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1-7

 1章 7


 あの件の翌日。俺は地下の一階で赤牛を捌いていた。

 今日は気分がいい。そのせいか、捌いた肉も綺麗だ。筋を取るのも楽で、すごく楽しい。

 昼からステーキにするというのはいい案だと思う。


「なぁ!胡椒とかくれ!」


 俺は笑顔で言いながら、赤牛をスライスしていく。こんなの年に一あるかないかだ。

 見事な赤身だ。佐賀も嬉しいだろう。俺の料理なら何でも喜ぶ佐賀も、今日は本気で喜んでくれると思う。


「……事件の翌日、どうかしてる」

「そりゃ最高の褒め言葉だな」


 佐賀の誉め言葉に笑いながら、肉に胡椒をかける。適度にかけながら、鉄板で肉を焼く。

 もう少し焼けたら、塩をかけてもいいかもしれない。ステーキには何を添えるかで悩ましいが、俺はまずステーキを食べない派だ。

 ヴィーガンという訳でもなく、和風ソースも悪くないが、あまり肉々しい物はそこまで食う質じゃない。


 ただ佐賀やその他仲間は大好きらしく、みんな揃って焼肉をやりたがる。

 まぁ俺もレバーやホルモンを食うのも好きだし、ネギ塩タンなんてのは大好物だ。レモンを使えば尚更。だから気持ちは分からなくはない。


「再度言う。動かない方がいい」


 佐賀の忠告は今日で二桁を超えそうだ。だがそれを無視して、朝から料理をしていた。赤牛を殺しては、綺麗に捌く。

 理由という程のものもなく、ただ暇で短気だからこうやっているに過ぎないが……佐賀には不服らしい。

 別に怪我はしてないっぽいのだからいいと思うんだけどなぁとは思うが、それを口にしたらお説教待ったナシなので口にできない。


「この世界だと精密検査出来ない。検査系、又は治療系の力を持つ人が出てくるのを待つべき」

「問題ないって」

「……ふざけないで」

「おわっ、なにするんだ」


 佐賀に押し倒されて、驚く。相当怒っているようで、無理に起き上がろうとすれば体を痛める体勢だ。多分無理にやれば腕を捻って地面に顔を押し付けられてしまう。

 少しでいいから動きたいのだがそれも叶わない。足の置き方が上手く起き上がることが許されない。


 しかもちゃんと絶対領域を守っているのが強い。そんな事を考えているとジト目で見つめられるので、目線を逸らしてしまう。


 というかいくら鍛えてるサバイバル系とはいえ、女に押し倒されるほど弱いというのは悲しくなる。

 いや、ある意味仕方ないとも言える。力に目覚めてから、俺の体は少し……いやかなり変化してしまった。


「……休む。ここからは咲耶とかが変わってくれる」

「んー……わーった。大人しく従うか。その代わりに仲間らの力を調べておいてくれ」


 多分従わなければ、容赦なくやられる。怪我しない程度にボコボコに痛めつけられるので条件で譲歩しながら素直に従うのがいい選択だ。

 佐賀も譲歩の程度は決めているはずだ。無策にやるような事をしないのは俺もよく分かっている。


「……分かった。屋上に先に行く。寝袋あるから、その中で休む」

「おう」


 頷けば、佐賀は退いてくれた。その後に心配そうに俺の体に触れて怪我をしてないか、どこか痛めてないかを確認してくれる。


 とは言っても、俺はもう怪我をしてない。そう言えるのにも理由がある。あの気を失う時、頭に流れてきた記憶。

 それの大半は俺の今までの人生や調べた事、全てについての記憶だ。それが一気に頭の中へと入ってきた。


 だがその中に未知の物もあった。その内の一つが俺の力だ。

 力の名前は“解析共鳴”。触れたものを調べて、多少の操作出来る力。そして自分の体や触れた物を質量変化なしで自在に動かせる、つまりは変装やものを作り出せるらしい。このらしいなのにも理由があり、書いてなかった。というよりは上から何で隠されていた。

