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1-6

俺は屋上から降りると、講堂へ向かう。

目的は藤波 涼雅。俺らの仲間の危険物担当の奴を呼ぶ為だ。生徒は全員講堂に集められているはずなので、多分そこに行けば、涼雅もいる。


ついでに赤牛の侵入経路だった玄関を調べるのもいい。

あそこは誰かの手引きがないと入れない。シャッターで、内側はガラス張りのドアだ。シャッターは破られていたが、ドアに関しては言うほどやられてなかった。ドアが押し開く形で侵入されていた。

ただ鍵はかけてあったはずだ。それなのに、やられたとなると生徒が勝手に内鍵をやった可能性もある。

ただそれでもおかしい。学校の鍵は、内側からだとしても鍵タイプになっている。生徒によるイタズラ防止のために玄関からは出れないはずだ。生徒が鍵を取るのは無理なので有り得ない。

だからといって、先生方にそんなことをする人はいない。つまりおかしいことばかりだ。


「……とりあえずは、どうするか」


渡り廊下を歩きながら、外を眺める。まだ川崎先生の死体は放置したままだ。あんな殺され方で火葬すら出来ない。


早く助けてあげたいが、赤牛のウイルスが付着してる可能性がある中で大した武器もなく担架で運ぶことは出来なさそうだ。

早くボウガンや刀とか用意しなくてはならない。出来るだけ近距離で、数発で赤牛を倒せるもの。又は足止めできて、爆発のように周りに被害を出しにくい物を。そんな武器を作らなくてはならなそうだ。

それに加えて、赤牛に危険があるかどうかを調べたりすることも必要になるので時間まで必要になる。

考えるだけで無理な可能性が多い。


「それにあの力、他の人にも目覚めてるなら良いが……」


もしあのような熱系の力を持つ人が出てくれば、先生の回収も何とかなるかもしれない。ただし気になるのはあの力、どうして現れたのか?だ。

今まで、そんな予兆はなかった。

無差別にランダムに発現しても、あの少女だけという訳ではないだろう。それならまだ理由が有りそうだが、あの少女だけ異例と言うのは無さそうだった。

そんな異例なら俺の耳に入る。


「相場は、体力か魔力か……最悪は寿命か」


体力を使うならいい。使用を限定化すれば問題は無い。それにいくら使っても、使い過ぎれば限界までやったスポーツ後同様に倒れたりする。その程度でどうにかなる。


魔力も、器として自動回復するのか、それとも周りの自然にある魔力を体に取り込んで、あの力を使えるようになるのか。まだ分からないが、こちらにも使用の限定化等で簡単な対処が出来る。


本当に不味いのは、寿命だ。もしこれが悪魔等による力なら代償が必要になる。それが寿命としてもなんらおかしくは無い。いや、逆にその方が裏がなくて安心してしまう。

どちらにせよ、力の行使には相当の制限をかけて、本当に少し楽をするためだけにのみにしなければ死にかけてもおかしくない。


「……いや、急いだ方がいいかもな」


ふと違和感に気付いた俺は階段を駆け上がる。何か嫌な予感が胸騒ぎを起こして、急げと体を急かしてくる。

違和感の正体は分からないが、ぐだっている場合では無いのは確か。早く講堂に行かなくてはならない。


「大丈夫か!」


講堂に入るとそう叫ぶ。一瞬で脳がフリーズして、視界が真っ白になりかける。

それもそのはず。そこは阿鼻叫喚地獄だった。生徒らしき物が、発狂しながら暴れ回っている。そして地面には意識を失った生徒らが沢山いた。怪我人も多く、血を出しているのも珍しくない。


