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第16話 鉄人の軍勢侵攻! 迎撃せよ聖女

 聖女と王子がイチャイチャしていたころ(イチャイチャはしてない)、王国の辺境偵察部隊はとんでもないものを目撃していた。


 遠くで砂煙が上がり、何かの大群が向かってくる。


「あれはなんだ?」


 偵察部隊の一人が、貴重な遠眼鏡を使って砂煙を見た。

 すると、そこには鉄の色をしたマッチョがポージングしたポーズが刻まれた、大きな旗が翻っているではないか。


「あ……あれは……! 鉄人テーズの軍勢だ!」


「バカな!? 鉄人テーズが動き出したというのか! ずっと空白地帯の北西地域に閉じこもっていたというのに……」


「あの地にいる、ウエスタン合衆国は何をしているのか……!」


「まさか、ウエスタン合衆国と鉄人テーズの密約の噂が本当だった……?」


「急いでクラウディオ殿下に報告を!!」


 偵察部隊はクラウディオの直轄であった。

 この才気溢れる王子は、既にして国王以上の権限を多く有している。


 国王が仕事をしたがらないので、代わりに引き受けた業務を強化した結果ではあるので、別に父王の首を狙っているとかそういうことはない。

 しかし、周囲はそんなこと分かってくれないので、王子クラウディオが父王を殺そうとしているというのは、王国における誰もが知る噂話として広まっていた。


 大変に外聞が悪い。


 だが、クラウディオが抱える偵察部隊が優秀なのは確かである。

 彼らが得た情報は、翌日には王子の耳に届いている。


「重要な報告だと?」


 報告書を受け取る王子。

 そして、ちょっと動くと「イテテ」と言った。


 昨日の聖女とのレスリングで、さんざん可愛がられて(意味深)しまったのだ。

 今日は全身が打ち身や捻られたダメージで、王子はボロボロだ。

 聖女が回復魔法を掛けてはくれているが、芯に残るダメージまでは完治できない。


「これがプロレスです」


 彼女は微笑みながら言ったものである。

 何がプロレスなのかはよく分からない。


「なんだと……!? 鉄人テーズの軍勢が動き出した……。これはまた、急だな。まるで聖女がこちらに戻ってくるのを見計らっていたかのようだ。テーズの軍勢に、それほどの智者がいるとでも言うのか? それとも、何者かが入れ知恵を……」


 王子は思考する。

 だが、彼が持っている情報では答えを出すことができない。


 この状況の裏で暗躍する何者かがいたとして、それに辿り着くためのヒントが手に入っていないのだ。


「久方ぶりに戦争が起こるかも知れないな。全軍に通達だ。念の為に陛下のお耳にも届けておけ。戦闘準備。全ての騎士と兵士に、臨戦態勢を告げておけ!」


 ノーザン王国が、迫りくるであろう戦に備え始める。

 その動きは迅速であった。




「鉄人閣下! これほどの軍勢があれば、ノーザン王国と言えどひとたまりもありますまい! きひひ!」


 ノーザン王国目掛けて進軍する鉄人軍。

 その最奥にある、移動式の四角い舞台の上。

 四方に立つうち、赤い棒にもたれかかっていた仮面の男は顔を上げた。


 彼の目の前には、道化師のような格好をした小男がいる。


「ジョーカーか」


「はい! ジョーカーでございますよ、鉄人閣下!」


「リングに上ったということは、お前が俺の相手をするのだな?」


「キヒッ!?」


 仮面の奥から見える鋭い眼光に、ジョーカーは震えた。

 そして、ジョーカーは人間離れした動きで跳躍し、四角い舞台から降りる。


「そんなそんな、めっそうもございません……! トロルを絞め落とす男、ミノタウロスを投げ殺す男……! 人にして巨人族を徒手空拳で下す貴方様に、あっしめがかなうはずもございません……キヒヒ」


「そうか。リングは覚悟の無い者が上がるべきところではない。上っていい者は、選手とレフェリーとプレゼンターだけだ。たまにオーナーが上ってくるがな」


「キヒ……?」


 ジョーカー、少し戸惑う。

 鉄人が正気ではないという噂は本当だったか、と道化師は考えた。


 調べたところによれば、鉄人はもともと、どこにでもいるならず者だったようだ。

 だが、それが一度ウエスタン合衆国との小競り合いで殺され、復活した。

 それ以降、男は精神の安定を保てず、仮面を被るようになったそうだ。


 男は自らの名前も封印し、鉄人テーズと名乗った。

 その力は極大。


 ウエスタン合衆国軍の第二騎兵隊を謎の技、プロレスで壊滅させると、彼らと停戦協定を結び、空白地帯への手出しを禁じさせた。


「俺は、もう抑えきれないのだ……。俺の中にいるこいつが、本物を求めている……。俺程度の器では、この魂を受け止めきることができん……!!」


 テーズが呻く。


「ジョーカーよ。お前の後ろにいるであろう魔王に報告しておけ。俺はお前に従うのではない。内なる怪物を解き放てる相手を見つけたからこそ、俺は今動いているのだ……!」


「キヒッ!? ま、まさか今まで、本気だった事が無いと……?」


「この仮面はあいつ(・・・)を封じるためのものだ。あいつは俺の邪魔をしてくる。そして俺よりも遥かに強大だ……! だからこそ、あいつを満足させねば俺という人間が消えてしまう……!! そもそも俺はこんな流暢に物を喋れる人間ではなかった……! もっとヒャッハーとか言っていたのだ。もう既に、俺の半分はあいつに侵食され、理性的になってしまっている……!!」


