毒のある日々Part3
これは分割編集版です。
多少表現が変化していますが内容に差はありません。
毒のある日々Part3
貧民街で生きるスティーブの前にセイリスが現れる。
「君がスティーブだね」
「誰だ。おめえスティーブさんに何のようだぁ」
スティーブの部下は突然現れた見慣れない男に警戒心をむき出していた。
「お前は引っ込んでいろ、こいつは貴族だ」
「わ、わかりました……大丈夫ですよね」
「それは、この貴族様、次第だな」
スティーブはセイリスを強く睨む。
セイリスは落ち着き、優しい声で話しかけた。
「別に危害を加えるつもりはない、ただその若さでこの町を仕切るその手腕を気になっただけさ」
「……それで、俺の何が見たい? そして、それでどうするつもりだ?」
スティーブも落ち着いた様子だったが、ろくな大人を見てこなかったからかセイリスを見る目は濁っていた。
「色々調べさせてもらった、君の過去も」
「……なんのつもりだ?」
スティーブは低い声で言う。
「勝手に調べたことはすまなかった、だがそんな君に重要な話がある。腹を割って話したい。二人で話ができないだろうか」
スティーブは少し考えこんだ後に
「いいだろう。ただし、それ相応の話をしてもらう」
「大丈夫なんですか、スティーブさん」
心配する部下の肩を優しく触れる。
「大丈夫だ、俺に任せろ」
そしてスティーブはセイリスの話を二人きりで聞くことにした。
「一体何から話せばいいかな」
セイリスは手を顎に当てる。
「なぜ俺に会おうと思ったんだ?」
「……うん、そうだね、僕は後継者を探していたんだ」
「後継者だと? まさかそれが」
「うん、君のことだ」
「なんで、貧民街のドブに生きる俺なんだ?」
スティーブは驚きを隠しきれなかった。
「僕はね、今の血筋だけで無能が蔓延る貴族社会がこの貧民街を這いずる汚物以外のなにものでもないゴキブリよりも嫌いなんだ」
セイリスの目は決意に満ちた目だ。
「そうか、だがお前がそのゴキブリとどう違うのか証明できるのか? 貴族様?」
スティーブは未だセイリスを疑った様子だ。
「僕は次期にこの国のリーダーになる」
「良かったじゃないか、それでなにが問題なんだ? 権力を手に入れてそれで革命でも起こせばいいじゃないか」
「ああ、革命を起こすことは決めている。しかし、僕が革命を起こしたとしても貴族の中に僕を継ぐような者が残っていない。それではまた、元に戻されるだけだ」
「……そんなの、お前が長くリーダーをやって、お前のガキにでも継がせばいいだろ」
「それはね、出来ないんだよ」
セイリスは悲しい表情をする。
「どういうことだ?」
「ここからは機密事項だ、他言はしないでほしいな」
「ああ、わかった約束は守ってやる」
「ありがとう、実は私は昔から身体が弱くてね、なんとか薬や演技で周りを騙してきたんだ。だから僕がリーダーになってもその寿命は長くはない」
「そこまでして……一体どれくらい持つんだ?」
「どんどん薬の効果が効かなくなっていっているから持って6年。そこからは恐らく寝たきりになるだろう。だから、それまでに革命を起こして血ではなく能力がある者が認められる社会に変え、そして信頼できる後継者に後を託さなくてはいけない」
セイリスに残された時間は少ない。その焦りをスティーブは肌で感じる。
「お前の言うことは、言葉では理解はできるし、賛成もする。しかし、なぜ、俺なんだ?」
このときセイリスは少し考えこみ、そして恥ずかしそうに言った。
「それは、しいて言うなら勘だ」
「勘だと?」
「ああ、だって今まで出会った誰よりも、真っ直ぐな目をしているからね。君ならいける。そう思ったんだ。」
「俺の目が真っ直ぐだと? この濁った目を見て言ってるのか? 正気か?」
