[間話] 可憐なる? 三日間 終編
これは岩谷とカレンが訓練を行っていた間の二人に何があったのか、それを語る話。
キングバック13.5話 可憐なる? 三日間 終編
カレンのファンを退けた、岩谷とカレンは孤児院に帰ったが、その頃には夜が明けようとしていた。
「まさか、朝帰りになるとはな」
「本当に疲れたわ」
そんな俺たち二人をレナが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、何とかなったのね」
「ええ、疲れたわ」
「もう少し休んでらっしゃい」
「ええ、そうさせて貰うわ」
二人は少しの時間だが、眠ることにした。
そして、俺はうるさい、イルキとジルノによって起こされる。
「居候の分際でいつまで寝てんだ、おら!」
「ほら、起きろよ、また関節技決めるぞ」
「あーもう、ハイハイ起きますよ、ふあー」
岩谷は欠伸をする。
そして、部屋を出ると、眠そうなカレンとカレンを起こしたであろうシルエルとミルエルを見かける。
「おはよう、岩谷」
「ああ、おはよう」
二人ともまだ、疲れた表情だった。
すると、シルエルとミルエルが何か言いたそうにこちらを見る。
「(あ、そうか、もう、あの手袋を渡すんだな)」
俺は二人に向かって頷く、すると、二人は俺の傍にやってくる。
「え? 何? どうしたの?」
カレンは不思議そうな表情をする。
「この二人がカレンにプレゼントがあるそうなんだ、受け取ってあげて欲しい」
俺がそう言うとシルエルとミルエルがカレンに少し歪だが、それでも丈夫そうな手袋を手渡す。
「カレンお姉ちゃん、いつも私たちのこと守ってくれてありがとう」
「大好き、カレンお姉ちゃん!」
二人は満面の笑顔をカレンに向ける。
「こ、これって手作り⁉ ありがとう、二人とも、この手袋、大事に使うね」
カレンが少し涙を浮かべ笑う。
「ううん、これはね、岩谷お兄ちゃんとも一緒に作ったの」
「え⁉ 岩谷、あなたいつの間にこの子たちと打ち解けてたの?」
カレンは物凄く驚いている。
「まあ、たまたまな、でも8割この子たちが作ったんだ、凄いだろ」
「ええ、ええ、ありがとう、シルエル、ミルエルそして岩谷」
カレンは本当に嬉しそうだった。
そして俺も本当に感動し、少し涙を浮かべる。しかし、この状況で気が気でない者が二人いた、そう、イルキとジルノである。
二人はコソコソと話し合いをする。
「お、おい、あいつら、あんなもん裏で作ってやがったのか!」
「そ、そうみたいだね、イルキ」
「まずいぞ、俺たちだけ何もないなんて」
「ど、どうする? 何か適当な物を部屋から探すか?」
「バカ、そんなんじゃ、あれにかなわねえぜ」
「そ、それなら俺たち特製の傷薬なんてのはどうだ?」
「それだ、問題は薬草をどう調達するか」
「街の外には俺たちだけでは出られないぞ」
「うーん、あ! そうだ、遠足と称して、俺たちを連れて行ってもらおう、その隙に採取しよう」
「分かった、それで行こう!」
すると、イルキは少し甘えた様子でカレンに声をかける。
「なあ、カレンお姉ちゃん、俺たちこの幸せな気分のまま出かけたいよお、例えば街の外の鋼山とか」
イルキの普段の態度から少し違和感がする。
「(だいぶん、無理矢理感が否めないよ、イルキ)ぼ、僕も久しぶりカレンお姉ちゃんとお出かけしたいなあ」
「そう? まあ、たまにはいいかもね、よし、行こう!」
その時のカレンは手袋を貰った嬉しさと、疲労であっさりと許可してしまった。
「というわけで鋼山に行くことになったから」
カレンはにこやかにレナに伝える。
「ず、随分と急ね」
「ダメ?」
カレンはレナにお願いする。
「まあ、いいでしょう、ただし、準備もみんなで行いますからね」
「みんな、やったわね!」
こうして、俺たちは7人揃って鋼山へ遠足に行くことになった。
「へへへ、上手くいったな、ジルノ」
「ええ、このまま上手く行けば、ミッションコンプリートです」
イルキとジルノはコソコソ話し込んでいる。
「おい、そこのやんちゃ坊主二人組! なんか、また、変なこと企んでいるんじゃないのか?」