 例えるなら、黒板の上から白のテープで隠すような感じでバレバレで。意味がわからないが、それが事実。


 まぁ多分これから分かるのだろう。因みにこれは自分の体と無機物限定な上に、理解して、その上でちゃんと使うルートを導かないといけないらしい。

 例えるなら数学での証明のように、文章として作り上げながらやる。自分で理解してる定理等は略称してもいいが、定義については再度書かなきゃ行けなかったりと面倒な面が強い。ただ記憶と共に、力の使い方も多少は理解した。だから問題は無い。

 かなり面倒だが、俺は元々そういうのに特化した人だ。下手な力の何倍も自分に合っていて嬉しい。


 まぁ昨夜、あの時に関しては色々と複雑だった。聞いた話によれば、講堂ではあの窮奇になった生徒以外は全員気絶していて、窮奇のみ木の棒や槍で貫かれて、動けなくにさせられていたそうだ。

 俺の力で、講堂の地面を操作したのかもしれない。最後に何とかしてくれと願ったからこそこうなったとも考えられる。詳しい事はもう誰にも分からない。


 ただ気になるのは、あの記憶。それは“共鳴”によるものなのか?そしてもしそうなら、何と“共鳴”した結果なのだろうか?

 分からないことが多すぎる。第一にこの力も万能では無さそうだ。先程、この世界の果実に触れてみたが、名前が出てこなかった。その代わりに『大きめのレモン。』とだけ書いてあり、俺の記憶を元に行われている可能性もある。


 赤牛に触れてみたが同様だ。『赤い二足歩行の牛であり、人を殺す。』等と簡潔に俺の知ることを書かれていた。

 ハッキリ言って、意味がわからない。

 大方、自分の知ることやかつて知っていた事などを走馬灯の様に頭に記憶されたのだと思うが、中々にいやらしい力だ。

 今までにあった嫌なことも、ふとしたキッカケで思い出して嫌になる。ただこの記憶能力がないと俺の力は上手く発動しない可能性が高いから仕方ない。


「……ほら、寝る寝る」


 屋上に着くまで考え事をしていたが、もう着いてしまったらしい。

 やはり気になる。この力によって得られたもの。それは知識だが、ただ新しい視点を教えられただけだ。まだ違和感が大き過ぎる。

 何故この力なのか、他と比べてもあまりにも中々に多彩すぎる。まだ他の人を見てないから何とも言えないが、かなり強い力だ。


「なぁ、横にはなってるんだしなんか良いの貸してくれ」

「……数日の絶対安静、誓う?」

「マジ?」

「……マジ」


 佐賀は静かな声で俺に答えてくる。普段から声のトーンが下がる時はあるが、今回ばかりはその比じゃない。ぶちギレトーンだ。

 もはや顔を見なくても分かる。相当キレてる。多分何か怒らせてしまったのは確実だ。ただし、それが何かは分からない。


 確かに無茶したのは事実だが、俺はじっとしているのが苦手だ。じっとしている瞬間なんてほぼない。だから何か読むものでもあれば嬉しい。


「分かった。三日、その間だけは動かない」

「……七日」

「一週間もかよ……」

「その間は缶詰。または今の時点の肉で済ませる。問題ない」

「五日でどうだ?」

「認める」


 互いにいい期間で許容し合えた。

 まぁ佐賀も俺も大体その位になるとは予想がついていた。だからこそ五日に即答したのだろう。

 となればもう暇潰しの品は用意してある事だろう。


「これ渡す」


 佐賀から受け取った本を軽く見つめる。タイトルはついてなくただ紙を紐でまとめる簡単なスタイルだが、中々に良い。

 最近はデジタル式が多いが、アナログも悪くない。


 そっとページを開けば、そこには生徒の詳細とあまり見たくないものが書かれてあった。


「生徒のか……中々に異世界だな」


 この本には各生徒の力について書いてある。軽く読んだらわかるが、中々に不味い。何が不味いという説明が省きたいほどに不味い。


 例えば……この佐藤という生徒。この人の力は発火だ。それに竹内という生徒の力、風を操れるらしい。その他にも風系統の力は確認されている。

 この生徒らを上手く使えば、火災旋風を起こせる。

 火災旋風というのは火の竜巻だ。広範囲で火災が起きると、発生する。特に都心などでは、広い道路を突き抜ける風と、ビルの間など狭い裏路地等を通り抜ける風、これによって火災旋風は起きやすくなる。


