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段落下げるの忘れた事に今気付きました。
修正します。
俺は職員室の端で、佐賀の作ってくれた昼飯のおにぎりを頬張る。具はないが、塩が効いて美味しい。冷た過ぎず、熱過ぎず有難い。
そして教師が話しているのを聞き流す。
「だからですね!これを使えば!」
「……かなり危険です!人に危害があった場合、確実に死ぬ!使うべきではない!」
「なら何もせずに大半が死ぬのを見ていろと!?」
話している内容は、俺の作ったテルミット反応式爆弾だ。名付けて『テルちゃん』なのだが、危険ということで中々話が進んでいない。
バッテリーを運んだ後に3日かけて頑張って作り上げたというのに、酷評ばかりだ。わざわざバーナーで銅を酸化させてからアルミニウムと混ぜたというのに、結構大変で作るのに手を火傷したのに、酷い話だ。
とまぁ冗談は置いておくとしよう。火傷はしたが、そこまで作るのに苦労はしなかった。強いて言うなら火力調整に時間がかかったのが原因だ。
残っている資材にも余裕があるわけじゃない。だから理論値を書き出して、化学式から必要なアルミニウムなどを計算した。その最高理論値の傑作が、今机の上に置いてある爆弾だ。
置型式煙幕爆弾の『ミットン』の方はまだ前向きに検討されているようで、一度試して見てからという話らしい。やはり危険度が低いのと、まだ校庭などに化け物が存在してるので、先送りになる可能性も否めない。それ故に前向きに先送りしてくれた。
まぁそれもそのはず。テルミット反応の爆発後に、小麦粉が煙幕となり、二次爆発を起こす。多分赤牛だろうが、消し炭になる。
直ぐに爆発するわけじゃないのと、粉塵爆発というわかり易さから受け入れられた。まぁ先送りにならない事を願っていくしかない。
因みに大量の酸化銅を使った爆弾は緊急時以外では使えないとの事で、まぁそれには俺も同意した。というか、あんな物を使ったら校庭にクレーターが出来てもおかしくはない。
正直、俺は屋上で新しい武器を作りたいのだが、いてくれないと困るということでその場に居た。だけどずっと先生方が話し込んでいてつまらないので、メモ帳を手に新しい武器を考えている。机上の空論にしかならないが、こうやって考えているうちに、ふと良い案が浮かぶので悪くない。
シャーペンなどみんなが持っているものでどうにか出来ないか?というテーマでずっと頭を悩ませている。
誰でも持てるもので、軽い撃退道具を作れればいいが、それは中々に難しい。だから様々な物の良点と形状を書き出して、隙間等を書き込んでいく。
「圭、進みはどうだ?」
「あ、富田先生。まだ良い武器が思いつかなくてですね。今回みたいな爆弾ではなく、もっとボウガンのような発射系は作れないかと思いまして。」
富田先生は俺のメモ帳を見て、頭を抱える。普通に見たら道具の隙間や良点だけを書いてあるだけだが、その端に文字が沢山ある。それは具体的な数字は書いてないだけで様々理論を交えた未完成レポートのようなものだ。
いくらレポート慣れしているとは言え、ゲームをあまりしない上に文系である富田先生が即理解出来るほど簡単にはしていない。
本当は簡単にかけるのだが、他の生徒に渡ることを恐れた結果だ。もしこれを理解出来たとしたら、まず作ろうとは思わない。少なくとも試そうとするほど愚かな人は、ここには存在しない。だが念には念を。それが大切だ。
理由は、某おふざけペディアで、パイルバンカー症候群と言うのを見かけたことがある。簡単に言えば強い武器を持つと、それが無くなったら自分がその武器でやられるのでは……と怖くなって周りを信じることが出来なくなったり過剰に加虐してしまう病気と書いてあった。
もちろんあのサイトはおふざけや嘘ばかりだが、パイルバンカー症候群の様な的を得ている物もある。
それを読んでから、仲間内で決められていることがある。それは「人を死に至らせる物は作らない。作ってもそれは全員の管轄で、一人が乱用出来ない様にする。」という事だ。
俺も仲間も、大切な人を手にかけたり疑いたくない。しかもこの様な状況で仲間内で裏切りあったら終わりだ。だからこそ、今は余計に難しく書いていく。
