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47話

 破けた人工皮膚がナノマシンの作用ですぐさま修復される。あまりに大きな破損になると難しいが、かすり傷、切り傷程度の負傷であれば即座の修復が可能なナノマシンは、医療センターでも様々な治療に利用されている。

 セレヴィムはディオスの拳を受け止める前と何ら変わりのない自らの手の感触を確かめていた。


「ふむ‥‥‥。さすがはダーリング博士夫妻のご子息ということですか。中々のパワーをお持ちのようだ」


 セレヴィムの眼球がキョロキョロと動く。何かを観察、解析しているかのような、生身の人間ではありえないような動きだ。

 

「義体の強度、精密さ、保有する熱量、どれをとっても一級品のそれと遜色がない。どころか、一世代、いや、二世代か? 現行のそれを確実に上回っている‥‥‥」


 セレヴィムはディオスの義体を観察していた。

 ディオスのものと同じく、セレヴィムの義眼もセンサー、カメラ、その他の機能を搭載しており、それによりディオスの義体を調べていたのだ。


「それはダーリング博士の残したものか? いや、そんなはずはない。だとすれば、未だ15歳程度の学生の身でありながら私と近しいレベルの物を開発、実装できるだけの頭脳と技術があるということ‥‥‥。面白い、ますますあなたの事を調べたくなってきましたよ、ディオス・ダーリング」


 狂気に取りつかれた、ただ知識を、そして技術のみを求める一人の科学者の姿がそこにはあった。 


「言い残すことはそれだけか」


 ディオスは静かに右手をセレヴィムに向ける。


「お前を破壊する」


 ディオスの右の手首が折れ曲がり、ブラスターが発射される。

 ディオスは怒っていたが、怒りに任せて全力を注ぎこむなどという愚かな行動をとったりはしない。今までの短い戦闘の中からでも、目の前のセレヴィムの能力がブラスター1発程度でどうにかできるほど脆いものではないと判断していた。

 そしてその予想は正しく、ブラスター発射の光と煙が晴れた先には、所々から焦げたような音を立てているものの、それ程損傷を受けている様子ではないセレヴィムが顔を覆う様にして立っていた。


「危ない危ない。当たりどころが悪ければパーツが吹き飛んでいたところでしたよ。いやはや、称賛に値しますね」


 ディオスはわずかに眉をひそめる。

 他にも武装、及び重火器を所持してはいるものの、取り出すのには多少時間が掛かる。もちろん、換装にかかる時間など、一般人や素人が相手であれば問題のない時間だが、それでも完全にゼロとはいかない。目の前の男のように荒事に慣れているような相手だと、その少しばかりの時間に問題が生じるかもしれない。

 だからといって、相手の戦力がほとんど未知数の段階から接近戦を仕掛けることには抵抗があった。

 無論負けないという自身もディオスにはあったが、自身の背後にはメルルたちもいる。出来る限りリスクはへらしたかった。


(かといって、この場を離れるようなことは‥‥‥、メルルの傍を離れることなど)


 そのディオスの思考を読んだかのようにメルルが口を開く。


「兄様。私の事ならばご心配には及びません。ご存分にお力を発揮されて下さい」


 ディオスはちらりと視線をメルルに向ける。


「ディオスさん、微力ながら私も協力させていただきますから」


 フローラがフィーザーから視線を外してディオスの方へと顔を向ける。

 2人とも真剣な表情で、震えてもいなかった。


「兄様の枷になるようなことにはなりたくないのです」


 メルルの瞳に宿る光を見つめ、ディオスはようやく決心する。


「分かった。お前を信じる」


 それから隣にいるフローラへと視線を移す。


「頼む」


 フローラとメルルの返事を待たず、ディオスはセレヴィムへ向かって、小細工などせずに一直線に向かって飛ぶような勢いで突っ込んだ。

 もちろん、ディオスの突撃はセレヴィムによって止められたが、そんなことは気にせず、むしろ予想通りだという表情で、そのまま推進装置の出力を上げ、セレヴィムを教会の建物の外へと追い出すことに成功する。