岩谷は疑いの目で二人を見る。
「そ、そんなことはないよ、楽しみだなあ、ヒューヒュー」
そう言うとイルキはわざとらしく、口笛を吹く。
「(バカ、いつもどうりにしているのが一番カモフラージュになんだよ)へへへ、岩谷へのいたずらを考えいるんだよ」
ジルノは悪そうに笑う。
「はあ、ほんとにこいつらは」
岩谷ため息をつく。
「よし、上手く行った」
「僕のおかげだろ、お前は嘘が下手だ」
「なんだよ、だったら、薬草を取りに行くとき、お前が時間を稼げよ」
「ちっ仕方ないな、その代わり確実に見つけてこいよ」
「ああ、俺はお前より運動神経がいいからな」
「なんだと! ほんの少しだけだろ!」
岩谷は遠くで言い合いをするイルキとジルノを見る。
「こいつらは元気だなぁ」
「それよりも、岩谷、いつからそこまで、仲良くなったのあなたたち?」
カレンが不思議そうな顔で岩谷を見る。そのときの岩谷はシルエルとミルエル両方を抱っこして歩いていた。
「ああ、これか、昨日手袋を作るのを手伝ったときに仲良くなったのさ」
岩谷は平然としていたが、シルエルとミルエルはそのときニヤッとした小悪魔的な表情をカレンに向ける。
「(いや、岩谷は子供と思っているけど、この子たちガチだわ!)」
「大きくなったら、岩谷お兄ちゃんと結婚するー!」
「私も!」
「ははは、大きくなるのにはまだまだ、かかりそうだな」
岩谷は二人の言葉を子供の言う冗談ととらえている。
「(岩谷は本気にしてないけど、まさかレナ以外にもこんな近くにライバルがいるなんて!)」
カレンは闘志を燃やす。
「いや、さすがに子供相手にライバル視は止めてよ」
レナが冷静にツッコむ
「で、でもぉ」
カレンがうるっとした目でレナを見る。
「焦るのは分かるけどね、それより、岩谷君、ここからは少し、道も険しくなるわ、うっかり落としでもしたら大変よ、二人を降ろしなさい」
「ん? そうか、分かった」
岩谷はシルエルとミルエルを降ろす。
あからさまにシルエルとミルエルは残念そうな表情をして歩き始める。
そしてそのまま、薬草が生えていると言われる付近までやってくる。
「へへ、ジルノ、もう目的の地だぜぇ!」
「ああ、ちゃんと採ってこいよ」
「お前こそ、しっかり時間稼ぎしろよ」
すると、ジルノが突然腹を抱えてその場にうずくまる。
「イタタ、急にお腹の調子がぁ!」
「(ジルノ……わりとベタだな)」
イルキはジルノの演技にバレないか危惧したが、意外にもみんなは心配し、ジルノの元に集まる。
「大丈夫か! さっきまで元気だった癖によぉ」
岩谷はジルノの背中を支える。
「大丈夫?」
カレンとレナもジルノを心配する。
「うぅ、凄く腹が痛いんだぁ!」
ジルノはその場にのたうち回る。
レナは持ってきていた、かごの中から、薬箱を取り出す。
「胃薬なら、この中にあると思うのだけど……」
そして、薬箱から胃薬を取り出す。
「効くといいのだけれど」
「ほら、レナさんが胃薬持ってきてくれたぞ」
「飲みなさい」
ジルノの前に胃薬が差し出される。
「(まずい、お腹痛を理由にしたのは失敗だったか?)」
ジルノが胃薬を飲むを躊躇っていると岩谷が疑いの目を向ける。
「どうしたんだ? これはただの胃薬だ、副作用もない、安心して飲め」
「わ、分かったよ、戴くよ」
ジルノは胃薬を貰い、それを口に含み、渡された水筒の水と共に飲む。
「とりあえずこれで一安心ね」
カレンは安心した様子で笑う。
「(まずい、思ったより時間を稼げてない! このままでは、イルキがいないことがバレてしまう!)うぐっ、ぐおおおおおお」
突然ジルノはその場で、魚のようにビクビクっと跳ねて苦しむ。
「お、おい! 一体どうしたって言うんだ、ジルノ!」
「ぎぃやあああああああ、急に身体があああ(こうなったら、なりふり構わねえ!)」
ジルノは白目をむき、のたうち回る。
「ま、まさか、薬がいけなかったのかしら?」
レナは困った表情をする。
「い、いやそれは違うんじゃないか?」
