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6話

 大まかなことはフローラが話してしまっていたのだが、改めてフィーザーがディオス達に説明し終える頃には、4人を乗せた車両はフィーザー達兄妹の家から最寄りの乗り場へと到着していた。


「ディオス、誰か僕たちをつけてきていたり、監視していたりする人、物はあるかな?」


 確認を取りながら、フィーザーは自分でも探索魔法を使用して辺りの様子を窺う。

 当然、相手方も警戒しているだろうから、探査を誤魔化す魔法を使っているかもしれない。しかし、少なくともフィーザーの知る範囲では、完全な隠密性を持つ魔法は存在しなかったし、自分の索敵魔法、及びディオスの対人センサーによる索敵をくぐり向けられるような相手に対して、今何か出来るとは思わなかった。


「‥‥‥いや、そこらの通行人以外で周辺に人がいる形跡は認められない。街路カメラはあるが、それだけだ」


 街路カメラに関しては仕方がないし、家の中まで映されるわけではない。あまり警戒しすぎても不審に思われかねない。

 歩みを止めず、ゆっくりになり過ぎないペースで自宅へと辿り着き、ロックを解除する。


「ただいま‥‥‥、うわっ!」


 扉を開けた直後、トタトタと走ってくる音が聞こえたかと思うと、フィーザー達の帰宅を嗅ぎつけたらしいフィーナが奥から駆け寄って来て、フィーザーに抱き着いた。


「おかえりなさい」


「ただいま、フィーナ」


 兄妹が答えると、フィーナは満足そうな笑顔を浮かべ、隣のディオスとメルルに顔を向けた。

 途端、警戒するようにフィーザーの背中に隠れるフィーナ。しかし、気にはなるらしく、顔を半分だけ覗かせている。


「フィーナ、ディオス・ダーリングと、その妹のメルル・ダーリングさんだよ。彼の顔は怖いし、目つきはいかついけれど、悪人じゃないから安心して」


「とっても綺麗な子ですね‥‥‥」


 膝に手を当てて屈んだメルルが、髪を払いながら微笑みかけた。


「初めまして、えっと、フィーナさんで良いのでしょうか。フィーザーさんからご説明があった通り、私はメルル・ダーリングと申します」


 フィーナはこくりと頷くと、若干微笑んでみせた。


「可愛い‥‥‥、じゃなかった、ほら兄様、そう睨んでいてはフィーナさんが怯えてしまうじゃないですか」


 メルルに睨まれたディオスは、第三者から見れば決して友好的とは言えない顔で口を開いた。


「ディオス・ダーリングだ。メルルの兄だ」


 ディオスの顔が怖かったのか、声に怯えてしまったのか、フィーナは再び、さっとフィーザーの背後へと隠れてしまった。

 メルルのじとっとした視線とため息がディオスに突き刺さる。


「ま、まあ、立ち話もなんだし、詳しくは座って話そうか。時間は大丈夫だよね」


 フィーザーは2人が頷くのを見ると、すでに夕食の準備を始めていたフローラを追ってリビングへと向かった。

 



 フィーザー達がリビングへ向かうと、フローラはやはり鼻歌を歌いながら楽しそうにフライパンを振っていた。チキンライスが宙を舞う。


「あ、私も手伝います」


 歩きながらフィーザーに誘われた夕食に頷いたメルルに、ディオスも同意して頷いていた。


「じゃあ、そこにかかってるエプロン1枚使っちゃっていいよ」


 フローラとメルルは学年を越えての親友で、たまにお泊りに来ることもある。その場合、いつもならエプロンなどは持参しているのだが、何分今日は急だったためそんな用意などしていない。

 メルルはお礼を告げながら、緑のエプロンを手に取ると、さっそくボウルを取りだして卵を割る。

 そんな2人の様子をフィーナはじっと目で追っていた。


「フィーナもやりたいの?」


 フィーザーが尋ねると、フィーナはじっとフィーザーの事を見上げていた。


「フローラ、何かフィーナにも手伝えることはないかな?」


 台所に並んでキャッキャと楽しそうなおしゃべりに花を咲かせている妹に声を掛ける。

 おそらく台から降りたのだろう、頭一つ分身長の低くなったフローラが、別のボウルを持ってくる。


「じゃあ、これ。ポテトサラダのジャガイモなんだけど、潰しておいてもらえる?」


 フローラは、不思議そうに見つめるフィーナの前で、マッシャーを使ってふかした芋を潰して見せる。

 こくりと頷いたフィーナは、マッシャーを受け取ると、じっと中を見つめながらジャガイモとゆで卵を潰そうとした。

 しかし、フローラが手を放していたため、ボールが滑ってしまって、それらを潰すことは出来なかった。


「ああ、フィーナ、ボウルをちゃんと反対の手で押さえていないと。お兄ちゃん、ちょっと、これ押さえててあげてよ」


 フィーザーがボウルを押さえると、より近付いたためか、フィーナの良い匂いがしてきてた。


「お兄ちゃん‥‥‥、いくらフィーナが超絶可愛いからって、そんな風に変な目で見てたらいけないんだからね。するならちゃんと告白して、お付き合いしてからにしてよ」


 フローラにじとっとした目を向けられて、フィーザーは慌てて否定した。


「これは仕方のないことなんだってば! 男なら誰だって‥‥‥」


 そう言って、ディオスの方を見たフィーザーは味方がいないことを悟り、がっくりと肩を落とした。


(そうだった。この場にそういうことに反応する男子は僕しかいないじゃないか‥‥‥)


 フィーナはきょとんとして2人のやり取りを見ていた。


「あの、フィーザーはどうかしたんですか?」


「フィーナは何にも気にしなくていいんだよ。あ、でも、今晩は少し気を付けていた方が良いかも。お兄ちゃんに襲われないとも限らないし」

 

「その話も聞かなくちゃなあ」


 昨日今日と中々時間が取れず、後回しにしていたが、フィーナの事情を聞いておかなくてはならなかった。

 どこから来たのか、どうしていたのか、現状分かっていることはほとんどなく、今のままの状況では対処しようにも手の付けようがなかった。


「その話はご飯にしながらでいいんじゃない?」


 細長く切ったハムやキュウリ、トマトや1枚のキャベツのサラダを持ったフローラがキッチンから出てやってきた。


「もう少しだから、盛り付けまでしといて貰える?」


 フィーザー達がポテトサラダを各自の皿に4枚分取り分けると、メルルとフローラがふわふわの卵のオムライスを持ってきた。


「ディオスは持って来てるの?」


「問題ない。常に2,3食分は携帯している」


 ディオスは食事によるエネルギーの摂取はしない。

 必要な分の栄養素が入ったカートリッジの交換をするだけだ。


「いただきます」


 しかし、一緒に会話をすることは出来る。

 5人は一緒に手を合わせた。



 

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