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1-1

「うーっす!先生らいますかー?」


 俺は3-B組に入りながら声を出す。その声でB組のメンツは俺らに気付いたようで、ほぼ全員と目線が合う。だがそれを無視して先生の方に近付く。


 一人だけ仲間が居たので、軽く手を動かしてコンタクトを取る。向こうもそれに気付いたようで、サインを返してくる。意味は『現在自由無し。管轄は食料で、担当は村木先生。』という事らしい。時間割を指で示されたので、時間割の記憶違いがあれば村木先生じゃない可能性も出てくるが、まず間違いない。


 それ以上の問題は自由がない事だ。俺らの仲間は他の仲間の代理が出来ない。多少のサポートも指示に従うのが限界で、他者の代理で同様の事を行うのは無理だ。

 それ程までに各自が専攻して学んでいるため、大掛かりな事を行うには全員が必要だ。一人だけ居ても居なくてもあまり変わらない奴もいるが、基本的には全員が必須だ。


「開始は長引きそうだな」

「ああ、少し頼んでくるしかないな」


 優とコソコソと話をするが、クラスの奴らはあまりこちらを見ないようにしている。そこまでしなくても良いと思うが、ちゃんとした訳もある。


 その訳は、同学年から俺は良い印象を受けてないというのが理由だ。というのも俺は自他ともに認めざるを得ない不良だ。そして不良感があるのに、先生らと仲がいい。

 まぁイジメとかをせずに、今どきの不良にしては珍しく孤高な感じで行動してたりするのが要因。その上、先生の言うことを基本的に従うし、筋は通しているからだ。そこらの生徒よりは扱いやすい。


 しかも俺は一度停学を食らっている。その停学話は有名だが、何をやらかしたかは不明。俺は語ってもいいのだが、先生の方から停学期間からなにをしたらどのくらいの停学か分かるのでいやらしい。

 それ故の箝口令で俺も口を割ってないので、周りからは不気味がられている。

 1年の頃に一緒だった奴らは俺の気のいい人柄を知ってるが、それ以外は俺の事をほぼ知らないから仕方ない。

 所謂腫れ物扱いだ。


「お、担当は鹿島先生ですか。うちの部活の被害状況教えて貰えますか?」


 鹿島先生は文系の公民専門の教師だ。因みに優しくて怒ることがほぼなく、どんな質問にでも気軽に乗ってくれるので生徒からの信頼と人気が高い。

 そしてドッチボール部の顧問だが、公民の授業も行うことからか、俺のいる歴史部……ただの遊び部によく来てくれている。もはや副顧問と言っても差し支えない程に内情を知っている。


 まぁうちの部活、歴史部の情報を知ってるかもしれないので聞いてみることにした。


「圭か。一応言うと被害は出ていない。ただし、すぐに部活の方は動かせないらしいよ」

「なんでですか?」


 俺のいる歴史部には、仲間内が多く所属している。そこが潰れてなければ、そのツテも使い仲間の9人を集めて、今すぐにでも状況整理できる。そして仲間らと行動指針を纏められた。だが無理となると困る。

 先程話したように、行動が難しくなる。最低限としても、あまり動けないのは欠点すぎる。


「各自が食事や今後等で分かれている上、ゴタゴタが続いているから。集めるとなると、まだ数日はかかるよ。それと奥の方で少し待っていてくれ。外回り担当の先生が来るはずだ」


 鹿島先生はそう言うと俺のポケットに何かを入れると、B組から出ていく。B組の生徒たちもそれに従うようにクラスから出て散らばっていく。多分荷物運びでもしてくる事だろう。


 まぁ数日の間に人が更に死ぬことはほぼない。水もタンクがあるのですぐに無くなるのもないとみていい。即全滅なんてのはまずありえない。なら安心していいだろう。


「おい、何受けとった?」

「分からない。後で見てみる」


 俺はそう言うと、後ろの方に座る。そして背もたれにもたりかかりながら、優の方をみて呟く。


「……マジでどうなってんだよこれ」

「今はとりあえず出来ることをするしかないな。学校には食料が多めにあるらしいし、今はこうやって耐え凌ぐ事しか無理だ」


 学校に沢山の備蓄があるのは知ってる。震災時の為に用意されていたはずだ。カレーとかもあるらしい。

 ただ、それは震災用で短期な量だ。長期的なものは考えられて無い。しかも食べ盛りな高校生だ。いつまで持つかは不明。窓から見ても捕まえやすい動物の鳥などはほぼ見当たらない。

