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5話

「それで、お聞かせいただけるんですよね?」


 礼拝堂に座った4人と向き合う様に聖パピリア様の像を背にして立ったエリスは両手を腰に当てて、私は怒っているんです、というポーズを取っていた。

 端から見れば、大層可愛らしく、微笑ましい恰好なのだが、それを指摘していては話が余計に長引いてしまうし、それはフィーザー達も望むところではない。


「先に言っておくが、シスター・エリス。俺とメルルは巻き込まれた側だ。はっきり言って、何が何だか分からない。俺達だって説明が欲しいんだ」


 3人の顔がフィーザー達に向けられる。

 他のシスターたちは子供たちの相手や、エリスが買ってきた食材の調理、夕食の準備に忙しく、この場には5人と聖パピリア様の像しかいない。

 フィーザーとフローラは顔を見合わせた。


「エリスさん。最近、教会で変わったことはなかった? ああ、えーっと、どんなことでもいいんだけど、例えば、新しい子が来たとか、その逆とか」


 可能性は低いと思っていたが、全くないと言い切ることは出来ない。

 案の定、エリスはきょとんとしていたが、すぐに首を横に振った。


「いいえ。もちろん、毎日のように礼拝に来る方はいらっしゃいますけれど、こちらでお預かりしている子達がいなくなったり、帰る家を見つけたりということはありません」


 どうやら、フィーナは教会とは無関係らしい。そうすると、フィーナを教会に連れてきて保護してもらうというのは難しくなる。

 聖パピリア様に仕えるシスターだけあって、ここの人たちは皆口は硬いし、ディオスやメルルが話してしまうとも思えない。友人だからという補正を抜きにしても、基本的に見ず知らずの人物や、たとえ友人知人でも秘密は確実に守ってくれるだろう。ディオスの口の堅さは言うまでもないし、メルルが不用意に口を割ったり、真相を問い詰められることも、ディオスがいる限り、起こり得ないはずだ。

 

「お兄ちゃん」


「うん。どのみち、僕たちだけでは大変そうだしね」


 そう言いながらも、二人が言い淀んでいると、エリスは立ち上がった。


「ついて来ていただけますか」


 4人が案内されたのは教会の中にある、木製の、旧時代にあったらしい電話ボックスのような部屋―—告解室だった。

 格子の仕切りの向こう側から、エリスの声が聞こえてくる。


「ここは告解室。本来は大陸の方にある他の神を信仰している方々が己の罪の告白に使用する物らしいのですが」


 聖パピリア様を信仰しているここの教会の源流となるべき宗教の流れははっきりとはされていないが、どうやらこの部屋は罪の告白や、抱えきれない悩みを話してしまえる場所であるらしい。


「ここの中で話されたことは我々は決して口外いたしません。聖パピリア様に誓って」


「それは、4人で入っても大丈夫なのかな?」

 

「大丈夫ですよ。元になった宗教の方ではどうなのか存じませんが、今回は罪の告白に使用するのではなく、機密性を持つために使用するのですから。性質上、遮音性は完璧ですし、例え誰かが外を通りがかったとしても、少なくとも私たちシスターはそれを聞いたりは致しません」


 エリスが告げた言葉の意味を、フィーザーは正しく理解していた。

 つまり、この中で話したことに関して今この場にいる5人以外の耳に入ることはないし、記憶にも残ることはない。もし聞こえてしまっても、聞かなかったことにしてくれるということだ。


「どうぞ、あなたが抱える問題を私にお話しください」

 

 どのみちどこかでは話さなくてはならなかったし、他の場所よりはリスクも少ないのかもしれない。

 しかし、この広さでは一人しか入ることは出来ない。


「ディオス。悪いんだけど、この後家に来てくれるかな。どうせなら、そっちの方が話しやすいし」


「いや、無理を言ってついてきたのは俺達の方だ。当然、そうするべきだ」


 謝罪をすると、フィーザーは一人で告解室へと入った。

 

「‥‥‥そういう訳で、本当ならここで預かってもらうか、それでなければ保護者代理でも頼もうと思っていたんですけど‥‥‥」


 本当なら、確認を取った後に自宅に戻り、フィーナと一緒に再び教会を訪れるつもりだった。

 幸いなことに両親は問題ないと言ってはいたが、やはり、兄妹だけでは何かと不安もあるし、フィーナも安心だろうと思っていたからだ。

 しかし、先程の襲撃を受けて、そう簡単に頼むわけにもいかなくなってしまった。

 子供のくせに余計な気を遣うんじゃない、と言われるかもしれないが、それでもフィーザーは、これから先、もし同じような事態が起こるというのならば、ここの人たちを巻き込みたいとは考えていなかった。


「成り行き上話してしまいましたけれど、先程のような危険な連中がまた襲ってこないとも限りません。やはりエリスさんは聞かなかったことにしていただけると、僕たちの心配も減るのですが」


「あなたがそうおっしゃるのならばそう致しましょう。先程も言った通り、ここにいるのは私、エリス・ディストンという個人ではなく、聖パピリア様に仕える一人のシスターですから。ですが、私たちで力になれることがあれば、遠慮せずにおっしゃってくださいね」


「ありがとう、エリスさん」


 二人は揃って告解室から出ると、フローラたちの待つ礼拝堂へと歩を向けた。



 聖パピリア様の像の前には、フローラたちだけではなく、幾人かのお祈りを捧げている人たちもいた。


「お待たせ」


 フィーザーが近寄ると、フローラは顔を上げて、携帯のメモ画面を見せてきた。


「二人には私の方から説明しちゃったよ」


 メールのように送信もされていなければ、全てが変換すらされておらず、フィーザーに見せると、フローラはそれをすぐに消去してしまった。


「最初からそうすれば良かった‥‥‥いや、時間がなかったか」


 フィーザーが自分の頭の回らなさを反省していると、ディオスがこちらを睨んでいるのに気がついた。


「それで、どうするつもりだ」


 その眼は今更引くつもりはないと言っているようで、覚悟が決まっている者の物だった。

 フィーナがどうしたいのかは確認していないが、彼女を守るには、警吏に頼ることが出来ない以上、友人や知人の力を借りられるのは大分助かる。しかし。

 

「そのことだけど‥‥‥」


「今更遠慮したりしないでくださいよ。私達も興味本位だけで聞いているわけではないですから」


 メルルの顔には心配する色が浮かんでいた。ディオスの整備を手伝っているメルルは工学系に関する知識も、同学年の生徒と比べると豊富といっても差し支えはない。


「大丈夫だ。こいつの事は俺が必ず」


「分かったよ。それじゃあ、今から時間あるかな? 直接会った方が何かと早いと思うからさ」


 エリスに礼を告げた4人は揃って教会を後にすると、警戒しながら、リニアの乗り場へ急いだ。

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