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ORION

作者: 津辻真咲


《3.2.1.0… A Happy New Year!!》

《50億4041年あけましておめでとう!》

 近くのテレビからはその声が聞こえて来た。伊織美冬いおり みふゆは宇宙ステーションの展望台にいる。彼女はそこから赤色巨星になった太陽を眺めていた。

「どうしたの?」

 親友が彼女にそう尋ねた。すると、彼女はこう答える。

「太陽が死ぬところを見たいなぁと思って」

「太陽が白色矮星になるのは、もっとずっと先よ?」

 親友はきょとんとする。

「そうね」

美冬は苦笑した。

「問題はこの宇宙ステーションが新たに別の太陽の代わりとなる恒星を見つけられるかよ?」

 親友は人差し指を立てて、口調を強める。人類にはそれが一大事なのだ。

「それもそうね」

 美冬は遠くを見る。

「明日、早いんじゃない? 外交官の仕事も今大変でしょ?」

「まぁ、そうかもね」

「でも美冬はすごいよね。飛び級して16歳で外交官になるなんて。今、外務省ではORION計画が進んでるでしょ?」

 親友は尋ねるが、美冬は答えない。

「それは、職務規定で言えません」

――それは一ヶ月前に遡る。



「我々の大学は、マヤ文明の人々がある宇宙生命体とコンタクトを取っていた事を発見した。その宇宙生命体の名は、ORION」

 世界有数の考古学者、古谷史明ふるや ふみあきは記者会見でそう発表した。


「人類はオリオン大星雲へ向かい、宇宙生命体ORIONとコンタクトを取るべきだ。なぜなら、太陽をなくした我々人類を受け入れてくれるかもしれない」

 国連職員もそう言い始めていた。


――そして、先週、国際連合はORION計画、つまり、オリオン大星雲へ向かい、宇宙生命体ORIONとコンタクトするという法案を通したのだった。



――ORION計画とは、まずNASAと協力して探索用人工衛星スペシアをオリオン大星雲へ向けて送り出し、それにより、文明のある惑星を見つけ出し、聞き込みをして捜すというものだ。

「ようこそ、ORION計画対策室へ。よろしくお願いします」

 美冬はORION計画のメンバーへと選ばれたのだった。

「初めまして」

「よろしくお願いします」

 美冬はNASAの他メンバーと挨拶を交わす。

「それから、紹介しましょう。考古学者の古谷史明教授と新田綾斗にった あやと助手のお二人です。マヤ文明の王アシュ・クック・モが地球外生命体のORIONとコンタクトを取っていたことを突き止めた方々です」