「……この青でチェックをつけた生徒。野嶋先生に」

「なんで?」


 この野嶋という先生。とある工学科に居たのだが、専門は防火だ。それも消防士の防具等を作る事までを、行っていたエリート研究者だ。

 あの先生なら、風と発火で察しがつくだろう。まぁ察しがつかなければ、その先生に頼る気が無くなるだけだが。


「……気になるなら直接聞いてみるといい。ものを教えるのは、生徒ではなく先生の役目だ」


 俺も火災旋風に詳しいというわけじゃない。ネットで軽く見た事があるだけで、真実は知らない。となれば、仕方ないと思う。

 だから深堀されても俺は何も答えられない。


「場所、どうするの?」

「……別館側の屋上を貸してやれ。あそこなら火事が起きても俺らが動ける。警備代わりとして、浅間を叩きだせ」

「分かった。行ってくる」


 浅間は昨日、白鳥にやられたと思っていたのだが、何故か気絶と打撲で済んでいた。受け身も取ってないというのに、それで済むというのは中々に羨ましい話だ。

 新しい力は身体強化系で、それもパッシブだと思われる。意識化で無いなら、あの程度の怪我で済むはずがない。


「さーて、見よっかね」


 佐賀が屋上から出たのを確認すると、寝袋に包まる。

 そして紙を見ながら、悩む。火や電気系統に力が少ない。電力発電に一番使いやすい力がこうも少ないと、ソーラー発電だけで賄うことになってしまう。そんな事になればせっかくの力も無駄になる。


 まぁ白間が何やら使い勝手のいい力に目覚めてくれたらしいのは良い事だ。白間はこの力を“物質生成”と名付けた。自分のよく知る物質で、全ての辺が30センチ立方体に入る物を作れるらしい。

 ただし、少し作りが複雑になると難しいらしく、更に同物質にはクールタイムが必要とも書いてあった。


 コイツの力は発電に使えるかもしれない。暇な時にでも情報共有をしておくべきだ。上手く行けば現代のものを作り出すことも可能になる。


 あとは佐賀……アイツの情報がない。

 大半の生徒は昨日の時点で力に目覚めた。それなのに、佐賀ら数名が力がないというのは疑問に思う。

 高確率で分かりにくい力、又は発現する為に何か条件があるという可能性。

 ただ佐賀は他の発現者と生活の差がほぼない。発現者の誰かがそうなら、佐賀もそうであり、逆もまた然り。だから条件があるなら、高確率で達成してるはずだ。

 故に後者の可能性は低い。多分分かりにくい力か、発動系の力でまだ使えてないだけという可能性もある。


「……それよりも優らも見とくか」


 優は物を無理やり小さく出来るようだ。だがこれもよく分からない。重力系に見えるが、凝縮という方が良いかもしれない。

 オンオフ型の力というのだけは分かった。それだけでも十分すぎる。


 凝縮だが、凝固も出来るらしい。

 ただ生き物にはやれないのと、触れないといけないらしい。その代わりに一度触れたらいつでも凝縮は可能らしい。質量とか密度がどうなってるのか調べたいが、時間と道具が無い。暇な時で良いだろう。