 見当たる食料候補は一つ。動物園でも、ニュースでも見たことも無い生物である、赤牛。正体不明の存在だ。大体二足歩行の動物なんて、大型鳥、猿と人以外知らない。

 牛が二足歩行とか、どんなニュースでも中々見ることがない。まるで西遊記か何かだ。地獄でもこんな生物は中々見れないことだと思う。


「……多分、異世界だよな。ここ」

「だろうな。でなきゃあんな化け物は見れない。少なくともたった数時間でここまで生い茂った場所に学校がある、なんて無いはずだ」

「……だよなぁ。なら異能とかもあるのかな?」


 俺はそう言って手を前に突き出し、力を込めてみる。だが当たり前だが何も起きず、ただ虚しいだけだった。厨二病みたいで悲しくなるので手を下げる。

 優の方を見れば、優は指から炎を出してこっちにドヤる。少しムカつくが、驚きの方が勝る。火を起こすなんてファンタジーだ。最高すぎる。


「……マジかよ」

「なーんてな。ライターを指の奥に隠してただけだ」


 優は笑いながらライターを見せてくれる。センスの悪い銀のライターだ。多分有名どころのライター。高校生だし、制服には似合わない。

 溜息をつきながら、気になることを聞く。


「だよなぁ……なんでライター持ってる?」

「この前、葬式だったんだよ。まぁ親の知り合いだからほぼ知らない人だったけど」

「成程ね。それでそのまま入れっぱか。先生に見つかったらタバコ疑われるぞ」

「こんな状況じゃタバコ疑われてもどうにもならない」


 全くもってその通りだ。こんな状況でタバコを疑われてもどうしようもない。先生らも同意見で終わるだろう。

 というか先生の方がストレスからタバコを欲しがりそうだ。


「そうだな。とりあえず周りの地形が分かる地図だけでも欲しいよな」


 学校内は把握してるが、いつあの赤牛が侵入してくるかも分からない。せめて周りの状況を知っておきたいと思ってしまう。

 もし知らなければ、いきなりの奇襲という事もある。少数であればいいが、大人数の移動時に何かあれば終わる。

 終わるというのは人が数人死ぬでは済まない。死体を見たことも無い生徒は基本的に発狂する。もしくはゲロって戦線離脱してしまう。そんな状況で襲撃を食らえば、壊滅してもおかしくない。

 しかもそれは俺らも例外じゃない。俺も、その仲間も死体を見た事あるやつは居ない。間違いなく死ぬ。


 だからこそ手間で面倒であっても行動しなくてはならない。これは登山以上に危険な事なのだから。


「なら見に行くか?圭」

「……後でだろうがするか」


 俺はそう言って先程受け取った物をポケットから取り出す。手のひらには鍵があった。

 どこのかは分からないが、あの先生は文系だし危険物ということは無さそうだ。

 となると、裏口の鍵か屋上のはず。あとは体育館程度。体育館は基本は校庭からしか入れないので、それはないと思える。そして赤牛の侵入経路になりうる裏口の鍵を渡すとは思えない。それに外回りの先生を待たせたということは、裏口の鍵を渡すと言うには理解ができない。