強いて言うなら仲間の、藤波 涼雅という男。アイツならサバイバル好きだし、狩りに使いたいと言うかもしれない。ちょうど赤牛もいるし、狩りに使う為だけに作るのならいいかもしれない。ダメなら即オーバーホールだ。危険な物は置いておきたくない。
せめて一回使ったら終わりのような、そういうものでないとパイルバンカー症候群に陥る可能性が高くなってしまう。
「なるほど…かなり精密に考えられているな。文系を教えていた事を悔やむ。」
「……なにかいいものが作れれば良いんですが、あの赤牛族……いえ、赤い化け物がどうすれば死ぬのか分からないので、悩ましく。」
俺が今1番悩んでいるのはそこだ。
もし刀を作れたとして、それで赤牛族の腹を刺した時それだけで死ぬのか?それとも何事もなく動くのか?血は出るか等不明な点が多い。
その様な考えが頭の中を埋め尽くす。あの赤牛は未知の存在だ。どの様な事をすればいいのかも分からなければ、毒などが効くのかも不明だ。
もし作った武器の火力が足りなかった場合、仲間に危険を晒すことになる。そんな事は俺はしたくない。出来るだけ仲間と共に生き残りたい。
「やはりお前は、他の生徒とは一線を置いて違うな。」
「俺はただのゲーマーです。こんな異世界にこれて嬉しいんじゃないですかね。」
鼻で笑うように言えば、富山先生は少し悲しそうな顔をする。何故そんな顔をするのかは分からないが、これが俺のやり方だ。
どんな状況でも、俺流の道を進む。それで何が起きても、俺の首一つで済む。早々に人生をリタイアして、閻魔様の前で仲間を眺めるしかない。
「その嘘は誰の為だ?……いえ、そうだな。今から屋上に言って爆弾とあの……『テルちゃん』を試すしかないな。」
その言葉に他の先生方も驚き、こっちを見る。まぁ議論を一瞬で無駄にする事を言われれば仕方ないが。
副校長がこちらの方を見て、尋ねてくる。
「正気ですか?富田先生。」
「生徒が考えた事を机上の空論にしたで終わるのはダメだ。まず行動させて、危険を取り除くのは先生の役目だからな。屋上に行こう。」
「……そうですね。私から校長の説得はやりましょう。ただし、酸化銅はダメです。職員室のガラスが割れる可能性がありますから」
副校長は少し呆れ顔になると、こちらを見て頷く。何度も何度も、副校長には迷惑をかけてしまう。
確かに一階のガラスに溶けた金属が付着して割れる可能性もある。一階の校庭側は職員室で、別館側は体育館だ。
まぁ危険性から、生徒たちは3階から4階、5階の講堂。地下の2階に避難はしているが割れた所から侵入されてはまずいから当然とも
思う。
ということで話が落ち着いたので、階段を昇っていく。
俺が屋上に先生方と行くと、優が校庭の方を眺めていた。どうやら監視はちゃんとやってくれていたようだ。
「んー……優、アレの調子はどう?」
「そこそこだな。理論値ほどじゃないが、悪くないぞ。」
アレというのはソーラー発電機だ。俺と優等の仲間たちで、毎日、八時間分の学校全体を光らせるほどの電力は作れた。
この電力貯金を続けていけば、冬は凌げる。
今はライターやマッチでどうにかライト代わりにしているが、暖房にはならない。どうにかして電力を持ってきたいのだが、かなり難しいようだ。
俺の専門は発電に強く結びつくが、再現は不可能に近い。道具の枯渇がかなりの障害を与えている。まず発電に一番必要な物が足りてない為、作って電気のできないデカブツが生まれてしまう。
「……優、仲間とかの避難は完了してるな?」
俺は屋上の端に纏めておいた爆弾を手に取ってから優に確認する。
ちゃんと仲間は、端に離れてくれたようで安心だ。俺は弱いから、即座にしゃがめるだけだ。誰かを守って動くなどまず出来ない。
「爆弾を手に取る前に言うべきだろ。」
「知らない。」
適当に返事をすれば、先生らが校庭を見ているのを確認し、赤牛族を探す。校庭には沢山の赤牛が居るが、下手な赤牛を狙っても意味が無い。せっかく公認で、赤牛を殺れる機会なんて今後訪れるかも分からない。ならば、赤牛の肉片でも回収出来る場所に落としたい。
そう考えたら、階段などの昇降口から近い場所がいい。ちょうどよく昇降口のシャッター近くに一匹だけいるので、狙い撃ちをさせてもらおう。