「次は咲耶か……ふざけてるな。うん」


 つい次のページにめくろうとしてしまう。いきなりネックレスが作れると一文だけ書かれていたら、ついそうしてしまう。なんでそうなったと問い詰めたい。

 まぁ装飾品を作れるのはいい事だ。周りの、特に女性側だ。そういうオシャレ系は生徒らの精神安定剤にはなりそうだ。放置安定という事で放置するとしよう。


 その他だと天羽が良い力を手に入れたみたいだ。天羽はレーダー系の力を手に入れたらしい。長距離な上に精度はいいらしい。

 ただ情報量が多すぎるのと、細かい所までは分からないそうだ。モヤッとした大体の形だけ理解出来るようだ。

 悪くないどころか、かなり良い力だ。


「……あー、黒野いるか?」

「あん?……ああ、圭か」

「おう、黒野知ってる?」

「黒野なら仕事中だ。何か用か?」


 監視をしてる涼雅に声をかける。涼雅は外を望遠鏡で眺めながら返事を返してくれる。

 黒野の力についても聞きたかったのだが、そうなると少し面倒になる。


「そいや、あの少女どうしたよ」


  何か閑話を置こうとして、少女の話をする。昨日助けた少女だが、俺が朝起きた時には優の元を離れていた。

 いや忘れてたわけじゃない。ただ聞くタイミングを逃していただけで、忘れるなんてミスはしてない……多分。


「あの子か?あの子は今も物を運んだりしてるんじゃないか?確か行動範囲にここもあったし、来るかもな」

「へぇ……そりゃいい。あの子の力は熱だ。面白いだろ?」

「……それは良い。熱を使える人が来るのは想定外だが、協力してもらえるかもな」


 熱というのは発電に使える。火力発電も熱でタービンを回しているんだし、簡単にやれる。

 それに吸熱反応を起こせるなら、冷凍も可能になる。風呂なども作れるし、ありがたい。

 笑いながらプリントをめくっていると、面白いネタに行き着く。


「アイツの力はエグいらしいな」

「あー……夏目か。とんでもない力を身につけたってよ。楽しみだな」


 アイツってのは涼雅の思った通り、現リーダーの和樹だ。遊びには来ないが、どうやらそれもできない程に忙しいらしい。

 まぁ和樹は頭がいい上にリーダー性に溢れている。


「はぁ、俺の方もあの位使い勝手良ければなぁ」

「十分強いじゃんか。操作系は絶対に強いって」


 和樹の力は重力の操作だ。優のような凝縮も出来るし、圧力の操作も出来るタイプの万能型だ。純粋に羨ましい。

 嫉妬をしているとあることを思いつき、プリントをどんどん分けていく。涼雅は首を傾げながら、近付いてくる。


「どうよ!浅間みたいな強化系、俺や優のような操作系、それに咲耶や白間の造形系に、熱を操ったり、重力を変化させる自発系。どうよどうよ?」

「……分かりやすくて良いな。ただこれどうするんだ?」


 纏めたものをどやってはいたが、別にどうもこうもない。ただやってみただけで言葉すら適当だ。大体自発系とか、ダサいと思う。

 そう思ったせいか、ドヤ顔が崩れる。しかも涼雅のこちらを見る目が冷ややかなものになっていく。まるでこちらを厨二病だと言わんばかりだ。


「知らない。分かりやすくしただけだし」

「……まぁみんなにもこれで分けるように伝えてくる。それにここにアドバイスも書いてあるしな」


 俺が各自に書いておいたメモ帳を涼雅は奪うと黙読する。そしてポケットにしまうと、嬉しそうにする。


「やっぱ圭は凄いな。リーダーの素質あるな」

「褒めてもなんにも出ないぞ。とっとと和樹ら辺にでも渡しておいてくれ」

「はいよ。それよりも聞きたいことあるんだがいいか?」


 涼雅の方を向きながら、寝袋のまま動く。そして涼雅の近くで寝転がる。

 まるでイモムシのようだが、まぁそれは置いておくとしよう。


「圭はどうして彼らに協力する?別に圭は手伝わなくても良いはずだし、今まで周りと関わらなかった身だ。別に協力しなかった所で、文句は言われないと思うけど?」

「……相変わらずお喋りだなぁ」


 涼雅は相変わらず口が軽い。普通に考えてそんな事を俺に向かって口にしようとは思わないはずだ。それなのにアッサリと口にして、更には多少の皮肉まで混じっている。