スティーブは自分の瞼を指で広げて言う。
「濁ってはいても、その奥に沈む強い意志が貫かれているのを僕が感じた。だが根拠もある。事実、君がここを仕切るようになってから治安もよくなった。そして何より、まだ少しだが以前よりも人が笑っている町に変わった。これを証拠と言わずなんというんだ」
「買い被りすぎだ、第一俺はただの一般人だ」
気まずそうにしていたがスティーブは少し嬉しそうだった。
「いや、一般人だろうが、医者や貴族の息子だろうが、そんなものはどうでもいい、君は君だ。僕はそんな君の生き様に惚れたんだ。初めて託したいと思えたんだ。きっと君はこの町だけでなくこの国のみんなが認めるリーダーになれる。頼むやってほしい、俺のすべてを託させてくれ」
セイリスは貧民街の汚い一人の子供に頭を下げる。
「ちょ、貴族が頭を下げるなんて、はぁ、ほんとに面倒なことに巻き込まれてばかりだ。だがこれが、俺の運命ってやつか……わかった、俺もアンタの生き様に惚れてやる」
「ああ、この6年をかけて君を一人前のリーダーにしてみせるよ」
その後スティーブはセイリスの養子になり、名がスティーブ・ロイヤーとなった。
そして6年後セイリスの手引きにより、スティーブは21という若さで国のリーダーになった。
それからも困難ばかりの道のりだったが、彼は今までのどのリーダーよりも民衆に耳を傾け、それだけでなく、常に行動で周りに示した。
そのこともあり、国民に愛され、一部の貴族にさえも支持されるリーダーになった。
スティーブの記憶をある程度見たとき、俺はもう一度意識を取り戻す。
「こ、これがスティーブの記憶、スティーブにとってここまでは辛い毒のある日々だ。だがそれでもスティーブにとって楽しかった頃の家族の思い出や、貧民街を駆け巡った日々、そしてセイリスさんとの義親子関係の日々は決して俺じゃあ再現できない、俺なんかが貰っていいもんじゃねえ、スティーブのもんだ」
「その通りだ。岩谷、いや治。二人の力でここを突破する」
岩谷とスティーブはお互いのこれまでの人生を知る。
そして二人が突然頭痛に耐え、立ち上がった。
「な、立ち上がるだと! ばかな、言っただろ今のお前たちの能力ではこの密室は突破不可能だと」
宿のダンナはまだ余裕な態度だった。しかし、俺たちは二人とも大きい声で笑った。
「アッハッハッハ」 「ハハハ」
「何が可笑しい?」
「だってそれは前のことだろ、今ならいけるだろスティーブ!」
スティーブの身体の岩谷が大きい声で言う。
「ああ、なんたって今、魂は俺、スティーブだが身体は治だ。これが何を意味するかわかるか?」
「ど、どういうことだ?」
動揺する宿屋のダンナに俺たちは声を揃えて言う。
「キングバックの能力、姿は魂に宿る。しかし、強さ(ステータス)は肉体に強い影響を受けるってなあ」
「ま、まさか」
ドアの向こうで宿のダンナの声が裏返るのが聞こえた。
「心の準備はできたか、まあ返事は聞かないが、やれサーセイバー! ただし、今回は剣使わない、治バージョンだ!」
身体が岩谷のスティーブがサーセイバーを出す。
そのサーセイバーは剣を持っておらず、その両手にはメリケンサックが装着されていた。
そしてサーセイバーが大きく振りかぶり、拳を振る。
拳は強固な扉にめり込んでいき拳の型を残し、ついには扉を吹っ飛ばした。
「ひ、ひぃぃぃ!」
宿屋のダンナは尻もちを着いて怯えている。
密室が解かれたことで二人の魂は元の肉体へと戻る。
「ふう、やっと元に戻ったぜ」
「ああ、やっぱり自分の身体が一番だな」
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