アルミニウムで覆われ、導火線が伸びてることを確認する。俺が作ったものでも、不発弾の可能性は否定出来ない。問題ないことを再三確認すると、手に握る。
そして導火線に火をつけて、すぐに校庭に向かって投げ落とす。爆風に備えて、一気にしゃがみながら、仲間に向かって合図を送る。
これで肉片の回収に向かってくれるはずだ。それに今ならば、教師も赤牛と爆弾に夢中で警備の人が減ったことに気付かない。
上手く赤牛族の頭に落ちたようで、赤牛族は怒りからか大声で吠えているようだ。
だがその声すらもバチッという音によってかき消される。
破裂した事を確認すると、網から爆弾を覗き見る。
校庭では、爆弾が熱気を放ちながら赤牛族をドロドロに溶かしていく。赤牛族はもがいて暴れているが、腕も既になく体を振り回しているだけ。
そして最後には肉塊となり、焼き焦げた何かが残るだけだった。
「……これは生徒には見せられませんね」
「……同感だ。それに危険度も高い。逃げ遅れたら確実に死ぬぞ」
先生方はこの惨劇をみて更に悩むようになった。使い方を誤らなければ良い武器だ。だがミスれば命はない。それをよく理解してしまったのだろう。
もし生徒が近くにいる時にやってしまったら、もがき苦しみながら死ぬと思う。それを赤牛が体現してくれた。俺も先生ならば、使わせないだろう。
「佐賀、目視で良いから範囲と理論値、その他色々やれるか?」
「勿論、明日には用意しとく」
「流石だ。よろしく頼む」
誤差から、ギリギリまで火力調節をしたい。それに研究データがあれば、それだけ精度の高いものが作れるため、沢山の情報が欲しい。
「先生、それでどうします?これ。」
「……嫌な質問はやめろ。」
少し皮肉めいた俺の言葉に対して、村木先生が返事をする。俺も先生らの立場を理解している。少なくとも今の先生らはこの武器を頼るしかない。その上でのこんな質問、嫌らしいと俺も思う。
だがそれでも互いに落とし所を決めないと、結局どっちかがこっそりと使ったりする。しかも緊急時に使えないので早く片付けなきゃ行けない。
「……こうしないか?先生方、5名以上のサインと製作者の圭が頷くことで使用可能。どうだ?緊急時のみ、先生か圭の仲間が使用可ということで」
「…………」
富田先生の意見に反対は出ず、それで可決されることになった。ただ少しの紺詰めは必要な様で、何かを話している。
そしたら俺はこれから用事があるので抜け出すことにした。
「それじゃあ俺はこれで……」
「待て」
俺が抜け出そうとするとそれを止める人、村木先生がいた。
ガッチリと肩を掴んできて、抜け出せそうにない。無理に抜けようとすれば、脱臼しそうだ。
「……なんですか?」
「どこに向かう気だ?」
「……いえ、トイレですけど何か?」
「そうか、なら聞くが別館の地下室、その一部屋の鍵が朝から見つからなくてな。どこにあるか知らないか?」
俺の目を見つめて、目をそらすことすら許さないのがよく分かる。多分この場で目を逸らしたら何をしたいのか白状させられる。シラをきるしかない。
大体、この村木先生は俺の元担任だ。こちらの嘘を見抜くのは得意な部類な上に、弱みもよく知っている。
「……何をするつもりだ?」
「い、いえ。なんの事だか?」
「もう一度聞く。何をするつもりだ?」
多分バレてる。てかもう予想ついてる上で、俺の口から聞きたいらしい。
ここで口を割らせれば、他の先生も証人になってこちらを自由に頼み事ができるようになる。
和樹がリーダーの生徒組に対抗出来る、俺らの仲間を先生側に引き込める。それを狙っているのだろう。
「……食料の用意ですよ。水はあるから、辛い餓死にならなくとも、俺はカニバリズムなんてのは嫌だ。そんなことをするなら餓死してやる」
「食料だ?」
自分が肉食の動物でも人なんて食いたくはない。人というのは、醜く汚れた猿の形をした化け物。そんなのを喰って、生き長らえるなんてのは嫌だ。こんな俺にだって仁義がある。だから、その為に肉を集めなきゃいけない。
「……正気か?」
「狂気に見えます?」
「ああ、そこで先生を頼るのが普通だ。それにまだ高校生が、触れるべきことじゃない。ここは農業高校でもなければ、ただの普通科高校だ。」
