かわいそうな子
◇◇◇(陽菜視点)
私は櫻井 陽菜、6歳。パパ、ママのことは覚えていないの。
だけど、大好きな愛莉母さんとお兄ちゃんがいるから平気なの。
今日の昼休みに、この前学校で描いた家族の絵を見た健太くんが、
「お前の家族の絵、なんか変だな!」
って、初めはなんのことかわからなかったけれど、みんなも気がついて、変だ、変だって言い出したの。どこが変なのかわからない私は、
「お兄ちゃんと、愛莉母さんと私だよ!何が変なの?」
聞いてみたら、健太くんは、
「だって、お父さん、お母さんがいないじゃん!
愛莉母さん?ただの叔母さんでしょ!」
なんでそんな事言うの?なんだか、ムカッとしたから、
「変じゃないよ、みんな家族だもん!」
て言ったけど、周りのみんなも「変なの~!」って騒ぎ出しちゃった。
しばらくして、「みんな騒いで、どうしたの?」と、先生が聞いてきたの。
みんなから、私に両親がいないということを聞いたとき、
「みんな駄目でしょ!陽菜さんのご両親は事故でお亡くなりになったのよ。
かわいそう_なんだから、あまり騒がずに。これからは、気をつけましょうね。」
そう言って、先生はみんなに注意したの…。
(私ってかわいそう_なの?お兄ちゃん、愛理母さんがいてとっても幸せなのに。)
先生が言うからか、周りのみんなは私のことを「かわいそうな子」って思ったみたい。
いつも仲良しでいっしょに帰ってる、ゆみちゃんも、
「今日、お母さんがケーキを焼いてくれるって言ってたから、陽菜っちも来る?」
って誘ってくれたんだけど、急に気を使った様子で、
「あ…。なんでも無い…。ごめんなさい。今日は優子ちゃんと帰るね…。」
みたいなことがあって、今日は一緒に帰れなくなっちゃったんだ。
そのときは、すごく悲しい気持ちになっちゃった。
一人で寂しいな~って思いながら帰ってたの。
そしたら、向こうからお兄ちゃんの声が聞こえて…。
とっても嬉しくて、お兄ちゃんのそばに早く行きたくて、道路に飛び出しちゃったの…。
…
ドンってなって、気がついたら、お兄ちゃんが倒れてた。血もいっぱい出てたの。
周りにいっぱい人がいて囲まれてた。とっても怖かったの。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!うわーーん!」
何度も、何度もお兄ちゃんを呼んだのに起きてくれないの。
「お兄ちゃん…。おにい…ちゃ…ん。」
でもだんだん、眠くなっちゃってそのまま寝ちゃったみたい。
気がついたら、暗い部屋に一人ぼっちだったの。
なんだか、寂しくて怖くなって、
「お兄ちゃん!愛莉母さん!どこにいるの!」
って呼んでみたら、部屋の奥から二人が歩いてきたの。
とっても怖くて二人にしがみついたんだけど、
「お前のせいだ!お前のせいで大怪我をした!」
「こんな悪い子は、もういらないわ~。」
健太くん、ゆみちゃんまで出てきて、けらけらと笑いながら、
「あはは!お父さん、お母さんのいない、かわいそうな子だ!」
「うふふ!かわいそうな子とはもうあそばないよーーっだ!」
(なんで。なんでそんな事言うの?みんなどうしちゃったの?
いやだ、聞きたくない。聞きたくないよ。)
手で耳をふさいでも、声は聞こえてくるの。
「ううっ。私が悪いんだ。私のせいでお兄ちゃんが大怪我しちゃった…。
お兄ちゃん怒ってるし。愛莉母さんも、私のことなんていらないって…。
んぐっ。私はかわいそう…かわいそうな子…。だからひとりぼっちなんだ…。」