「……何が起きてる……」

「圭!こっちだ!」


涼雅の声がして、そちらを向くと壇上だった。そっと壇上に上がり、周りを窺う。

その瞬間、後ろから何者かに引っ張られてカーテンの中に入れられる。声を出そうとすると、口を何者かに抑えられて声を出せなくなる。


「俺だ。涼雅だ。」

「……ど、どういうことだ?」


ホッとした俺は、抵抗を止めると涼雅の方を向く。涼雅は口を抑えていた手を外してくれた後、カーテンの下から外を覗き込んだりしている。多分、外の警戒だろう。


「分からねぇ……いきなり生徒らが爆発を起こし始めたんだ。発火系の力はないが、動物になったり、水や突風を起こしやがって、もうハチャメチャだ」


どうやらあの少女と同じことが起きたらしい。運がいいことに火を起こす人は居なかったらしく、燃えることは無いらしい。

学校の講堂が燃えたら、皆の集合場所が無くなる。その上、一斉に集まれる場所がなくなって籠城不可になる所だった。


「……今助かってるのは?」

「死者はいない。ただし発狂してるヤツら、力で暴れ回ってやがる。最初は力で笑いまくってたのもいたが、発狂した連中にボコされて、地面に突っ伏してる」


どうやらあれは自業自得と言っても良いらしい。なら放置するとして、あの発狂メンバーをどうするかだ。

明らかに人外を超えてる。熊よりも怖いし、見境のなさが余計に困る。


「……黒野は?」

「アイツはそこで休んでる。肉壁になって俺らを守ってくれたからな。体はボコボコにされてたが、骨に異常は無さそうだ。何とか無事だ」

「他の先生は?」

「黒野と一緒だ。最初は止めようとしたけど、化け物に吹き飛ばされてな。何とかこっちに匿えたが、怪我は相当だ。止血だけしか出来なかった。


カーテンの奥の方を見れば人影がある。あれが先生や黒野なのだろう。ただ少しだけ息が聞こえる事から、命に問題は無さそうだ。

ただこのままと言うのは難しいので、俺らで何とかあの化け物を止めなくちゃいけない。


「……そうか。ならここからは俺の番だな。涼雅は今すぐに別館の屋上に行け。あそこで佐賀が待ってる」

「分かった。頼む」


涼雅に指示をして見送ると、俺は息を吸う。そして深呼吸をすると、心を落ち着かせる。

慌てるよりも、一気に終わらせてから叫んだ方がいい。今はゆっくり精神統一して、これからのことを考えるべきだ。


それに佐賀から借りたボディガードが役に立つ。そいつの技量次第だが、何とかなる可能性がある。


「……浅間、動けるか?」

「無論ですよ。いつでも動けます」


浅間 大和。俺の仲間で、比較的新しい人だ。武術……いや、足技にたける人で、ストリート系のダンサーとキックボクサーでもあるらしい。剣道も好みとしているが、下手くそで、それを指摘されるとガチめにキレる。

まぁ佐賀が誘ってきた奴だから、詳しい事までは知らない。人柄と特技、苦手なことを知る程度だ。それ以上はよく分からない。


「……足技を使っていい」

「よろしいので?」

「ああ、やれ。ただし骨はやるな。臓器を傷つけるな。確実に戦闘不能にしろ。そしたら俺が失神させる」

「……私が気絶させてもよろしいので?」

「もちろん。てかそうしてくれる方が良いな」

「分かりました。やりましょう」


そう言うと、隣にいたはずの浅間がカーテンから外に出ていく。影が薄いのか、足音がしないのか、それとも技量なのか……どれも有り得そうでなんとも言えない。


カーテンの外では人からしてはいけない音や、悲鳴が聞こえる。ただ声は減っている事から、ちゃんと仕事をしてくれてるのは分かる。

それなら文句の付けようがない。


「……選出間違えたかもだけど、まぁ良いか」


カーテンから出ていくと、すぐに生徒らの首にヘッドロックして気絶させる。発狂してるおかげか、視界が定まってなく後ろに回り込みやすい。それに適当に乱射してるだけだから、動きも読みやすい。


