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1-9

お久しぶりです。

やっと話が進みます

 

 地下の二階で発電機をセットし終わる。

 発電機を作るのにかなりの月日を要した。

 その期間に様々な事があったが、一番の収穫と言えばコレだろう。俺の首にかけてあるネックレス。これは川崎先生の大切にしてたものだ。本当は遺品になるのだが、川崎先生と俺が仲のいいことを知る先生らが頼み込んでくれた。だから今は俺の元にある。


 因みに死体は火葬した。みんなで弔い、死を悲しんだ。その骨は今、校長室のところに置いてある。

 俺は死体を見ることはかなわなかった。理由は焼いてない赤牛を触れるのは危険ということで安全性が確かめられるまでダメだった。

 だから骨の状態でしか会えなかった。


 まぁ話を戻すことにしよう。この発電機が成功すれば、問題は無い。

 今までに軽い試しはした。だが実践では初めてであり、今回はエアコンの作動だ。これがないと冬を越せない。


「真衣のプログラミングは終わったか?涼雅との計算ミスはあるか?」

「ないな。」

「あるわけねぇだろ!俺がやったんだ!ミスしてたら涼雅の方だ!」


 どちらも自信満々な様子なので信じて良さそうだ。普通ならフラグの思うが、コイツらにそんな常識は通用しない。フラグクラッシャーと言っても良いくらいには凄い。

 ……まぁその分、俺の方にツケが回ってきてる気がするのだが、気のせいだろうか。


「……なんでお前がここに居るんだよ。」

「勝手に行動したのを、わざわざ隠して上手く話を繋げたのは誰がやったと思っている。」

「クソが。」


 まぁこいつのおかげでお説教は免れた訳だが、夏目にだけは情報を漏らしたくなかった。

 こいつは仲間でも脅迫をしてくるやつだから、知られるのは事が終わってからの方がよかった。


「……電力の一割を渡せ。」

「仕方ない。一割より多くは渡さない。」

「ああ、それでいい。」


 俺は交渉を終わらせると、真衣の方を見る。

 真衣は頷くと、パソコンに文字を打ち込み始めて、発電機が作動する。


「……頼むぞ。」


 エアコンのスイッチを押すと、暖かい空気が流れてくる。

 このエアコンを使うのに、一ヶ月もかかった。だがまだ秋なので、凍死の心配はなかった。

 冬になる前に暖かくなったのは嬉しいことで、仲間らもどことなく嬉しそうな顔ぶれだ。先生らはホッとしたように息をついている。


 日本にいた時のように豪勢には使えないが、これがあるだけで安心感は高まる。

 今は小規模だが、少しずつ大きくしていけば、安全面も真衣のプログラム式の機械で任せられる可能性も出てくる。


 ずっと教室に籠りっきりで一ヶ月も居たから、そろそろみんなも外に出て遊びたい時期だろう。せっかく力に目覚めたのに、派手に使わせないというのはつまらないはずだ。


「……今日は豪勢にいこう!飯を狩りに行くぞ!」

「おう!」


 仲間らを引き連れて、咲耶の元へ向かう。

 本当は彼女にも見て欲しかったのだが、狩りも料理も彼女に任せっきりだった。教師らのサポートありとはいえ、辛いことに代わりない。


「……真衣、居るか?」

「うん、入って入って。」


 時々顔は合わせてたとはいえ、こうやって話すのは久しぶりだ。

 それなのに、声はどこか嬉しそうな感じがする。何かいい事でもあったのかもしれない。


「失礼するぞ。」


 教室の中に入ると、その光景に圧倒された。

 沢山並ぶ果実らしきものに、料亭でも見ないクラスの牛肉の料理。こんな物をどこから集めたのかと問い詰めたくなる。


「……おいおい、なんだこれ。どうやったよ。」

「赤牛を殺して、部位を選別した。果実は外から探して、誰もケガしないようにちゃんとやったよ。」

「……流石だ。いや、本当に凄いな。」


 優らも言葉が出ずに居る。

 こっちの世界に来て早四ヶ月。そんな間にこんなものまで見れるようになるとは思ってなかった。

