1-5
《サイド 佐賀》
「……実験は成功した……次は飲み物の確保。この近くに水源ないか調べて」
「任せろ。全員で当たる」
仲間に話をしながら、横で寝ている圭の手を握る。
昔の圭は一人で眠ることが多かった。でもある時、とある事件に巻き込まれてから一人では寝なくなった。必ず友人宅で寝泊まりするようになっていた。
それは私の家だったり、優だったりと仲間の家を転々としていた。時には私や優が圭の家に行って、一緒にお泊まりもした。
「……まぁては出してくれなかったけど……仕方ないよね。それが圭だもん」
圭の為に、少し派手な下着を付けたりもしたけど、あまり意味がなかった。私の腕に巻きついてそのままグッスリと寝られたら、何も言えない。可愛い寝顔だったと言えばいいのかすら分からない。
ただこちらの世界に来てから、寝る時の癖が余計に強くなった。仲間が多くないと寝ないし、寝てる時は周りの温かいものにそっと近付いて手を絡ませたりする。
その理由は怖いんだと思う。この世界に来てから、直ぐに恩師の川崎先生が死んだ。だから、これ以上信頼出来る人を失いたくない、そう思っているはず。
「……今いいか?」
「うん、起こさないように」
圭の反対側に優が座り込む。優も圭が心配で仕方ないっぽい。
この世界に来てから、圭は相当無理をしている。圭も発狂したいくらい困惑している。
それでも私たちのリーダーだと言うのを理解して、頑張って皆を引っ張ってくれる。出来るだけ普段通りにしてはいるたが、明らかに無理してるのは目に見えていた。
「……新しいタオル、お願い」
「分かった」
圭は元々汗をかかない。強いて言うなら緊張した時に、大量に汗をかく。そして結構な熱を出して辛そうにする。
それが今だ。私たちの前では気張っても、気の抜ける睡眠時間。その時は熱中症の様に苦しそうに熱を出して、涙を流していた。だから心配になる。
それに寝言というのは、かなり真実を教えてくれる。こちらの世界に来た翌日、圭は気絶するように寝た。
その時に眠りながら、必死に何かにすがっていた。今は亡き、両親と弟に懇願していた。自分の無力を嘆きながら、涙を流して苦しそうにしていた。
かつて、圭はとある事件に巻き込まれた。
それはデパートでの火事。死傷者は30人以上であり、沢山の人が死んだ。重傷者は三桁を超えた大事件。
そのデパートには圭とその両親、そして圭が大切にしていた弟も居た。そして死傷者の中にも、両親と弟が居た。
それ故に、中学生なのに一人孤児になった。両親の生命保険と、遺産で高校生ながら一人暮らしをする子。
中学生だが、圭は父親の知り合いに会いに行った。そして自分の出来ない事は頼みつつ、一人暮らしを始めた。だが中学生で家族無しで一人暮らし。頼れる人なんていない圭と仲良くする人はほぼ居なかった。
その時に、孤立した圭と仲良くなったのが私と黒野。
黒野は圭に助けられたそう。亡き親の借金で仕方なく、不良で借金の回収をしてた所を、
私は、人間不信を圭に直してもらった。そんな圭は、私以上の人間不信だけど……圭の境遇から考えれば仕方ない。
「……持ってきたぞ」
「ありがと」
優のくれたタオルを、圭の首元に置く。
優も圭に誘われて、仲間になった。その他にも、数名居てその仲間も全員圭が引き込んだ。圭にはそういう天性の才能があった。
他の才能にも秀でたりはするが、それでも一番の才能は一つ。それこそが帝王学。リーダーとしての有能さ。
本人は自信がなくて、人間不信だからリーダーとしてはダメかもしれないが、それが治れば一気に天性の才能で誰にも負けないリーダーになれる。
「……大丈夫、私達が守るから」
例え誰であっても、圭は譲らない。もし譲れば、圭は余計に傷付いて悲しそうにするから絶対に守る。
