毒のある日々Part1
太陽の国最も北に位置する町センドウ、そこには半年前から、木が異常増殖していると聞く。
敵の潜伏場所の可能性があると判断したスティーブは、岩谷とティッカロを連れ、センドウに着く、そこで、少し間抜けな尾行者クラスチェを捕らえ、ティッカロに身柄を預けた。
木の調査は明日にして、今日は宿に泊まることにする、岩谷たち、しかし、そこが既に罠であるということを二人はまだ知らない。
毒のある日々Part1
岩谷とスティーブの二人は最近できたと言われる宿に泊まろうとしていた。
「この宿やけに人が少ないな、なんでだ? 宿のダンナ」
「いやぁ、この宿は三日前に開店したばかりでね、まだ人気がないんで人が少ないのですよ」
40代後半くらいの男性の宿のダンナはにっこりと笑う。
「にしても、少なすぎやしないか? 誰もいないぞ」
俺は少し疑い深くなっていた。
「おい岩谷、あまり失礼なことを言うな、予約もなしに突然来たのはこっちなんだ」
「わかったよ、それでどの部屋に案内してくれるんだ?」
「こちらでございます。本日はお客様が少ないので通常料金で特別なお部屋をご用意いたしました」
「ラッキーじゃねえか。それじゃ、遠慮なく、おお、かなりいい部屋、スティーブも来いよ」
「ああ、確かにいい部屋だ。ありがとうございます」
「それではおくつろぎください」
ーーラッキーなのはこっちだぜ、太陽王のスティーブに今噂のゴーレムの男、こいつらを女王に献上すれば俺は国に帰れる、家族の元に
宿屋のダンナは部屋の扉を閉めると、ニヤリと笑う。
部屋に二人が入ってしばらくして、岩谷があることに気が付く。
「いい部屋だけどよ、なんでこの部屋窓がないんだ? 別に景色なんか期待してねえけどよ。おかしくねえか?」
「……確かにおかしい。少し部屋の外に出てみよう……⁉」
スティーブはドアノブを捻りドアを開けようとするが、そのドアはびくともしない。
「何⁉ 開かない!」
するとドアの向こうから宿のダンナの声が聞こえる。
「そのまさかだ。お前たちには悪いが女王の献上品になってもらう」
「女王? まさかお前は木の国の手先か?」
スティーブは宿のダンナに問う。
「確かに、私は木の国出身だが、今は国を追放された身、そう簡単には戻れん」
「それで俺たちと言う手柄が欲しいってわけかこの野郎!」
「こんな密室くらいで捕まえたつもりか? やれサーセイバー」
サーセイバーが剣でドアを切りつけたが、ドアには薄く線が残るだけで、切れる様子はない。
「何! サーセイバーのパワーでは壊せないというのか!」
サーセイバーは何度か切りつけるが変化はない。
「ドアだけでなくこの部屋は並みのキングバックでは破壊出来ない特殊合金で厚さ10cm弱の鉄板で構成された特別製だ」
宿屋のダンナの得意げな声が聞こえる。
「なら、俺のキングバックでぶっ飛ばす」
ゴーレムを出そうとした岩谷をスティーブは慌てて手を伸ばし止めた。
「待て待て岩谷! こんな狭いとこで大型タイプなんか出したら、俺たちが先に押しつぶされるぞ」
「クソ、ならどうしたら」
「時間は掛かるがサーセイバーで切り続けるしかない」
ドアの向こうの宿のダンナは笑みを浮かべながらスティーブに語り掛ける。
「さて、そんな時間、この私がやると思うか? ハートシャッフル密室だ。そうお前のための空間だ」
そう宿屋のダンナが言い終わったとき部屋の中に突然白い腕と丸い胴体だけのキングバックが現れた。
出現したと同時にサーセイバーはハートシャッフルを切りつけたが煙のように剣はすり抜けた。
「実体がない! これでは攻撃しようがない」
「時間だな、魂を入れ替えろハートシャッフル」
「魂を入れ替えるだと⁉」
ハートシャッフルは三本指手を奇妙に動かすと、二人の身体から白い玉のような物が出てきた。
そしてその二つの白い玉は入れ替わり互いの身体に入っていく。