 つまりは屋上の鍵だと思われる。


「……屋上の鍵だと思う。多分俺らの仲間内で使えって事でいいんだと思う」

「なるほどな。それなら今日から俺たちは青空教室ってわけか」

「そうらしいな。天然の扇風機と暖房が気持ちいいかもな?」


 俺らが話をしていると、教室の入口に先生らが立っていた。こちらの方を見つめていることから俺が誰かは知っているようだ。

 俺は学校で結構な有名人なので、既に全先生と全同級生には知られている。だけど、俺はこの先生が誰かは分からない。

 とりあえず挨拶をしなくてはならないので、先生の方へと歩いていく。


「外回りを担当する日下部だ。1年生の情報担当で、文系組を教えていた」

「ああ、よろしくお願いします」


 俺らは軽く頭を下げてから、手を差し出す。日下部先生は笑顔で握手に応じてくれた。案外気さくな先生なのかもしれない。


「今から屋上へ行く。屋上に化け物がいないとも言いきれないから、地下にある倉庫から武器になりそうなものを集めてから行く事になる」

「分かりました。それなら一人呼んでもらえますか?3のBにいる佐賀って人が絶対に役に立つはずです。所属は歴史部。俺の名前を出せば来ます」

「ならそれは私の方で呼んできます。3人は地下に向かってください」


 名前を知らない女の先生がそう言って探しに行ってくれる。俺らは日下部先生と一緒に地下の教室に向かって歩いていく。

 階段を昇っていると、日下部先生に話しかけられる。


「その佐賀って生徒はすごいんですか?」

「アイツが来たならかなり有利になりますよ。歴史部でも随一のサバイバーってやつです」


 日下部先生が尋ねてくるので、俺は自慢げに喋る。

 謙遜忖度なしで優秀な生徒だ。サバイバル経験者で、驚く程に目がいい。身体能力もパルクールをやっていたおかげか他の生徒とは別物だ。役に立たないはずは無い。

 グループだと色々やってくれたが、仲間への連絡や備品を集めるのをよくやってくれた。その代わりとして山登りに付き合わされたが、佐賀の生活力は高く、楽しみながらサバイバル出来た。


「そうか、それなら良いんだが」

「……何か問題でも?」

「……周りには誰も居ないしな……伝えておく。生徒が三人やられた」


 その言葉に驚く。まだあの化け物に対する武器もなければ煙幕などの逃げる為の道具もない。それで校内に化け物が入るのは困る。

 まず校内から追い出すのも無理だし、下手な生徒は見ただけで腰を抜かして食われてしまう。だから今すぐにでも武器を作るか、いざとなれば仲間を全員呼ぶしかなくなる。


「どういう事ですか?」

「……生徒があんな化け物倒せるってやらかした。既にやられてる生徒がいるのに、無茶をして。校庭に走って、食われた」


 どうやらやられたのは校庭でらしい。言い方は悪いが良かった。校内ではなかったことに安堵を隠しきれない。

 というか、その生徒はアホがすぎる。あの体格を見てよくやり合えると思ったのか……もしく知らないでやったのか分からないが、無駄に命を散らしただけだ。


「……まぁ、だからな。あまり生徒だけの行動は許されてない。教師ですら単体は禁止されているんだ。

 さっきのB組ら3年生の生徒らもこれから荷物を動かすんだ。講堂に全員集まるためにな」


 確かに3年生だけなら講堂で問題ない。別に大きいわけじゃないが、一学年だけなら問題ない。余裕を持って動けるだろう。

 となると、その他学年の生徒の場所も聞いておきたい。


「2年とかはどこへ?」

「2年生も講堂だ。1年生は3階にある教室を使ってゆっくりしてもらっている」

「……なるほど」


 だが気になるのは荷物だ。運ぶにしても、どこかいいスペースがあった記憶はない。

 生徒ら一人一人はそこまでとしても、校内はそこまで広くない。一応いい場所があるが、それは一度校外にでなければならないので今は無理だ。


「……持ち物はどこへ?」

「各教室のロッカーに自分のものは入れさせた。要らないものや、なにかに使えそうなものは全ては講堂だ。そこのは好きにとっていい」


 多分ここ数日で武器を作ることになる。その時に使わせてもらえるのはかなり有難い。不要なものからでも様々な使い道があるので嬉しい。

 机一つあるだけでも、スチールが手に入る。その上生徒の不用品まで手に入れば作れるものが増える。

 まぁ教師から少し怒られそうではあるが、そんな事を気にしている場合でもないので、自由にやるのが一番だ。


「……それで、何かあるんですか?」

「刺股とかしかない。ただないよりはマシだ」

「優、俺のロッカー分かるよな。一番端のとこにあるアレだ。真衣と黒野の合作。あのヤバいやつわかるか?」


 先生の前なので、できるだけ名前を言わないようにする。勿論持ってきていけないものなのもあるが、更に教師からくすねたものだからバレたら怒られてしまう。

 なんなら原型などなく、しかも二つに分けてしまった。しかも用途に関しては、涼雅という仲間が実験をする時に使う。まぁろくでもない実験な為、芋づる式にバレていくのは不味い。だから出来るだけ証拠は残したくない。


「……優、二つ合わせて一分で頼めるか?無茶かもしれないが」

「何言ってんだ。1分あれば余裕だ」


 優はそう言って1分のタイマーにした時計を投げてくる。少し煽るような言い方をしたが、一分で地下倉庫にまで行って来るのは難しい。武器を数個だけでいいとはいえ、往復にかけられる時間は20秒程度。階段は手すりを飛び越えて降りたりしないと間に合わないだろう。

