悪魔ってあの悪魔ですか?
◇◇◇(遥斗視点)
穴に飛び込むと、陽菜の記憶が流れ込んできた。
オレは、すぐに陽菜の傍に行きたかったが、なにか不穏な気配を感じ、
穴の入り口付近から様子を見た。
お前は一人ぼっちなんかじゃない!オレや愛莉さんがいるだろうに、なんでだよ!
なんで、あんな言葉に負けちまってるんだ!
陽菜は芯が強く、キラキラした瞳で明るく笑顔を絶やさない優しい子だ。
なのに今は、暗い目に涙を溜めながらうつむいている。
こんな陽菜は今まで見たこともない。
その周囲を影のようなものが取り囲み陽菜に向けて罵声を浴びせているようだ。
あれは!?オレの顔か?愛理さんと、同級生かな?もいる。
オレ?の顔は血だらけだった。なんだ?罪悪感の幻影か?
しかし、陽菜が作り出しているような感じは無い。
どちらかと言うと、罪悪感を煽り、心を追い込むためにワザとやっているように見えた。
『待てと言っとろうに。せっかちな奴じゃ。』
振り返ると、神様も来ていた。
そんなこと言っても、妹の一大事なんだぞ!
早く助けたいに決まってるでしょうが。
『ま、まあ、そうじゃな。
ほう、怪しい気配がすると思ったらあれは…悪魔じゃな。』
悪魔!?悪魔ってあの悪魔ですか?
『お主の言う、あのとはどの悪魔かは知らんが、
悪魔とは、悪意・不義など心の闇が擬人化されたものを指す。
人を悪に誘い、滅ぼすものじゃな。』
なんだって、陽菜にそんなものが取り付いているんだ!?
『ふうむ。早く対処せんと、彼女の魂をあやつらに喰われてしまうぞ!』
魂を喰うって陽菜が死ぬってことか!?
そんなヤバいのか?悪魔ってどうやって追い払えばいいんだよ!
『追い払っても、また取り付くこともあるゆえ、滅してしまうほか無い。
その力を一時的に貸してやろうかの。』
神様は杖を掲げ、バババと手で印を結んだ。
『神器招来!”流星の勾玉” ハッ!』
そう唱えると、神様の杖から光が発し、オレの中に吸い込まれた。
魂が熱い、力が湧き出る感覚がする。
カッ!と光ると、オレのなくなったはずの身体が現れ、
へその下あたりに勾玉状の光が灯っている。
じっと見ていると突然、光がすごい速さで回転し、オレの目の前に飛び出してきた。
光は回転を続けながら、徐々に形を変えている。どうやら剣のようだ。
回転が止まると目の前に真っ直ぐな、両刃の剣が現れた。
いわゆるバスターソードのような感じで、装飾は少ないが存在感のある佇まいだ。
柄を握ってみると、重すぎず、軽すぎず、適度な重量を感じる。すごく手に馴染む。
(ほう、初めての招来で大剣を形作るとは…。)
神様はひげをさすりながら目を細めた。
「なんだか、イケそうな気がする!」
ウオォーーーーーーー!
オレは叫びながら剣を構え、陽菜のそばまで走る。
叫び声に、気づいた影の一人がオレの方を見た。
やべ。見つかっちまった!叫んでたんだからそりゃそうだ。
『なんだぁ、アイツは…クンクン。なんだか臭えなぁ。
こいつ、超臭えぜぇ!』
オレの顔をした影は、何か警戒しながらも、余裕の笑みを浮かべる。
『もうスグ、極上の魂が手に入るところなんだぁぜぇ。
ワレらの邪魔をするなァアアア!』
そう叫ぶと、影たちは、一塊になって、体長3メートルほどの一つの影になった。