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51話

 セレスティアとレドが言い争っているうちに、タンドラとアーサーの戦いは一層激しさを増しながらなお続けられていた。

 いつの間にとって戻ったのか、アーサーの手には抜身の剣が握られており、タンドラの方もまた、自身の身長ほどもありそうな長刀を構え、アーサーの前にゆらりと立ち塞がっていた。

 レドとセレスティアは、少し離れた位置で、横に並びあって戦いの行方を固唾をのんで見守っていた。


「あ、あのー、すみません」


 サーシャリーがふと横を向くと、そこにはアーサーの部下と思しき、道着を着て、手には小手を巻いた口元を隠した青年が大変恐縮した様子で立っていた。


「何かしら」


 サーシャリーはアーサーとタンドラの戦いから目を逸らすと、レドとセレスティアを自身の背中に庇うような格好で青年の方へと振り向いた。


「もしよろしければ、私と手合わせなどしていただきたいのですが‥‥‥」


 その様子に気がついた他のアーサーの部下と思しき青年や女性が揃って口を開いたのち、一気にサーシャリーの元へと詰めかける。


「ずるいぞ!」


「是非私ともお相手下さい」


「いえ、是非私とお願いいたします」


 そうねえ、とサーシャリーは困っている風な顔を浮かべながら、レドとセレスティアの方をちらりと見やった。


「私と戦いたいのだったら、せめて私の息子を倒してからになさい」


 話を振られたレドは、自身に集められた視線を受けて、構えをとる。

 アーサーとの戦いを途中で中断されてしまったため、レドの両親は彼の事を思ってやっているのだが、レド本人としては不完全燃焼である感は否めなかった。


「分かった」


 レドは全く疲労を感じさせずに立ち上がると、またしてもじゃんけんなどして誰が先にレドと闘うのかを争っているアーサーの部下の前に進み出る。


「ちょ、ちょっと待ちなさい、待って、レド」


 それに待ったをかけたのはセレスティアであった。


「あなた本当にそのまま闘うつもりなの? 大分ボロボロじゃない」


 レドは、身体の各所には痣が出来ており、口からは赤い血が流れ出て、当然服など泥だらけのボロボロだ。セレスティアが心配するのも無理のない恰好だった。


「ああ、この程度ならば問題ない。俺はまだやれる」


 レドとセレスティアはしばし無言で見つめ合う。アーサーの部下たちは歯ぎしりと、怨嗟の声を向けられていたが、2人はそんなことに気付く様子もなかった。サーシャリーだけがその様子を微笑まし気に見つめている。


「‥‥‥そう、分かったわ。でも、これだけはやらせて、お願い」


 セレスティアがレドの前に手をかざす。

 柔らかい光がレドの身体を包んだかと思うと、今まであった痣や傷、腫れなどが綺麗に消えてなくなっていた。


「あのままの身体でまだ戦うなんて無茶も良いところよ。叔父様の言葉じゃないけれど、緩慢な自殺と変わらないわ」


 レドとしてはそんなつもりは少しもなかったのだが、幼馴染の瞳を見て、どれ程自分を心配しているのか見抜けないほど他人の心の機微に疎いわけではなかった。


「済まない。助かったよ、セレス」


 レドはセレスティアに背中を向けると、前へと向かって進んでいく。

 自分にはレドの邪魔など出来るはずもない、この場で出来る精一杯のことはレドの傷を癒しただけなのだと思って、セレスティアが少しばかり落ち込みながら離れて行く背中を見つめていると、その肩に温かい手が置かれた。


「サーシャリーさん」


 セレスティアが見上げたサーシャリーの顔はとても優しげであった。


「セレスちゃん、自分には邪魔できない、だってこれはあの子が、レドが望んだことなのだから、なんて思っているのかしら」


「‥‥‥ええ、はい」


 端から見ていても、レドが戦っている様子は、セレスティアが買い物に突き合わせたときや、遊びに付き合って貰った時よりもずっと楽しそうで、あれを邪魔してしまうことは、セレスティアには出来なかった。


「いいのよ、あそこに混ざってきても。レドはそんなことであなたの事を邪魔だと思ったりなんてしないし、気を損ねるほど子供じゃないわ」


「えっ? ですが‥‥‥」


 てっきり、信じて待っているのも大事なことよ、などといわれると思っていたセレスティアは、戸惑いを隠せない声でつぶやいた。


「好きな人と一緒にいたいと思うのは自然な感情だもの。安心して。何か文句を言うようなら、私があの子を張っ倒すから」


「お、サーシャリーさんも小父様、タンドラさんと一緒に戦いたいと思っていたから、今もこうしているのですか?」


 サーシャリーはとても15歳の少年を子に持つとは思えないほど、着物の上からでは分からないが、引き締まった身体をしていることをセレスティアは知っていた。レドの家とセレスティアの家は家族ぐるみの付き合いも長く、今でもたまに家族が一緒になって旅行に行ったりすることも、偶にとはいえ、あるからだ。


「どうかしら」


 サーシャリーは微笑んだだけだったが、その気持ちはセレスティアにははっきりと伝わっていた。


「分かりました。ありがとうございます、サーシャリーさん」


 お礼を告げたセレスティアはレドの元へと駆けて行った。


「若いっていいわねえ」


 自身もそれほど歳を重ねているわけではないサーシャリーは、その後姿を優し気に見つめながら微笑んでいた。


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