岩谷たちはどうしたものかと困惑していると、シルエルとミルエルが俺たちに話しかけてくる。
「ねえ、岩谷お兄ちゃん」
「ん? どうしたんだ?」
岩谷はシルエルとミルエルの方へ振り返る。
「さっきから、イルキがいないの」
「何! どういうことだ?」
「ジルノが苦しみ始めてから、イルキがいなくなってたの」
「げっ(シルエルとミルエルのこと忘れてた!)」
「……おい、今、げっ、とか言わなかったか、ジルノ」
岩谷は疑いの目でジルノを見る。
「い、いや、く、苦しかっただけでありますよ]
ジルノは汗をダラダラ書き始める。
「ジルノ、本当?」
レナとカレンもジルノをじっと見始める。
「本当、だよ」
「そうか、そうか、本当か」
岩谷はうんうんと頷く。
すると、ジルノはホッとした表情になる。
「(ふぅ~なんとか誤魔化せたぜ)」
「ところで、お腹はもうだいじょうぶか? 随分と楽そうだが、あんなに苦しそうだったのに、おかしいなぁ、ジルノ」
岩谷はジルノの魂胆を見透かした表情で見つめる。
「……負けました」
そしてジルノは自分たちが何をしようとしていたかを素直に告白した。
ジルノから事情を聞いた岩谷たちは消えたイルキを探していた。
「くそ、イルキの奴、勝手な行動しやがって」
「まあ、そんなに怒らないであげて、あの子たちはカレンのことを思ってやったことだから」
レナはイルキたちえお庇う。
「俺に言ってくれりゃあ、ついて行ったのによ」
「岩谷……ありがとう」
カレンは岩谷に微笑む。
「それより、イルキはどこに行ったんだ」
「おそらく、この先だと思うわ、私も昔採りに来たことがあるけれど、最近はがけ崩れがあって、地盤が緩くなっているはず」
「なら、急がないとな!」
岩谷たちは薬草が採れると言われる場所まで来ると、少し遠くに薬草を集めるイルキを見つける。
「イルキ、ご、ごめん、すぐバレちゃった」
ジルノは申し訳なさそうにイルキに謝る。
「なんだよ、ジルノ、だらしねえなぁ、でもよお見ろよ、こんなにたくさん採れたんだぜ」
薬草をたんまり持ったイルキは嬉しそうにこちらに走ってくる。
「イルキ、走ったらダメ、そこはいつ崩れるか分からないの、だから、いっぱい残っているのよ!」
カレンは走るイルキに注意するが、時すでに遅し、イルキが走ったことで、イルキの足元は一気に崩れて行く。
「う、うわあああああああ!」
イルキはバランスを崩し、そのまま、山を落ちて行く。
「イルキ!」
カレンは落ちるイルキに向かって叫ぶ。
周りのみんなも助けようと思うが、身体が動かなかった、突然出来事だから思考に身体がついていけない。
しかし、ある一人を除いては。
「うおぉぉぉぉ」
岩谷は落ちるイルキに向かって走り出す。
岩谷が踏みつけた大地はイルキの時と同じように、崩れ始めるが、構わず先に進み、イルキがさっきまでいた所辺りから、頭から飛び降り、イルキの元に向かう。
「間に合えええぇぇぇ!」
岩谷はイルキに手を伸ばし、イルキを掴むと抱きかかえる。
「やべぇ、ここから先は何も考えてなかった! うわああああああ! く、クリサリスストーンズ!」
岩谷は空中でクリサリスストーンズを出現させ、岩谷とイルキを抱えた後、山の斜面に足をつけ、ずり落ちる。
ガガガっと音を立てて落ちて行ったが、麓で、やっと止まる。
「ふぅ~何とかなるもんだな、大丈夫かよ、イルキ」
イルキは目を開けると、自分が無事だったことに驚き、自分が生きていることを自覚した瞬間、涙を浮かべ、岩谷に抱き着く。
「ごめんなさいぃぃぃ!」
「いくら、やんちゃでも、やんちゃ過ぎなんだよ、お前はよ。生きてたんだ、泣くな、な」
そう言うと岩谷はイルキの頭を撫でる。
「う、うん」
「みんなの元に戻ろう」
そして、岩谷とイルキは麓まで降りてきたカレンたちと合流する。
カレンを見たイルキは再び涙を浮かべカレンに抱き着く。
「もう、みんなに心配かけて」
「ごめんなさい」
「もうこんな危険なことしないで」
「うん、今度は俺もシルやミルみたいに何か作ることにする」
「うん、そうして」
こうして、俺たちの遠足は終わりを迎え、みんなで孤児院に帰る。