その為なら、彼の望みじゃない事でも行うし、彼の明日の為ならば私の命も仲間の命でも捨てる。
「恋した女ってのは悲しいな」
「……黒野、話す暇があるなら早く終わらせる」
暗がりでこちらを見てくる男を睨みつけながら、優しく布団を整える。圭の腕を捲って、そっと汗を拭く。
細かい傷が増えたのがわかってきて悲しくなる。無茶をしてるせいで、小さな怪我が増えたのは悲しいこと。
悲しくなりつつ、そっと圭の腕を撫でる。少し熱いくらいだから、何度もタオルで拭く。
「おいおい、そりゃないぜ。あれだけの量、そう簡単にやれるか?」
「うん、やって」
「……は、ははっ、こりゃ大変だ。旦那の付き人はおっかねぇや」
冗談はいいから、早く仕事をやって欲しい。無駄口を叩いた所で、無駄が増えるだけ。そんなの圭へのメリットは何も無い。
「無駄口いらない。天羽と浅間呼んで」
「はいはい。おーい、そこの二人こーい」
二人の男がこちらに向かってくる。片方は無愛想で不良っぽい男。もう片方は、真面目そうな青年。
前者が天羽、後者が浅間で、どっちも喧嘩慣れしてる。天羽に関しては、北辰一刀流と示現流を習ってる人で剣道なら、仲間の中でも随一。暗くて強面なのが、周りに悪影響だけどそれ以外は偉いし、頭もいい。
浅間はキックボクシングで県で上位に入れる実力を持つ。パルクールも出来て、私に教えてくれる。少し飄々としてはいるが、中身は真面目。
どっちも私達がこのグループに引き込んだ。この二人以外は圭繋がり。圭の引き込む人は、あまり冷酷じゃなかったり何処かで甘い所があったりするから。もしくは圭への被害で、冷酷になれないことも多い。
その為に、冷酷で強い人を二人だけ誘った。私独自のルートで誘ったから、少し危なかったりもするけど、大した問題じゃない。
「天羽は調べておいた人達。何かしようとしてきたら、軽く〆てから先生に渡しておいて。怪我はさせちゃダメ、圭に迷惑かかる」
「……ああ、分かった」
無愛想に頷くけど、真面目なのは理解してるから、気にしない。それに天羽は笑ったら、周りを怖がらせてしまう。人を何人か殺った様な目をして、見つめてくるからダメ。狂犬か獅子に睨まれてる気分になる。
「浅間は、圭の警備。それとこの場所変わって」
「私ですか?」
「うん、仲間の中でも先生とかに知名度低いし、影薄い」
私は浅間を隣を寄越すと、圭の手を握らせる。普段なら嫌だけど、今はそんな場合じゃない。
私はこれから、見張りをしなくちゃいけないから変わってもらわないといけない。だからと言って、圭を放置するのは怖いから信頼のおける浅間を置いておく。
「そ、それはあまり嬉しい事ではありませんね」
「それで、やってくれる?」
「もちろん。貴女のご命令とあらば」
「そう、ありがと」
そっと屋上から外を眺めながら、忌々しく赤牛を睨む。
明らかに怪しい。何か分からないけど、あの赤牛には嫌な感じがする。多分赤牛についての危険度は高い。
それに目つきというか、勘だけど……いやらしい感じがする。
「……私の許可なく、赤牛に近寄るのダメ。爆弾の使用も威嚇で軽くやってから」
「どうしたんだ?赤牛は確かに恐ろしいが、そこまでとは俺には思えないぞ?」
「……分からない。何となくだけど、危険。」
「分かった。警戒レベルをあげるように伝えておく」
私は頷くと、頭をあげる。日が上がってきて、明るくなってくる。キャリーケースの時計によれば、4時。圭が起きるのは5時な為、早く準備をしなくちゃいけない。
《サイド 肥前圭》
朝っぱらから外を眺めていた。内容は赤牛について。
校庭には沢山の赤牛が居る。赤牛倒す方法が見つかっても、何故かどんどん復活してくる。