「り、理性が蛮性を侵食する……!?」


「もう一度言うぞジョーカー。その覚悟がないなら、絶対に俺の前に立つな。お前をバックドロップで地面の染みにしてしまうからな……」


「キ、キヒーッ!!」


 ジョーカーは震え上がった。

 既に、自分が魔王の手の者であることは看過されていた。これだけでも驚くべき事である。


 だが、何よりも恐ろしいのは、ただの人間に過ぎないはずの鉄人が、どんな魔族よりも恐ろしい存在に見えていることだった。

 これはまるで、ジョーカーが大切に育てていたポーカー同盟を一瞬にして殲滅した、あの聖女のような……。


「ま、まさか……。まさかこの二人は同じ化け物……!? キ、キヒ……。魔王様、こりゃあいけません。この世界、どうやらあっしらが自由に操りきれないとんでもない連中が現れ始めているようです……!!」


 どこか遠くを見ながら、鉄人が呟く。


「聖女……聖女か。彼女がこのリングに立つ資格を持っているならば……俺の中のこいつも満足を……俺の……俺の……オーケー! 良いファイトができそうだ! ミーも楽しみだよ! くっ、黙れ!! ハァ、ハァ……! もう少しだけ飲み込まれずに持ってくれ、俺よ……!」




 ところと時間が変わって、ノーザン王国。

 集められた騎士と兵士の軍勢が、鉄人軍を迎え撃つべく進行を開始した。


 戦場となるのは、空白地帯のインター平原。

 どこまでも白い大地が続く、塩の荒野である。


 騎馬と徒歩で進むノーザン王国軍の横を、魔導バイクが走っていった。


 そこには、ヘルメットにサングラスをした、堂々たる体躯の美女が乗っている。

 そしてサイドカーにはモヒカンが出るヘルメットを被った男と、膝の上に少女。


「まさか聖女様が戦争に行くなんて……」


「ミーナ、安心をなさい。私は戦争はしません」


「ほんとうですか聖女様!」


「聖女様が嘘つくわけねえだろ! 理解出来ないことは言うけどよ!」


「ええ、シーゲルの言うとおりです。私は嘘をつきません。これは戦いではなく……私の中の半身が告げている、試合とやらをしに行くのです」


「しあい……?」


「しあい……!?」


「ええ」


 聖女が微笑む。

 サングラス越しでも、その優しい眼差しはよく分かった。


「鉄人。この二つ名に、私の半身が覚えがあるのです。きっとそれは、あの男であろうと。ならば、相手にとって不足はありません。むしろ……初めて互角の勝負をできるかもしれないことに、私は喜びすら感じているのです。世界を救わねばならぬ聖女としては、恥ずかしい気持ちなのですが」


「いんじゃねーですか? 聖女様、いつもみんなのために尽くしてるんですし、たまには自分のためにその、しあいっつーの? をやっても俺はいいと思います」


「ほわー、シーゲルいいこというなあ」


 ミーナが感心した。

 モヒカンも成長しているのである。


「まさか付き人に諭されるとは思いませんでした。言うようになりましたね、シーゲル」


「へえ、どうも」


 照れるシーゲル。


「そうですね。久々にここは、私を全開にして挑んでみましょうか。私の、私による、私のための試合。……うん、これはなかなか、胸が踊ります」


 バイクは走る。

 いざ、決戦の地へ。 



鉄人のリングはマッチョの集団によって引っ張られています……!!

ウキウキの聖女、ついに鉄人と激突か───!?


お読みいただきありがとうございます!

本作のモットーは、ノーストレス、サクサク爽快世紀末風ファンタジーであります。

こんなちょっと暗くなってる世の中だからこそ、みんなが幸せになる聖女ものをお届けしたく思います!


面白い!

蒙古覇極道!!!

ウグワー!

など感じていただけましたら、下の方の★をツツツイーッと動かしていただけますと幸いです。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] シーゲルさんは姓はチバ? 今頃気が付いた(笑)
[一言] なんか、王子様・・・ 国王代理業務を、疑われてる・・・
[一言] まさか四角いジャングルを引っ張ってこようとは! こいつは、次回、死闘の鐘がなるぜぇ(いや当たり前だが、多分この世界では初では)。
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