どうやら、子供たちみんな、疲れたようで、ご飯を食べた後はすぐに眠ってしまった。
「さて、俺も寝るか」
岩谷がベットに入ったとき、コンコンとドアがノックされ、出てみるとそこにはカレンがいた。
「今、いい?」
「ああ」
二人してベットに腰かける。
「ねえ、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「どうして、あの時、すぐに飛び込んで行ったの?」
「……分からねえ、けど身体が勝手に動いてたんだ」
「ありがとう、あなたのおかげでイルキは助かった、でもそれは今回、運が良かっただけかもしれない、次もし、何かあったら、あなたまで死ぬかもしれない。だから、こんな無茶はしないと約束して」
そのときのカレンはただ俺に説教しようとしたんじゃない、ただ俺のことが心配なんだと、心で感じた。
「……どうだろ、それは約束出来ないな」
「それはどうして?」
「もし、カレン、君が危険なら俺は我慢できずに走って行ってしまう。そんな気がする。だから、約束できない、俺は不器用なんだ」
岩谷はそう言うと微笑む。
「そう、本当に不器用ね、あなたは……(でもそんなあなたを私は好きになってしまった、きっと私も同類ね)」
「俺はたぶんこれからもこんな感じだ、だから、なにかあったらこの俺を止めてくれよ」
「ふふふ、それは骨が折れそうね」
するとカレンはベットを離れる。
「私もう寝るわね」
「ああ、おやすみ」
部屋を出る前にカレンは振り返る。
「ねえ、もう一つだけいい?」
「ああ」
「これから、下の名前で呼ぶね」
「い、いいけど」
「だって私、師匠ですものね、治、ふふ」
カレンは微笑むと部屋を出て行った。
「治か」
岩谷はそう呟くと嬉しそうな顔をして再びベットに入った。
カレンは部屋に戻ると、少し顔を赤くする。
「わ、私、岩谷の前でもこんなんじゃなかったよね?」
そして、深呼吸し、落ち着くと、ベットに入る。
「岩谷治、私ってば少し厄介な人を好きになっちゃたな、でも好きになって良かった、だって今、あの人とこの先、一緒にいることがこんなにも楽しみなんですもの」
そして次の日、二人はセンドウに帰ることとなる。
「色々とお世話になりました、レナさん」
「いいえ、カレンをよろしくね」
「はい!」
孤児院のみんなも岩谷とカレンが行ってしまうことを残念がってはいたが、みんな笑顔で見送ってくれた。
「岩谷、昨日はありがとう、俺あんたみたいに強い男になるぜ」
イルキはすっかり、俺に心を許した。
「岩谷、いつでも帰って来て、また遊んでくれよな」
ジルノも笑顔で手を振る。
「岩谷お兄ちゃん、このまま帰って来ないと許さないから」
何故かシルエルの笑顔は少し、ゾクッとする笑顔だった。
「大好きな岩谷お兄ちゃん、また手伝ってね」
ミルエルは俺に抱き着いてくる。
「みんな、またな」
「今度も治を連れて帰ってくるから」
そう言うと俺たちは鋼の国を後にした。
一方ファンクラブたちはこの二人を陰ながら見送っていた。
「いいのか? 行ってしまうぞ、八百屋」
「ふっ、俺は気づいたのさ、服屋」
「何をだ?」
八百屋は腕を組み、岩谷とカレンの後ろ姿を見て頷く
「これも一種の尊さではないかと」
「俺も、同感だな」
「ああ、これからもファンクラブは続く」
「そうだな、カレン×岩谷ファンクラブに変更だ」
「ああ、これからは迷惑をかけない範囲で二人を応援するしよう」
これこそ、ファンの鏡? 反省したのかどうなのか、分からないが、それでも彼らの尊さをお守る活動は続く。
このたびはキングバックを読んでいただきありがとうございます。
軽い気持ちで始めた間話もかなり長い話になってしまいました。
それでも、ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今日は本篇も投稿予定なので、本篇の方もよろしくお願いします。
また、私のモチベーションにつながるので、ブックマーク、評価、感想など良ければよろしくお願いいたします。