どうやら先生は心配してくれてるらしい。確かに肉片は子供にはグロく、見せられるようなものでは無い。牛を殺すのにも、精神的にくるものがある。それを心配してくれているのは、よく分かった。
だが先生は勘違いをしてる。
「……俺はやります。だって、和樹から聞いたでしょう。俺ら不良は先生方とは別チームだ」
「それは表面だけで!」
「俺は望んでやるんです。それを止める権利は仲間ならともかく、他人の先生方にはない。第一に仲間はともかく、俺はもうあんたらの生徒じゃない」
辛い言い方だ。受け取り方を考えなくとも、酷いし、傷つく可能性がある。先生だって人だ。こんな状況でも先生として生徒を守ろうとする。それは流石だ。
だが俺には不要だ。守られる存在で居て、川崎先生の二の舞なんてさせたくない。危険な事をした事のケツを先生に拭いてもらって、それで被害が出たらその方が辛い。
「……そうか。なら不審人物として、監視役をつけさせてもらう。指名はそちらに任せよう」
やはり向こうの方が上手らしい。仕方ないから、優しく扱いやすい先生を選ばせてもらおう。
「鹿島先生だ。それ以外は敵として、こちらも対応を取る」
「ああ、それでいい。好きにやれ」
ぶっきらぼうな言葉にすら気遣いを感じる。内心呆れながら鹿島先生と仲間の元へ向かうことにした。
鹿島先生と共に地下一階の部屋に行くと、仲間たちが運んでくれた肉塊が部屋に転がっていた。
血腥いので、あまり触れたくはない。だがタンパク質になる食料が足りない今はこうする他ない。
本当はテルミット反応の被害を受けた肉には酸化した金属などが付着してるため、食った場合の危険性は高い。下手すれば死ぬ。だがこんな状況では贅沢は言ってられない。
赤牛族の肉塊を針で突く。表面は炭になってボロボロだが、中の方は硬くもなく丁度いい。これならば出刃包丁でもやれるはずだ。
「クソ重かったが、もってきたぞ」
「お、持ってきたか」
優は部屋に入ってくると、机の上にキャリーケースを置いてくれる。中にはギッシリとものが詰まっている為、相当重い。普段は別館に隠してあるが、今はわざわざ持ってきてもらった。
キャリーケースにはナンバー式とダイヤル式、それにカードキー式の鍵を3つかけてある。だから財布からカードキーを取り出す。
「そのケースは?」
「……俺の仕事道具です」
教室内に入ってもらった鹿島先生にそういうと、ケースを開ける。そして中にある物を鹿島先生に見せる。
「包丁か?」
「ええ、ナイフから出刃包丁、それにパンに使う様等基本的なのはこれでやれます」
このケースには、普段一般で使用する三徳包丁から、出刃包丁、刺身包丁、切付包丁など10種類を超える物を常備させている。このケースがあれば洋食和食、なんでもいつでも仕事に移れるほど万能なものだ。
これはとある仲間となにかする時に使う物で、サバイバルにも料理にも使える。だから仲間の佐賀を含めた女性二人、それに俺がよく使うものだ。
中にある包丁は危険な為、佐賀と俺、そして残り一人の女性がそれぞれナンバー、ダイヤル、キーカードをそれぞれ管理している。他の二人には教えない約束だが、こんな状況なのでパスワードを共有した。
キーカードも昔から三枚用意しておいたので、渡して自由に使えるようにはしておいた。
「さて、一番最初に……」
頭らしき場所に中華包丁を差し込む。
ぶっとい包丁が綺麗に脳が見せてくれる。
「な、何してるんだ?」
「狂牛病の確認だ。これだけじゃ確認にはならないから、後で仲間んとこにこの肉を送って調べて貰わないといけないけどな」
狂牛病という病がある。それを確認するやり方は様々あるが、一番分かりやすいのは牛の脳を見ることだ。
この教室には顕微鏡がある。それを使って牛の脳を覗いてみる。それで脳がスポンジの様になっていたら狂牛病確定だ。
「……優、確認してもらえるか?」
「おう。狂牛病の確認なら、簡単だ。後で他の部位も貰って調べるけど、良いよな?」
優の言葉に頷きつつ、脳を切り取って顕微鏡の近くの皿に置く。
「当たり前だ。狂牛病なんて見つかったら飯がなくなってしまう」
「分かった……」
優は顕微鏡を覗き、少し動かしたりすると顔を上げる。そしてホッとしたように首を振る。
