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勇者召喚

 絢爛なシャンデリアが吊るされた荘厳な広間。バロック建築を彷彿とさせる部屋の中で、精巧な鎧を纏った男たちが剣を掲げている。

 整列した彼らを辿って視線を前に向けると、豪奢な装いをした壮年の貴紳と華美なドレスに身を包んだ美麗な淑女がいた。


「ようこそ勇者様。わたくしはリベルディア王国第二王女、マリー・テレイズ・リベルディア。あなた方を召喚したのはわたくしです」


 他を圧倒する気品と美貌を備えた王女。突然の異世界転移に困惑し、挙動不審になっているクラスメイトたち。彼らが声も出せずにじっとしていると、彼女は構わず話を続ける。


「我が国は現在、魔王軍の脅威に曝されています。新たな魔王が誕生してから被害が急増し、もはやわたくしたちの手には負えない状況なのです」


 彼女の透き通った声音に心を掴まれる。


「ですからどうか、わたくしたちのために戦ってはくれませんか?」


 柔らかな物腰、低姿勢のお願い。並大抵の人間では二つ返事で了承してしまいそうな頼み事。


「わかりました! 俺たちに任せてください!」


「うちら勇者だもんね!」


 案の定寝取られ村長と村人A——モブたちには決まった呼び名が存在せず、その場しのぎで適当に記号付けされる——が陥落した。それを受けて、善良な小者たちが浮かれきった様子で彼らに続く。


「やっぱり僕たち勇者だし美少女にモテモテかな?」


「ばっかお前! 当然だろ? 俺ハーレム作るの夢だったんだよ......」


「あたしも贅沢三昧の生活送ってみたかったのよぉ」


「勇者様の衣食住はわたくしたちが保障します。それに強い人はその......凄く、カッコイイです......!」


「ヒヒ、ヒヒヒ! ぼ、ぼ、僕も頑張るよ! お、王女様のために!!」


「まあ仕事としては悪くないかもね。いいよ、やってあげる」


「皆さんありがとうございます......! 実は夜も眠れないほど不安で仕方がなくて......でも勇者様のおかげで、わたくしは......!」


 加えて発せられた王女のこの一言でクラスの大半は警戒心を解いて追従した。


「そういうことなら俺も協力しよう」


「あーしもー! なんか可哀想だし」


「でもあんまり扱き使ったら許さないんだからね」


 皆が王女にやり込められる中、未だ頷いていないのは二つ名持ちの狂人たち。嫉妬の魔女と呼ばれるヤンデレ界のホープ——暗黒宰相大好き女の黄泉月(よみづき)麗奈(れな)が敵意むき出しで声を荒らげる。


「奏に危ない真似をさせるつもりなら覚悟しなさい! 強要したら私が殺してやる......! 色目使っても殺してやる......!!」


「わたくしは決してそのようなことは......」


 また、先ほどから鮮麗な内装に呑まれ顔を屈辱で歪めているのが成金令嬢の九条(くじょう)香織(かおり)だ。毒々しい目線で王女を射抜き、その名にふさわしい台詞を口走る。


「わたくし、庶民の生活には耐えられないの。最低限そこの王女と同等の待遇を用意しなさい。話はそれからよ。オホホホホ!」


「あ、あの......」


 彼女の爆弾発言を皮切りに、モブ王とその取り巻きが騒ぎ出す。


「当たり前だよなぁ? なんたって俺たち、勇者だからなぁ!」


「それは......」


「グヒヒ、俺はそこの王女様を侍らせないと納得できないな」


「......わたくし、ですか?」


「ブヒャヒャヒャヒャ! 王女様の処女、俺が貰う!」


「............」


 顔が引き攣った王女。今にも爆発しそうな彼女に、容赦無く侮辱が飛び交う。とうとう収拾がつかなくなったところで、国王の大音声が轟いた。


「静まれぇええい!! 我らのために戦ってくれる勇者はこの紙に血判せよ。臆病風に吹かれた者は黙っておれ!」


 知らない文字で書かれた書類。内容も知らせない怪しさ。

 どう考えてもこれは罠だ。現にクラスの半数は不信感を募らせた。それでも、間抜けな村長と村人たちは王の言う通りに契約を結んでしまう。

 淡く発光した紙面。魔術的な強制力があるに違いない契約書。残りの生徒が恐れを抱くには十分だった。


「お、おい......あれってもしかして......」


「あいつら一体どんな契約結ばされたんだ?」


「ど、どうしよう......うち軽く考えてたから......」


 疑心暗鬼で再び騒つくくクラスメイト。事此処に至りようやく自分たちの軽率さに気付いた村人たち。最初から王女を全く信用していない狂人たち。違いはあれど皆が皆、未知の体験に浮き足立っていた。


「突然のことで戸惑いもあるだろう。だが安心しなさい。君たちへの教育は騎士団と魔術師団の精鋭が務める。我々は決して強制はしないが、今後のためを思えば君たちに損はないはずだ」


 国王はそう言って背を向けた。放置された僕たちは、各々様々な表情でもってその後背を見つめていた。

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