 キャッチすると、日下部先生の方を見て、話しかける。


「先生は知ってますか?歴史部ってのは名ばかりでして、実際はやらかし屋の集まりなんです。まぁ数名、仲間とは言えない生徒もいますがね。まぁ大半はやらかし屋なんです」


 走っていった優も真面目そうな生徒だが、実際は少し違う。他の生徒と比べても特に優秀で、技量も高い。それ故に周りと上手く馴染めなかった人だ。

 ただ上っ面だけは、周りに合わせられるタイプの悲しい感じの人だ。

 他の仲間も全員そう。所謂社会不適合者の様な、鼻つまみ者が集まったのが歴史部だ。


「それは聞いてる。肥前君を筆頭とした集団で、歴史部に籠っている人だとも」

「ええ、俺が筆頭ってわけじゃないですけどね。でも全員が天才なんです。いえこの場では天災というべきかもしれません」


 まず犬養優。暴走しがちな俺のお目付け役的な人であり、相棒とも言うべき存在。対物の喧嘩を得意とし、ストリート系の人物。


 佐賀燐。うちの仲間でも2人しか居ない女性の1人。喧嘩っ早くはないが、言葉足らずで巻き込まれやすい。美少女だが、口足らず過ぎて周りからは敬遠されている。高嶺の花って意味もあると思われる。


「……なるほど。一つ失礼な言い方をしてもいいか?」

「もちろんです」

「……君のような生徒は珍しい。だがそのような生徒に周りが従うと思えない。少なくとも君は誰かの上に立つタイプと言うよりは、リーダーの隣で立つ存在に見える。もしくは、自由に動く伏兵のような……」