 これで最低ランク食べ放題焼肉未満の生活から抜けることが出来る。


「俺も協力したんだぜ。すごいだろ。」


 声の主は涼雅。アイツが手伝ったのなら、これ程までに用意したのも納得だ。大方集めたものから種を拾って量産したのだろう。


「それにこれも作った。材質は絹っぽい何か。なんか凄いツヤが出ちゃったけど、それは我慢して。」


 真衣はそう言って、後ろから服を持ってくる。

 作業着らしきものから、パーカーやドレス。様々な服が用意されていた。


「あれ作るのに手とか汚れたでしょ。服とかもボロボロだし、これとかどう?」


 渡された物を広げると、つなぎタイプの作業着だ。確かにツヤがあって変な感じだが、悪くない。真っ黒な作業着で、車の整備士が着てそうな服だ。


 いや、作って貰ったのに悪くないは酷いな。感謝すべきだろう。こんな物を用意してくれるのに、睡眠時間はかなり削られたはずだ。よくもやってくれたと褒めることしか出来ない。


 真衣らには後ろをむいてもらって、作業着を着る。

 着て驚くは、伸縮性がある事だ。かなり伸びがよく、まるでゴムのような伸縮性を持っていた。これなら使い勝手は良さそうだ。

 ポケットも物が大量に入る仕組みになっていて有難い。

 前側のチャックを締めると、真衣に声をかける。


「これは凄いな。こんな物をどこから集めたと聞く方がおかしくなるほどだ。」

「それはね、みんなで編んだんだよ。時々圭の所に物を作って頼んだでしょ?」


 言われてみれば確かに来た。

 白間が何かを用意していた記憶がある。


「それを解して作ったの。それに他の子に糸を用意してもらって作ったから、強度も凄いよ。」

「……なるほどな。それはありがとう。」

「どういたしまして。」


 ただ一応聞きたいことがあるので聞いておく。


「……なんでドレスを用意した?というか、女物の服ばっかだな。男物はこの作業着とパーカーとジャケットしかないんだが?」

「…………」


 真衣らが目を逸らしたのを見て理解した。

 大方、自分のものにハマりすぎてそっちばかりに力を入れたのだろう。その試作品等が今着てる作業着とかで、ドレスとかの方に力を入れまくっていたから、俺らのものが少ないということだ。


「……はぁ、まぁいい。こんな物を作ってくれたんだ。そこは目を瞑る。」

「ごめんね。ただその代わりに圭はこれとか着ていいよ?今の顔なら似合うと思うんだ。」


 指をさした方を見れば、女物の服ばっかだ。中性顔になったから似合うとでも言いたいのだろうかこいつは。

 というか、ロクなものがない。デザインがもはやお嬢様や姫様が着そうなものばかりだ。俺らがまだ二十歳にもなってないから、まだ着れるのは確実だが、ゲームのやりすぎだと言うのは間違いない。


 そして一つだけ奥の方に隠された物を見つけてしまう。

 シースルーのスーツだ。若干透けて肌が見えるスーツとジャケット。全身コーデ出来そうだ。


「……おいこら、真衣。」

「な、なんでしょうか……」


 真衣は俺の視線に気付いたのか、慌てて視線を遮るように立つ。どうやら怒鳴られる覚悟は出来てるらしい。


「言っとくが、浅間と黒野、優は全員用事が沢山ある。だからお前には貸さないからな。」


 黒野らを見ればウンウンと頷いている。

 あんな服を着せられたら溜まったもんじゃない。


「それに見たところ、あれを作るのに結構時間使ったよな?あれにどれだけの人手を使いやがったコノヤロウ。」

「……二週間に人員を八割ほど……」


 限りなく声を小さくして、ボソボソという真衣。佐賀に聞かれないように限りなく声を抑えているつもりだろうが、今の佐賀は聞き逃さない。

 昔なら兎も角、今は力に目覚めたことで、聴覚までもが強くなっていた。その程度で聞き逃されたのなら、俺がツマミ食いや実験をしたりした時に怒られることは無い。


「……佐賀!」

「ひっ……」

「なに?」

 