「はぐらかさないでくれ。こっちは真面目なんだから」

「生徒は兎も角、先生らには恩義があるからな。それに人の死体って考えるだけでも、臭いからさ。嫌なんだよ」


 別にいっても問題ない話だから、出来るだけ誤魔化さないで本音を言う。正直別に話しても良かった話だ。それにこれで聞きたいことも聞ける。


「なら……」

「なら次は俺の番だ。涼雅の力は何?どんな力を得た?」

「……誤魔化した上にそれかよ。いや、どうせバレる力だ。俺の力は“植物の成長”だ。それだけだ」


 誤魔化したつもりは無いが、少し難解的だったかもしれない。まぁあえてやったのだが、まぁ言う必要も無いので黙る。


 それを向こうも理解したようで涼雅は手のひらに何かの豆を出すと、一気に成長させる。どうやら太陽光や水も必要とせずに一気に成長させられるらしい。


「……限界は?」

「そこまで教えると思うか?」

「いや、なら開示条件を出してくれ」


 俺はあまり交換条件というのが得意じゃない。相手との心理戦は、ホットリーディングやコールドリーディングをしなきゃならないが、俺には向いてない。

 なら相手に条件を出させた上で、それを少しずつ譲歩させていく方が互いにメリットがある。


「俺らを教えること。それもほかの先生とは段違いのレベルで、強いものをだ」

「正気か?」


 俺はつい本音が出てしまう。

 流石にそんな事は出来ない。教えた事が他に漏洩すれば、他の人らは一気に強くなる。下手をすれば、あんな赤牛などすぐに潰せるくらいには。

 だけど、それを頷くにはまだ俺の方の準備が整ってない。


「……ダメっていうの分かってるだろ」

「ああ、だからさ、小言だけ出してくれ。どこをどうすればいいのかだけ。それならただの独り言だ。問題はないと思うが?」

「……その位なら引き受けてやる」


 俺が素直に教えないのはエゴだ。

 教えたやつが、俺のアドバイスで人の脅威に、不良みたいにならないか恐いだけ。知識というのは人を簡単に殺せる程の力がある。それがあったからこそ、世界で争いは絶えないし、無知で無力な人らが踏み躙られる。

 だから畏怖してしまう。


 そしてそん時に俺は教えたやつの味方になるか、それとも仲裁に入るのか……そこがまだ決められない。

 俺にはその覚悟がまだ出来てない。教えたやつに刃を向ける覚悟も、間に入って双方からの恨みをかう覚悟も。

 だから今も色んなものを作ってはいるが、ある程度の歯止めをかけている。


「全く。圭は仲間だ。別にリーダーってわけじゃない。同じ立場だ、何も問題はない」

「……おう、悪いな」


 なんかしんみりしていると、涼雅が手を叩いて音を鳴らす。そうすると、先程の植物が成長していき枯れてしまう。


「ここまではやれる。どんな植物でも枯らすまではやれる。ただ一度触れないとならない」

「なるほどな」

「おまけで黒野の情報もつけとく」

「知ってたんなら最初から言えよ……」


 その情報アリならもっと譲歩したのに。ただアイツは自分のことについては黙り込む癖がある。だから先に知れるのはいい事だ。


「黒野の力は、“状態固定”。相手の強さにもよるがその場に固定出来るらしい。浅間には一秒程度だったな。無機物には一時間程度やれると豪語していた」


 黒野は良い力を得たようだ。強くて、使い勝手もいい。戦闘向きではないが、サポートという面ならかなり有効的だ。

 今後物を固定する事が役に立つ場合が多い。特に実験や道具を作る時に宙に浮かせながら作業する可能性もあるのでかなり嬉しい。


「……そうか。ありがとう」

「おう。それでどうするんだ?」

「……涼雅は俺の教室のロッカー、その端の上から二番目にある青い袋を使っていい。量産しろ」


 俺は自分のクラスの使われてないロッカーを私用している。教師からは何度も注意されてるが、治す気がないので担任も最近は何も言わなくなってきた。


 他の生徒の私物なら兎も角、俺ら仲間の私物となると厄介なものが多い。特に涼雅は毒薬を入れたりするので、教師も中身に関しては黙るしかない。ただ入れるなとしか言えない。


