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71話

 隕石のように振り下ろされたボールスの拳をフィーザーが結界を作り出すことで押しとどめる。あまりにも巨大すぎる質量の拳をシールドやバリアで防ぐことは不可能だと判断したためだ。

 結界により、盛り上げられた地面が固定され、フィーザー達を柱と柱の間に隠す。

 無論、それだけで受け止めきることが出来るはずもなく、盛り上げた後、フローラとセレスティアが重ねて結界を張る。強度の増した柱は、押し込まれながらも、フィーザー達をボールスの拳から護ることに成功した。

 そしてその間にも、フィーザー達が受け止めてくれると信じていたディオス達は、柱の間をすり抜けて走りながらボールスへと肉薄していた。


「はぁあっ!」


 ディオスが態勢を低くすると、その組まれた手の間にレドが足の裏をつける。そして、砲弾のようなスピードで投げ出されたレドは、高速飛行の魔法に迫る勢いで空を切り、ボールスの腕を切断せんと刀を振るう。

 鈍い音が響き、後ろ宙返りをしながら落ちてくるレドをフィーザーの作り出した結界が受け止める。


「硬いな‥‥‥」


 レドは刀の具合を確かめる。

 振るう感触に違和感はなく、刃がぐらつく気配も、欠けた様子も、握りが緩んでいる心配もない。


「しかし、まだ折れてはいない」


 再び飛び出そうとするレドの刀にセレスティアが強化の魔法をかける。

 これも結界魔法であり、肉体を強化する、或いは身体能力の底上げを施す付与魔法ではなく、刀という存在そのものを空間に定義するものだ。

 結界魔法とは、空間の一部を切り取り、性質を付与するもの。

 空間に刀と言う存在を元々そういう形として存在しているものだと定義してしまえば、折れたり、欠けたりする心配はなくなる。もっとも、自身の手から離れたものをそう長い間持続できるものでもないのだが。

 

「最初の一撃で折れていたらどうするつもりだったのよ」


 いつも見える位置に置かれている刀の位置はともかく、隠してあるその他の武器の位置まではセレスティアには分からない。位置が分からなければ、そして物自体を知らなければ、いくらセレスティアと言えども召喚することは出来ない。レドからの口伝だけでは限界がある。


「そのときはセレスがなおしてくれただろう?」


 セレスティアはため息をつく。

 レドは薄く微笑んでお礼を告げると、再びボールスへと向かって駆け出した。


「まったく‥‥‥」


 呆れているようでありながらも、どこか嬉しそうな表情でセレスティアは駆けて行くレドを見送った。

 すでに人の形を保っていない、異形となったボールスは、それでもしっかりと意識を持っているようで、フィーザー達の位置を掴み、砲撃を放ち、斬撃を飛ばし、腕を振り下ろしてくる。

 何とか直撃こそ避けてはいるものの、攻撃が繰り出されるたび、地面は衝撃に震え、大地の一部は抉られ、或いは焦土と化していた。

 そいてまた、突っ込むレドに向かて掌が薙ぎ払う様に押し寄せる。


「おおおおおおっ!」


 ディオスがレドとボールスの間に加速して得られた推進力を持って割り込み、空気すら振動させるような威力の突きを、生身の肉体ではありえないほど、肉眼では何本もあるかのように見える速度、亜音速で繰り出す。技術的なことで言うのならばレドには遠く及ばない単調な拳だが、その威力と速度は圧倒的であり、薙ぎ払おうと迫るボールスの掌を押しとどめた。


「ぐっ」


 ボールスの動きが止まる一瞬の隙にレドは腕を伝って駆けあがる。


「きいえええええっ!」


 そのまま飛び上がった勢いと、回転の威力も足してボールスの腕へと刀を振り下ろす。

 その瞬間を見計らい、フィーザーから伸びたバインドが、地面と腕とを固定する。ボールスの魔力の発動はフィーナによって抑えられ、自身の腕を霞に変えて逃げ出すことは出来ずにいた。

 代わりにと振り下ろされた刀に割り込むように作り出されたシールドをフィーナが一瞬で吸収すると、ついでにボールスの肉体を強化していた付与魔法も消失した。

 一瞬、守られるものがなくなったボールスの無防備な腕に、通常以上の防御力はなく、強化されているレドとレドの刀によって片方の腕が切断された。

 声を漏らさなかったのは流石と言うべきか、ボールスは少しよろけはしたが、間髪入れずに逆の拳で、空中で無防備なレドを狙って流星のような魔法を放った。


「おっと」


 しかし、レドは身体能力のみで、空中で態勢を整えると、繰り出された拳に乗る格好で、その勢いを利用して、無事五体満足のままフィーザー達の元へと降り立った。

 ボールスは腕を治そうと治癒の魔法を発動するが、煌く粒子はサラサラと流れながらフィーナの元へと辿り着き、全てフィーナに吸収された。


「こちらの攻撃も通じるようだな。先程見せた霞蝶のように、物理的な攻撃の通じない相手であればどうしようかと考えるところだったが‥‥‥どうやら力自体は大きくなったようだが、まだ使いこなせていないのか、それとも強者の驕りか、いずれにせよ俺達にとってはチャンスだ」


 魔法さえ使わせなければ、たとえ異形の姿をしていようともこちらの攻撃が通じると判断したフィーザー達は一丸となって、ではなく、的を絞らせないようにばらばらに、されど互いをフォローし合える位置取りで、各々ボールスの頭部目がけて進んで行く。



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