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7話

 食事をしながらフィーザーはフィーナについて、改めて知っていることをディオスたちに話した。先程はリニアカーの中で簡単にしか話せなかったし、本人が目の前にいるのといないのとでは説得力が違うだろう。

 とはいえ、話せるほど多くを知っているわけでもない。最も重要と思える問題は先ほどの襲撃者の事だが、その場にいたディオス達にあらためて説明することでもない。


「なるほど、たしかにそれでは他の人においそれと話すことはできませんね」


 メルルの言葉にフィーザーも頷く。

 ディオス達には成り行き上話してしまったが、どこから話が漏れるか分からない以上、あまり多くの人に話すわけにもいかない。もっとも頼ることが出来そうな警吏はフィーナによって止められている。護衛対象、などと立派なことを言うつもりはないが、本人の意向を無視することは出来ない。何より、あの時の言葉には必死さが窺えた。


「問題はフィーナを狙っているらしい彼らに、僕たちの面が割れてしまったということだね」


 エリスのおかげであの場では事なきを得たが、安心できる要素は何もないどころか、ヴィストラントに暮らす人々の中からフィーザー達を特定し得たということに危機感さえ覚える。

 幸いなことにフィーナとの関係性は彼らが感じたという感覚以外にはこちらから話したりはしていないので、まだ確定されてはいないだろうが、怪しまれ、マークされているだろうということは確実なように思えていた。


「もし調べられたならばこの家のことはすぐに特定されてしまうという事か」


 痕跡が窺えるというだけで襲い掛かって来るような相手なのだ。

 雇われていただけ、という可能性がないわけではなかったが、口ぶりからして彼はフィーナを探している、もしあるのならば、組織の本体の人間だろう。


「つまり奴らの本陣を見つけ出し、ぶっ叩けばいいとそういう事だな」


 立ち上がったディオスにフィーザーは慌てて声を掛ける。


「ちょ、ちょっと、もしかして、今から探しに行くわけ?」


 何のあてもない、ほとんどが推測の域を出ないこの状況で飛び出すのは無謀などといった話どころではない。


「当然だ。俺達の敵になるのならば完全に排除する」


 ディオスの言う俺達というのは、フィーザーの事ではなく、ディオスとメルルの事だ。

 たしかに、彼らの狙いはフィーナだったようだが、それを知るだろうディオス達に対して何か仕掛けてこないとも限らない。何しろ、街中でいきなり襲い掛かってくるような相手なのだから。


「私は行きませんよ」


 しかし、ディオスはメルルの言葉に足を止める。


「‥‥‥当然だ。お前を危険な目に合わせるつもりはない」


 ディオスからしてみればメルルの危険を排除するために行くのであって、その当人が巻き込まれる形でついてきてしまうのであれば意味がない。


「では兄様が、何処か分からない、存在すら不確かなものをお探しになっている間、私は一人で、その誰かしらが襲ってくるかもしれないこの街で過ごすのですね。まさか、その間中フィーザーさん達のお宅にお邪魔しているわけにもいきませんし」


 脚の向きを変えたディオスは戻ってくると、再び椅子に腰を下ろした。


「では、どうしろと?」


「どうするもこうするもありません。少なくとも、情報がもっと集まるまでは今までと変わらずに過ごすほかないのではないですか?」


 不安もあるが、メルルのいう事にも一理ある。こちらから下手に動けば、今度は確実に敵対視される。相手の事が何もわからない状況でそれは非常に困ったことになる。


「差し当たっては、フィーナさんを学院に通わせましょう」


 フィーザー達が学院へと通っている間、当然ながらフィーナは一人で家にいることになる。

 フィーナの力がどのくらいのものなのか分からなかったが、少なくとも逃げ出してきている以上、彼らを一人で相手に出来るだけの実力はないということだ。

 学院という公の場に通うことで、データを残してしまうことは危険が伴うが、どちらにしても危険があるのならば、近くにいた方が何かあった時に対処しやすい。


「そういえば、フィーナの個人情報って登録されてるの?」


 ヴィストラントに住む人ならば、中央管理局に個人データが登録されているはずである。それを基に、学院へと通ったり、国民として認識されるのである。それがあれば買い物も、大抵の場所を利用することも可能になるが、がy君いなければヴィストラントではほとんど何も出来ないということになる。

 

「確認しましょう」


 すぐにメルルが連絡をしようとするが、ディオスがそれを止める。


「何故ですか、兄様」


「その通話が探知されない保証はどこにある。この家から出すことになるが、やはり直接行くべきだろう。リスクは出来る限り減らすべきだ」


 厄介なのは登録されていた場合ではなく、登録されていなかった場合だ。ほとんどないだろうとは思うが、フィーナが語らない以上、その可能性が全くないとは言い切れない。

 その時、フィーザーの通信端末に着信を示す音声が流れた。どうやら、両親からのメッセージらしい。


「なんだろう?」


 フィーザーは両親から送られてきていたファイルを開く。

 通信端末からホログラフィ的に空中へと投影された画面の中には、フィーナのことを養子として認めるための書類が送られてきていた。


「お父さんとお母さん、昨日話したばっかりなのに」


 フローラは感心したように目を見開くと、フィーナに抱き着いた。


「どうしたんですか、フローラ」


 事態をあまり呑み込めていないらしいフィーナはスプーンを手放すと、抱き着いているフローラと、暖かい眼差しで見守るフィーザーとの間に視線を彷徨わせる。


「学院に編入するために必要な書類を作成してしまいたいから、ここに自分で打ち込んでくれるかな?」


 当然だが、フィーナのデータをフィーザーが作成することは出来ない。本人の認証が必要だ。

 

「僕たちと一緒に学院に通った方が、フィーナの安全のためにも良いと思うんだけど、どうかな」


 フィーナはフィーザーの、そしてフローラやディオス、メルルの顔を見回すと、こくりと頷き、はっきりとした声で告げた。


「私もフィーザー達と一緒に学院? に通いたいです」


 フィーナの承認が済むと、すぐに編入の手続きは整い、あとは制服を発注するだけだ。


「じゃあ、サイズを測らないといけないですね」


 大分意気込んでいる様子でメルルが立ち上がると、フローラもそれに合わせてフィーナの手を引く。

 メルルとフローラは顔を見合わせて頷きあうと、食べ終えたフィーナを連れて自室へと楽しそうに向かっていった。

 残された男子、フィーザーは食器を洗うためにキッチンへ向かい、ディオスは何か考え込むようにして椅子に座ったままだった。

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