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一章 女王になりたい! その1

ここは異世界メルゴール。人間や怪人が暮らしてる摩訶不思議な世界だ。怪人とは何か? 人狼、魔女、トロール、魔人、人魚に吸血鬼。このように知性を持ちながら人間離れした力を持ったものをこの世界の世間では怪人と一括りする者もいる。怪人とは街を荒らし、人を襲う者である。これは全ての怪人がそうというわけではない。しかしこの世界が誕生して数百年、未だにこの“常識”は覆らない。怪人討伐で世界平和という名目で無害な怪人を襲う冒険者、賞金稼ぎ、勇者、聖騎士が存在する世界にて、怪人の生活は不憫に等しい。

物語の始まりは東にある島国: 東武国から始まる。武士や公家が主流で治められている国だが、今はいわゆる戦国時代である。勢力としては美、魚、兆、蓮、獣の五つの区で分けられていて、戦の期間を設けては誰がこの国の王とならんとしのぎを削っている。尚、世界基準だと東武国は比較的に怪人の人口率が少ないために、より多くの国民から嫌悪されている存在だ。この戦国時代を止めんと今まで何度も宣教師やら聖騎士やらが派遣されているが、未だに国を動かすような成果は彼らから出ていない。物語の始まりは美の区の勝利で終わった兆の区との戦いのほとんどの生存者が立ち去った跡地から始まる。



「導いてくだされ、導いてくだされ、導いてくだされ…」

無数の夢や野望が眠る戦場に西洋の黒い長靴を履き黒いターバンを頭に巻いている、一人の、いや、一匹の少年が手を合わせていた。少年の名は岩本 括正、この世界の国の一つ、東武国の侍である。この国は現在内戦が多発している。それぞれの大名が我こそこの国の王ぞとばかりに兵を集め、近隣から戦を仕掛けている。しかし、権力者というのは足元を見ないものだ。ほとんどが前線に出ないものだ。そうなると一番の被害者は無理矢理戦わされている立場上の弱者である。岩本 括正は侍でありながらまだ子供の弱者である。彼の友もかつて戦わされた弱者だった。その友は今は土に埋まっている。岩本 括正が彼の体を燃やし、骨を埋めたのだ。彼の形見の刀を埋めた地面の上に突き刺し、お墓を作ったのだ。

「導いてくだされ、導いてくだされ、導いてくだされ…」

友の魂が無事天国に行けるように、彼は祈り続けていた。彼はずっと目を閉じていたが、一瞬目を開けた。すると彼が地面に突き刺した刀をボロボロの服を着た黒髪の少女が拾っていた。気まずいことに少女と少年は目を合わせてしまう。少女は会釈をすると持っていたカゴに刀を入れ、その場を立ち去ろうとした。

「ちょっと待ってお嬢さん、その刀なんで突き刺さっていたと思う?」

少女は括正の方にビクッと振り向くと、んん〜と腕を組み、首を傾げた。

「えーと、リアル双六の最初の目印でしょうか?」

「周りの血や死体が見えないのかな?ここをスタート地点にするなんてどんな神経だよ!」

括正は思わずツッコミを入れた。すると少女は淡々と答えた。

「はい、あまりいい趣味とは言えませんね〜。お侍さん頭大丈夫ですか?」

「いや言ったの君だからね⁉︎何さりげなく自分が言った答えに満足して自己完結してるんだ!」

括正は悲しみの糸が切れて、調子を狂わせながら、またツッコミを入れた。

「それは僕の死んだ友達の刀なの!それでお墓作ったの!わかったらお侍さんひどいことお嬢さんにしないから返しなさい!」

括正はそういうと、少女は少し動揺しながら、文句を言った。

「えええ、だけどその御友人は死んだのですよね?あの世にこの刀を持って行かなかったっていうのはいらないも同然ですよね?だったら私が持っていて質屋に売りますよ。ってなわけでご愁傷様です。さようなら。」

「あっ、コラ!」

少女は刀を含めた売り目の物を入れたカゴを担ぎ、全速力で近くの森へと走り出した。括正は彼女を全力で追いかけた。少女はかなり速かったので括正はこう思った。

(なかなか追いつけない!僕もそれなりに鍛錬はしてるけど、彼女は一体何者だ?)

しかし括正も決して遅いわけではない。なかなか振りほどけないので少女は少し後ろを見ながら、こう思った。

(嘘でしょ⁉︎なぜあの人まだ後ろにいるの⁉︎私は大人や魔物も逃げ切れる脚なのに!あのお侍さんおかしいです!このままでは体格差を考えると捕まるのは時間の問題です!なんとか頑張らないと…捕まったら私どうなっちゃうのかな?どうしよう、想像しただけで涙出てきた、怖い怖い怖い怖い怖いこわ…)

ドーン!

