39話
フィーザーがディラと対峙する少し前、ディオスとメルルはやはり2人で歩いていた。
工学部の生徒の中には、自分たちの発明品を展示、発表したり、祭りなど興味もないかのように研究室に入り浸っている生徒も少なからず見られたが、生憎と彼ら兄妹はそれには当てはまらなかった。
それは決してディオスがさぼっているというわけではなく、単にディオスがのめり込んでいることが学生の発表物として相応しくなかったという理由だ。
まさか、生誕祭で敵を殲滅するための武装及び兵器を発表するわけにもいかない。
そして、ディオスにもそれを発表するつもりはなかった。
ディオスが自身の身体の改造と強化を繰り返しているのは、あくまでも個人的な理由によるものであり、何も企業や軍、ましてや大陸と戦争を起こすためなどでは決してない。
ではメルルの方はどうかと言うと、やはり兄のために工学部を選択したのであって、兄以外の誰に認めて貰いたいとか、余計な野心は抱いていなかった。
しかし、だからといって同じ学部で学ぶ友人に無関心というわけではなく、むしろ、そんな風に自分のためだけに研究室に入り浸る彼らを、煙たがるでもなく、むしろ友好的に接してくれていることにはありがたく思っていた。
ディオスにしても、たしかに彼の度が過ぎるシスコンぶりはもはや誰も気にしないほどには認知されていたが、他のクラスメイトに対して情を持っていないわけではなかった。
「何かあったのか?」
自分の他にも数名が同じ研究室に籠っていたが、外が少し騒がしくなっていたので、確認のために廊下に出る。
「ああ、何か向こうでやらかしたらしい。爆発したような音が聞こえてな。野次馬に行こうと思ってた」
野次馬には興味はなかったが、示された方向はメルルがいる方と一致する。
GPS情報を基にメルルの位置を把握していたディオスは人の流れに合わせて、少し早足にそちらの方へ向かった。
「メルルか。どうした?」
向かっている途中、メルルからの着信を受けると同時に、爆発音が聞こえてきた。同時に火の手が上がるのも見える。
「兄様、大変です」
何が、とか、どこで、などといったことは一切聞かず、自身の視覚とリンクさせたGPSの地図を表示させながらディオスはメルルの元へと走る。
推進装置を使用したディオスは、逃げるように向かってくる同級生の忠告を無視して、一直線にメルルの元へと辿り着く。取りあえず妹の無事を確認したディオスは、ため息をつくことは出来ないが、安心したような表情を作ってみせた。
「何があった」
メルルと顔を合わせてから、ようやく事態の詳細を尋ねる。
「それが‥‥‥、兄様もご存知とは思いますが、魔法学科の方ではフィーザーさんとフィーナさんが事件みたいなのですが」
そのことはメルルの着信と同時に確認している。
おそらくはフィーナを狙っていた連中のものだろう。気付いていなかったため駆けつけることは出来なかったし、このように大々的に宣伝されてしまっている以上、今から自分が行っても参戦することは難しいだろう。
メルルが巻き込まれていたのならば問答無用で乱入していたが、ディオスは友人の見せ場を邪魔するような、無粋な真似をしようとは思っていなかった。そして、今は妹の言葉の続きの方が気になっていた。
「ここも外れか‥‥‥。ちっ、どうやらディラの方が当たりだったみたいだな」
爆発の煙の中から人影が現れる。常人の視力では確認できなかっただろうが、ディオスの視覚にははっきりと映し出されていた。
(この反応の仕方は‥‥‥、こいつも俺と同じか)
普段、映像の処理に使用しているのは眼球型の高性能カメラからの映像だが、他に熱赤外線のセンサーも搭載されている。その情報によれば、目の前の人物はディオスと同じ。
「お前、全身義体、サイボーグだな」
自身が言われることは嫌うが、他人に対してその呼称を使用することにディオスは全く躊躇していなかった。それが学院を、もっと正確に言えば自分とメルルの周囲を脅かす可能性のある存在ならばなおさらである。
「なんだまだ人が‥‥‥なんだお前は」
ここでフィーナの名前を出すのが正解かどうかは判断できなかったが、少なくともメルルが逃げるだけの時間は稼ぐことが出来るだろう。そうディオスは判断した。
「メルル、お前はフィーザーの、フローラのところへ向かえ」
ここにいては兄の邪魔になる、そう判断したメルルは逡巡することなく頷いた。
「分かりました。兄様もお気をつけて」
メルルは端末を仕舞わずに、どこかに連絡を取りながら走り去っていく。メルルのGPS情報が十分に遠ざかるまで、目の前のサイボーグは攻撃を仕掛けてこなかった。
「あー、ちょっと待て。お前、いや、お前たちは確かどこかで‥‥‥」
逆に仕掛けようとしたディオスを押しとどめるように片手を広げて突き出すと、もう片方の指を眉間に当てて考え込むような素振りを見せる。
「その顔‥‥‥、メルル‥‥‥、年齢‥‥‥、‥‥‥そうか、ダーリング博士の」
聞いた瞬間には、すでにディオスは目の前の男に突っ込んでいた。
「貴様、何を知っている!」
ディオスの渾身の一撃を、目の前の男はその場で受け止める。二人の足元がひび割れ、砕けて沈み込む。
そのまま膠着状態には陥ることなう、ディオスは後方に宙返りしながら回避する。
相対した男の振りぬかれた左手には単分子振動カッターが握られていた。
「ディオス・ダーリングだな」
目の前の鎧のような装甲のサイボーグが告げると、ディオスの目が細まる。
「ということは、そっちがメルル・ダーリング。ふむ、まんざら外れというわけでもなさそうだ」
ディオスは再び逆上して攻撃を仕掛けることはしなかった。こちらから攻撃して早々から手の内を晒すよりも、今はしゃべらせていた方が両親の事を話すかもしれないと、怒りながらも冷静に判断していた。
「貴様、名は」
「俺の名はレヴァンティン。言っておくが、外れではないというだけで、お前らは別に当たりではない。俺の邪魔をしないのであれば壊さずにおいてやろう。しかし、邪魔をするというのであれば」
レヴァンティンは単分子振動カッターを懐に収めると、右掌を突き出した。
「お前を破壊する」
直後、爆発的な推進力を持って、レヴァンティンが突撃してくる。
「エナジーボム」
音声コマンドにより発動された機能により、高エネルギーの拳がディオスのプラズマシールドと接触して、双方ともに弾かれる。
「何っ!」
「ほう。俺のエナジーボムを防ぐとは。さすがはダーリング博士夫妻の子供ということか」
ディオスは驚愕していた。プラズマシールドを張りながらも自身が弾き飛ばされたことに対して。
レヴァンティンは喜んでいた。自身と会い見えた相手が、標的のはずだった相手と同等以上のものだと知って。
「俺も楽しませて貰おうか、おっと、危ねえ」
レヴァンティンはディオスの放ったブラスターをギリギリのところで躱した。
最初はプラズマフィールドで防ごうとしていたが、寸でのところで回避運動に切り替えていた。
「やるじゃねえか」
「黙れ」
舌があれば、舌なめずりでもしていたであろう調子で答えるレヴァンティンをディオスは一喝する。
「貴様がフィーナの事を気にする必要はない。ここで俺に親父とお袋の話をした後に破壊されるのだからな」
「それは面白い」
レヴァンティンは一層笑みを濃くした。