食料が尽きないことには有難いが、あまり見ていて良いものではなかった。
確かに牛の様な見た目はしているのだが、個体差がある上に気持ち悪いのがかなり多い。二足歩行が大半だが、時々四足歩行もいる。
もちろん大きさも違えば、ヒョロっとしたのからダルマみたいなのもいる。顔も結構醜く、明らかに化け物だ。まるで人のように顔つきにも差があった。
純粋に気持ち悪い。虫の形じゃないのだけが唯一の救いだ。ミミズやナメクジみたいな赤牛が現れた失神する自信がある。
というか、それはもはや赤牛ではないのだけれども。
「はぁ……これからどうなるんかなぁ」
正直希望は薄い。少なくとも、この場所は地球上のどこでもない。それは今手の中にある教科書で分かる。
物理の教科書の付録に宇宙の星の図があった。こっちの世界に来てから、確かめているが、星が全く別だ。軌道も違ければ、星の大きさも違う。多分太陽系ですらない。
一応仲間の真衣と言うやつに頼んで、教科書の太陽系をパソコンに打ち込んでもらった。それと照らし合わせたりしてはいるが、まず有名所の星が見えない時点でありえない。
ただ有り難いことに太陽らしきものはある。それは救いだ。それはソーラー充電器で確認済みだ。それによって、日付やカレンダーも動かせている。
一応、俺の包丁入れてあるキャリーケースにはジャイロトゥールビヨンを付けてある。
3Dの立体型トゥールビヨンなのだが、これはかなり精密……というか、間違いが起きないものなので、時間の間違いはないだろう。だから生活リズムが気付かぬ間に崩れていたということはない。
「さーて、どうするかな」
地面に置いてあるボウガンを手に取る。仲間が昨夜からパーツを集めて、今朝作り上げたものだ。
一応動物を狩る道具だが、生徒に渡すにはまだ悩みが残る。正直命を奪うというのは、そんな軽い行動じゃない。
もしミスして他の生徒に当たった場合は取り返しがつかない。医療器具もほぼない状態で矢が刺さったら出血多量で確実に死ぬ。
その時、責任問題は俺になる。そうしないと士気が下がる。もし生徒が当てたと発覚したら、事態は急変する。だからこそこの武器の取り扱いは厳しい。
それにそうしなければ、生徒が病むか発狂する。人を殺したというのは、そう簡単な話じゃない。命を奪うと言うのには、それ相応の重みがある。
やった時は軽くとも、少しずつ怖くなって夜に一人でも寝れなくなるし、起きてる間も怖くなる。殺しというのはそういうものなのだ。
危険度で言えば、キャリーケースに入れた包丁らと同等だ。遠距離から放てて、人を簡単に殺せるものなど良くない。
正直、面倒で仕方ない。だから自己責任を取れる人、まぁ教師とかに渡したい。あとは仲間らだけだ。
と言ってもまだ完成はしてない。威力も対人ならばともかく、赤牛に通じるかは不明。なので未完成品だ。一度仲間内で試して、改良が必要になると思われる。
「てか熱いな。いくら冷房無しの屋上とは言え、流石におかしくないか」
現在は秋というのに、まるで真夏だ。いやそれ以上……中々に怖くなってくる。
俺の体温が上がっているという説もあるが、それはあまり無さそうだ。
どうしようかと悩んでいると、警報が鳴り響く。
これはビープ音アラームだ。記憶が正しければ、どこかの入り口のシャッターが破られた時の反応だ。
「どした!」
隣で仮眠をとっていた優は起き上がると、すくに体を屈めて戦闘態勢に移る。その他の仲間三人も起きて構えていく。
全員すぐ動けそうだ。これなら顔に水をぶっかけなくても問題なくやり合えそうだ。まぁ寝始めてから2時間というところ。起きて良かった。
「分からない。ただ事実はシャッターが破られた事だけ。優は煙幕持ってくれ。佐賀は爆弾、テルのほうを持って。佐賀は俺と優の方!」
