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69話

 しかし、咄嗟に展開したシールドの強度は弱く、蹴りの衝撃はガードした方に近いフィーザーの腕まで伝わる。


「っつ!」


 シールドを抜けて届いた衝撃にフィーザーが表情を歪ませる。

 フィーザーはそのままその場に留まることはせず、威力を逃がすようにフィーナを抱きかかえたまま蹴りに逆らわない方向へと下がる。

 しかし、油断せず、ボーラスは追撃に来る。

 自身の肉体に魔力を付与することで肉体の性能を底上げし、武闘家ではないはずのボールスの蹴りは、必殺に近い威力を伴っている。

 加速魔法に後押しされた蹴りは、フィーザーのシールドを容易く破り、同時に発動されたバインドをいともたやすく破砕する。


「ぐっ!」


 咄嗟に防御部位へとシールドを集中させて、まさにケリの当たる一点に多重に展開する。

 見切りは完璧に近いものだったが、ボールスの蹴りに付与されていた魔力はそんな技術などあざ笑うかのようなものだった。

 今度は自身で吹き飛んだのではなく、ボールスの蹴りによって吹き飛ばされるフィーザー。

 必殺の一撃が繰り出される中で、フィーナを庇ったうえで未だに意識を保てるレベルなのは、偏にフィーザーのシールドを張る技術と、魔力運用の器用さ、上手さによるものだが、それでも次第に形勢は傾く。

 ボールスは攻撃の手段を限定されている。フィーナがいる以上、直接魔力を放つような攻撃は取ることが出来ないからだ。

 初手でこそ、召喚魔法による攻撃は通用したが、すでに戦いに集中しているフィーナの目の前で召喚魔法を使うための時間などとることは出来ない。射撃や砲撃、斬撃の魔法も、不意を衝くのでなければすべてが吸収されてしまい、逆に不利になることだろう。

 しかし、それでも、熟練の経験と技術、そして駆け引きをもって、ボールスはフィーザーとフィーナを圧倒していた。

 

「フィーザー」


 何度目になるのか分からない、魔力砲撃よりは威力は劣るが、かまいたちのような突風に吹き飛ばされたところで、フィーナが決意を秘めた瞳で宣言した。


「2人で闘いましょう」


「そうだね」


 フィーザーは頷き、フィーナの手を取って引き起こすと、再びボールスの前へと、地上を蹴って駆け上がろうとする。それを、フィーナの小さな手が地上へと縫いとめる。


「フィーナ?」


 フィーザーが振り返ると、フィーナは首を振っていた。


「フィーザー、今あなたが考えていることは違います。私の言っていることを全く分かっていません」


「そんなことは」


「いいえ、そんなことあるんです」


 フィーナはフィーザーの手をぎゅっと握り、自分の胸元に引き寄せる。


「フィーザー、誤魔化したいつもりなのか分かりませんが、私が気付かないとでも?」


 フィーザーとフィーナは縛らkう互いんお瞳を見つめ合っていたが、やがて、フィーザーはわずかにフィーナから視線を逸らした。


「やはり」


 フィーザーは自覚していたのだと確信し、フィーナはフィーザーの両頬を挟み込んで前を向かせる。


「そんなに私を信じられませんか? あなたに守ってもらわなければ消えてしまうような存在だと、本当にそう思っていますか?」


 フィーナはフィーザーの両手を優しく包み込むように握り、自分の顔の前に持っていき、祈るような格好で目を瞑った。


「ありがとうございます、フィーザー。私を大切に思ってくれて。とても嬉しく思います。けれど、今、この時だけは、そのような気遣いは不要です」


「‥‥‥フィーナ」


 フィーザーは逸らして横を向けていた瞳を正面へと向ける。フィーナのルビーのように真っ赤な瞳がはっきりと彼女の想いを伝えてきていた。

 フィーザーは自身の失敗を認めた。

 フィーナは守られているだけのお姫様ではない。

 出会った最初からそうだったわけではない。けれど今は可憐すぎる容姿とは裏腹に、強い意志と決意を秘めている。


「そうだったね。僕が間違っていたよ。一緒にいるって、一緒に戦うってことは、そういう事じゃなかったよね」


 フィーザーが微笑んでフィーナに手を差し出すと、フィーナもそこに手を乗せる。


「一緒にいる」


「うん」


 フィーナから溢れる魔力がフィーザーへと流れ、フィーザーから放たれる魔力が二人を包み込んで眩しく輝く。


「行こう、一緒に」


 フィーザーとフィーナは揃って空へと飛び立つ。

 ボールスへと向かい飛翔する2人に剣戟が降り注ぐ。逃げ場などない、視界を埋め尽くすほどの無数の剣に対して手を伸ばす。ボールスは2人が話し合っている間に召喚を完了させていた。

 フィーザーの形成したシールドは、しかし、1人分だけのものではなかった。

 物理的な剣自体はフィーザーが防ぎ、纏う魔力をフィーナが防ぐ。魔力による威力の底上げを伴わないのであれば、フィーザーにも防ぐことはそこまで苦にはならなかった。

 2人は脇を抜けていった剣の雨の行方が気になり、後ろを振り向く。


「こちらならば問題ない! 気にせず、存分にやれ!」


 ディオスからの音声が届く。おそらくは空気の振動を制御する魔法に合わせてディオス自身音量を上げているのだろう。

 ディオスのプラズマシールドが飛んでくる剣を破壊し、セレスティアとフローラが、そしてわずかにメルルがシールドを張り、魔力の衝撃波を防ぐ。戦いの気配、魔力に呼び寄せられてしまっていた魔獣は、レドが斬り捨て、拳を撃ち込み、排除していた。

 フィーザーとフィーナは頷くと、ボールスへ接近する。

 2人分の飛行魔法による加速だ。その中でボールスに的を絞らせないように飛行しながら攻撃のための準備も怠らない。

 剣戟に魔力を割いているボールスでは、いや、たとえそうでなかったとしても、魔力量でフィーナに劣るボールスでは逃げ切ることは出来ないだろう。フィーザーとフィーナによる加速はボールスの移動速度を上回る。

 フィーザーとフィーナに共有されている魔力を感じ取っていたボールスは、だからこそ遠距離からの召喚魔法による迎撃という手段を取っていた。というよりも、今のフィーザーとフィーナに対して有効な攻撃は魔力による後押しを極力必要としない魔法しかなく、後は直接攻撃するしかない。

 戦いが始まってから初めてボールスの表情に焦りの感情がわずかに浮かぶ。

 

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