 NASA職員が説明する。

「よろしくお願いします」

「はじめまして。よろしく頼みます」

「こちらこそ」

 美冬は古谷と握手を交わす。

「ORIONとの外交コンタクトはあなたの器量にかかっています。よろしくどうぞ」

「はい。もちろん」

 綾斗とも握手をした。

「それでは、ORION計画の方始めましょうか」

「はい」



《人工衛星スペシア、発射まで5.4.3.2.1.0…》

人工衛星スペシアが宇宙ステーションから切り離された。

「切り離し成功! これより、人工衛星スペシアのハイパーモードへ移ります。5.4.3.2.1.0… ハイパーモードオン!」

 轟音が響く。そして、数分後、人工衛星スペシアはオリオン大星雲に到達した。

「人工衛星スペシア、オリオン大星雲に到達しました!」

「これなら、早くORIONが見つかりそうですね?」

「あぁ、そうだな」

 NASA職員たちはそれぞれ話す。

「人工衛星スペシア、オリオン第4惑星系に到達しました! これより、惑星の観測を始めます!」

 すると、再び轟音が響いた。

「!?」

「そんな、人工衛星スペシアが……、爆発した!?」

「どうして!?」

 人工衛星スペシアの爆発で、場は騒然となった。

「おい! 何か電波が送られて来てるぞ!」

 NASA職員の一人が叫ぶ。

「何!? 何て送られて来たの!?」

 美冬は尋ねる。

「今、コンピュータに解読させます」

数分、画面は解読中の文字が並んだ。すると。

「遅い! 貸せ!」

 綾斗が無理やり席を変わるように命じた。そして、独自に解読を始めた。すると、ものの十数秒で解読した。

「あなたたちは私たちの領区域を侵犯した。よって、これを宣戦布告と受け取る。そう書いてある」

 綾斗は解読したものを読み上げた。

「どうやったの!? その解読」

 美冬は驚き、尋ねた。

「いいから、対策しろよ」

「あ。そうね、お願い」

「何だ?」

 綾斗は聞き返す。

「私の外交の言葉を訳して欲しいの。いい?」

「あぁ、いいぜ」

 綾斗は快諾する。

「さぁ、こっちからも電波を送るわよ!」

 美冬は皆に叫ぶ。

「え!? 何て!?」

 NASA職員たちは驚く。

「私たちはORIONという宇宙生命体を捜しています。その過程であなたたちの領区域を侵犯してしまったのです。だから私たちはあなたがたに敵意はありません。そう送って!」

「はい」

「安心しろ。俺が訳してやる」

 NASA職員の返事のあと、綾斗がそう名乗り出る。すると、次の瞬間、再び、轟音が響いた。

「!」

「本当に攻撃して来た!」

 NASA職員が叫ぶ。

「早く!」

「はい!」

画面には送信中の文字。そして、数秒後に完了の文字が出た。すると。

「また電波が送られて来ました!」

「今度は何!?」

 美冬は画面を覗き込む。

『私たちの宇宙ステーションの陰に避難しなさい。アンドロメダ宇宙連合より』

「これはさっきのとは別の第三者の電波!?」

「おい! 目の前に巨大な宇宙ステーションが!」

「さっき攻撃して来た宇宙ステーションの攻撃をシールドで防いでいるぞ!」

 NASA職員がモニターを見て叫ぶ。

「また電波を観測! 今度は……」

『宇宙ステーションのゲートを開いてもらえますか? あなた方と同盟を組みたい。私たちはアンドロメダ宇宙連合といってこの散光星雲を中心に活動しています』

「どう送るんだ?」

 綾斗は美冬に聞く。

「困ったわ。私一人の意見で判断するわけにはいかないわ」

「どうするんだ?」

 綾斗は戸惑う。

「私は一旦、外務省と連絡を取ります。このアンドロメダ宇宙連合に、人類として加盟するかどうかを」

「分かった。早くしてくれよ?」

「分かってる」

 美冬は綾斗にそう言うと、NASA職員の方へ向き直る。

「皆さん、私が戻って来るまで、何とか場を繋いでもらえませんか?」

「分かりました。ここはNASAチームで場を繋ぎましょう」

「ありがとうございます!」

 美冬は一礼をすると、部屋を出て行った。

「NASAチームの皆さん、電波の解読は私たち考古学チームが手伝います。どうぞよろしくお願いします」

 古谷はそう言った。すると、再び、電波を受信した。

「電波、来ました!」

 NASA職員が叫ぶ。

「見せて下さい」

 綾斗は送られてきた電波の画面を見る。

「はい、どうぞ」

「これは……」

「どうかしましたか?」

 NASA職員は不安げに聞いた。

「今、この宇宙では、十数もの宇宙連合があって、それらが同盟など組んで、今は、戦争状態だそうです。そして、……」

「そして?」

「そして、恒星が一生を終え、白色矮星や中性子星、ブラックホールになってしまった、惑星系の宇宙生命体たちが、まだ、恒星が一生を終えずに燃えており、惑星系に、生命が存在する惑星を求めたせいで、争いが生まれたそうです、と送られてきています」