そしてこれが一番の朗報だ。暴れてる数は少なく、面倒なのは獣みたいになってる6人だ。かれらは果てしなく面倒臭い。

意識はないが、何かしらの本能が働いている。こちらが顔を向けたら、攻撃はしないが見定める様な目をしてくる。


「浅間!獣には一人ずつ、二対一になるように挑んで、一人一分で終わらせるぞ。特にあのカバとライオン、気をつけろ」

「分かりました!」


俺の知る動物だと仮定して、危険な物を頭の中で並べていく。倒せそうな生徒はあらかた片付けた。あとはこちらに飛んでくる生徒だ。


浅間から飛んでくる生徒の腕を掴むとそのまま首を絞めて、気絶させる。

確実に気道を絞めることで、意識を落とす。頸動脈を押しても良いが時間がかかる。その間にやられても意味が無い。なので腕で気道をすぐに絞めて5秒間やる。この程度なら気絶しても、後遺症は残らない。強いて言うなら苦しい程度だが、問題ない。


これは佐賀に教わったが、理由は知らない。ただ護身用に教わったのだが、実践はこれが初めてだ。というか、こんなのを使う状況が来るとは思ってなかった。


「……流石ですね」

「皮肉か何かかよ」


俺が気絶させた生徒の数は10名弱。だが浅間の方は既に20名を超えてる。もはや皮肉でしかない。しかも気絶のさせ方も上手い。蹴飛ばしながらも、確実に意識を刈り取ってる。


「おっし、次だ。それぞれカバ、ライオン、キツネに、マントヒヒ、白鳥。最後のあれなんだ?」


指さしながら、動物の名前を言っていく。カバとライオン、キツネ、マントヒヒ、白鳥は完全に同化してたからわかりやすい。もう動物園に居ても間違えない位だ。キツネに関しては九尾だし嫌な予感もするが、まぁそれは構わない。

それよりも最後のやつだ。翼の生えた虎だ。まるでキメラのような姿だが、気持ち悪い。


「……あれは窮奇ですね」

「はぁ?あれは四凶だろ。しかも幻獣の!」


中国に存在する化け物の一種だ。窮奇という名前で翼の生えた虎。間違いはないがそんな事があるとは思えない。というか、そうなら尚更まずい。窮奇自体は周りに悪を振りまく化け物だ。

それに強い。多分俺と浅間だと厳しい。


「あそこに九尾がいる時点で幻獣という言い訳は無理があるでしょう。弱いのから潰しましょう」

「……おう!」


俺はこれを上げると、マントヒヒに向かってかけ出す。

先生には優の方が強いだの、なんだ言われた。だがそれは対物の話であり、対人なら仲間内でも俺の右に出るものはいない。それは人型ならば、対人にも当てはまるという意味にもなる。


「……全く面倒な話だよな」


マントヒヒの拳を避けると、腕の関節を蹴りあげる。大したダメージはないが、それでいい。これは煽るのが目的だ。

激昴したマントヒヒが俺に向かって走ってくる。ちゃんと煽りに乗ってくれたようで嬉しい。

バックステップで少しずつ後退していく。


「まずは一匹」


俺がつぶやくと同時にマントヒヒが地面に潰れる。頭の上には浅間が飛び膝を食らわせていた。

普通なら意味は無い。

だが浅間は武術のプロフェッショナルと言ってもいい。故に足には板を常に入れている。浅間の方は痛くの痒くもないだろう。


「おっし、ナイス」

「次はどっちをやりますか?」

「ライオンと……キツネかな」

「了解」


ライオンの方に向かって、手を振り続ける。こちらに向かってライオンが走ってくる。そしてタイミングを合わせて、浅間と同時にしゃがむ。

ちょうどタックルしようとしていたライオンはそのまま真っ直ぐ飛んでいき、対角線上にいたキツネを吹き飛ばして壁に激突する。

ギリギリで避けた為、相当な勢いのままで二匹とも気絶してしまった。体が少しずつ人の形に戻っていく。


「あーあ、可哀想に」

「思ってないでしょう」

「あ、バレた?」

「そんじゃあ舐め腐って後ろにいる窮奇様はほっといて、カバを潰すぞ」


カバというのは地上生物でも最強格に強い。足も早ければ、力も強い。ライオンの何倍も怖い生物だ。

だからこそ最後にしておいた。デカいだけの木偶の坊ならば真っ先に潰していた。だがそうはいかない為、二人がかりで、邪魔の出ない形で狙うことにしていた。


「……浅間、そろそろ本気で行くぞ」

「それはどういう事です?」

「マントヒヒ潰すときに見えたぞ。足が薄らと何か纏ってたのを」


普通の人が特別製の板を足に入れたとこで、マントヒヒを気絶させられることは無い。大体地面を凹ませるとなれば、人外クラスの脚力と筋力が必要となる。だがそんなのは佐賀から聞いてない。