 どこからか悲鳴が聞こえるが気にしない。


「……この筋肉フェチなアンポンタン。軽く〆とけ。」

「わかった。」

「許して!これからはちゃんとするから!」

「……うるさい。」


 佐賀の腹パン一撃で無理やり黙らされると、真衣は担がれて奥の方へと連れてかれてしまう。

 謝罪と悲鳴が聞こえてくるが、段々と声が小さくなっていく。


「全く。こんな時まで暴走しやがって。あんな筋肉フェチな服、誰が着るんだ。リサイクルにでも回しとけ。」

「でも材質は良いんだよな。」


 優の一言で軽く触ってみるが、確かに材質は良い。俺の着てる作業着よりも伸縮性も良ければ肌触りもいい。動きやすさもピカイチだ。


「……誰か着る?」

「俺は毛を剃ってないから無理。」


 黒野はそう言って首を振る。

 ただこれからは電気が少しは使えるので、肌を軽く剃るのは出来るようになる。シェーバーが使えるようになったのは清潔感の向上でいい事だ。


 少し言うとするなら、既に女子らは諦めてるので清潔感も気にしなくなってきたのが多いことくらいだ。

 こんな空間にいれば、それもそうなってしまう。


「……てか圭は毛を剃らないよな。カミソリあるんだし使えばいいのに。」


 優の一言に俺はニヤリとする。これは俺の専売特許だ。


「俺の力で、髪の毛以外の毛を育たなくしたんだよ。だから顎の毛も、足の毛も剃る必要なし。」

「は?」

「俺の力でちょちょいのちょいだ。」

「てめっ、ふざけんな!イケメンになった上にそんな所行許されるか!」


 優と取っ組み合いになる。それもそのはず、優は毛深い一族。それを必死に隠したりしていたが、今回の件で隣のクラスの彼女に振られたらしい。

 まぁ面食いな女に引っかかっていただけだから、周りは良かったと思っているのだが、本人としてはショックらしく、まだ立ち直れていない。


「知らねー。俺のラックだ!」

「こちとら彼女に振られたんだぞ!」

「財布が温まって良かったな!」

「おまっ、ざけんなよ!」


 金遣いの荒い女性だった事は本人もわかってるが故に騒ぎ合う。


「良い芸妓さん紹介してやるよ!」

「誰が向こう島に行くか!」

「そんな事言いながら、前回はウキウキワクワクして楽しんでたよな!テングになってたくせに!」

「はぁ!?そんな事ない!」


 口喧嘩がヒートアップしていると、背中に服越しで何か冷たいものが触れる。氷かと思ったが、こちらの世界で氷は見てない。


「……圭、面白い話が聞こえた。」

「あ、あいや……佐賀?」


 いつの間にか後ろには佐賀が居て、冷たい手をそっと触れてくる。


「……あいや、冗談だ。ジョークだ。」

「それならいい……けど」


 佐賀の冷たい手が、背中から首の方へと流れていく。


「…………次はないよ。」


 俺の首をそっと手で回すと、そのまま教室の奥の方へと戻っていく。

 そこらの心霊ホラーの何倍も怖い。


「こ、この話は終わりにしようか。」

「……そうだな。優の言う通りだ。」


 優の言葉に従って、軽く服を整える。


「相変わらずの失言マシーンだな!」

「今回ばかりは笑えないぜ、真衣。」

「そうか?最高に面白かったぞ?」


 笑っているのは真衣だけであり、黒野らは冷や汗をかきながらそっぽを向いている。

 ここにいる全員で時々花街には行く。だからバレた時の恐怖から、少し天然な真衣以外はビビっている。


 というか、佐賀を恐れてないのは真衣だけな気がするのは俺だけだろうか。


「……狩りに行くぞ。今回は少し遠出までしよう。いざとなったら涼雅と俺が居る。」

「任せな。」


 涼雅と俺のコンビは中々に凶悪なことに最近気づいた。涼雅が木を育てて、それを俺が操作する。それをするだけで簡単に木の壁を作り出せる。

 これほどまでに強いものは無い。


「佐賀、先に行ってるからな。」

「……わかった。後で追いかける。」