「ナンバーは?」

「5624の七」


 数字を変えたいが、ロッカーは学校のものなのでどうしようもない。ただし七は黒野が設定した鍵だ。それを使わないと鍵は開かない。

 中に毒とかも入ってるのでその位の厳重さが必要だ。まぁ内容物を知ってるのは少ないし、不良的な俺らの物に勘ぐるやつなど基本的にいないから問題ない。


「種類は?」

「スズラン。それの根っこだ」


 知る人が聞けばビビる部位だ。スズランの根っこは毒が含まれており、少量でも人を殺すのに十分有用的だったりする。

 しかも治療薬がないので、水で薄めるか、どうにか吐き出すしかない。


「何に使うつもりだったんだよ……」

「さぁな。それよりも今使えるんだ。それを量産して武器にしろ」


 俺はそういうと立ち上がり、寝袋のまま動く。別に寝袋のまま動くなとは言われてない。問題は無いはずだ。


「……白間のとこに行ってくる。佐賀に関しては頼む」

「嘘だろ?俺には荷が重すぎる」

「いいから。頼むわ」

「ちょっ!?」


 引き留めようとする涼雅を放置して、屋上から降りていく。

 白間なら俺の作って欲しい物を用意出来るはずだ。

 ついでに、村木先生も呼ぶべきだ。先程のリストに、村木先生の力についても書かれていた。それが本当なら丁度いい。




 という事で村木先生と白間を呼んだ。

 場所は地下一階の一室。隣の教室は赤牛を捌いた場所で、こちらの教室も少しだけ血腥い。ここで寝袋に入ってれば、流石に嫌なのでこの教室に入ったら脱がせてもらった。


「……本当にお前なんだよな。圭」

「ええ、村木先生」


 村木先生は俺の顔を凝視しながらそう言う。

 それもそのはず、今朝から俺の髪は真っ白になって、顔まで変わった。顔は美形になった。今なら有名アイドル事務所にでも入れる気がする。もしくは銀座ホストのナンバーワンとかにも。


