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46話

 フィーザーの本能が警鐘を鳴らしていた。

 一刻も早く、この場を離れるべきだと。彼らの前にこれ以上立っているべきではないと。

 隣を見ると、レドも同じように頷いていた。その頬には一筋の汗が流れている。


「どなたでしょうか」


 シスター・メルクーアがこの場にいて落ち着いた口調でそう声を掛けてくれたのは、フィーザー達にとって幸運だった。そうでなければ、一気にケリがついてしまっていただろう。

 すぐに逃げることを考えてはいたが、逃げ切ることが不可能であろうことは目の前の集団から感じられる気配からも明白だった。


「これは失礼いたしました。神聖な教会でこのような態度に出てしまった事、深くお詫び申し上げます」


 物騒な物言いとは裏腹な態度で、色素の薄いボサボサの長髪の男性が腰を折る。その男性が前に出たことで、入ってきたときには彼らを護るように戦闘にいた口元を布で隠した女性がわずかに顔をしかめるような雰囲気を醸し出した。

 しかし、目の前のマントの男性がそのような態度に出たときから、フィーザー達に向けられていた圧倒的な気配は綺麗に霧散していた。押さえられていたと言った方が正しいのかもしれない。


「私はボールス。ボールス・ケフレンと申します。我々の目的はただ一つ、そちらの少女、ただ一人。他には用はありません。そちらの少女さえ渡していただければ、直ちにここを去ることをお約束いたしましょう」


 ボールスが指差す先にはフィーザーが庇う様にして立つフィーナの姿があった。


「我々と一緒に来ていただきたい。我々もあまり乱暴な手段でミルファディアへの扉をこじ開けようとは、今はまだ、考えていないのです」


「まだ質問に答えていただいていません。その扉を開き、その地へ向かうことにどのような意味があるのでしょうか」


 セレスティアが堂々とした態度で一歩前に進み出る。

 臆している様子は微塵も感じさせずに、堂々と胸を張っている。


「小娘。お前には関係のない―—」


「よい、リーデモール」


 リーデモールと呼ばれた、やけに露出度の高いレオタードのような服を身に着け、太ももの上まであるストッキングをはき、肩にストールをかけた女性が言い捨てようとした言葉をボールスが遮る。


「—―っ、失礼いたしました、ボールス様」


 リーデモールが膝をつく。

 ボールスはそれを気にする様子もなく、セレスティアへと顔を向ける。


「娘よ、応えよう。我らは長い間、彼の地、ミルファディアについて調査していた。存在は確認できるのだが、そこへ行くには扉を開く必要があったのだ」


 ボールスが指を立てる。フィーザーとセレスティア、フローラはそこに込められた膨大な魔力を感じ取った。そしてボールスは、何もない空間を上から下へ切り裂くような動きを見せた。

 

「見えるか?」


 今度は、フィーザー達だけではなく、レドやディオス達にもはっきりと目に見えていた。

 それは白く巨大な扉のようなものであった。

 質量は感じられないが、存在感は圧倒的であり、扉の向こう側からは、わずかに光が漏れ出していた。


「これは一体……」


 言いながらセレスティアは、そしてフィーザー達も、扉の先から得体のしれない何かを感じていた。

 

「私でもあまり長いことこの扉を留めておくことは出来ないでいる」


 一息つくと、ボールスはその扉を消した。


「この扉を現出させるまでに至った我々だったが、これを開くにはさらに膨大な魔力を要するらしく、未だ開くことが出来ていない」


「それとフィーナに何の関係が?」


「予想はついているのでしょう? 分かり切ったことを聞く子は嫌いよ。思わず殺してしまいそう」


 尋ねたセレスティアにリーデモールがさらりと言ってのける。

 本当に自然に、何の感情も抱いてはいないかの如く、何でもない調子でだ。


「気に入らないからと、すぐに何でも殺す殺すと言うのは幼稚過ぎるのではありませんか?」


 セレスティアはそれに全くひるんだ様子もなく、これ見よがしに、肩をすくめて、ため息をついた。


「‥‥‥小娘には事の重大さが理解できていないようね」


「当のたったおばさんには物事が正常に見えていないのですね。歳は取りたくないものです」


 後ろに控えていた者たちから失笑が漏れる。中には手を叩いていたり、口笛を吹いて囃し立てている者まで見られた。


「私はまだ20代よ」


「十分じゃないですか。15歳の私からすれば」


 歯ぎしりが聞こえ、フィーザーとレドはおそらく同じ思いに囚われて、フローラとメルルの方へ視線を向けた。


「女の子、それに女性にとっては重要な問題なんだよ、お兄ちゃん」


「そうですよ。ですから、たとえ私たちよりも10歳以上老齢のおば、お姉さんだからといって、年寄り扱い、もとい、お歳の事で事実をあからさまに突き付けてしまうことには問題があるのです」


「貴様らあ」


 フィーナにではなく、フローラとメルルに向かってと思われるリーデモールの踏み込みを止めたのはセレスティアであった。


「若さに嫉妬したからって、一番小さい子を狙うのは感心しないわね。相手なら私がして差し上げますよ、リーデモールおばさん。それにここでは教会を壊してしまうかもしれませんし」