 教室から出ると、校庭に向かって歩いていく。

 本館からしか校庭には出れないので、二階の渡り廊下を使って歩いていく。本館から降りていこうとすると、生徒らの怒鳴り声が聞こえてくる。この感じだと相当な人数が集まっている様子だ。


「これじゃあ玄関口から行くしかないな。」


 本来は中庭的な所から出るように作られていて、そこから校庭に行ける。玄関口の方からは校庭にも行けるが、普通は中庭的な場所から出ていく事が出来た。


「軽く見ておくか?」

「うーん……そうだな。」


 本当は無視した方がいいのだが、優は少し興味があるみたいだ。それならば、軽く見るだけはいいかもしれない。


 玄関側の階段を降りていくと、それでも人が見えるほど大勢で集まっていた。

 制服がそこまで傷ついてないことから、学校内で物運びやらを任されていた連中だと思う。外に回された生徒なら、新しいジャージやパーカー等を支給されていたはずだから。


「……なんだあれ。」

「わかんね。とりあえず職員室だ。」


 職員室まで入れないほどに人だかりが起きているので、玄関口の近くにある鍵などを置いてある場所に行く。


「長岡さん、ちょっとそこから職員室に行かせて貰えませんかね?」

「その声は……勿論、いいですよ。」


 清掃員である長岡さんからの許可を得て、職員室に入る。本来はわざわざこんな説明をしなくても無断で許されていた。

 だが髪色が変わった上に顔までもが変わったのが原因で軽く挨拶をしなくちゃいけない。まだ清掃員の人には挨拶をしていないので、声で気付いてもらうしかない。


「村木先生。いますかー。」


 俺がノックもせずに入るのはいつもの事だが、今回ばかりはするべきだったと思う。


 何せ、生徒が大量に先生に文句を言っていたから。

 こんなの有り得ない状況だ。うちの高校は底辺もいい所だが、不良学校では無い。自称進学校であり、生徒のタチはそこまで悪くない。教師に喧嘩売るのなんて、俺とかみたいな珍しいやつばかりだ。無断欠席とかもあまりない上に、生徒同士の喧嘩もない。


 だからこの状況はおかしすぎる。ハッキリ言って居心地が悪い。

 俺なんかは周りから、ああいう奴なんだと距離を置かれているタイプなので視線を集められるのは慣れていない。教師からの視線には慣れているが、生徒からのには緊張してしまう。


「…………旦那、タイミング悪かったな。出直すか?」

「だから旦那と、いや今は話すべきじゃないな。だが無断で……いや、それもいつもの事か。うん、そうしよう。」


 黒野の言葉に頷くと、そそくさと帰ろうとする。


「待て……肥前。」

「手を貸してくれ。」


 見たことも無い生徒から声をかけられてしまう。ハッキリ言えば無視して赤牛狩りに出かけたい。

 だが後者は村木先生だ。一年生の時の恩がある。ここで無視してしまうのはあまりよろしいとは言えない。


「……なんすか、村木先生。」


 誰でもわかるほどダルそうに先生へと近付く。

 生徒がなにか怒鳴ってはいるが完全無視だ。


「何の用だ?」

「少し外の空気吸ってきますってだけです。それ以外の用事は特にありませんよ。」

「……そうか、今日は何日分だ?」

「んー……一週間分です。ただ今回は少し遠出をしようかと。」

「……好きにするといい。」


 村木先生がそう言って鍵を投げてくる。

 鍵を俺がキャッチしようとすると、氷塊が飛んできて鍵掴もうとした手を弾く。


「……何のつもりだ?」

「なんでお前は!」


 氷塊を投げつけてきた生徒は俺の方を向いて怒鳴る。

 俺は意味が分からずに首を傾げてしまう。


「は?」

「なんでお前は見過ごされる!」


 見過ごされるの言葉でやっと理解する。

 コイツらは外に出たいらしい。前ならば赤牛に恐怖を示していたが、力を得たことで強くなったと勘違いしたらしい。今は赤牛だけで、これから化け物が現れる可能性もないとは言いきれないのに。