「おう」
「分かった」
叫ぶと、佐賀と優はダンボール箱の方に向かって走っていく。
頼んだものさえあれば、俺ら3人でも赤牛が2桁を超えなければ押し止められる。少なくとも、相当な時間は稼げる。
パーカーの内ポケットなどに道具を詰め込みながら、他の二人の方を見る。
「黒野と涼雅は先生と合流。その後先生方と避難に徹しろ。シャッターの場所によるが、講堂は本館の上の方の階だ。まず赤牛はこれない!それに生徒は当然として、先生も俺の方によこすな。俺らは三人で十分だ。行くぞ!」
「応!」
俺は説明を終えると、佐賀と優を連れて屋上のドアを蹴破って降りていく。
階段は面倒なので、佐賀と優が手すりを使って飛び降りる。その後に俺もワンタイム遅れて飛び降りる。そして先に降りた優にキャッチしてもらう。それを繰り返して、一階まで下りてくる。
シャッターを見つけると、佐賀はすぐに走っていく。そして壊れたシャッターのある玄関に向かうとドアを触って確認する。
「やられたのは別館入口、ちっこいやつ一匹もぐりこんだ……足跡から見ても、人型赤牛、でも四足歩行かも。大きさは60センチ。身長って意味だと1.5メートル。多分だけど」
どうやら一歩遅かったらしい。だが一匹ならどうにかなる。ここにいるメンツなら一匹程度始末して、すぐに先生らのサポートに回れる。
「このドアに関しては……一時的に封鎖だな」
「どうするの?」
「優、ガムをくれ。」
優から投げられたガムをキャッチすると口の中に入れて、軽く舌で揉み込む。そしてドアを閉めると鍵穴に噛んだガムを押し込む。
少し鉄が熱くなっていることから、少し前まで人が触れていた可能性がある。まぁ熱が籠っているから、それが原因かもしれないが。
「これでいい。どうせガムだからすぐ取れるしな」
「分かった」
「次は赤牛だ。被害出す前に潰す。追跡は出来るか?」
「勿論、来て」
俺には分からないが、佐賀には見えているらしい。サバイバルが得意と言っていたのは、伊達ではないらしい。それならば、俺は黙ってついていくだけだ。
「……焦げ臭い、鉄くさい」
佐賀の呟きに優と俺は焦る。鉄というのは血の匂いでもある。もしかしたら犠牲者が出る可能性もある。
正直、あまり犠牲者を出したくない。別に普段はクラスメイトが自殺したなどと聞いても、興味がない。だが今は困る。死体の始末も赤牛の病気も怖い。
それが俺の焦る理由だ。優もこれは知っている。知らない生徒を助けるほど俺はお人好しがじゃない。それに俺は仲間でもないやつに慈悲などないので、本来は見捨てたいが仕方ない。
「見つけた。本館への渡り廊下、あそこにいる。生徒、多分女生徒。危険」
俺は優と顔を見合わせる。正直、相当まずい。本当はゆっくりと壁際に追いつめるつもりだった。その上で爆発させて殺すつもりだった。それなのにこれだと爆弾は使えない。
渡り廊下が使えなくなれば別館と本館の行き来が難しくなる。可能ではあるが問題が発生するので、仕方ない。軽く追っ払うしかない。
「悪い、佐賀」
「いい。あれもあるならいける」
どうやら俺の新作を知っているらしい。まぁ仲間内で話は広まりやすいので、知られても普通だが。
まぁそれならば話は早い。優と佐賀が別館の窓から腕を出すと、二人の腕を足場にして、別館の壁につかまる。
フックなんて良いものはないので、腕に巻いていたお手製ランヤードを、渡り廊下の窓枠にひっかける。佐賀のサバイバルの時だったり、黒野の機械系の仕事にも使うほど丈夫だ。俺の体重は50キロだから余裕で持ちこたえられる。
「上に頼む」
「おう!」
優の掛け声で、体が上がり踏ん張りを付けて、渡り廊下に窓から侵入する。その瞬間、熱波を感じた。
