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60話

 メルルの訓練を続けながら、所々で休憩を挟みつつ、フィーザー達はミルファディアの中を進んでいた。見ず知らずの土地を警戒しながら進むのは、いくら魔法があるとはいえ、大変に体力と精神力を消耗するのである。

 もちろん、何のあてもなく進んでいるわけではなく、索敵魔法によりボールス達の事を探しつつ、フィーナが感じるままに一行は脚を向ける。

 どうやら、彼らはミルファディアの中心地、最も魔力素の濃い地点を目指しているようで、歩いて行くにつれて、フィーザー達が感じる魔力もだんだんと大きくなってきていた。

 

「探し出すことが出来たとして、彼らが素直に扉の開き方を話すとは思えないわね」


 暗に決戦は免れないだろうと緊張した面持ちで告げるセレスティア。フィーザー達もその覚悟はしていた。

 そしてそれ以上の問題もある。

 ミルファディアに来てからフィーザー達、魔法師組の調子は良かった。それはつまり、ボールス達も同様であるはずであった。ならば、彼らがこの地の影響を長い間受け続ければ、フィーナをあてにせずとも、自力でこの地とヴィストラントとの扉を開くことが出来るようになるかもしれない。

 もしそんなことになれば、彼らがそれを望んでいるのかは分からないが、例えば先程のモンスターがヴィストラントへ、更にはストーリア全土へと侵攻してゆく可能性が全くないとは言い切れない。

 そんな恐ろしい事態を回避するためにも、そしてこれ以上フィーナが狙われることのないように、彼らとは決着をつける必要があった。


「それは必ず聞き出すさ」


 ミルファディアにはストーリアやヴィストラントからの電波が届いてはいないようで、端末を使っての時間の取得が出来ない。加えて、空には太陽のようなものが浮かんではいるが、同時に月のようなものも浮かんでおり、全く参考にはなりそうもない。


「文字盤の時計を持ってくれば良かったわね」


 今更言ってもしょうがないことだが、やはり時間、もしくは食事と睡眠の時と言い換えても良いが、それを知る、もしくは基準とする感覚は現代を生きる人に必要な感覚であった。


「今更言ってもしょうがないよ、フェイリスさん。それに、時間が分かったとしても、僕たちには今食料も何もないんだから」


 幸い、と言っても良いのか、空気中に水分は含まれているようで、それを利用することで飲み水には困らなかった。


「時間についてならば問題はない。こちらに入ってからの時間は俺の体内で計測している。俺達がここへ来た時の場所も記録してあるから引き返すことも可能だろう。さすがに全体の地図を作るまでには至っていないがな」


 一行は足を止め、一斉にディオスの方を振り返る。


「現在、俺達がヴィストラントを離れ、ミルファディアと思われるこの地に足を踏み入れてから20時間が経過している。もっとも、魔法的な作用で俺達が宇宙空間にでも飛ばされているというのなら話は別だがな。とにかく、ストーリアの標準時計で判断するのならばもうすぐ1日が経過するということだ」


「ディオスがいてくれて助かったよ」


 フィーザーがそう言ったところで、くぅ、と小さくお腹の鳴るような音が聞こえた。

 音のした方を振り返ると、フィーナとフローラ、そしてメルルが揃って顔を伏せていた。


「まずは食料を探しましょう」


 見ず知らずの土地で離れ離れになるリスクは当然承知していたが、7人もいるのに全員で同じ場所を探すのは明らかに効率が悪い。食料がなければどのみちくたばってしまうのだ。

 覚悟を決めて、フィーザー達は三手に分かれて探索を開始した。



 

「これって食べられるのかなあ?」


 フローラが生えている果実のようなものに手を伸ばす。外側の色は苺のように赤く、ヴィストラントの季節と対応していると考えると、今そのように実をつけるはずがないということを除けば、まさに今が旬であるかのような色合いだった。


「フローラ、待って」


 フィーザーはその手を止めると、地面に落ちている木の枝を拾い、軽く放り投げる。

 魔法的な力を付与されず放られた木の枝がその実に当たりそうになると、途端に苺のような赤い実が真ん中辺りで口のように裂けて、木の枝を噛み折った。


「‥‥‥食べられそうじゃないね。逆にこっちが捕食されそう」


 フローラが残念そうに肩を落とす。

 このような未知の土地で倒れてしまえばそれは死を意味する。飲食の心配がほとんどいらないのはディオスだけであったが、ディオスだけではこの地で充電することも出来ない。

 フィーザーやフィーナ、セレスティアにフローラならば、魔法で電気を発生させることも出来るが、それは雷であり、規格をオーバーしてしまい、ディオスの身体が持たない可能性が大きかった。やはり、食料を分解してそこからエネルギーを取り出す方がよい。