 大方、教師から教わった力で強くなれたと勘違いしてしまったのだろう。確かに多少はやれるようだが、まだ弱い。それに気付いてないのだと思う。


 意味を理解した俺は、鍵を拾いながらため息をつく。


「……お前ら、行くぞ。」

「いいのか?」


 涼雅が尋ねてくるが、黒野はそれを止める。


 知り合いが居たら面倒だ。だから他の生徒らを軽く見てから口を開く。

 少しでも俺を知ってるやつ……例えば一年生の時の同クラス等だ。アイツらは俺という人を知ってるので、やらかしても、笑いながら仲良くしてくれた。

 だが何も知らない奴からしたら、カーストな不良でしかない。それなのに教師と仲の良い、不思議なことだろう。


「言ったところで理解しない。時間の無駄だ。」

「なんだと!」


 俺は否定の意を示すと、職員室から出ようとする。

 だが見覚えのある生徒が目の前を阻む。

 見覚えはあるのだが、誰かは分からない。


「……何の用だ?」

「説明しろ。」

「断る。」

「なんでだ?俺の方が頭はいいはずだ。だから理解出来る。というかこの職員室にいる中で、一番成績が酷いのはお前だろう。進級にも引っかかったくせに。」


 この自信満々さで思い出した。コイツはアレだな。風紀委員会の時に居たやつだ。

 俺も元風紀委員会だったから、軽く参加したからよく覚えている。無能なスピーチやらして、時間を無駄に潰したやつだ。頭が良いからと前に立つのを任されていたが、あれじゃあダメすぎた。

