1-7-5
まーた佐賀視点。
私は屋上から降りながら考える。
考えること、それは「私たちは彼……圭にとって必要な人材なのか?」ということ。
多分……いや、確実に、私たちは彼には必要な人材であるはず。でなきゃ傍に置いてくれずに、近寄せすらしない。互いが傷つかないように距離を取るはず。
だが今回、ミスをしてしまった。助けてあげられなかった。
白髪になって、中性顔になってしまった。ストレスや緊急の時に力が動いたのだと思う。
「……優、頼みは?」
「終わらせてある。俺からしたら朝飯前。」
「そう。」
「……いいのか?あれ放置して。」
「私達は駒。彼にとっての忠実な仲間。」
私の即答に、優は何の迷いもせずに頷く。それもそのはず、私たちの仲間はそれが結束。彼の為なら今すぐにでも命を張れる。そういう人しか居ない。
彼は私達を同列に扱う。でも私達は違う。彼をリーダーとして信じて、信用と信頼をし、彼が傷付く前に全て終わらせておく。それが使命だ。
「……どうやるんだ?多分大変なことになるぞ。」
「大丈夫。私達は、単体では彼に敵わない。でも複数なら勝てる。それに彼は私達の実力を信頼してる。替えがきかない。」
「そうだな。なら鍛錬もキツめにやるか。」
「当たり前。」
彼は私達に零から壱に進む手段を教えてくれた。
壱から弐も、弐から参も。だけど、ある程度からは彼は見せたりすることで分かりやすくは教えてくれない。いや教えられない。彼に出来るのは最初のスタートだけ。そしてそのあとは知識による言葉になる。
でもそれを教えてくれたのは彼だけ。様々は思考や計画で私達を良くしてくれた。
なら私達はどんな事があっても彼の傍に居る。彼が一人で消えるなら別だけど、そうでも無い限りは追いかける。そしていつか彼の足や手、肉や血となる為に動く。
「……仕事やる。食料は咲耶。」
「既に手配済みだ。」
「なら黒野。彼に頼んだものは?」
「あと二日欲しいらしいが?」
「……今夜まで。終わらせて。」
はっきり言って無茶ぶり。その無茶を出来ないのなら、彼の傍には居られない。頼めば優しい彼は居させてくれる。
だけどいつかそんな仲間は自分の無力さ、自分の代用性に気付いて離れてしまう。そしたら圭は傷付く。彼の事だし、「俺が言いすぎたのかもしれない。謝らなきゃ……でもどうすれば?近付いたら驚かせちゃうかも……もしかしたら言葉の深読みをして……」となりしょんぼりしてしまう。
彼は強い。だけどそれと同時に精神は小学生よりも酷い。そこらのストレスで潰されそうな人よりも弱い。多分仲間が離れたことを知れば、傷付きながらも笑顔をしてしまう。そんな彼の笑顔は見たくない。
理由は簡単。彼は期待されてきたから。先程説明したように、彼はなんでも出来る。最初のスタートなんて、片手間で出来てしまう。それを周りから期待され続けた。それも笑顔で余裕そうに、だけど子供っぽく感情に振り回されてる優しくて良い子供。不器用で、友達に言葉で伝えるのが難しくて、力でしか表現出来ない。でもそれを周りが見守って理解してくれる。
そんな理想の存在を押し付けられた子供。
だからこそ、彼は成長出来ない。それで充分で、周りはそんな子供の理想を押し付けて、そこから動かないようにした。そしてその事に気付かなかったから。
だから私達は支える。
崩れそうな彼を必死に、特化した私達が護衛する事で彼の弱い精神を隠して、強さという見栄を張らす。それが私達の仕事。
「……行く。能力について細かく纏める。」
「わかった。聞き込み終わったらすぐに合流して作るの協力するぞ。」
「ん、」
スマホを取り出すとメモに書き込んでいく。バッテリーにも限りがある。ソーラー発電も効率が良くないので使う量は極力減らす。
「情報が一番多い場所……夏目。」
あの夏目 和樹が力を調べてない……は有り得ない。向かい、聞くことにしたい。一階の会議室に向かって歩く。
会議室を夏目は場所として使っていた。居なければ、図書館に行く。そのどちらかに居るはず。
会議室の前まで着くと、軽くノックをする。だが反応がないので、口を開く。
「……夏目、いる?」
「ああ、すまない。入ってくれ。」
「分かった。」
私は会議室に入ると、夏目を睨む。怒ってはない。だが自然と目付きが鋭くなる。
「まずこれ。野嶋先生に渡して。圭からの頼みだから。下手なことしたら……わかってるよね。」
「ああ、もちろんだ。」
渡すと夏目と目を合わせる。
「聞きたいことは分かっているつもりだ。力についての情報だろう?」
「……渡して。」
「無論だ。それよりも聞きたいことがあるんじゃないのか?」
書類を受け取ると、彼はそう行ってくる。無視しても良い。だがせっかくだし聞いておきたい。
「……何故私達を放置する。野放しにしておく?」
「その話か。良いだろう。君らは出ていてくれ。」
疑問を口にすると、夏目は部屋から他の人らを追い出す。そしてお茶を飲むと、一息つく。
「……逆に聞こう。何故そうしてると思う?」
「質問返しは要らない。説明、先。」
「まぁいい。ただ使える者を利用しているだけだ。それは君のリーダーも同じだろう?」
夏目の一言にイライラが溜まる。
嘘の返答をした。その上に彼をそんな知ったような口を聞くのには怒りたくなる。