「うわ、キャッ!」

少女は何かにぶつかり、後ろにぶっ飛ばされた。その何かは六本脚でワニ型の巨大な魔物:ゲートセクトだった。ゲートセクトには鎧を着こなした男が乗っていた。男は少女とその荷物を見てニヤリと笑った。

「いまどきの戦場漁りにはこんな弱そうな女もいるのか?ちょうど刺激が欲しかったところだ。ここは誰もいない森の中だし、身分のないものに俺がどうしても俺の名誉には関わらん。おい娘、俺の乗り物に傷がついたな。どう弁償してもらおうかな?」

男はゲートセクトを降りてゆっくりと少女に近づいた。少女はブルブルと震え出した。

「いや、あの、その…あ、いや…」

少女は基本的には極度のコミュ障で明らかな“格差”のある人間とはまともに会話ができないタチである。括正は息をこらしながらも追いついてはいたが男に見つからないように茂みに隠れていた。

(チッ!あの子、僕には散々言ってたくせに、ああいうボンボンやろうには何も言えないのかよ。ったくここであの子を助けなかったら、僕の武士道に反するからな。だけど正面からだとあのイカレ武将とワニモンスターに勝てる可能性はゼロだ。ならば…)

「いやあ、離して…お願い…し…ます…ひどい…ことしないで。」

嫌がる少女の腕を男はがっちり掴んでいた。男はニヤニヤ喋り始めた。

「こういう小動物はいい味するんだよなぁ、エヘヘヘヘ、うははは!グハ!」

男は下を見ると彼の腹から刀の先が突き出ていた。少女もそれを見て悲鳴を上げたが、男も痛みで少女の手を離してしまった。岩本家には直伝の無音歩行術がある。父から教わったこの技術は気配を小さくする効果も備えているため、ワニにも男にも気づかれずに不意打ちをすることに成功した。少年に刺された男は必死に呼吸した。

「不意打ちとは、卑怯なり!意識が…」

「悪いな。僕はあんたらみたいな聖人君子侍と違って、殺し合いに勝てばそれでいい。それにクズにはクズらしい倒され方がお似合いだ。地獄を堪能するんだな。」

そういうと括正は刺した刀を抜くと、男は背中を地面に倒れた。一件落着と思われたその時、主人を失った魔物は自由の身になったため、肉食の本能として括正に突撃し出した。括正は受けてたとうと構えたが、その間に少女が両手を広げてゲートセクトの前に立ちはだかった。ゲートセクトは突然の少女の出来事に動きを止めた。

「君、何を?助けてくれようとしているのは嬉しいが、僕は自分の武士道を貫くためにも君を守らなきゃいけない。逃げな、ブ。」

逃げるよう説得する括正の口を、少女は人差し指で抑えながらもう片方の人差し指を自分の口に近づけ、しー、と呟いた。すると、少女はまた魔物の方に回れ右をして何をするのかと思いきや手を合わせて、子守唄を歌い出した。すると、怪物は少しずつしゃがみ出し、たちまち眠ってしまいました。うまくいったと少女は歓喜して、括正にお願いした。

「さあお侍さん、どうぞ斬り殺して下さい。」

少女の意外な発言に括正は思わず戸惑った。

「ええええ、逃げるんじゃないの?」

少女はもじもじしながら、答えた。

「あの、実は私、本当は贅沢してはいけない身分ですけど…一度ワニ肉食べてみたかったんです。」

括正は頭を抱えながら、皮肉を言った。

「いいけど、てっきり君は今のうちに逃げようとかか弱い人がいいそうなこというと思ったよ。」

それを聞くと、少女は足踏みをしてから括正に向けて指を指した。

「仕方ないでしょ?どうしても食べたかったんだから。あなただって侍のくせに真正面から正々堂々挑まずに、後ろから刺すなんて、礼儀のカケラもない不意打ちによる勝利じゃないですか。」

「お嬢さんはその卑怯な手で命を救われたにも関わらず、とても失礼だね。」

括正の発言に少女は、元々あなたが私が追いかけなければ、後ろに気をつけずに、前だけ見てぶつからずに済んだと言い返そうとしたが、途中で括正に遮られ、大事な形見を奪った君が悪いでしょ、と返された。括正は涙目で下を向いた少女の横を通り、魔物の心臓を刺してから、二食分になるであろう肉の量を斬った。振り向くと少女は背を向け続けたまま、ふえーん、と泣いていた。動揺しつつも括正は少女に近づき、頭を撫でながら慰めた。

「ごめんね、侍さん大人気なかったよ。お金は誰もが欲しいよね?…考えたみたら僕の友達すごくいい奴だったから君にあげたのかも。だからもう奪い返そうとしないから泣き止んで一緒にお肉食べよ、あら?」

少女は彼の胸元に顔をに抱きついた。優しくされたことに喜びを感じ、命を救われたことに感謝を示したかったのだろう。

「…ありがとうございます。…お言葉に甘えさせていただきます。」


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