 風紀もクソもなかったから、あれ以降参加するの無視り続けてたんだよな。


「……やめときな。」


 村木先生はそう言って生徒を止めようとしてくれている。ただ俺は興味が全くないので無視をし続ける。


「答えろ。なんでお前より頭が良くて素行も良い俺は許されなくて、不良なお前が許される。」

「面倒だな……お前は周りが見えてないからだ。先生に好かれる要因が頭の良さしかない。無能で将来性がないからだ。」

「それってどういう……」

「話しすぎだ。旦那、早くしないと日が暮れるぞ。」


 黒野はそう言って俺の腕を引っ張る。少しヒートアップしそうだったので、こいつの一言は有難かった。

 一呼吸置いてから、仲間らと一緒に玄関口の方に出てくる。


「あ、それじゃあ良いもん狩ってきます。長岡さん、また後で。」

「ええ、気をつけて行ってらっしゃい。」


 長岡さんに挨拶すると、そのまま玄関口から出ていく。

 そして玄関の鍵を閉めてからシャッターを落とすと、森の中で円形になる。一人一人が特定の方位を見て、襲撃をされないようにする為だ。


「……前衛は浅間と優、それに俺だ。その他はサポートしろ。旦那バカは斥候として周りの赤牛を見つけろ、ついでに囮になってくれても良い。」

「酷いな。」

「なら旦那って言うな。」

「そこはご愛嬌って事で。」


 黒野はそう言いながら、遠くを指さす。どうやらあっちに赤牛がいてくれるらしい。

 天羽に頼むのが良いと思うかもしれないが、天羽では大まかなものばかりで赤牛以外もレーダーに引っかかるからだ。


「いよし!狩るぞ!」


 全員で赤牛に向かって突撃する。視界に入ったが一面真っ赤だ。

 数は大体20体位。狩りには丁度いい数だ。


「一人一体は殺ること。今からスタートだ!」


 俺は地面に触れると、赤牛の足元から土の槍が飛び出してきて、赤牛の心臓部を一撃で貫く。


「まずは一匹。」

「遅いな。こっちは二匹だ。」


 優の方を見れば、ペットボトルから出した水を凝縮して、弾を作ったようだ。それで赤牛の脳天を貫いたらしい。

 精度は良いが、それなら俺の方が強い。


「これで俺は五匹だ!」


 地面から槍を作り出すと、それを射出して赤牛を何匹も串刺しにしていく。

 赤牛も俺たちに勝てないと理解したのか、段々と後退していく。流石にそれは困るので、仲間に声をかける。


「壁は頼むぞ。涼雅!」

「任せとけ!」


 涼雅は地面に何個も種を置くと、それを成長させて赤牛が真っ直ぐに逃げられないようにする。


「ナイス!逃げようとするのは浅間が全て片付けろ!」

「分かりましたよ。お任せ下さい。」


 浅間はそう言って駆け出すと、逃げようとする赤牛の首を蹴り飛ばす。脳を食べる気はないから良いのだが、なかなかにえげつない。


「黒野、鮮度保っとけ。もう死体だ。やれるよな?」

「もちろん、任せときな。」


 黒野が“状態固定”した物を浅間達が担いで涼雅の作ったシェルターに運んでいく。結構な量ではあるが、天羽も協力してくれる分言うほど大変じゃない。

 それにシェルターまでは十メートル程度で、シェルター内は涼雅特製だからか、安全で空気もいい。いざと言う時にはここに逃げ込める。


「よーし、真衣は終わったか?」

「余裕だ!俺の力でみんなポンコツ化だぜ!」


 幻影を見せられるのが真衣の力だ。それがあるから、大抵の敵は問題はない。

 赤牛も完全にフラフラしていて、浅間の一撃で気絶させられていた。


「……それにしても、こっちの世界はアレとかが居ないな!嬉しいことだけどよ!」

「あれ?」

「Gだよ!G!」


 確かにこちらの世界ではゴキブリを見てない。それどころか虫もほぼ見たことが無い。だから夏時に体をかく事はあまりなかった。


 いや、風呂がないからタオルで体を拭くしかない。だから体をかくやつは居た。ただ俺の場合は体の体質を変化させられるので、そういう問題はなかったというべきだ。


「アレだろ。虫は宇宙人っていう説があるし、それじゃないか?」

「ああ、完全に否定しきれないやつな。」


 虫は宇宙から来たという説がある。

 理由は簡単であり、普通の生物にはない変態を持つことや外骨格で体の外側に硬い殻をものを持つ事、単眼に複眼を持ち呼吸器が変なところにもある。

 しかも進化の過程が不明すぎる等理由も多い。


「本当にそれだけなのか。」

「いや、居なくても生きてけるんだ。別に困ることはないだろう。」


 もし居ないと植物が育たなくなったり、食物連鎖が崩れるはずだ。だがこちらの世界、少なくともこの森の中ではそんなことは無かった。

 つまりは何かの要因があるのだと思う。


「そうだな。それじゃあ行くぞ。この程度じゃ贅沢は出来ないからな。」

「高い部位ばっか食べる人が沢山居るからな。」

「お前が言うな。」


 俺は周りよりと比べてもそんなに食べない。

 好きな部位はホルモンとレバーだ。というか牛自体がそんなに好きではなく、咲耶お手製だから美味しくて多少は食えるだけだ。


「真衣、これで何日分だ?」

「牛が二十一頭だから、大体二週間程度だな!今は冷凍保存が出来るから!量を減らせば三週間が良いとこだ!」

「ありがとう。てかこの感じだと、森でいくら赤牛を殺っても問題なさそうだな。」


 森に赤牛が何頭居るのかは分からないが、減った様子もない。第一に一頭狩れれば一日は持つ。いや果物なども取れる今は二日はもつかもしれない。

 だから生活に不自由はないとも言える。


「……だが肝心な物が足りない。」

「それだよな。」


 今悩んでいるのは、炭水化物だ。

 いわゆるご飯や麺、パンなどに含まれるもの。それを取れるものが今はほぼない。


 それ以外の五大栄養素は一応は揃っている。


 脂質やタンパク質に当たる肉類は、赤牛から沢山取れる。というか脂質のは摂りすぎで小太りするやつまで現れ始めた。今までは体重計を使えないからか、喜んでいたがこれからは調べられる。みんなは絶望を受けることになるだろう。


