異世界転移のはずがトラウマのせいで女神様のお世話になりました
ノリです
「……ここ……は?」
ふと目が覚めると、そこは真っ暗な空間。先程まで俺は寝ていたはずなのだが………。
「ようこそ、健さん。死後の世界へ」
そこへ、ふっと何かが舞い降りてくる。白髪ですごい綺麗で、何よりおっぱ―――ごほん!
「えっと………死後?」
「はい。あなたは過労死により、享年22歳という驚異的な早さで命を終えました。なので、異世界に転移して勇者としてサクッと魔王倒して後は平和に――――」
「―――勇者?魔王を倒す?それって仕事か?」
「え………ええ?」
突然の質問に戸惑う目の前の人。いや、そもそも人なのか?
「えっと………広義的に見れば仕事と言えなくも………」
「ひええ!仕事ぉ!!」
「ヒッ!」
仕事と聞くと、体が否応なしにも震える。時間外労働はあたりまえ、週休二日制なんて形だけ、残業代も出ないあんなクソ環境なブラック会社にいたせいで仕事と聞くだけでトラウマとなっている。
「だ、大丈夫ですよ!健さんの会社とは違って、ノルマなんてありませんし、休みも自由ですから!!」
「いやぁぁぁ!!仕事いやぁぁ!!」
「わ、分かりました!一先ず異世界に送りませんから!暫くは精神の安定に図りましょう!先輩すみませーーーん!!」
こうして、俺は後に女神と名乗った美人にお世話されるのであった。
そして現在、俺は女神の抱擁(物理)を受けて愚痴を零しまくっていた。
「うぅ………手柄は全部上司に持ってかれるし、ノルマに間に合わなかっただけでヒステリックに叫ばれるし、暴力とかあたりまだし………」
「よしよし………健さん頑張りましたなぇ……」
「うぅ……女神様……癒されるぅ」
膝に頭を埋め、腹の後ろにまで手を回していて、頭を撫でられている。至高だ………。
「はい。ご飯も用意してるので、早く元気になってくださいね」
「………女神」
いや女神なんですけども。
それから、俺と女神様の共同生活が始まった。
「まずは睡眠ですね!ちゃんと八時間寝て下さいい!」
睡眠を見直されたり、
「休息も大事です!膝、貸してあげるので寝ましょう?」
休息をじっくり取らされたり、
「えっと………ストレス軽減も大事です!健さん………」
何故か抱きしめあったりとかもした。そんな彼女の献身的なお世話で、俺は仕事と聞いても発狂しなくなった。
「はい!健さん、精神がやっと安定しましたので、遂に異世界へ言ってもらおうと思います!」
「……異世界?あぁ、そういえばそうだったね。君とすごす時間が楽しかったから忘れかけていたよ」
「………ですね!私も健さんと過ごした時間は――あれ?」
彼女の目元に銀色に光る物が目に入る。
「あれ……な、なんで………な、涙が……」
「………っ」
気付けば、俺は彼女を抱きしめてきた。涙の姿なんて見たくなかったから。
「……だ、ダメです健さん……これ以上いたら、もっと一緒にいたくなって―――」
「……いいじゃないか別に。一緒に居たくて」
彼女の瞳を見る。
「俺も………俺もこのままキミと一緒にいたい。ここでキミの手伝いをしたいんだ」
「………いいんですか。異世界に行けば、私よりも可愛い姫様たちとハーレム生活ですよ」
「君以外の愛はいらないよ」
なんというキザなセリフだろうか。自分でも言っててそう思った。
でも、彼女の心を掴むには、多少オーバーキルだったらしい。
「………あれ?どこだここ?」
とある1人の少年が暗闇の中で目を覚ます。その少年の目の前には、男が1人佇んでいた。
「やぁ、結月アオバくんだね」
ニコリと笑い、少年へ笑顔をサービスする。
「あの……ここって?」
「ここは死後の世界さ。これから君はチートな能力をもって異世界に行って世界を救って貰うんだ」
「………ってことはまじ!?うおー!夢にまで見た異世界転生じゃー!!」
喜ぶ少年を笑顔で見つめる青年。
「それじゃあこれからチート特典を選んでもらう訳だけど―――」
「健さん」
「――ごめん、ちょっと待ってね。こら"サラ"。ダメじゃないか安静にしてないと」
「で、でも健さんがちゃんとやれてるか心配で………」
「僕なら大丈夫だから。ほら、この子に刺激を与えたらまずいから」
そう言って彼女の膨れているお腹を撫でながら、彼女を元いた場所へ戻した。
「……ふぅ、ごめんね結月くん。とりあえずチート特典なんだけど――――」
「すいません、爆発してもらっていいですか?」
ノリでした