「場所を変えたからと言って、あなたが私に勝てるということにはなりませんよ」


 埃を払うような仕草を見せるセレヴィムは余裕のある態度を崩したりはしていない。

 セレヴィムが手を軽く振ると、1本1本がコンバットナイフのような真っ黒な鍵爪のついた武装が現れる。


「あまり傷をつけずに持ち帰る予定でしたが、そちらの義体のナノマシン、義体強度を鑑みると、この程度の武装であれば問題ないように思われます。まあ、壊れたら壊れたで、持ち運びやすくなると考えましょう」


「まったく、とんだ収穫祭だ」


 すでに陽は落ち、辺りは暗くなっていたが、センサーで物を見て、捉えているディオスには、そしてセレヴィムにも勿論影響はなかった。


「いやあ、我々にとってはまさに『収穫祭』と呼べるものですがね」


「それは俺やフィーナを回収するという意味か?」


「元々はあの娘、フィーナだけの予定でしたが、思いがけず良い物件を収穫できそうです」


「そうか」


 ディオスが突撃するのに合わせて、無造作にセレヴィムの鍵爪が振るわれる。間一髪のところでディオスはそれを躱したが、地面を抉り、深い文字通りの爪痕を残した。


「ふん!」


 セレヴィムが手を引き戻す前に、ディオスが鍵爪ごと力一杯に蹴り上げる。

 その蹴りはセレヴィムの手首ごと破壊して宙へと舞わせた。

 回転しながら吹き飛んだ鍵爪は、深々と地面に突き刺さった。

 ディオスはそれを躊躇なく義眼から発したレーザーで焼き尽くした。


「‥‥‥ほう」


 セレヴィムは面白そうな顔を見せた後、着こんでいたコートの懐に無くなった方の腕を突っ込む。引き出したときには、別の腕が取り付けられていた。


「自身のパーツくらい持ち歩きますよ。この程度の重量で動きに支障をきたすものでもありませんし。むしろ、軽くなって動きやすくなったとも言えます」


「負け惜しみか」


「いえいえ、全くそのようなことはございませんとも。本当に1ミリも気にしておりませんとも。ええ、本当に」


 ディオスとセレヴィムは互いに大声で笑い合う。


「壊す」


「やってみろ、ポンコツ科学者め」


 セレヴィムが距離を詰めて来るのを、ディオスは正面で待ち受けた。

 常人の眼ではおそらく追うことが困難であろう速度で両者は互いに義体をぶつけ合う。激しい音が周囲に響き渡るが、収穫祭の賑わいだと思っているのか、見に来るような一般人はいなかった。

 そして、目の前のディオスに集中するあまり、セレヴィムはこの場に第三者以降の人間がいることをすっかり忘れ去っていた。それは彼女たちを取るに足らない存在と侮っていたためでもある。


「何‥‥‥!」


 それ故に、セレヴィムはフローラの攻撃を避けることが出来なかった。

 教会からディオス達を追って出てきていたメルルと、そしてフローラの指先は真っ直ぐにセレヴィムを捉えていた。


「ぐわあああああ!」


 フローラの放った水流は、まさにセレヴィムが付け替えた腕の接合部に命中していた。

 義体の部分がスパークを起こし、たまらずセレヴィムが悲鳴を上げる。

 その隙を逃すようなディオスではない。


「終わりだ。懺悔は教会ではなく檻の中ですることだな」


 ディオスと同じように身体のほとんどを義体化しているセレヴィムは、胴体をブラスターで貫かれた程度では、行動不能に陥るだけで、死んだりはしない。

 どこまでを生きているとするのかは問題にはなるのだろうが。

 今重要なのは、ここでセレヴィムが行動不能に陥ったという事であった。


「さて、あっちに加勢に行くか」


 両親の間接的な敵に対して、淡泊過ぎるのではないかと思われるだろうが、ディオスにとっては、いつでも情報を引き出せるだろう、すでに決着のついた相手よりも、現在も戦っているだろう友人の方が重要であった。

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