母の笑顔は遠く
夜の森を走る一人の女性がいた
女性は足と背中に酷い怪我をしながらも、その腕の中に……大事に赤子を抱え、追手に追いつかれ無い様必死に走っていた……
音が聞こえる度に、追いつかれたのではないかと……不安で押し潰されそうになるが。
赤子の寝顔を見ては癒され、決して捕まってはならぬと!自分の身体にムチを打ち痛みに耐えていた。
どれだけ走ったか分からないが、遂に森を抜け町が見えてきた……母親は街が見えた少しの安心感からか、緊張の糸が切れ赤子に語りかけていた
「もうちょっとで町だからね、大丈夫だからね!絶対お母さんが守って見せるから!」
女性は自分に言い聞かせる様に赤子に語りかけ、そして微笑み……その頬をそっと撫でると再び走り出した。
ん?寒い……けどほのかに暖かい……ここは何処だ?何故か自分の身体は動かないし、いったい何が起こってるんだ?
理由が分からない、俺は何かに揺られ……意識を取り戻した。
目の前は真っ暗で何も目えない、身体も動かない……誰かが走ってるのか、荒れた息遣いとザーザーと雨の音だけが聞こえてくる……
俺はこの誰か分からない人に話かけようとするも声がです、何故か猛烈に不安になり泣いてしまった……
「よしよし♪大丈夫でちゅよ〜♪ママが一緒でちゅからねぇ〜」
優しい声が聞こえ目の前が明るくなる……そこには優しく微笑む一人の女性がいた
少しばかり顔色が青白く体調が悪そうだが、溢れる優しさ……この人が自分の母親なのだろう、本当に優しそうな人だ。
私の前の人生では、私を生んだ女性とは色々とあったから……目の前の人は素敵そうな女性で、私は心の中で躍りだすほど嬉しかった。
「いたぞぉ!!捕まえろ!!」
遠くで声がした……女性は急に慌てた顔をして走り出す!
……誰かに追われているのか?もしかして俺は……何かやらかしてしまったんじゃないだろうか?不安でたまらなまい、今の自分に何か出来る事はないのか!?……考えるも何も思いつかず、情けない自分に涙が溢れた……そんな情けない自分に、母さんは笑顔で笑いかけてくれていた。
私は言葉に出来ない感情が溢れ出して、泣いちゃいけないと分かっているのに……母の胸にすがり泣いてしまった…
ドンドン!ドンドン!
「すいません!!」
ドンドン!ドンドン!
「なんだい!いったい!?」
扉から一人の女性が出てきた、薄紫色のワンピースに近い服装で胸元からお腹までが綺麗に露出している、なかなかにセクシーな女性だ。
「すいません!!この子をファルテをお願いします!!」
女性は泣きながら、その女性に俺を渡そうとした。
「はぁ?アンタ何言ってんだい!寝言なら寝てから言いな!!」
女性はそう言い扉を閉めようする……その時、カシャカシャと鎧の擦れる音と共に、複数の足音と「この辺にいるはずだ!?探せぇ!」と言う声が聞こえて来た。
「あんた……追われているのかい?」
「はい……私の事は構わないので、この子を!……どうか、この子だけでもお願いします!?」
女性は消え入りそうな声で縋りつく。
「急だねぇ…………分かった、この子は任せな……けどアンタ、保障は出来ないからね」
女は母さんから俺を受け取ると、大事そうに抱える。
「ありがとぉ……この子を……お願いします!」
母さんは泣きながら感謝の言葉を告げると、私のおでこにキスをし去って行った……
去り際、母の目から大粒の涙が溢れていたのを見てしまい……私はもう……あの母の優しい笑顔は見れないのだと、悲しみのあまり我を忘れて泣き叫ぶのだった……
私は自分を生んだ女性との良い思い出が無く、優しい笑顔を想像して理想の母を思い描き書きました。
理想と現実は遠く……