となると、力に目覚めたということで間違いない。


第一に、肉壁になった黒野や先生助ける為には誰かが力に目覚める事が前提となる。そんな人物、俺が来たら教えてもおかしくない。それはもうやられた人物でも教えてくれる。

だがコイツはその人物について黙っていた。そしたらコイツしか居ない。


「あれ、バレてましたか?」

「バレるようにやったくせによ……いいから潰せ。まだ化け物が居るんだぞ」

「分かりましたよ」


浅間は走り出すとそのまま蹴りを、カバの腹を入れると5メートルほど打ち上げて、地面に叩きつける。泡をふきながら完全に気絶していた。

カバの脂肪や耐久性能がなければ確実に即死だったろう。


「……いい力だ。あと邪魔だ。俺の仲間が相手するまで、落ちてろ」


大方身体強化系だと思うが、浅間に合った良い力だ。あそこまでの強化で、スポーツ系の浅間となれば、あの窮奇も倒せるかもしれない。


後ろから狙ってきた白鳥に向かって蹴りを入れる。はねにうまくはいったらしく、悶えながら必死に羽ばたいていた。

窮奇の方を見れば、やっと重たい腰をあげたようでこちらに向かって歩いてくる。白鳥と俺、窮奇と浅間は睨み合う。そして俺と浅間は背中を合わせると話し合う。


「流石ですね」

「いいから白鳥を潰せ。結構ブチ切れのようだ。多分腕を折る勢いで来るぞ」

「……任せてください。その代わりに足止めは頼みますよ」


白鳥というのは中々に怖い生き物だ。鳥で綺麗、優雅、なんてよく言う人も多い。だが白鳥は、鳥の中でもハゲワシやタカよりも凶暴な生物で間違いない。

白鳥はブチギレると、相手の四肢をへし折り、皮膚や肉を食いちぎる化け物だ。女性に対して白鳥なんて比喩をすれば、顔面を殴られてもおかしくないほどの発言だ。


「……やるぞ!」

「はい!」


俺と浅間は同時に反転して、戦う相手を変える。相手からの注目を集めるために俺はポケットから石を取り出すと、窮奇の顔面に投げつける。

窮奇も怒ってくれたようで、軽く吠えて睨んでくる。


「かかって来やがれ!」

「グォォォ!!」


吠えた感じからしても、元が人とはいえ喋れないらしい。ただ意味は通じているようで、素早く襲いかかってくる。

相手の速度は予想よりも早く、ギリギリで避けるのが限界だ。しかもかなりのパワー系らしく、地面に凹みもできていた。

俺が避けるのをみすれば、壁に思っきし吹き飛ばされる羽目になる。


「……もって三分!」

「一分で終わらせます!」

「オケ!それまでは耐える!」


窮奇の攻撃を避けながら、講堂を走り回る。相手の体が大きい上に、講堂が小さいので避けるのは容易だ。速度はあるが、やはり獣。動きを読みやすい。

ただし向こうがこちらの動きに慣れれば、耐えられるかは不明だ。下手をすれば死ぬ。一撃くらっただけで戦闘不能になりそうだ。


「かかっこいよ!羽付き猫!」

「ガァァァ!」


ちゃんと煽りの意味は通じているようで、何度も吠えてくる。

ブチ切れを眺めながら、講堂に上がる。

そして隅にあるドアから倉庫室に入り込む。ここは安置だが、このままだと窮奇が浅間の方へ向かってしまう。流石に化け物二体は浅間も無理なのはわかっているため、息をつく暇もあまりない。