「そうか、だから、地球にはもう攻めて来なかったんだな。もうすぐ、太陽が一生を終えるから!」



「皆さん! 時間稼ぎありがとうございます! アンドロメダ宇宙連合に加盟するという結果に至りました!」

 美冬は思いっきり、ドアを開けて入って来た。

「それでは、電波送りますか?」

「はい!」

 美冬は頼もしく、返事をした。

「それで? 何て送るんだ?」

 綾斗がそう尋ねる。

「私たちは、天の川銀河の太陽系第3惑星地球からやって来ました。私たちもあなた方と同じ、もうすぐ恒星を失くす宇宙生命体です、って送って」

「なぁ」

「何?」

「ここで話していた事がお前知ってんだ?」

 綾斗は恐る恐る尋ねる。

「あぁ、それはね。インカムで聞いていたからだよ?」

 美冬は笑顔で答えた。

「……そう」

「電波送れそうですか?」

 美冬はNASA職員に聞く。

「はい。もちろん大丈夫です」

 NASA職員は電波を送信した。

「これで、何かアクションがある筈よ」

 そして、十数秒後。

「電波観測しました」

 NASA職員がそう伝える。

『我がアンドロメダ宇宙連合に加盟して下さるなら、喜んで迎えます』

「良かったな?」

「はい」

 美冬は綾斗に微笑んだ。すると、再び、電波が送られて来た。

「今度は何?」

『アンドロメダ宇宙連合一同から、お願い申し上げます。今、我々アンドロメダ宇宙連合は、おおぐま座の電波銀河M82を中心とした、おおぐま座宇宙連盟とこぎつね座の惑星状星雲M57を中心としたこぎつね座宇宙連盟と戦争状態にあります』

「なので、あなた方の防衛軍の力を貸してほしい、だってよ」

 綾斗はそれを読み上げた。

「困ったわ。戦争に巻き込まれるなんて。しかも、宇宙生命体となんて!」

「どうするんだ?」

「……」

――出会ったばかりの宇宙生命体にまで、連合に加盟して欲しいなんて。そうとう、追い込まれているのね。きっと。

「国防省ペンタゴンに核兵器の破壊力を問い合わせて下さい」

「え?」

 美冬の言葉にNASA職員たちは戸惑う。

「相手の連合の人々に私たちの軍の強さがどのくらいか、知らせておきたくて」

「分かりました。では、文書で聞き出しますね」

 NASA職員は国防省に連絡を入れる。すると。

「来ました!」

 NASA職員はそう伝える。

「それを、電波信号で送って下さい」

「はい」

 ……。

「電波確認しました」

「訳して?」

「あぁ、分かった」

『軍の情報ありがとうございます。しかし、私たちは、決して攻撃しないという信念の元、この戦争に終止符を打ちたいと、そう願っています。あの方々が、攻撃などは無駄だと思うその日まで、戦います。宇宙生命体ではなく、その思想と』

 ……。

「また、電波観測しました」

『どうしますか? 我々と共に来ますか?』

「いいえ。私たちは私たちの先祖とコンタクトを取っていたORIONを探しに宇宙へ出ました。なので、あくまでも、オリオン大星雲にいる筈のORIONを探したいのです。それから、ORIONについて、何かご存じですか?」

「分かった。そう送ろう」

『この文字は私たちの隣のM27惑星系の第4惑星で使われていた文字です。だが、残念な事に恒星M27は一億年前に白色矮星になってしまっています。なので、そのORIONという者もきっとM27の人々と共にこの散光星雲を去っているでしょう。私たちが知っているのは、M27の人々はここから30億光年離れた暗黒星雲の中の恒星に移り住んだという事だけです。追伸、座標を添付しました』

「これで、行き先は決まったわ」

「そうだな」

 美冬は胸が高鳴った。



「座標をオートパイロットに取り込むんだ! そしたら、このまま、ハイパーモードへ突入する!」

「オートパイロット準備OKです!」

「ハイパーモード切り替えまで後5秒、3.2.1.0… ハイパーモードオン!」

 轟音が響く。しばらくそれが続いた。すると。

「見えた! あの惑星系だ!」

 NASA職員が目視で確認する。

「座標によると第4惑星のようね」

「何て送りましょう?」

 NASA職員は美冬にそう聞く。

「そうね」

『はじめまして。私たちは天の川銀河からやって来た生命体です。私たちの先祖のマヤ文明の人々があなたたちの使っている文字と同じ文字を使うORIONという生命体とコンタクトをしていたことを知ってやって来ました。もし、知っているのならば、ORIONの正体を教えて下さい』