 理由は目覚めた力が原因だ。多分、自分の体を変質させてしまったのだろう。顔まで変わって、元々イケメ……笑えない冗談はやめておこう。

 まぁ普通以下か童顔と言われてたから、良くなった。仲間内は顔面偏差値が高く、俺が相当下げていた分が取り返せる。

 少しだが顔も変えることが出来るが、まだ慣れてなく変な顔になるので今の状態が最適だ。


 髪はストレスからだと思う。真っ白な髪になって、老人のような白髪だ。あんな危機的な状況からなのと、目覚めた力で髪が真っ白になった。

 それなのに、身長は変わらずの小さめ。少し悲しくなるがそれも仕方ない。


 白髪美形になれたのはいい事だ。ただ目立つのとヤンキー感があって困る。それに美形とは言え、中性な感じだ。イケメンと言うよりは、女の子っぽさが出てきてしまった。

 仲間うちでは禁句になっているらしい。佐賀が何故か禁句としてタブーにしたそうで、俺の事を思って言ってくれたんだと思う。


「佐賀に何か言ったのか?」

「いや何も?無断で来た」

「……いや、俺も佐賀に怒られたくない」

「同感だぁ。アイツは鬼嫁よりも圧が凄い」


 二人揃って佐賀を怖がっていた。別に佐賀は言うほど怖くないし、殴るような暴君でもないと思うのだが……


「そんなビビる程か?」

「……アイツは圭には優しいからな。まるで弟相手のように優しく接してんだよ……」

「そうだなぁ。佐賀はそういう生徒だ。いつも一人なのに、周りはビクビクして機嫌を伺う」


 二人揃って目線を合わせながら話をしてるので、手を叩く。

 俺は別に佐賀の話をしに来たわけじゃないし、早めに戻らないと件の佐賀に見つかってしまう。


「雑談はいいですから。村木先生は屋上にポリタンクに入れた水をお願いします。ポリタンク自体は潰しておいたのを何処かに沢山置いてますよね。それを使ってお願いします」


 村木先生を呼んだ理由は、先生の力にある。

 目覚めた力は、水の生成。自分の体温と同じ程の精製水を作り出せるらしい。しかもほぼ限度なく、今のところ何百リットルも出せるらしい。

 成分検査もしたが、PHが7.6でアルカリ性よりの水だ。純水に相当近い。飲水としては問題ない事だろう。


「なんでだ?」

「……赤牛は兎も角として、同じような人の敵を潰す為に。“俺の手で殺る”為に」


 俺の言葉に、村木先生は顔を引きつらせる。それもそうだろう。普通に考えて、人を殺す為と言われて頷く人はいない。

 しかも人を導く先生という立場だ。頷けるわけが無い。


 だがそれでも、人を殺すのは他には任せられない。覚悟のない人じゃ、殺せない。しかも仲間内で勝負をするからよく分かるが、本気の試合で一瞬の躊躇いは負けに繋がる。

 それが殺し合いなら言わずもがなだろう。逆にこちらがやられる立場になる。


「……分かった。用意する。夜までに用意しておこう」

「それで俺は水鉄砲を作れば良いんだろ?竹製の筒を量産して」


 俺の作るものは毒水を水鉄砲に入れて相手にかけることで殺すものだ。スズランは元々水溶性の毒な上に、少し素肌で作業をしただけで手が荒れる程毒性がある。

 その毒性が最も強い根っこをすり潰し混ぜた液体を肌にかけるでも、無理やり飲ませるでも良い。その被害は言うまでもなく甚大で、確実に殺れる。


「そうそう。頼めるか?」

「報酬次第だな」


 白間の一言に顔が引き攣る。

 これを言ったのが他の奴らなら良かった。ただ白間となると困る。コイツは性格が悪い。良い性格と皮肉を言う気力も無くなるほどに、クソな性格をしている。


 相手の出せるギリギリを的確に突いて、要求を飲ませてくる。その上言葉使いがいやらしいので、交渉終了後にやられた事に気付くのも珍しくない。だからコイツとの交渉はあまりしなくないし、出来るだけ言葉には気を使わないといけない。


