いつでも見守っている
「ううぇーー?剣が女の子になった!」
『私の名はコヨミよ!よろしくね。
さっきは、あまりにも考えなしだったから、こっちから動いちゃったわよ!
もうちょっと魂だけじゃなく、身体も鍛えなさいよね!』
そう言った、彼女は胸を張って上から目線で挨拶してくる。
オレは、和服のような衣装に身を包んだコヨミさん?を足から顔に向けて視線を巡らせる。
細い足、適度な大きさのお尻からくびれた腰のラインが美しい…。顔は超美少女だ。
最近TVCMに引っ張りだこの奇跡の美少女よりもオレは可愛いと感じた。
胸は__ま、まあ、見なかったことにしょうか…。と視線を外すと、
それを感じ取ったのか、コヨミがキッと睨んできた。スイマセン…。
「神様、さっきの剣と、その…この人は?」
『質問よりも、妹のことを先にしたらどうじゃ?』
「あ、そうだった!」
あまりの驚きの連続で、気がついていなかった。
振り返って、陽菜の様子をうかがうと座り込んでうつむいたままだった。
急いで近づくと、神様とコヨミはじっとそれを見送った。
「陽菜。もうだいじょうぶだよ。」
と声をかけ、肩に手を触れると、ガタガタと震えていた。
オレはたまらず、陽菜をギュッと抱きしめた。
「お、おにいちゃん?」
オレに気づいた陽菜が胸の中から、顔を上げオレの顔を見た。
暗く沈んだ瞳に光が戻り、徐々に潤み始める。
「そうだ。陽菜がとっても困ってると聞いて、兄ちゃんが来てやったぞ。」
「おにいちゃん!本当に遥斗おにいちゃんだ。よかった生きてたんだね。」
そう聞いてきたが、オレは黙って陽菜の頭をよしよしと撫でる。
「心配かけてゴメンな。見ての通り大丈夫だ!」
と言って、胸を叩いたが、心のなかではゴメンなとつぶやいていた。
「それより、お前はかわいそうな子なんかじゃないぞ!
オレや、愛莉さんにとって、とても大事な家族なんだ。
他の人の言うことなんて気にすんな!」
と、陽菜の記憶を見て思っていたことを告げた。
それを聞いた陽菜はようやく笑顔になった。
「そうなの!わたしたちは、変じゃないの!普通の家族なの!」
「そうだそうだ!オレたちは普通の家族だ!かわいそうなんかじゃないぞー!」
と元気にはしゃぐ様子を見て、おれも続いた。
思わず、こんなに明るい陽菜に何故あんな言葉をかけたのか、
あのときの先生や友人達の言動を疑ってしまうのだった。
しばらく他愛のない会話をしていると、身体が引き寄せられるのを感じた。
陽菜の覚醒が始まったようだ。
「もう大丈夫そうだな。
…陽菜。まだまだ、話していたいけど、そろそろ行くよ。」
「うぇ!どこにいくの?おにいちゃん?
これからもずっと一緒にいるんじゃないの?」
「オレは、ちょっとこれから大事な用事があるみたいだから行ってくるわ。
お前には、愛莉さんがいる。大事な家族だ。愛莉さんの言うことをよく聞いて
困ったことがあったら一緒に考え、支え合うんだぞ。オレと約束してくれ。」
陽菜のくりっとした瞳をじっと見つめ、そっと頭を撫でた。
そして、後ろを振り返ると、陽菜もその視線の先を見る。
「あの人達はだあれ?おにいちゃん。帰ってくるよね?」
なんとなく察したのか、陽菜の眼には、また涙が溢れている。
その顔を見て、オレも切なくなる。くそっ。オレも眼から汗が吹き出そうだ。
が、食いしばってガマンした。そして、精一杯の笑顔で答える。
「たぶん。また会えるさ。それに、いつでも見守っているよ。」
そう言った瞬間、光が溢れオレの身体を包み込む。
そのまま、ふわりと光の粒子となり霧散した。