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警察からの電話

◇◇◇(愛莉視点)

ここはとある病室。今日も、陽菜はまだ起きない。


「陽菜、ちょっとお花の水を変えてくるね。」


と言って、私、櫻井さくらい 愛莉あいりは席を立った。

給湯室に入り、花瓶の水を入れ替える。


遥斗を失ったことが今でも信じられない。

でも、お葬式は陽菜が回復してから行うことは親戚や両親と相談して決めている。

火葬は済ませてしまったのだが、陽菜の遥斗への最後のお別れができていないことが残念でならない。

陽菜は事故で気を失ってから、長期間目が覚めないでいるため、徐々に衰弱が進行している。

昨日、このまま起きなければ最悪、死を覚悟してほしいと医者から言われた。

この子達の母である妹もすでに他界している。その上、兄妹まで失ってしまったらと考えると、

申し訳けなくなり、自然と涙が流れてしまう。


妹の奈緒美なおみとは3歳離れていたが、ずっと中の良い姉妹だった。

義弟で夫の一也かずやも幼馴染で、小中高とずっと一緒だった。

まあ、一也はずっと奈緒美のことが好きでひっついてきてたんだけど、

それを、付き合うまで知らなかったのは奈緒美だけだったみたい。

結婚して、遥斗が生まれてすぐに、一也が海外赴任で8年ほど家を空けたときは、

私と、奈緒美と遥斗と3人で暮らし、一緒に成長を見てきたのだった。

一也が戻ってきて、すぐに陽菜が生まれ、家族みんな大喜び。


そんな永遠に続くかと思われた平和な時間は、突然、幕を閉じてしまった。


近所の商店街の福引が当たり、二人で一泊二日の温泉旅行に出かけたのだ。

遥斗は10歳、陽菜は1歳になり、私でも1日くらいは面倒を見る事ができる様になったので、

慰労を兼ねて、二人で行ってきなよと私が提案したのだ。


旅行当日、二人は自家用車で出発した。

1日目は特に何もなく二人からは、新婚さながらの仲睦まじい姿や、

美味しそうな食事の風景、素晴らしい夕景の写真がメールで送られてきたりしていた。

二人で楽しんでいるようでほっとした。遥斗と陽菜はおとなしく特に心配もいらなかった。

そして、帰りを待った。しかし、予定の時間になっても二人は戻らない。

心配して電話をかけてみても出ることはなかった。


その晩遅く、待っていた電話があったが二人ではなく、警察からだった。

そう、二人は事故に会いそのまま家に帰ることはなかったのだ。


警察から聞いた話は、海のそばの道路で、対向車線からはみ出した車を避けようとして、

ガードレールを突き破り、二人が乗ったまま海へ落ちたらしい。

車が落ちたところを目撃した、地元の人たちに聞き込みをしているところだという。

しかし、数日後、不可解なことが判明した。


ダイバー総出で、海底を捜索するも、車も遺体も一向に見つからないというのだ。

そこは、沖合にも海溝はなく、潮も穏やかで流された形跡もない。

更に聞き込みを続けると、漁師の一人が車が落ちたとき、巨大な渦潮が現れたというのだ。

そして、車の辺りの海水もろとも光りに包まれ消えたという話を、証言したという。

漁師は、話しても信じてもらえないと思い、黙っていたのだそうだ。

警察も、そんな出鱈目な話は否定したが、現に見つかっていない状況ではそれも難しい。

その段階で一旦捜査は打ち切られた。


私は、なんとなくだが、二人はまだどこかで生きているかもしれないと思っていた。

しかし、残された子どもたちに生きているという話をしても、

「いつか戻ってくる」という希望が叶わなかったとき、

逆に二人を更に苦しめるのでは?と両親と相談し、

二人は事故で死んだことにしたのだった。


そして、現在、兄妹は夢にも思わない結果になってしまった。

二人に申し訳無い気持ちでいっぱいだった。

深く沈み込みそうな気持ちを振り切り、病室に戻ってきた。


「あ、おかえりなさい。お母さん」


と声をかけられ、ベッドを見るとそこにはニコニコと微笑むいつもの陽菜の姿があった。

私は驚きと安堵で涙があふれるのもそのままに、駆け寄り陽菜を抱きしめたのだった。


「よかった。よかった。陽菜…。」


「痛いよ。お母さん。心配かけてごめんね。」


しばらく、抱き合いながら、遥斗のことをどう切り出そうかと悩んでいると、

陽菜はゆっくりと話しだした。


「私ね、夢の中で家族がいないかわいそうな子っていじめられて、すっごく怖かったの。

その時、おにいちゃんに助けてもらったの。かっこよかったなぁ。

それで、色々とお話をしてたんだけど、行くところがあるって行っちゃった。

でも、全然嫌じゃないの。いつかまた会えるような気がするの。」


陽菜は少し淋しげな眼を一瞬したが、ニコリと笑っていた。


「そう。遥斗が…。」


そう言うと、遥斗と夢とはいえ、お別れの挨拶ができていたことが、何より良かったと思ったのだった。


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