何事かと顔をあげる。そこには女子が手から火を出して、赤牛族に威嚇をしていた。何度見ても、ライターではない。どんな状況か分からない上に、非科学的な現状を目の前で起こされてしまって余計に困惑する。
だが動かないのはここに来た意味がないので、ポケットからとある爆弾を取り出す。
この爆弾は、殺すというよりは足止めだ。人が多い場合に使おうと思い、試作品を作っていた。教師に渡そうと思っていたが、先に実践できるならこれほどないプレゼンになる。あの少女に関しての始末は後でも出来る。
「おら!こっちだ!」
ペンを投げつけて、赤牛の意識をこちらに向ける。
こちらを見ようとした瞬間に赤牛族の足に瓶を投げつけて凍らせる。吸熱反応を利用して、周りの空気を凍らせる事で動きを封じる試作品だ。液体化窒素も入れて、普通なら凍傷になる。まぁ相手は赤牛、足止めにしかならないのは確実だ。
そしてすぐに駈け出すと、赤牛の脇を抜けて少女の腕を掴む。そのまま別館に逃げ込む。
「走れる……わけねぇよな。少し乱暴になるが我慢しろよ」
腰の抜けた少女を背負うと、腕を首に回させてそのまま走り出す。背中や顔に熱した鉄を押し付けられているようだ。
多分火の消し方が分からないようだ。着火はしてないし呼吸も出来るからいいが、汗が止まらない。多分温度で100度越えだと思う。
「あ、あの……」
「あ?」
「い、いえ……」
仲間にかける声をしてしまい、ビビらせてしまったらしい。
怯えて俯いてしまっている。これではどうしようもないので、そっと優しい声で話しかける。
「あ、すまん。別に怒ってない。どうかしたか?どこか痛いか?」
「い、いえ……何故助けてくれたんですか?」
「…………」
つい黙ってしまう。本音はきつい言葉だ。それを素直に伝えるのは悩む。本音はあんなとこで死なせたら、その後に病気だったり使えなかったりという様々な障害が出てくる。
だが、死なれたら面倒なんてひどいことを言うべきじゃない。
それに男ならこんな経験をしたやつには優しい言葉をかけるべき。それが人として、すべきとことだ……というのは分かってはいる。
「……あそこで死なれたら困んだよ。色々と後始末が面倒だ。それにその腕のやつ、未知のものだよな。火っぽいが、着火もなければ、やけどもしない。そんなもんを放置できるか」
「それだけですか?」
「ああ、俺に優しい言葉を求めるな。まぁこの後合流するやつになんかそこそこちゃんとしたヤツがいる。あいつは優しいから、それまで我慢しろ」
「い、いえ……」
何故か首をしてる力が強くなったが、気にせずに走りながら屋上へ向かう。時々後ろを確認したが、やはりついてきている。四足歩行で足の速さは向こうの方が上だが、地の利はこちらにある。階段を登るのになれてないようで助かった。
慌て気味で屋上のドアから、入ると優と佐賀がいた。先回りして待ち構えてくれて居たようだ。
「よお、無事そうで何よりだ」
「どこが無事だよ、今も追われてんだ」
「……カップル?」
佐賀の一言で、場の空気が凍る。俺も優も笑顔が凍り、佐賀の真顔が場を余計に冷たくさせる。原因を発した佐賀は、相変わらずの真顔でどうしようもない。
場が冷えたおかげか少女の熱も段々と弱まっていく。そして誰も喋らなく、口を開ける空気では無い。
ただ心次第で、あの熱が収まることがあると分かったのはいい事だ。未知の物をずっと使われているのは、結構神経をすり減らすものだ。
「……話はそれまでだ。追いつかれたようだ。」
嫌な沈黙を破ってくれたのは、敵だったようだ。ドアの奥から赤牛が上がってくる音が聞こえてくる。
まぁ屋上なら爆弾が使える。それに優や佐賀も居るからやるのは容易だ。
「優、わかってるよな?」