「待って、フローラ。たしかにこれは危険そうだけど、他に見つかるかどうか分からないし、一応、これだけでも持って帰った方が良いんじゃないかな」


「持って帰るって、お兄ちゃん、どうするつもり?」


「私がやってみます」


 フィーザーとフローラの間を潜り抜けて、フィーナがその苺のような実に手をかざす。すると、その赤い実から魔力が抜けていくのがフィーザーとフローラには感じ取れた。


「取れました」


 魔力を感じられなくなった赤い実を手のひらいっぱいに乗せ、嬉しそうにフィーナが微笑んで振り向く。


「‥‥‥お兄ちゃん」


「‥‥‥分かってる」


 フィーナの取得物ではあったが、全くの未知の物を毒見させるわけにはいかない。フィーザーは毒見役を買って出て、一粒つまみ上げると、ごくりと喉を鳴らしてフィーナとフローラが心配そうに、けれど機体の籠った瞳で見つめる中、意を決して口の中へと放り込んだ。


「どう?」


 フローラが躊躇いがちに尋ねてきて、フィーザーは首を縦に振る。


「もう少し様子を見た方が良いとは思うけれど、美味しいは美味しいよ。見た目通り、苺みたいな感じだった。食べた感じでは多分毒なんかもないんじゃないかな」


 フィーナとフローラは顔を見合わせて頷きあうと、同時に一粒ずつ口へと放り込んだ。


「おいしい」


「おいしいです」


 3人で採れるだけの実を採ると、もちろん危険は取り除いて、元来た道を引き返す。ルートは頭に入っていたので問題はなかった。


「お疲れ様。そっちはどうだった?」


 手に持っている物を見ればわかったのだが、こういうところでは情報の共有が重要だと思ったフィーザーは、同時に戻ってきたディオスに話を振る。


「ああ。ここの生物と言っていいのか分からんが、一応、食べられそうなタンパク質だと思ったものを捕ってきた」


 ディオスとメルルの手には、怪鳥ではなかったが、鳥らしきものが握られていた。数は7。


「どれだけいるのかもわかりませんでしたし、結構時間を取られてしまったみたいでしたので‥‥‥」


 メルルが申し訳なさそうに、もっと取れれば良かったのですけれどと告げる。


「これだけあれば十分ですよ。ありがとうございます、メルルさん」


 フローラが笑いかけると、メルルもフィーザー達の手にする実を見て、顔を綻ばせる。


「待たせた」


 程なく、レドとセレスティアも戻ってきて、フィーザー達とは違う種類の、果実と思われるものを、やはり腕いっぱいに抱えていた。


「食べきれなかった分は保存の魔法をかけて、そうね、メルルさんとフローラさん、それからフィーナに運んでもらいましょうか」


 セレスティアの意図は見え透いていた。

 要するに、重要な物―—この場合は食料―—を運ばせることで、戦闘に参加しない、参加させない言い訳を作るというものだった。


「‥‥‥分かりました」


 戦闘の経験は積んでいた方が、この後彼らと闘うことになった際に重要になるかもしれないが、一朝一夕で蓄えられるものでもない。練習を始めたからとはいえ、数日で戦力に数えるまでには至るはずもなく、また、フィーザーやディオスが妹たちを戦線の矢面に立たせることを良しと言うはずもなかった。




「‥‥‥おそらく、あの建物です。あそこから強い力を感じます」


 さらに数日後、よく分からない植物なのか何かが鬱蒼と生い茂る森のようなところを抜けたフィーザー達一行の前に現れたのは、要塞のような、はたまた城のような、明らかに自然のものではない、人工的な建物であった。


「あれは‥‥‥元々この地にあったものとは考えにくいわね」


 後ろの森林を振り返りながらセレスティアが呟く。

 明らかに文明を感じさせるものであり、開けた大地を見渡す限り、似たような建築物が一切見受けられないことを考えると、ボールス達がいるのであろうことはかなり高い精度で予測できた。


「行こう。彼らが何をしているのか分からないけれど、それ程時間がある様にも思えない」


 建物から感じる雰囲気は、フィーザー達に危機感を持たせるには十分であった。

 フィーザー達は最大限の警戒をしながら、身を隠していた草むらを飛び出した。

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