「それっぽい感じはないな。絶対とは言いきれないが、特に変なところはないな」
「よし、それじゃあやるか」
ビニール手袋を新しい物に変えてから、刃渡り30cmの出刃包丁を手に持ち、肉塊に近付く。
そして外側の炭になった部分を切り落とし、テーブルに置いたシートの上に乗せる。その後、手のひらサイズ、大体50g程度を取ると薄くスライスしてテーブルの上に並べる。
スライスした肉を見れば、中までそんなに火は通ってなかった。なので手の甲や腕に置いてみる。そして押し付けるが、痺れた感じはしない。強い毒はないとみていい。
次に銀塊を取り出す。本当は使いたくないし、貴重なものだ。爆弾の材料にもなるから、とても惜しい。だが命と比べれば安い。
「銀塊だよなそれ」
「ああ、ヒ素とかの有毒かも確かめる。昔の人のようにな」
上手くいくかは知らない。だがやっておいて損はない。肉を銀塊に擦り付けるが、色の変色はない。数十分程放置もしてみたが、問題は無さそうだ。
「問題ねぇな。次だ次」
「次は何するんだ?」
「……鹿島先生、ライターかバーナーあります?」
「もちろんだ」
「生は腹壊すんだよな……嘔吐薬はあるな。優、下剤の用意を頼む」
「おう」
俺はトイレに駆け込めるように、下剤を頼む。そしてスライスした肉を少しだけ噛む。まだ火を通してないので虫などの危険はある。だがやらない方が後で困るので、口の中で咀嚼する。舌で潰したりするが痺れや苦味はない。
味は間違いなく、肉だ。魚臭さもなければ、間違いなく肉だ。少し味が微妙だが、生という事を考えたら誤差の範囲。美食家がこの学校にいるとも思えないし、問題ないだろう。
「……よし、問題なしだ」
口に入れた肉をティッシュに吐き出す。うがいを繰り返して、軽く口の中も綺麗にする。生で胃に入れるのは危険なのは重々承知していた。
次の工程に移るために、ライターでスライスした肉を炙っていく。そして焼き目がついたのを確認すると、そっと口に含む。
「……やっぱ味は牛っぽいな。これなら使えそうだ。下手な感じもしない。一応確認で細菌検査はするべきだが、言うほどの問題は無いな」
俺は肉を飲み込む。その後、肉をブロック状にして、研究用と検査用、試食用に分ける。
そして水で喉を潤すと、軽くため息をついて座る。
「大丈夫か?」
「ええ……この肉は使えます。ちゃんと火を通したので大きな問題は無いと思います」
「……そうか、ありがとうな」
鹿島先生はそう言って部屋を出ていった。俺は少しふらつきながらもゆっくり立ち上がる。俺の仕事で居酒屋があったからこういう加工は出来たが、先生にとってはかなりグロいはずだ。
まぁ俺も余裕ってわけじゃないし、出来るだけ臓器とは別の表面や四肢ばかりを取らせてもらった。ここでメンタルがやられては、動けなくなってしまう。
「……はぁ、包丁を片付けとくか」
精製水を取り出して出刃包丁を拭く。材質は鋼な為、かなりお手入れをしなくてはならない。
だからもっとちゃんと手入れをするべきだが、今はそんな余裕はない。拭き終わるとケースにしまって鍵をかける。
この出刃包丁は銃刀法違反にあたる刃渡りだ。その上、簡単に人を殺せる程斬れ味の良い凶器だ。故にあまり他者の手に渡したくはない。ちゃんとした管理を必要とされる。だから三人の管轄で、他者の触れない場所に動かし続けていた。
しかもケースはオートロック式にして、充電タイプ。更にはケースにソーラーパネルを付けることでどこでも充電して開けられるようにしてある。多分屋上に持っていけば何時でも使えるし、時計もつけてある。
それにこの包丁らは貴重品だ。一つ一つが有名な刀工に作ってもらったもの。それが19本もある。それに加えてまな箸が少し。価値は相当だ。盗まれでもしたら、色んな意味で大変になる。だからこそのこの厳重さだ。
まぁそんな話はどうでもいいので、キャリーケースを教室の端しまうと立ち上がる。向かうはキッチンだ。まぁキッチンとは名ばかりの実験室だが。別館の3階にある実験室なので、屋上にいるあいつを呼ぶのもありだ。
「……優、実験室にこれ運んどいてくれ。俺は咲耶を呼んでくる。俺にこういう調理は無理だからな。」