「おう、そこの子は任せとけ」
背負っていた少女を優に預けると、優のポケットから煙幕を抜き取る。そして煙幕を佐賀に投げ渡す。ただの小麦粉の煙幕だが、ないよりはマシだ。相手への撹乱にはなる。
正直面倒な役回りだし、危険度も高いが仕方ない。俺よりもそういうのは佐賀の方が得意だ。
「……お前のタイミングでいい。ここって思ったら投げろ。相手の足元向けてな。そしたら伏せろ」
「任せて」
「おう」
佐賀は頷くと、耳を地面に付けて音を聞く。ちゃんと煙幕をもって投げる準備は万端の様だ。
俺の方はテルミット式の爆弾を片手に持って、ライターを取り出す。導火線を見て、少しだけちぎって短くする。
いつもは長めにしてしていた。それは落ちてから少しして爆発させるようしていたためだ。だが今回はすぐに爆発してもらわないと困るので、導火線は短い方がいい。
「やる」
佐賀の呟きと同時に、赤牛が屋上のドアから出てくる。そして佐賀の投げた煙幕弾が赤牛の足元に転がり、小麦粉の煙で赤牛が包まれて見えなくなる。
「しゃがめ!」
爆弾に火をつけると、すぐに赤牛に向かってサイドスローで投げつける。赤牛にぶつかった爆弾は爆発した後に、粉塵爆発を起こす。その突風により吹き飛ばされそうになるが、しゃがんでいたおかげで何とか耐えられた。
ギリギリ耐えて、周りを見れば佐賀や優らは既に吹き飛ばされていた。だが屋上の網にぶつかって止まっていた。落下防止用の網が役立ってくれたようだ。
こちらに向かって拳を固めていることから、無事らしい。ホッとしながら立ち上がる。そして赤牛の方へと歩いていく。
「……こりゃ、使い物にならないな」
俺は肉片として散らばった元赤牛を眺めると、食料確保に使えないと感じた。
普段の食料用は手加減をしていたが、今回ばかりは中身まで炭になっている。元々使う気は無いが、使い道も無さそうだ。
まぁこれじゃあゴミにしかならない。これは仕方ないと言うべきかもしれない。緊急時だったし、どうせ赤牛なぞ復活するから気にしない。
「おーい、この子どうすればいいんだ?」
「……俺は優しい言葉は知らない。優の方でなんとかなだめてくれ」
「あーはいはい」
地面の掃除も必要になりそうだが、それよりも大切で気になるのは先生への説明だ。死ぬほど面倒な気がする。粉塵爆発とテルミット反応爆弾の併用は暗黙の了解として禁止されてるようなものだった。
隠すのも悪くないが、地面は少し溶けかけている。一瞬とは言え、相当な熱量が起きたんだ。コンクリートかアスファルトか分からないが、少し溶けてもおかしくはないはずだ。絶対に隠し通せずにバレてしまう。
いざとなれば優等に押し付ける事も視野に入れよう。
「佐賀、この場所をスマホで撮っておいてくれ。ついでに予想火力や爆発範囲なども頼めるか?」
「……分かった。でも一人借りたい」
「誰だ?」
「……涼雅、藤波涼雅」
「あいつか。分かった。好きに使ってくれ。それで写真などに収めるまでこの場を動かさないように頼む。意味のわかるもので代用を置いてもいい」
藤波 涼雅。サバイバル経験者で、佐賀と仲のいいやつだ。危険物取扱者の資格を持ち、甲種を保持している人だ。実務経験は少ないが、仲間の中では危険物に関して一番と言える。
仲間の実験道具や備品などに関わる危険な物は全て管轄してくれていた。しかも購入から、始末まで担当してくれていた。
「……なら呼んでくるとしよう。優はそいつの宥め兼監視を頼む。手からの発熱っぽいが、火じゃ無さそうだ。良いな?」
「了解。行ってこい」
優らに軽く手を振りながら、ゆっくりと屋上から歩いて講堂へ向かうことにした。
いやぁ、なんか予告とかと変わりましたね〜
……本当にすんませんした。