 全くもってその通りだ。俺は王と言うよりは、その隣にいる金将や銀将、槍という立場がいい所だろう。

 それだけの強さを持ってないと自負している。


「ええ、そう俺も思います」

「なら何故あれだけ仲間に恵まれている?君は良くも悪くも、周りとは仲違いしてる。それなのにあれだけ凄い仲間を連れていた」

「うーん……それは俺の悩みでも有りましてね」


 その言葉に悩む。確かに考えて見れば違和感しかない。仲間の全員は生徒会とかに所属しても見劣りせずに最前線で居れるタイプのはず。

 それに慕われているとは思ったことがない。仲間の一人としておふざけ要員として、小事要員としているだけのつもりだ。


「話は終わり」


 後ろから声がして振り向くと、佐賀と優が居た。佐賀の方は普段通りの真顔だが、何処と無く不満げで、ムスッとしていた。

 ムスッとしているのは、話しすぎたからだろうか。まぁ自分が不適合者と言われたんだから、それもそのはずだが。


「……3分だ。遅刻した上に盗み聞きは趣味悪くないか?」

「さっきから居た。気付かれないようにしただけ」

「……そんなに話し込んでたか」

「うん」


 佐賀と軽く話すと、先生らをそのまま屋上に向かって歩いていく。

 この二人が居れば、いくらあのバカデカい赤牛だろうが倒せる可能性が出てくる。これなら屋上に化け物が居ても、校庭に追い返す事が可能になったと思う。


「何かいいものでもあったか?」


 俺が尋ねると、佐賀は少し嬉しそうな顔になって白い粉を取り出す。そしてファイアースターターもあった。それも未使用の新品だ。

 そして白い粉は多分小麦粉か何かだ。でなきゃファイアースターターと一緒には出さない。

 何故そういうものを持っているのかは不明だが、そこはなんでもいい。粉塵爆発を起こせるなら問題は無い。


「……あー、そういうのしかなかったか?」

「ない。ナイフとかならあるが、相手はあれだ。流石に戦えないだろ」

「だよなぁ……火だるましかないか。良いですよね、先生?」


 日下部先生の方を見れば、少し唸りつつも頷いてくれた。危険度か安全面と利益を天秤にかけたら、問題ないということになったらしい。

 まぁ兎も角、これで実行に移せる。

 屋上には赤牛を入れない柵の様なものがない。ちょっとした金網がある程度なので、数匹はいるとみていい。

 だが動物である以上は火を怖がる。だから爆発が起きれば逃げるはずだ。

 少なくともドアから離れるまでの時間稼ぎは出来ると思う。


 屋上の前まで来ると、互いに顔を見合わせ合う。そして鹿島先生から受け取った鍵をドアを差し込んで、鍵が合っていることを確認する。


 やはりあっていた様で、鍵の開く音がする。

 再度確認として、俺が指で順番を指す。


「……よし、先生は鍵を開けたあとにそのまま壁のあるとこに隠れてください」

「だが……」

「こういう時は俺ら不良の犠牲は些細なもんです。先生が死んだとなりゃ、他の生徒への精神ストレスになる」

「……そうか、分かった」


 本音はただ邪魔という話だ。俺らは息を合わせて動けるが、先生はその合図も分からない。いざと言う時にアイコンタクトが取れないというのはこういう場合に命取りだ。そんなので先生をやらせるには辛い。大体、瞬間的に動きにくい三十路越えの先生には無理な話だ。だからただドアを開くだけをやってもらう方がいい。


 それに不良の犠牲なら笑える。他の生徒は「どうせ無茶したんだ。馬鹿だから」と思ってくれる。だが先生ともなれば、他の生徒への衝撃はデカい。生徒によっては発狂や泣き喚く事だろう。


「……俺がファイアースターターでやる。佐賀はその粉やれ。ドア閉めるのは優だ。いいな?」


 示した順番に合わせて道具を渡して、軽い指示をする。

 普段なら、道具だけ渡してそのまま実行が普通だが、命の危険があるとなれば少しだけ慎重になっていく。何時もよりも正確に、ミスなく行動しなくてはならない。


「うん」

「おう」


 俺は一度深呼吸をして、ポケットからティッシュを取り出す。そして軽くファイアースターターを削って、すぐに火をつけられるようにする。


「開けてください」

「どうぞ」


 丸めたティッシュに火種がつくのを確認するとそう言って、ドアが開くのを確認する。やはり赤牛が居た。三体だから殺れるかは不明だが、やるしかない。


 すぐに目が合って、互いに警戒し合う。そこから数秒が経ち、向こうの目が逸れたのを確認すると、すぐに佐賀が前に出る。そして佐賀が大きな袋を投げて、着地と同時に粉が撒き散る。

 佐賀が粉をばらまいたのを確認するとティッシュに火をつけて投げつけ、優に合図を送る。


 すぐに暴発が起きるが、優がすぐにドアを閉めたことで、熱風もこちらには来なかった。すぐに目を瞑ってしまったせいで、よく分からないが赤牛の声が聞こえないことから無事なのは確かだ。


「……心臓に悪い」


 目を開いて安堵した俺の呟きに佐賀と優は頷く。

 化け物の悲鳴は聞こえて来ない感じからして、上手く逃げたのかもしれない。それに爆発はドアから数メートルで起こした。爆発から数秒経ってる事からも、間違いなく失せたと思われる。


「……もう脱ぐか」


 ワイシャツを脱ぐと、Tシャツ姿になる。スポーツ用のTシャツでかなり動きやすいものだ。無地の水色で、中に着るのは白か黒と決まっているのでアウトになる。校則違反だ。

 だが日下部先生はこちらの顔を見るだけな所からして、見逃してくれるらしい。


「……パーカーってあったっけ?」

「いや……俺ら仲間分しかないな。しかもデザインはゲーム仕様だ。どうする?」

「……あのガラの悪い奴か。作った張本人に感謝のお説教をしないとな」


 作ったのは俺の仲間の一人だ。背中が富嶽三十六景だったり、龍だったりとセンスを疑うようなものばかりだったが、こんな時に文句は言ってられない。

 周りからの目よりも、良点が多い。


 動く時に着れるパーカーは希少価値が高い。それも動きやすい素材や、通気性、暖を取れるなどを考えたら良さが上回る。この世界にそんな材質があるかも分からない中、気軽に着れて悪くないパーカーは凄いものだ。

 そこだけは感謝しなくちゃいけないし、喜ぶべき所だ。アイツの作る服は手作りながら、企業レベルの物も珍しくない。強いて言うなら本人が女のド変態だから、作る物にクセが出てる所が欠点。だがそれを今は気にしていられないし、やはり良点が強すぎた。