なのでものが入ってる樽型ボックスを取り出すと、ドアを開けて講堂に向かって投げ込む。


「……来いよ来いよ!羽付いただけの猫が人に勝てるとでも思ってんのかぁ!」


樽型ボックスから薙刀を取り出すと構える。学校の部活道具だが、時間稼ぎにはちょうどいい。折れても沢山あるから、別に問題ない。


窮奇の間接めがけて薙刀を打ち込む。俺の一撃に窮奇は鳴き声をあげながらもがく。

普通にやったら効かないか、折れるだけだ。

だが今回は狙い方が違う。講堂にある穴。本来はバレーをする時用にポールを差し込む場所だ。

そこに薙刀の石突を上手く斜め固定する。そうする事で相手の全体重と勢いが同時に跳ね返るというわけだ。

石突は薙刀の後ろにある革のたんぽをつける場所だ。それを斜めにして、切先の所を窮奇の関節にぶつければ、重い一撃が入る。現に窮奇は悶えじたばたとしている。


「……あーあ、折れちゃった。まぁいいか」


打ち返せはしたが、やはり厳しいらしい。薙刀は木製故に、ヒビが入ってもう使い物にはならない。一撃を入れるまで耐えてくれた事に感謝をするべきだろう。


「次だ!……っと来たか」


白鳥を潰した浅間がこちらへ来る。

ハイタッチで敵をチェンジしようとした時、あと少しで手が触れるはずだった浅間が何者かに吹き飛ばされる。

困惑しながら、飛んで行った方を見る。


「……てんめぇ!」


壁に激突した浅間を見て、気付く。

どうやら白鳥にタックルされたらしく、浅間はやられてしまった。白鳥はブチ切れながら、ぶつかった浅間をいじめていた。


「……おいおい、こんな場所じゃ爆発使えねぇぞ」


この場で勝つ方法は一つしかない。それが爆弾の使用だ。ただ地面にはまだ気絶した生徒がいる。

こんな所で爆発なんてしたら、生徒まで消し炭になる。俺も生き残れるか不明だ。

屋上まで誘き出すにしても、講堂のドアは縦に二メートルで、横に四メートル程度。確実に通れない。つまり無理だ。

それに窮奇の方が足は早いだろう。講堂のドアは重く、両手を使わないといけない。多分ドアを開ける前に薙刀を使えずに殺される。


「……ちっ、俺にどうにかしろってことかよ……かかってこい!アホウドリに羽付き猫!」


新しい薙刀を構えながら叫ぶことにした。

白鳥はこちらを見つめながら、嘲笑うように浅間を足で持ち上げてくる。

二対一だが、俺一人でも片側の相手は難しい。


「……てかもうなんでもいいから力貸せよ。仲間もアイツらにも力が出たんだしそのぐらいはよ!」


怒鳴りながら窮奇に向かって薙刀を打ち込む。ただ向こうも悶えていたのが回復したらしく、爪で応戦してくる。

時々飛びかかってくる白鳥に、折れた薙刀を投げつけながら必死に講堂を逃げ回る。


「ちくしょ……」


爪を受け止める事は難しい。薙刀を使っても、他の爪で切り裂かれる。となると避けて間接に薙刀を差し込んだりすることで、動きを封じるのが限界だ。ただしそれも繰り返せば薙刀は折れる。


「おらおら!」


薙刀が折れる度に新しいのを地面から取り上げて構えて応戦する。折れたのは白鳥への牽制には使えるが、窮奇の足止めにはならない。

今んところ消費した薙刀は七本。のこりはあと十三本だ。その間にこいつを何とか出来れば俺の勝ちだ。

勝利条件は至って簡単。


“この場をやり過ごして生き残る”