「そう怒るな。彼も言っていただろう。『アイツらは俺の仲間で、俺の手足。ただの協力者に過ぎない』とな。」
コイツの考えは知ってる。私を怒らせたいだけだ。そして圭を仲間から離させる。彼なら、私と夏目の仲が良くないと知ると動いてくれる。その身を犠牲にしても、守ってくれる。
それにその考えは、ただの自己擁護。いざと言う時に、「そうだ。何を今更。ただ利用してたから、相手からも利用されてたんだ。何傷ついてんだろ。変なの。」と言って精神が壊れることを防ぐための手段。
夏目程クズじゃない。彼は優しいが故にそういったごまかしで、互いが傷つかないようにしている。自分も相手も利用してただけ。後で後悔しないようにしてくれる。
「……圭の何を分かる。」
「分かるさ。少なくとも彼をリーダーとして無理をさせている君らの何倍もな。」
今すぐにでもコイツを赤牛の餌にしてやりたい。だがそんな事をしては、彼が悲しむ。下手をすれば、涙を流してしまうかもしれない。
彼に害する者を除去するのが私たちの役目。それなのに、害しては意味が無い。それだけはしてはいけない。
「……覚えとくこと。私たちは彼が居るから、夏目らに協力している。圭はこんなのでも信頼してるから。」
「ああ、その上で言おう。俺は君らを彼から離したい。彼は彼のあるべき場所に。」
「……あるべき場所だとしても、夏目の言う場所には彼の欲する物はない。」
「それも事実だな。」
互いに引く気はない。私たちにとっての生きがいで主、こいつにとっての生きるために必要な人材。引く方がおかしい。
ここでどっちかが引けば、それは自分の仲間を見捨てるのと同意義。そんなこと、圭は許さない。だから私も引けない。
「……彼は渡さない。」
「なら奪い取るしかなくなるが?」
「やってみて。」
私の言葉で、空気が更に悪化する。もはや誰にでも分かるほど、喧嘩が始まろうとしていると思う。
「……ただ私たちは、雑魚に負けない。軍人でも連れてこないと無理。少なくとも、この学校の人だけじゃ勝てない。」
嘘偽りのない事実。私たちはストリート系も熟知している。その上で、圭から武術も習った。
それ故に分かる。一時間もかからずに、この学校にいる人の無力化は容易。多分五人選出するだけでやれる。どこに隠れても、潰せる。
「……お手上げだ。分かった。言えばいいんだろう。」
最初からそうしろと言いたい。ただ話の腰を折るのは面倒なので、黙る。
「彼は素質がある。周りを引きつけるカリスマだ。一見すればいじめられっ子の様な形だが、彼は誰からも愛された弄られ方をする。そして本人もそれをイジメと感じではなく、厄介ながらも喜んでいる。」
これも紛うことなき事実。圭にはカリスマがある。普通のリーダーとしては違う、珍しいカリスマ。
周りは弄りたくなる。それは好きな人にちょっかいをかけたくなるタイプのものであり、イジメとは違う。そして周りは彼の良さに惹かれて、気付いたら彼の存在なしには生きていけなくなる。
欲もあり、欲を出すことを許可されれば、もはや強欲というレベルのもの。だが欲を無しでも生きられて、楽しめる。だから他の人にどんなものでも分け与えられる。持ち前のカリスマで、色んな人と仲良くなり手に入れられない物はほぼない。そして共有しながら遊べる。
生きることを容易と信じてるからこそ、いつでも手に入ると考えて、誰かに渡すことが出来る。
「……彼はリーダーとしてあるべきだ。いや副リーダーとして、誰かにものを教えるリーダーとしてあるべきだ。」
「だから欲しい?」
「ああ、そういうことだ。」
「……その言葉が圭を更に苦しめる。圭を苦しめようとしてるのはどっち?」
居るべき場合で、陽の当たる良いところには居られる。だがそれは圭にとって、辛い場所となってしまう。
彼は人を信じる事と、信じないという両極端しか出来ない。それなのに、陽の当たる場所にいけば苦しむ。人の善意に泣いてしまう。
「矯正というものだ。治る可能性はある。」
「圭にまた同じ苦しみを与えるつもり?」
圭は小学生の頃に、人の言葉を信じれなくなった。特に同年代には、機敏に考えて反応してしまう。人は信じれても、言葉は信じれない。そんな両極端の中で生きてきた。
そんな状況でも、言葉の裏を考えないで居させてくれた大人に心から心酔する。だから先生とかには悪態をつきつつも、信頼して誠実になる。
「君たちにとっても悪い話じゃないと思うが?」
その一言で、拳を握ってしまう。
「……ふざけないで!」
固めた拳で、夏目の顔に本気のパンチを入れる。彼は痛そうにしながら、後ろの壁にぶつかる。
「正気か?この件でやれるのだぞ?」
「……好きにすれば?私たちは私たちで動く。彼を守り、彼に守られて、彼の隣に、彼の下に並ぶ。どんな事があってもそれは変わらない。」
私はそう呟くと、部屋から出る。部屋の外にいた生徒らが取り囲んでくる。
「何をした!」
「……うるさい。黙って退く。」
「従ってやれ。お前らじゃ止められない。」
何処からか声が聞こえる。部屋の中を見てみれば夏目がトランシーバーに向かって何かを呟いていた。
多分、これが私の力。聴覚の強化、又は五感の強化だと思う。
これなら圭の下に居られる。他に引けを取らない強い力を持てた。これで彼から教えて貰える。
ウキウキしながら屋上に戻ることにした。