 リーデモールの額に更に青筋が刻まれる。


「後悔させてやるわ、小娘」


 倒された椅子を一瞥したセレスティアは扉へ向かい、それをすごい形相のリーデモールが追いかけていった。


「‥‥‥申し訳ありません」


「‥‥‥いえ、こちらこそ」


 レドとボールスの間に一瞬連帯感のようなものが生まれそうになった。

 穏やかになりかけた空気を踏み出してきた黒髪の背中に刀を背負った筋骨隆々とした男性が遮断した。


「おい、そんな扉だか何だかは俺にとっちゃどうでもいいんだ」


 男は人差指をレドに向かって突き付けた。


「お前、かなりやるんだろう。分かるぜ。雰囲気が伝わってくる」


 そう言うと、男は背負っていた2本の刀を聖堂の椅子に立てかけた。


「俺の名はアーサー。さっきも言った通り、俺はそんな鍵だなんだのにはあんまり興味ねえ。そこへ行けば強者と会い見えることが出来ると言われたからだ。そこの力を手に入れたボールス達にも興味はあったしな」


 アーサーはレドにくるりと背中を向ける。


「正々堂々、一対一で決闘を申し込む」


「‥‥‥ここでなくとも、うちの道場に来てくれれば、俺でも、親父でも、母上でも、相手になるのだが?」


 アーサーは振り向くと不敵に笑った。


「そうか。だが、この場には俺がいて、そしてお前がいる。まずはそれだけで十分。お前を倒した後にそちらへ向かうとしよう」


 どうやら引く気はないらしい。


「お前達は手を出すな。まずは俺が相手をする」


 アーサーは後ろで不満顔をしている、彼の部下らしい者たちに何やら言い聞かせていた。


「そういう訳で、一番は俺だ」


 アーサーが宣言すると、部下からは次々に不満が漏れていた。


「ずるいですよ、頭領。相手はまだ学生みたいじゃないですか」


「たまには我々に譲ってくれても良いのでは?」


「次はお前たちに譲ってやるよ」


「この前もそう言ってたじゃないですか」


 やいのやいのと言い争うアーサー達を前に、レドはフィーザー達の方を振り返る。


「フィーザー、ディオス」


「分かってるよ、レド。行っても大丈夫。セレスティアさんの事も気になっていたんでしょう?」


 ディオスは無言で頷きながら、レドを捉えているのとは逆の瞳で相手を睨んで捕捉し続けていた。


「すぐ戻る」


 話しがまとまったらしく、というよりは無理やりまとめたらしく、レドがアーサーに付いて外へと向かい、その後に彼の部下が続く。とりあえず聖堂の聖パピリア様の御前での戦いは回避された。

 あくまでも今のところは、だが。

 

「話しが逸れてしまっていたが‥‥‥、意志は変わらぬようだな」


 ボールスが向ける眼差しをフィーザーは真っ直ぐに受け止める。


「こちらからも一つ聞きたい。前にこちらへレヴァンティンというサイボーグを送ったのは貴様らか?」


 ディオスが尋ねると、眼鏡をかけた優男風の人物が進み出てきた。


「それが何か?」


 男がそう口を開くなり、ディオスは義眼から対人レーザーを発射する。ディオスの義眼にある機能はカメラに各種センサーだけではない。それは男の顔のすぐ横を走り抜けた。


「つまり、俺達の親父とお袋を討った大元はお前達だということでいいんだな?」


「親父とお袋?」


 男は首を傾げた。本気で理解していない者の目をしていた。


「済みませんが、誰のことを言っているのか見当がつきませんね」


「ダーリングという姓に覚えがあるんじゃないのか?」


 男は眼鏡の奥の眼をわずかに見開いた。


「その反応だけで十分だ。メルル、お前は離れてここにいろ」


 歩み寄るディオスを優男は鼻で笑う。


「復讐ですか、くだらない。非生産的だ。彼らも人類進歩のための犠牲になったのだから、科学者として本望でしょう」


「何が人類の進歩だ」


 ディオスの怒りを前にして、男は表情一つ動かさない。


「破壊したレヴァンティンと名乗ったサイボーグを調べた。製造コードを残すとは律儀だな、セレヴィム」


「当然です。他人に認知されずして技術の進歩はあり得ない。ついでです。あなたも分解して調べましょう。今は亡き、ダーリング博士の意思を継いで進歩しているというのならば、多少の興味はあります。ああ、ご心配なさらずとも、妹さんには用はありません」


 特に感情の籠らない声で告げた男をディオスは正面から拳で殴りつける。

 しかし、男は事も無げに片手でそれを受け止める。


「お前は」


 受け止めた手の人工皮膚が破け、わずかに機械部分が露出する。


「人類史上、最も偉大な科学者であるこの私、セレヴィム・バクシアにとっては自分の身体を改造するなど造作もないこと。あなた方が倒した試作機共のデータも既に回収、入力済みです」


 傲慢な感じを見せず、当たり前のように言ってのけるセレヴィム。


「あなたでは私に勝つことは不可能です」


「いいや、俺はお前を破壊する。サイボーグだというのなら、頭部だけでも警吏に突き出せば問題ないだろう」


 


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