 ビタミンは涼雅と咲耶のおかげか、野菜や果物はかなりある。


 無機質に関しては、力で牛乳を作れるヤツが現れた。しかもそれが十人も。

 だから無機質の問題は無い。強いて言うなら、俺が牛乳が嫌いな程度だろうか。だから俺の体には無機質が不足しているはずだ。しかも俺はチーズが嫌いで、無機質が全くと言っていいほど取れない。

 まぁレバーを食べてるから問題は無いのだが。


「てかそれなら圭のとこにじゃがいもがなかったか?」

「あるにはあるんだが……」


 優の言葉に俺が言いにくそうにしていると、黒野が俺の肩に手を置く。


「じゃがいもの量産には失敗したんだ。誰が悪いとかじゃない。ただ旦那の手癖の悪さが……」

「おいこら、誰の手癖が悪いだ。」

「まぁ真面目に言うなら、適応しなかった。この土地には良かったんだが、力が無効化されてしまった。多分外的要因があるんだと思われる。」


 普通に育てる分には何の問題もない。だが力で無理やり育てることは不可能だった。

 理由は分からないが、涼雅の力が弾かれた。

 ただしこの世界の果物には涼雅の力は上手くいく。何かしらの要因があるとは思うのだが、それが全く分からない。


「出来ないものは仕方ない。代わりとなる物を探しておこう。」

「一応フルーツにも炭水化物はあるはずだ。二年生の教科に家庭科があったな。教師に頼めば、教科書は借りられるだろう。」

「任せな!俺が借りてくる!」


 真衣は元気よくそう言ってくる。

 そう言えば真衣は教師と仲の良い一人だ。それも頭の良さではなく、性格の良さから好かれているタイプなので丁度いい。


「それじゃあ他に果物無いか探すぞ。あと山ならキノコや水流があるかもしれないしな。」


 キノコにも有毒なものがあるかもしれない。ただ毒素の確認は高校にある機材でもある程度は出来る。だから出来るだけ食料になりそうなものは集めておきたい。


「キノコはどこだろ?」

「わからん。先に赤牛を学校に送るようにしないと。丁度良いし、帰りにもう数体位狩るぞ。」


 赤牛は重たいから、浅間に荷物運びをしてもらうことにはなる。だがその間に俺らは俺らでこの近辺を軽く回る。

 もしかしたら、いいものや赤牛以外が見つかるかもしれない。


「戻るぞ。黒野は警戒を、天羽も同じくで接近する何かがあれば報告。浅間と涼雅は赤牛を運べ。それ以外は力を使って身を隠しながら探索だ。」


 全員が頷くと、そのまま浅間が赤牛を運び始める。涼雅はただのサポートで、いざって時になんでもやれるようにだ。


 その後は特に何事もなく狩りは終わった。

 宴会も楽しくやれて、騒ぐのも良かった。こんな状況では楽しむことが難しい。だからこそこういったことが大切になる。そうやってバカ騒ぎすることで何とか落ち着かせている。

 なんとも悲しい話だが、こうやってる事でしか正常に動けないという現実だ。少しでも気を抜けば現実を知って発狂する人も多い。だがそれをゲーム感覚等で必死に抑えている。

 そういう事でしか生きられない状況だ。

次の話では、戦闘があるかも無いかもしれません。


そういえばコンビニに行きました。

自動ドアが開かなくて久しぶりに悲しみを背負いました。

アタイ絶対許せへん!

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