俺はそういうと部屋から出る。それにしてもジャージが臭くなってしまった。制服も動きにくいし、そろそろ私服に着替えるのもありかもしれない。私服と言っても、クソダサパーカーだが、それでもまぁ仕方ない。
屋上へ向かうと、仲間等が監視をしてくれていた。仲間らが爆弾を持っているので、先生方からの審査は降りたという事らしい。
「おーい、咲耶。仕事だぞ」
咲耶に声をかけると、笑顔でこっちに向かってきてくれた。スタイリッシュで、平均的な身長。ショートな黒髪で、そこそこクラスでも人気があるらしい。まぁ美人ながら可愛げのある顔立ちだから、分からなくもない。
先程話した、包丁の入ったキャリーケースの管理者三人、佐賀、俺、そして最後にコイツこと、咲耶だ。
こいつのフルネームは橘 咲耶。とある料亭の一人娘であり、奥手な女性。サバイバル経験はないが、その代わりに生活が楽になる術を知ってる。料理は俺の仲間でも随一だ。
佐賀はエネルギー系のものや、即席で美味しいものを作ることが得意だが、咲耶は違う。時間をかけて、体調面にも気を使ったいい料理を作ってくれる。ここ数日は警備な為、料理は作ってなかったが、その程度で鈍る腕前はしてない。
ここまで言うと、まるで八方美人だが実際は上っ面だけだ。中身はアホで馬鹿な筋肉フェチ、エチ服フェチ。あのクソダサパーカーを作った張本人であり、それと同時に仲間にセクハラを何回も仕掛ける変態だ。さりげなく服の中に手を入れて、筋肉に触れようとしてデロデロする為、気持ち悪い。公共の場ではしないのは良いが、仲間だけになると人目を気にせずにやってくるため、男の仲間は大半が近寄らない。
他の人には手を出さず、仲間だけなのがまだマシだが、仲間からは一緒に歩きたくないと言われている。まぁ当たり前なのだが……コイツはそれをドヤってくるのは相当癪に障る。
「何すればいいの?」
「料理だ。肉とかのな。調味料系は揃ってる。ただ火はバーナーになる。やれるか?」
「もちろん。任せてね」
どうやら相当な自信らしい。流石は料亭の娘と言うべきか、こういうのには慣れているらしい。
そしてこちらにそっと近付いてくるので、俺も少し後退して、半径1メートルには入れないようにする。
「焼肉のタレがあれば良いんだが……」
「……安心して、いいモノを作れるから」
何故かドヤ顔な咲耶だが、仲間だし信じるべきだ。もしかしたらいいモノを用意してくれる可能性もある。
そう思い、実験室に向かうことにした。道中はそこまで話をせずに、近寄らない。コイツのセクハラはハッキリ言って、気持ち悪く見るに堪えないからだ。
実験室の中に入れば、優に先生らが準備をしてくれていた。片澤先生もいるし、実験は上手くやれそうだ。
優は俺の方を見ると頷く。すぐに行動開始出来るらしい。咲耶を教室内に押し込むと、教室から出る。
「……あー、俺は少し散歩してくる。なんかやれたら頼む」
ただ俺はそんなに料理が得意では無いので、外に出ている方がいい。
俺の得意な料理はおつまみと何かを捌く事のみ。焼き加減等を任せたら、真っ黒焦げか半生になってしまう。
「……それじゃあ、やろっか」
実験室の中からそんな声が聞こえる。仲間なら心配しろとか思われそうだが、アイツらは優秀だ。俺の何倍も優秀。だから気にかける必要も無い。
暇潰しとして校舎をぶらつく事にした。時々生徒とすれ違うが、目線を合わせてはくれない。元々は同学年にヤバいのとして知れ渡っていたが、和樹との別行動で全校生徒に知れ渡っているらしい。
というか、不良と目を合わせようとする変人もいる訳も無い。そんなの八つ当たりしたい馬鹿だけだが、今も忙しいから難しいだろう。
「……見廻組は何処にいるっけな」
見廻組は生徒会という意味だ。見廻組なんて洒落な言い方をしてるのは、周りが俺らを新撰組のように見ているという皮肉。
いい子ちゃんの集まりで、何も知らない無知な、自分の足を動かさくても問題ないと考えているという意味の皮肉。意味を理解されたら、絶対に怒られるだろう。
周りからしたら人を殴り、仲間だろうが見捨てる冷酷な集団。まるでクソのたまり場でグダグダしてる不良ら。しかも屯って、何をしてるのかすら分からない。
だけどお上、まぁ帝代わりの先生からは強い信頼をされていて、良い気分にならない壬生狼。