「……俺らは行動時はそうするか。他の生徒はジャージとかだろうが、俺らに文句言う生徒はほぼいないし問題ない」

「大体、アレを着たいやつ居るか?あんなのデブおっさんコスプレイヤー並に見てて辛いぞ?」

「……でも性能良い」

「そうなんだよなぁ……アイツ、そこだけは有能だからなぁ」


 多分今後は他の生徒はジャージや制服になる。動きやすさを考えたら、ジャージになるのが普通だ。

 そんな中で俺らは悠々自適にパーカー着るのもどうかと思ったが、大した問題では無さそうだ。あんなのを着たい生徒、頭がおかしい。

 つまりあんなのでも着なきゃいけないほど、切羽詰まっているという事だ。


「さーて、一応消火時間も経ったし行くか。」


 俺は時計を確認して、問題ないと分かると周りに目配せする。そして立ち上がると屋上のドアを開ける。

 そっと音を立てないように上がると、爆発後や粉が散らばっているだけで赤牛はいなかった。あれで逃げた事を考えれば、再度来るとしたら数日は空けるはずだ。


「……よっし!成功だ!」

「ならこの場所は俺らが使う事にするか」

「だな」


 喜んで屋上を歩くと、視界に見覚えのあるものが見える。

 木になる赤い実。艶のある、まるで宝石のような……そう、リンゴだ。間違いない。あれはリンゴだ。

 リンゴの形をしているだけかもしれないが、間違いなく果物であることには間違いないはずだ。


「おい!あれ見てみろ!」

「……あれはリンゴだな。良いものを見つけた」

「缶詰で果物は十分だが、こういうのはありがたいな」

「取りに行けないか?」


 日下部先生の言葉に少し悩む。

 まず手は届かないし、棒を使うにしてもかなり難しい。大体10メートルは離れているから、そんな棒などまず無い。

 下から行くにしても、木が校門から出て20メートル位の距離だ。誤差が数メートルでもそれでも厳しい。

 目視だから、誤差はあるのは確かだ。だがそこまでのリスクを負うのはリスキーだ。


「大体20メートル……やれるか?」

「厳しいな」

「……無理」


 優は思考してくれるが、佐賀のバッサリとした否定な意見で、優も黙り込む。優も佐賀の有能さを知っている為、ここまでハッキリと言われれば何も言えない。

 佐賀の意見も真っ当であり、それもそうだ。行くだけなら兎も角としてものを持って帰ってくるとなると無理だ。リンゴを持つとなると、その分の動きが鈍る。たった一つ持ってきた所で意味はなく、何十個も持つとなれば走らなくてはならない。

 そんなのは赤牛が沢山存在する中で、そんな重しを持ちながら往復は無茶だ。確実に死に直結する。


「……今はあるってだけで十分だ。それよりもやることがあるだろ」

「……そうだな。佐賀、やるぞ」

「うん」


 優に急かされて、佐賀と一緒に周りを見る。やはり一面森だ。この感じだと多分一番近い街でも、距離的には何十キロかはある。

 俺らの平均歩行速度は大体時速5キロ程度。林の中だから、それよりも低くなってもおかしくは無い。となれば最短でも半日はかかる。飯や休憩を含めると、大体1日とみていい。

 しかもそれが最短だ。多分この学校から出るなら、赤牛を倒す方法に加えて一週間の食料に大量の水が必要になる。かなり厳しいのは間違いない。


「……無理そうだな。佐賀の目視はどうだ?お前なら遠くまで見えるだろ?」

「ダメ。半径5キロ圏内にない。木だけ、ダメ」


 佐賀の目は他の人比べても特に良い。それも遠くのものを正確に見ると言うよりは、異物や色覚に特化した方で良く、違和感等には直ぐに気付ける。だから違和感の正体はふめいになるが、そこまで分かればあとは双眼鏡を使えばいいだけだ。

