セイリスを助けに向かった。
しかし、あと一歩のところで……スティーブの目の前でセイリスは頭から地面に落ちた。
地面に残る赤い何かの跡はもはや、セイリスの見る影もない。
「あ、ああ、あああああぁぁああぁぁあああああぁぁあああ!」
スティーブはその場に崩れてしまった。
「アッハッハッハ、いいねえスティーブ、もっと叫べよ。いい声でな! ……よし今だ、やれ」
テューラーは部下に指示を出すと、ピラミットからさらに兵が出てきて、その場に崩れるスティーブを包囲した。
「ダメだ。家族を見限ったスティーブにとってセイリスさんは本当の家族そのものだ。スティーブが壊れてしまう」
「……さすがにこれは僕も少し胸糞が悪い、大丈夫、もう有効射程内だ」
普段適当なことしか言わないローマンも少し怒った表情で言った。
すると地面の砂の中からローマンのキングバック、スラッシュ・ローマンが出て来た。
コマの形態で素早く飛んでいき、テューラーの首を捉える。
勝利を確信していたテューラーはこれに驚き、反応が遅れてしまう。
スラッシュ・ローマンはテューラーの首を飛ばそうとした瞬間、刃のついた細長い灰色の触手がこれをはじいて防いだ。
そして、スラッシュ・ローマンの背後にも同じ、触手がもう一本現れ、器用にスラッシュ・ローマンの鉄の装甲をかいくぐり、その胴体を貫く。
「う、うぐぅ、ごめん、暗殺失敗、お休みなさい」
そう言い終えると、ローマンはその場に倒れる。
「そう簡単に大将はとらせないさ」
テューラーのそばには目にクマをつくり、以前より少し、やつれたバルターが立っていた。
「おお、バルターか助かったぞ」
「……ええ(このクズが、だがこの結果は全て俺が原因だ。スティーブ、悪いな、だから俺はそっちには行けない)」
そしてスティーブを包囲した兵はキングバックを出し、スティーブに襲い掛かった。
だが兵士が出したキングバックの槍がスティーブの身体を貫こうとした次の瞬間、スティーブを中心に円形の衝撃が走った。
すると襲い掛かったキングバックが胴体を両断され倒れた。それだけでなく、近くにいたキングバックの本体の兵士も衝撃に巻き込まれ、腹から血を流し倒れた。
「な、なるべく敵を殺さないようにしているスティーブが、人を殺した! いや、そんなことを気にかけているほど余裕がないのか」
岩谷が顔を青ざめて言った。
スティーブは立ち上がり顔を上げてテューラーを見上げた。
この時のスティーブはただただ、無表情だった。
目の前で大切な人を失った者がする怒りや悲しみ表情ではない、その表情は不気味と言えざるをえなかった。
「う! なんだあの顔は……、おいバルターここは頼むぞ。あと我が兵たち、近くにいる敵を殺せ!」
テューラーはスティーブの顔を見ると、逃げるようにピラミットの中に戻って行った。
その後テューラーが戻って行ったピラミットの出入り口は塞がっていく。
テューラーの指示によって大部隊から隠れて包囲していた兵たちが一斉に大部隊に向けて進軍を始めた
だが、スティーブはそんなことを気にかける素振りを全くせず、ゆっくりとピラミットに向けて歩き始めた。
「(……スティーブを相手するのはまずいな、よし、幻惑術にかけさせてもらうぞ)」
バルターの影から赤い目のついた触手が複数現れスティーブの方を見る。
「スティーブ、お前に深い恨みはないが、これも仲間のため、……許せ……とは言わん」
そして触手の赤い目がさらに赤く光った。
スティーブは歩くの止めた。しかしすぐにサーセイバーを出し、剣を一度振ると再びピラミットに向けて歩き始めた。
「ちっ、やっぱりすぐに幻惑術は解除されてしまうか、(……相性的に戦いたくはないが、仕方ないか)」
しかし警戒するバルターには目もくれず、スティーブは前に進み、サーセイバーは剣をピラミットの石レンガ同士の間に差し込んだ。
剣を差し込んだことで、少しの隙間ができ、そこにサーセイバーは両手を突っ込んだ。そしてそのままこじ開け、人ひとりが何とか通れる隙間を無理やり作る。
スティーブは走ってそのままその穴の中に飛び込んで行った。限界だったのかサーセイバーは石レンガから手を離し、ピラミットの隙間は閉じた。
そしてサーセイバーはその場から消え、ピラミット内に侵入したスティーブの元に戻って行った。
「ば、バカなその城はそのレンガ一つ一つはテューラーのキングバックのコピー体を加工したものだ!それを無理やりこじ開けるなど、一体どんなトリックなんだ?(……しかしスティーブの相手はしたくなかったからな。むしろ都合がいいと考えるべきか。テューラーに相手させよう。ならば次俺がするべきことは……)」
バルターは岩谷の方を見て、ピラミットを降り始めた。バルターがピラミットを降り終わったとき、岩谷たちはピラミットの降りたすぐのところで待ち構えていた。
「よお、バルター、久しぶりだな」
「……岩谷か、見ないと思ったら、こそこそと隠れていたのか」
「まあ、暗殺というか、リーダー狙いは失敗に終わったが」
「そうか、テューラーへの攻撃はお前たちの仕業か」
「……テューラーは引っ込んじまったし、スティーブも追いたい、とにかくピラミット内に入りたいんだが」
「そうか、だがそれはまずいな、スティーブだけでなく、お前たちを入れるのもっとまずい。……それはそうと、今、お前らの連中とこっちの兵との戦いが始まったよな?
「ああ」
「この戦況を円滑に進めたい、ので、幻惑術を広範囲にかけたいのだが、邪魔しないでもらえるかな」
バルターは少しわざとらし態度で言う。
「おっと、そいつは無理な話だ。大部隊の彼らが抑えてくれていないと俺たちは負ける。それに彼は今、大切な仲間だ」
岩谷も同じようにわざとらしく反応する。
すると、岩谷とバルターは顔を見合わせ、笑いながら互いに睨んだ。
「ははは」
「アッハッハッハ」
「だったらしょうがないな」
「ああ、ここで俺たちは……」
俺たち二人はまるで双子のように同じ言葉を発する。
「戦争だな!」
ここに、岩谷たちとバルターの戦いが行われる。
このたびはキングバックを読んでいただきありがとうございました。
今回はセイリスさんが亡くなってしまいましたね、暴走したスティーブはこれからどうなってしまうのか、今後に期待です。
それから、バルターとの決着も今後の見どころです。
今後ともキングバックをよろしくお願いいたします。
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