他の生徒から見たら、そういう印象でしかない。
「安心しろ。足止めはしてある」
後ろから声が響くので、振り向けばそこには和樹がいた。どうやら俺の皮肉も聞かれてしまったらしい。頭のいい和樹なら、現在の状況からして意味がわかるだろう。そして皮肉と小馬鹿にしたりディスったのも通じてしまう。
足止めは多分周りに他の生徒が来ないようにしてくれたという事のはずだ。多分そこそこ内密に小話をしたいと言って抜け出したか、説教とか言い訳したのだと思う。
「……あー、その……なんだ?」
「気にするな。そういう風潮があるのは理解してる。咎めもしない」
「良いのか?リーダーなら士気が下がると言ってもいいと思うけど」
「その位、こんな現状では仕方ない。それよりも何が聞きたい?」
和樹は気にしないで、タバコを吸う。高校生の癖にと思うが、まぁこんな現状で辛いリーダーという仕事を押し付けてるんだ。その位は多目に見て貰えるはずだ。いいストレス解消にはなりそうなのも、見てわかる。
雰囲気的に俺にも一本欲しいと言ってみたいが、断られるのは目に見えている。それに俺は吸えないから意味が無い。片手にタバコで、服が臭くなるだけだ。
「外の仕事だ。果物とかがなければ生き延びるのは難しいぞ。缶詰めは沢山あるのを確認したが、生徒数から見てもかなり厳しい。太陽光も浴びれないのにそれはキツイんじゃないか?ストレスも結構だろうし、向こうに残してきた家族とかさ」
太陽の下にいるのはいい事だ。ビタミンDが取れて健康維持に大切だ。だから俺たちや先生はそういう意味では健康になりつつある。陽の光には良い効果がかなりある。
だが他の生徒はそうはいかない。無闇に外に出れない上に、個人で行動出来ない。それがどれ程の苦痛なのか、俺には理解出来ない。
若い少年少女らだ。欲求と言うのはある。なんなら彼氏との関係、家族などの事を考えてしまうだろう。それに……こういうのはどうかと思うが自慰や性行為だってしたいはずだ。
それを我慢させた上で、ストレス発散もなかなか出来ない。陽の光にはそういうのを回復させる効果もある。それなのに外に出れずに苦しませるというのは、少し心配になる。
だから出来れば娯楽になりうる果物等を取りに行きたい。だが外で警備をしている奴らは俺達のみ。だから、その反発等はどうなっているのか気になってしまう。
「……うん?聞いてないのか?」
「どういう事だ?」
「なら俺からは言えない。ただし娯楽果物は解決した。問題は無い。ストレスや陽の光にも少しは考慮しておく」
「なら良い」
俺はホッとすると、実験室の方に体を向ける。
いくら足止めしてくれてるとはいえ、過剰に関わっているのを見られるのはダメだ。下手な不信は、グループの崩壊に繋がる。妄想の加速が進み不信が募った結果は、俺達は歴史の時間によく学んだ。嫌になるほど学んだ。
俺と和樹は別チームのリーダー……いや俺はリーダーでもないのだが、一時的に頭を取る者ではある。
そんな二人が仲良く、生徒の心配なんてしてちゃいけない。せめて和樹が俺を説教するしかしちゃいけない。
「……それだけか?」
「ああ、それと食料の確保には成功した可能性がある。ただし、あれは俺の獲物だ。すぐには渡せないな」
「まだ危険度が高いか。なるほど、狂牛病の確認か、病気とかか?てか俺らがそこまで気遣って貰えるとは驚きだ」
「……ならそっちも気遣えよっての。少しは話し合わせろよ」
俺がわざわざ遠回しな言い方してるのに、向こうは、それを無視して話してくる。こんな場所じゃなければ殴るとこだ。
というか、理解してるのならば何故こうも嫌がらせな返答をするのかを聞きたい。こっちばっか気を使ってアホみたいだ。
「……そんじゃあ、あとは頼むな」
「おう」
和樹は背を向けたまま、後ろを振り返らずに歩いていく。これ以上の話もないので、俺もゆっくりと咲耶の元へ戻ることにした。
ゆっくりと実験室に戻ろうとすると、薄らといい匂いがする。肉の焼いてる匂いじゃない。どちらかといえば柑橘系か、いや酸っぱさもある良い香りだ。
小学校や中学校とかで手洗い場にあった、なんか黄色い石鹸。あれに似た香りがする。というか、この話は今の子供に通じるのか不安だ。