「……何が欲しい?」

「特製スタンガン。改造したやつで、ちゃんと一番良いやつだ」

「……冗談にしては笑えないな」


 白間の言うスタンガンとは、黒野特別製のスタンガンの事だ。警棒式で高電圧を流せる。市販のものよりも、電圧が強く、場所によっては確実に殺せる。

 そういうものを黒野は作れる。多分今も学校のどこかに隠してあるのだと思う。場所は俺も知らなく、製作者以外には知らせないようにしてある。


「冗談じゃない。本気だ」

「……わかったよ。背に腹は変えられない。その代わりに」

「よし、別件のも作っておく。大量に用意しといて、完成したら佐賀の方へと送っておこう」


 話が早くて助かる。いざって時のために様々な武器を作ってくれるのはありがたい。

 痛い条件だが、これで電力問題もほぼ解決したことに繋がる。数日後には準備を進められることだろう。


「それじゃ俺は戻るよ。佐賀にバレて怒られたくはないから」

「早く戻ってくれ。俺の関与は疑われたくない」

「……先生に同感だ」


 俺を擁護する声が出てこないのを疑問に抱きつつも、そっとドアを開けて通路に出る。

 もう用事は無いため、早めに屋上に戻ってこっそり逃げ出した痕跡を隠せばいい。ここから屋上に行くためには複数のルートがあるので鉢合わせることもないだろう。


「話、終わった?」


 安心してると声が聞こえて、ドアの奥の方にある階段を見つめる。そこには天使のような笑みを浮かべた佐賀がいた。

 優しい笑みで足音を立てずにゆっくりと近付いてくる。何故か笑っているはずなのに、口元は笑っていない。まるでモナリザの微笑みのようだ。


 普段は真顔だったり少し顔に出すだけなのに、こんな笑みをされると腰が抜けそうだ。

 昨日の窮奇すら弱く感じる。


「や、やぁ……」

「うん、話は終わった?」

「……お、終わったよ。それじゃあ戻ろう!絶対安静だもんな!」


 早めに話を切り上げて階段をかけ上がろうとすると、後ろから首を掴まれる。ガッチリと力づくで掴まれて、もがくも全然抜け出せない。

 今すぐにでもこの場から逃げたいのに、逃がしてくれる気がしない。温情の欠片も見えないし感じられない。


「……あ、あの、ごめんなさい。謝るから怒らないで」

「怒ってない。ちゃんと笑ってる」


 いや笑顔だから怖い。普段の何百倍も怖い。

 完全に納得した。先生や白間が怖いと言っていたのがよく分かる。これは確かに怖い。明らかに許す気も、手加減をしてくれる気もしない。

 こんな風にやられたらやった事もやって無い事も洗いざらい喋るしかなくなる。


 もっと早く教えてくれと八つ当たりのために、先生らの方を見れば既に土下座をしていた。

 いつの間にと思うほど気付かなかった。


「……あのー、お願い。許して」

「許す?」

「あ、いや……その、悪かった」

「悪い?」

「……なんでもない。本当にすまない」

「すまない?」


 何を言っても復唱されて威圧が凄い。

 ガチめにキレてるのか、口を開く度に掴む力が強くなっていく。そろそろ首の骨が悲鳴をあげそうだし、体の力が抜けていく。


 そう言えばフツメンな先輩が言っていた。イケメンは笑顔で許しを乞うものだと。そしたら案外許してくれると。そして自分にはそんな経験は一度もないと。

 中性顔もある意味イケメンだ。かっこいいはずだ。ならやることは決まった。

 一度顔を伏せて、顔の作りを一気に変える。某アイドル事務所や二次元の抱きつき癖のあるとあるヒーローな男にも引けを取らないイケメンな素顔に変化させてから顔を上げる。


「悪かった。次はやらない。ちゃんと報告してから行動する。これ以上心配はかけられないしな」


 キランって効果音が出そうな程の満面の笑みで返す。

 なんだこの臭いセリフはとしか言えない。

 だが俺の知る小説ではこういうセリフが定番だったはずだ。少女漫画にもこんなシーンがあるはずだ。無いなんて信じられない。

 まぁこれでミスしたらガチ土下座100連発しかないが。


「…………」


 佐賀は真顔になり、無言を返してくる。


 やはりミスしていたらしい。土下座をしようと、体を動かそうとする。

 だが佐賀は俺を地面に下ろすとそのまま土下座をしようとする俺を無視して階段を昇っていってしまう。


「え、どういうこと?」

「……今回だけ。次は許さない」

「お、おう……」


 どうやら許してくれたらしい。よく分からないで首を傾げているが、佐賀はこちらをチラ見して呆れたようにため息をついてきた。

 もはや哀れまれてる気がしてならない。そこまで俺は酷かったのかと聞きたいが、聞いて悲しくなるのも嫌だ。このどっちか分からないというむず痒さもあり、なかなかに困る。


「圭、よくやった」

「ナイスだ」


 俺は恥を得た代わりに許して貰えたらしい。

 なんだか傷ついたが、許して貰えたなら我慢しよう。

 ……この心の悲しみを癒してくれる人は居ないのかと思う。俺には慰めてくれる恋人等は居なく、まず学校内で女子生徒と話をほぼしない。つまいないということだ。悲しいなぁ。


 てかさ!?イケメンがそんなに良いのかよ!佐賀ァァァ!

 ……まぁ口に出さないんすけどね。はっはっはっ。

何故白髪かって?

私の推しがフブキングだからさ!

という事で、ノシ!

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