すると二人とも頭を抱え、頭痛に悩み始めその場に膝を着く。
「なんだこの記憶は? 身体に知らない記憶が、入ってくる。いや、逆だ、俺の魂がスティーブの身体に入っている。ぐぅ、ああ」
「どうせもう終わりなんだ、少しレクチャーしてやる。記憶は一体どこに保存されていると思うね、お二方」
宿屋のダンナは混乱する俺たちをよそに、勝ち誇っていた。
「記憶が保存されている場所、だと? 魂じゃないのか、それとも脳か。そんなこと聞いてどうする?」
「惜しい、こんな能力だから気付くこともある。記憶を保存するのは魂と脳とそして肉体だ」
「肉体だと?」
「そうとも、魂はあらゆることを判断する能力を有した記憶媒体、ただし容量は少ない、脳はあらゆる記憶を保存する大容量記憶媒体。そして肉体は身体的経験を保存する記憶媒体なのだよ」
「そ、それが今どうしたって言うんだよ!」
「まあ、聞け。これら一つでも狂うと記憶は混乱し障害を起こす。だってそうだろう。例えば魂と脳があっても、肉体自体が経験していないと違和感を感じ、強い拒絶反応を起こす。ただし、例外がある。それは魂だ」
「た、魂だと」
「そうだ、魂は他の二つと違って存在自体が不安定で不確実な物だ。故に魂を別の個体に入れたとき、その不安定な記憶は脳や身体から強い影響を受ける。そして魂はその脳や身体から記憶を疑似体験し、そのあやふやさから魂の方が負け、変質化してしまう」
「ど、どういうことだ? クソ、頭が痛てぇ」
「つまり、岩谷の身体に入った俺の魂が次第に岩谷そのものになってしまうということか?」
岩谷の身体に入ったスティーブが何とか冷静に分析する。
「ご名答」
「だが、それがお前にとって何の得になるんだ」
そして宿屋のダンナは早口で語る。
「ハートシャッフルが魂を入れ替え、お前たちが変化し終える一瞬の時間! ハートシャッフルはある細工ができる」
「ある細工だと?」
「それは少しの記憶の改ざんだ。そうだな太陽を裏切って俺の部下になるとかいいんじゃないかな?」
「お、お前にそんなことさせるかぁ!」
岩谷の身体に入ったスティーブは叫ぶと近くの壁を強く叩く。スティーブは少し言動が荒っぽくなってきているようだ。
「いいやさせる、その条件が整った。この時をどれほど待ったことか、ふふふ」
「ぐ、俺の魂にスティーブの記憶が書き込まれてくる……」
俺はスティーブがどうやってリーダーになったのか、過去に何があったのか、追体験をする。
この度はキングバックの続きを読んでいただきありがとうございました。
今回は魂の入れ替わりなどちょっと分かりにくい回だったと思います。ですが、とりあえず、スティーブの過去がどんなものだったのかが分かって頂けたなら良かったです。
次回はセンドウの木の異常増殖の謎に触れていく回になります。
次回も読んでくれたら嬉しいです。
今回のキングバック解説
フール・オフ
パワーC,スピードC,特殊エネルギー性B,行動距離A,耐久性B+,精密性C
2話にてスティーブと対決した、ガルトの使用したキングバック、エビに近い見た目の二足歩行のキングバック、全身が硬く、特に両腕の殻は高い強度を誇る。また高い行動距離と透明化の能力を持ち、それを同時に行うことのできるハイスペックなキングバックである。
またキングバック自身に感情があるタイプであり、ある程度自分で判断して行動するため、状況に適した判断できることも多い。しかし、その反面本体の指示を聞かないことも多々ある。
遠距離操作と透明化を同時に行うことにエネルギーを割くため、パワー,スピードのランクは近距離戦に特化したものと比べると見劣りする。
拳銃の弾を腕の殻で跳弾させる攻撃を習得するにはかなりの苦労を要した。
本体のガルトは暗殺に失敗し、追い詰められたときのための策を用意しておく、用意周到なタイプ。