たったそれだけだ。だがそれが難しい。


「……こんなの、停学の一ヶ月半分の課題が白紙の状態で残り一週間に比べたらマシだ」


嫌な悪夢を思い出しつつも体を動かす。いくら化け物だろうと、本質は人だ。基礎が人である時点で、やり続けばなんとでもなる。

勝てない試合なんてものはない。


「ぶっ潰してやる」


薙刀を窮奇の首に叩き込み、そのままもう片方の薙刀で地面に叩きつける。そして窮奇の背中から飛び跳ねて、白鳥の背中に薙刀を引っ掛けて地面に叩きつける。

白鳥が余裕をぶっこいてたおかげか、地面に叩きつけられた衝撃で気絶していた。少しずつ人型に戻るのを見て、少しだけほっとする。


もう体力も限界らしく、足が震えている。腕も薙刀を振るい続けたせいか、悲鳴をあげていた。薙刀を持つ手も、痛くて上にあげるのも難しい。


どこぞのバカ……まぁ黒野の事だが、あいつは「生と死の間で戦いあってれば疲れなんて感じない。当たり前だ!」と言ってくれた事があったがあれは嘘かなにかだろうか。


「もう起き上がるかよ」


窮奇が起き上がるのに合わせて立ち上がろうとする。薙刀を杖にして起き上がろうとする。

だが目の前に何かが現れて吹き飛ばされる。杖替わりの薙刀で衝撃を受け止められたが、背中を壁に激突して、体が悲鳴をあげる。痛みで薙刀を遠くに手放してしまう。もう足元には薙刀はない。


地面に突っ伏しながらもがく。先程のは窮奇のタックルらしく、骨は折れてないがかなり痛い。立ち上がりたいが、今の衝撃で足もやられたらしい。


「クソが」


俺の体を窮奇は何度も踏みつけてくる。

身体中が痛く、悔しそうにしていると骨の折れた音がする。鈍い音だった。血塗れで、皮膚から骨も少し見えていた。

何度も同じ場所をやられたせいか、早く切除しないと壊死すると思う。


「負けられるかってんだ!こちとら鍛えてんだよ!ここまでやりながら、死ねるか!」


俺は無理やりに立ち上がると、窮奇の足を避けて距離を取る。足は折れてないが肋骨や背骨、それに片腕はやられた。多分もう動かない。自分の出刃包丁で切るしかないかもしれない。

戦うなら、残った片腕で薙刀を持ってやり合うしかない。


というかここまでの状況で何故力に目覚めないのか、魔法の一つでもつかえればいいのになんでと思う。


「結界!」


叫ぶが何も起きずに虚しくなる。もう諦めた方がいいと思いながら、痛い腕を動かしてポケットから爆弾を取り出す。

爆弾を口で咥えて、ライターを取り出す。


「……あーあ、もう終わりか。こんなクソ化け物で、しかも学校みたいなとこで死ぬなんて最悪過ぎる」


爆弾に火をつけようとしながら、頭が痛くなる。ズキズキして、立てなくなってふらついて膝をついてしまう。もがきながら発狂するように悲鳴をあげる。

ライターが地面に落ちて、爆弾が転がっていく。残りたった一つの爆弾に必死に手を伸ばしながら苦しそうに、地面に伏せる。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


体が熱く、それでいて何故か冷たい。それで体の感覚もなく、じたばたもがく。骨折を超える痛みで、視界すらも揺らぐ。

目を閉じてしまいながら暴れるしかない。彼らも同じようなことになって発狂したのかもしれない。


もがいた手が地面に触れると、青い光が講堂の地面を流れていく。目はつぶっているはずなのに、真っ黒い視界に、見える。青い光がまるで分岐する木のようにどんどんと広がっていく。枝分かれする木が、視界に広がる。


「……ああ、そういうことか」


俺の頭に今までの疑問の答えが流れてくる。理解して、悲鳴で枯れた声で、何かを呟く。

こんな時なのに、悲鳴をあげながらじたばたして、情報に喜ぶ。これだけの情報があれば、俺は問題ない。強くなれる。

ただだんだん意識が朦朧とする。そしてそのまま意識を失いそうになりながら、両手を地面に叩きつける。青い光が、広がっていく。何が起きるのかは分からないが、悪いことではないと思う。


この場を助けてくれと願いながら、俺は痛みで意識を失った。

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