「送りました」

「いい返事が来るといいんだけど」

 美冬は少し、心配した。

「大丈夫だろ」

「え?」

「まぁ、優秀な外交官なんだろ?」

 綾斗は彼女を励ます。

「……ありがとう」

美冬は微笑んだ。

「あっ、来ました」

『今、全国ネットであなたたちの事を放送しました。出来れば、代表者と話がしたい』

「代表者?」

皆は美冬の方を見る。

「ちょっ、まさか、私ですか!?」

 美冬は驚く。

「やっぱりここは外交官の出番でしょ?」

 皆は笑顔で彼女を送り出した。



第4惑星軍基地 控え室

――うーっ、緊張するー!

「どうしたんだ?」

 綾斗は緊張している美冬の様子に気付く。

「少し緊張を……してしまって」

「ふぅん」

 綾斗は全然、緊張していなかった。

「しかし、すごいよな」

「?」

 綾斗は美冬に話しかける。

「たった数時間で、地球の人類との翻訳機を作れるなんてな?」

「そうね」

ガチャ。ドアが開いた。

「はじめまして。私は、この国の広報省の主任を務めておりますオーリといいます。よろしくお願いします」

M27の代表者のようだった。

「はじめまして。外務省のORION計画担当の伊織美冬といいます」

 美冬と綾斗はそれぞれ挨拶をした。

「ORIONについて知りたいというご要望でしたね」

「はい」

「では、ご案内いたします。我が国の最高峰の歴史庫へ」

――最高峰の歴史庫……。



「この歴史庫には、私たちのデータが保管されています。いつ、どこへ、スペース・トラベルをしたかが、分かります。それから、自主的に個人が添付した詳細のデータも」

 オーリがそう説明する。

「分かりました。ありがとうございます」

美冬は一礼した。

「では、ごゆっくり」

オーリはその場から立ち去っていった。

「さ、ORIONの情報を探すわよ!」

 美冬は拳を上へ上げる。

「そうだな」

 綾斗はそれを見て、微笑む。すると、美冬はくるりと彼の方へ振り返る。

「解読するの手伝って?」

「分かってるって。もちろん、そのつもりだよ」



「あ」

「ん?」

 綾斗は何かを見つけた。

「これじゃないのか? ORIONの記述って」

 綾斗は美冬に資料を見せる。

「そうだわ。これね」

 美冬はそう言うと、綾斗は大きく背伸びをした。

「あぁ! やっと、終わった!」

「ありがとう」

 美冬はお礼を言った。

「あ、あぁ」

 綾斗は少し、ぶっきらぼうに答える。

「でも、結局分かったのって、この日時に地球へスペース・トラベルしていたって事だけね」

「そーなのか?」

「あ、待って、添付データがある」

「ん?」

 二人はそのデータを見る。

「ORIONは数学好きな学生らしい」

「え?」

「それから、病気で休学中にスペース・トラベルをして、地球人と一時的に交流をしていたみたい」

 美冬はそう伝える。

「へぇ、そうなのか」

 すると、綾斗は何かを思い出した。

「あぁ、そういえば……」

「?」

 美冬は彼の方を見た。

「マヤ文明の初代王のアシュ・クック・モって、女性だぜ?」

「本当!?」

 美冬は驚く。

「まぁな」

「そうだったんだ」

「と、いうことは……。ま、いいや」

 綾斗は言いかける。が、そのまま黙る。

「え? え? 何?」

「まぁ、俺の勝手な推測なので話しません」

 綾斗は断固、黙秘の行使。

「ちょ、ちょっと、教えてよ!」

「言いません。っていうか、ここの恒星って、まだ赤色巨星になってないじゃん。ってことは?」

 綾斗は美冬の方をちらりと見る。

「大変! これは課長に報告しなきゃ! じゃ! 私は次の計画の計画書書くから、これで失礼!」

美冬は走り去って行った。

――この惑星系に移住計画! とても、楽しみ!

「ちゃんと、出来るんだよなぁ、あいつって」

 綾斗は窓の外の空を見て、微笑んだ。


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