足早に実験室に戻ると、先生方が何かを食べていた。
肉も綺麗に並べられていて、まるでビュッフェだ。やはりこういう作業は咲耶が一番だ。他の奴らじゃこうはいかない。
「お、完成したか?」
「うん、食べてみてね」
スライスして焼かれた肉を箸で取ると、周りを見る。流石にこのままというわけじゃないと思う。
ちゃんと焼かれてはいるが、まだ硬くない。俺がやるとめっちゃ固くなるのだが、何故か柔らかい。コツなどがあるんだろうが、俺にはよく分からなかった。
「これなんだと思う?」
咲耶は俺の前にビーカーに入った黄色い液体を見せてくる。どうやら匂いの元はこれだ。小学校の手洗い場にあったやつの匂い。柑橘系のいい匂いだ。
そして焼肉をしようとしてるとなれば、これの正体がわかる。
「……レモンなんてどっから手に入れた」
「実は学校の裏にレモンらしき木があったよ。毒とかはないの確認済みね。圭は焼肉にはレモンって言ってたからさ」
どうやら俺の好みを知って用意してくれたらしい。嬉しい話だ。すぐにレモンにつけて食うと、美味しい。
和樹の言っていたことはこれと見て良いようだ。確かにレモンがあるなら、ビタミンの補充は出来る。いざという時はレモンをそのままかじれば多少は良い。
肉の臭みも消せるし、まさか手に入るとは思ってなかった為、これからの創意工夫が増えた。
「……確かにコレはレモンだ。いいものを作ったな」
「ありがとね」
「こちらこそありがとな」
咲耶に感謝を伝えると、テーブルの上のレモンの実を手に取る。普通のレモンに比べても、大きい。大体グレープフルーツのようなサイズだ。
ただカットされたレモンを見ても、中身は黄色で、グレープフルーツのような色はしてない。味も苦味がなく、酸味でありレモンの味だ。
ただどうして林の中にレモンがあるのかが気になる。自家製のレモンしか見たことは無いが、こんな風に林で取れるとは思えない。
「……取りに行く時、安全には考慮したんだろうな?賭けなんてしてないよな?」
「もちろん。ちゃんとフックを作って、二階の教室の窓から取ったの。周りに敵がいないのも確認したよ」
なら安心だが、仲間たちは結構手が早い。俺よりも行動力があるため時々心配になるが、今回は問題ないらしい。
それに二階の窓から取れるなら、そこまで危険とも思えない。いくら赤牛が大きくとも、二階に届くほど大きくない。あの体格で飛び跳ねられるとは思えない為、まだ安心だ。
「なら良い。良かった」
咲耶はうちの中でも料理が一番出来る。栄養学なども知っていて、化学についてもある程度は知識がある。
それに俺の仲間は誰一人として替えがきかない重要な人物だ。一人でも欠けると普段やれていた事でも直ぐに出来なくなる可能性が出てくる為、気になってしまう。
「……そんじゃあ俺らはコレで」
「後始末は私らがやりますから、食べ終わったらそのまま置いといていただければ片付けるので」
優と咲耶はそう言って実験室を出たので、俺も続いて出る。
これで食料問題は解決した。まだ危険度は高いが、餓死にならないだけいい。
「……そいや病気とかはどうだった?」
「食べた場所だけはやっておいたよ。でも特に問題は無いし、他の部位も一応今夜に調べておくよ」
この調子だと問題なさそうだ。臓器関係がかなり怖いが、そこは食べなければいい。ホルモンとかレバーは確かに美味しいが、今はそんな場合じゃない。
完全に安全で問題ないとわかってからでも大丈夫なはずだ。鉄分もビタミンもどうにか、他で補えば良いし、咲耶がいれば何とでもなる。
「悪いな。そっちも忙しいだろうに」
「気にしなくていいよ。そのお礼は今度貰うからさ」
微笑んでくる咲耶に軽くデコピンをすると、屋上に向かって歩いていく。
とりあえず、監視の仕事に戻ることにした。
今気付きましたが、後書きにも二万文字もかけるんですねぇ……私の小説って、大半が一万前後かそれよりももっと少ないんですよね。だから、ここに書いても十分だったりしますよねー
あ、次回はサイド佐賀!佐賀視点のお話になります。
そして明かされる主人公の過去!……ってのは嘘ですけど、理想のリーダー感が多少ある主人公の圭。その内面について少しだけ、書きます……多分!多分です!