 それ故にこの様な場ではかなり輝く才能だ。


「次は空気だ。持ってきてくれたんだよな」

「おう。結構小型だから問題なかったぜ。結構重かったけどな」


 優はそう言ってポケットから機械を取り出す。大きさは、500ミリリットルのペットボトル程。重さは15キログラム越え。サイズから考えても相当重い。

 この機械の名前は『空気中成分検出器兼危険有害物質濃度調査機』という。因みに略して、仲間内では空害機とも呼んでいる。

 この機械の意味は、この通り空気中の成分と有害物質を調べることが出来る。スイッチを入れなくても、有害濃度が確認されれば警報を鳴らしてくれる良い装置付きだ。


「スイッチ入れてくれ」

「設定は私がやる」


 佐賀はそう言って空害機に近付くと、設定からスイッチ、仕組みにまで手を出してくれる。空害機は少しずつ形を変えて、小型のパソコンのような形へと変貌する。

 そして作動音がして、扇風機の様な風が周りに起きる。


「……圭、酸素濃度2割越え、窒素濃度6割越え、二酸化炭素濃度0.1割未満、問題なし。」

「そうか、それは良かった。その他有害物質は検知されてないか?」

「うん、問題ない」


 その事に安堵して、俺は床に座り込む。

 もし異常があれば今すぐに対処、または実験に移らなくてはならない所だった。だがその可能性が消えた今、安心して過ごせる。


「よし、あとは警備にも手を回さないとな」

「だがあんなのを倒せるのか?」

「分からねぇ……ただ別館の地下教室、あそこに色々と仕込んである。主に危険物とかだが、涼雅と黒野、それに俺で何とかしてみせる」


 別館には地下が二階まで存在する。その教室にも色んな物が置いてある。それは学校内でなら、危険な物を置いてもサツも手出しがし辛いという理由からだが、良かった。

 日下部先生もTシャツ同様に見逃してくれる様なので、気にせずに使わせてもらうことにしよう。


「それまでだが、どうするんだ?」

「俺らはここで固める。先生方には学校から出ないように伝えてください。外回りも多分今は無理です」

「……だが」


 優の言葉に、日下部先生は悩む。勿論日下部先生の言いたいこともわかる。

 優がその程度の発言をしたところで、優はただの真面目生徒。いくらやらかし屋な歴史部所属とは言え、他の先生方を説得するには足りない。

 しかも現状で生徒が外に出るのは難しい。そんな中、先生まで外に出ない完全篭城は難しいのだと思う。


「……日下部先生、副校長のとこに行ってください。それで俺から名前でメッセージを『外回りは俺ら10人の仲間でやる。歴史部が一任と管理する。手出しは無用だ。手を出すなら、停学ではすまないことを先生にするから、嫌なら外周り関係の全権を寄越せ。筋は通すし、行動の始末は付ける』と伝えて貰えますか?」

「圭!?」


 俺の言葉に、日下部先生だけでなく優も驚く。それもそのはずだ。副校長に対して、こんな発言は怒られて然るべきだ。

 だが今はそんなことを言ってられない。それに弱腰の校長や他の先生よりは、信頼がある。それは緊急時のみの特別な信頼だが、それ相応の力を歴史部と俺が示したはずだ。


「そんなことを言って良いのか?」

「大丈夫です。あの人ならそれで意図を理解しますから」

「……分かった。わけは知らないが、伝えておこう」


 副校長とは仲が良い。どのくらいかといえば、よく俺と歴史部の作ったレポートを読んでくれて、訂正や修正をしてくれる仲だ。それに俺が何をやらかしたのか……と言ってもただ喧嘩だ。暴走族と俺らの仲間で喧嘩をして、サツにパクられたというだけの話。それが原因で停学となった。

 それをよく知っているのは副校長だ。警察にも謝りに行ってくれた。

 だから俺とは仲がいい。多分許可は降りるはずだ。しかも俺がこの学校で自由が効いてるのも、副校長のお言葉が大きい。多少の面倒をかけても、それだけの意味や価値を示したが故の、実績だ。だから副校長は口を出さない。


「……よし、やるぞ」


 日下部先生を見送ると、俺は優と佐賀に声をかけて警備を始めることにした。

 大きな紙を出すと、地面に広げる。そして紙に校内の図を書いていく。そして赤牛の侵入経路に赤丸を付けて、使われる通路との距離を書き込んでいく。


「仲間の召集は明日だ。それまでは俺ら三人で何とかする」

「おう」

「……俺は明日、やらなきゃいけないことがある。だから明朝の警備とかは優と佐賀でやってくれ」

「任せて」

「それじゃあ解散だな。俺らは少し必要な道具を取ってくるから、そっちは頼むぜ」


 俺の言葉に二人は頷くと、ファイタースターター等を持って何処かへと消える。

 流石に屋上に一人は危険なので、俺も校内に入って情報をまとめる事にした。

えー、改良しましたね。

出来れば三日に一度、投稿出来たらなーなんて考えておりますはい。失踪はせめて2章完結まで頑張れたらなーと、えー、はい、やらせてもらおうかなと思っています。


あ、投稿途切れてる場所からも少しずつ投稿します。

これに関しては週一で出来たら良いなと思っていますはい。

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